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【新製品レビュー】

「MDR-EX1000」他、ソニー新イヤフォンシリーズを聴く

−ダイナミック型の印象を変える。1万円台も高音質


左から「MDR-EX1000」、「MDR-EX600」。手前が「MDR-EX510SL」

 前回はヘッドフォンのシリーズを取り上げた、ソニーの新製品。今回はカナル型イヤフォンを紹介したい。

 取り上げるのはカナル型最上位の「MDR-EX1000」(61,950円)と、その下位モデル「MDR-EX600」(24,675円)、そして購入しやすい価格「MDR-EX510SL」(12,390円)の3機種だ。


 



■ ラインナップと特徴を整理。振動板に注目

 前回同様、同社カナル型上位モデルのラインナップと特徴を、表で以下に掲載する。ヘッドフォンのラインナップと似ており、価格的に“別格”的な最上位の「MDR-EX1000」が存在する形になっている。全モデル、ダイナミック型のユニットを採用している。

型番 特徴 価格
MDR-EX1000 液晶ポリマーフィルム振動板
16mm径 新開発ドライバーユニット
440KJ/m3マグネット
マグネシウムのハウジング
7N OFCリッツ線
フレキシブルイヤーハンガー
ノイズアイソレーションイヤーピース
手作業による音質調整
着脱式ケーブル
61,950円
MDR-EX600 16mm径 ML振動板ユニット
440KJ/m3マグネット
アルミニウム合金+制振ABSのハウジング
フレキシブルイヤーハンガー
ノイズアイソレーションイヤーピース
手作業による音質調整
着脱式ケーブル
24,675円
MDR-EX510SL 13.5mm径 ML振動板ユニット
制振ABSハウジング
フィッティングアシスト機構
ノイズアイソレーションイヤーピース
手作業による音質調整
12,390円
MDR-EX310SL 13.5mm径ユニット
フィッティングアシスト機構
ノイズアイソレーションイヤーピース
6,195円

 振動板のサイズは上位2モデルが同じ16mm径。1万円台の「MDR-EX510SL」は13.5mm径のユニットを採用している。形状も上位2モデルがほぼ共通で、装着方法も新しくなっている。

 最上位「MDR-EX1000」の特徴は、同価格のモニターヘッドフォン「MDR-Z1000」と同じで、振動板に「液晶ポリマーフィルム」という新しい素材を使っている事。振動板の理想は、軽量かつ高剛性で、内部損失が高いこと(固有の音を持たないこと)だが、この特性を追求して辿りついたという素材。伸度の高い液晶ポリマーワニスを用いたキャスティングフィルムを開発することで、上記の特性を持ちつつ、振動板として成形に耐える強度が得られたという。

MDR-EX1000 MDR-EX1000 上から見たところ。ユニットに対してノズルが真横に付いている

 「MDR-EX600」のユニットは同サイズだが、振動板の素材にはソニーが従来から使っているML(マルチレイヤー)を採用している。厚さ0.1μm以下の2種類の高分子材料を数百層に積層して使っているもので、これも剛性と高い内部損失の両立を目指した技術だ。「MDR-EX510SL」は、「EX600」と同じML振動板を採用しているが、ユニットの口径が13.5mm径と小さい。

MDR-EX600 MDR-EX600

 筐体は「EX1000」がマグネシウム合金、「EX600」がアルミニウム合金と制振ABSのハウジングの組みわせで、「EX510SL」は制振ABSハウジングのみとなる。触ったときにひんやりとするマグネシウムやアルミの高級感は上位モデルのみの特権だが、「EX510SL」の表面も光沢のある仕上げで、質感は高い。どちらかと言うとチープな質感だった従来モデル「MDR-EX500SL」と比べ、改良されたと感じるポイントだ。

MDR-EX510SL MDR-EX510SLを上から見たところ

 また、メンテナンス性では「EX1000」と「EX600」はケーブルの着脱が可能になっている。高価なモデルであるため、断線時のケーブル交換が容易なのは嬉しいポイントだ。

MDR-EX1000のケーブルの付け根部分にダイヤルのようなパーツがある。これを回すとケーブルが外れる ケーブルを外したところ EX600のケーブルを外したところ


■ 新機構のイヤーピース採用。装着感にも違い

 

MDR-EX600を耳型に装着したところ。ケーブルを耳裏に這わせるフレキシブルイヤーハンガーを使った装着方法を採用している

 「MDR-EX1000」と「MDR-EX600」では、装着方法も変わった。海外メーカーのモデルでよく見られる、ケーブルをハンガーにして、耳の裏に這わせるように装着する形になっている。耳の裏に当たる部分にはフレキシブルイヤーハンガーを採用。

 素材は三井化学のテクノロートと呼ばれるプラスチック素材で、細いプラスチックの線材を編み込んだものだそうだ。自由に形が変えられると共に、耐久性が高く、医療分野で使われるほど人体に対して安心・安全な素材とのこと。
「MDR-EX510SL」の背面。楕円形の部分がフィッティングアシスト機構

 「EX510SL」は、イヤーピースに対してユニットを横向きに設置した「バーティカル・イン・ザ・イヤー」方式を引き続き採用し、ケーブルもそのまま下に垂らすタイプになっている。ただし、装着性を高めるために、「フィッティングアシスト」と呼ばれる機構を新たに追加している。柔らかいゴムのパーツをハウジングの外側に装着したもので、耳のくぼみに引っかかるように当たり、安定性を高めている。柔らかい素材で中は中空になっているため、耳の当たっている部分が痛くなる事はない。

 もう1つ、全機種に共通する特長はイヤーピースだ。ソニーのシリコンイヤーピースは、音道に近い内側に硬いシリコンを、耳穴に触れる外側が柔らかいシリコンを使った「ハイブリッドイヤーピース」が特徴なのはご存知の通りだが、今回それに加え「ノイズアイソレーションイヤーピース」と言う新しいタイプも同梱している。

 端的に言えばハイブリッドイヤーピースの裏側に低反発ウレタンを充填させたもので、“耳の中で膨らむ”のが特徴だ。ピースの“傘”の内側に低反発ウレタンを充填させる事で、耳穴に挿入後、元に戻ろうと膨らむ働きをし、ピースの柔らかな部分を押し広げる動きをする。その結果、耳穴の中での“密閉度”やホールド力がアップするというものだ。


通常のハイブリッドイヤーピース 緑色の部分が硬いシリコン、黒い外側の、耳穴に触れる部分が柔らかいシリコンになっている
こちらがノイズアイソレーションイヤーピース 黒いシリコンの傘の内側に、低反発ウレタンが充填されているのがわかる。これが耳穴内部で、傘を広げる役目を果たす

 

付属のイヤーピース一覧

 ピースはハイブリッド型をSS、S、MS、M、ML、L、LLの7サイズ、ノイズアイソレーション型をS、M、Lの3サイズ同梱。全部で10個にもなる。数が多いので無くさないように注意したい。

 「ノイズアイソレーションイヤーピース」の装着感だが、耳穴の中で広がっている感じは確かにあり、耳穴に対して若干小さめのピースを付けていても、中で膨らむ力が強いため、自然に抜け落ちる事が少ない。機能的には指でつぶして挿入するフォームイヤーチップと似ているが、耳穴に触れる表面がシリコンで被われているため、フォームチップのぺたぺたした感触が少なく、不快感が無い。


ShureのSE535

 ピースが良く出来ている一方、「EX1000」と「EX600」で採用されたイヤーハンガータイプのケーブルには若干気になる点がある。復元能力の高さで、耳の形状に合わせて指で強く“癖”を付けても、しばらくすると広がってしまう事が何度かあった。比較用としてShureの高級カナル「SE535」(実売5万円前後)を用意したが、535のハンガーは少しの力で癖をつけただけで、その形をキッチリ維持してくれるが、「EX1000」と「EX600」の場合はその程度の力では元に戻ってしまう。最初の装着時ギュッと力を入れ、耳の形に合わせて形状を作る事が重要だと感じた。

 また、SE535と比べると、筐体そのものが耳から“出っ張って”いる事も気になる。SE535は筐体全体が耳穴に対する蓋のように、ピッタリとハマり、装着後に凹凸が出来ないのが優れているが、「EX1000」と「EX600」の場合はユニット部分が完全に耳の外に出ており、若干目立つ。もっとも、着けている本人は気にならない点ではあるが……。このあたりの形状は、まだ改良の余地があると感じた。



■ 音質を比較する

 試聴は、ポータブル環境として「第6世代iPod nano」+「ALO AudioのDockケーブル」+「ポータブルヘッドフォンアンプのiBasso Audio D2+ Hj Boa」を使用。据え置き環境としては、Windows 7(64bit)のPCと、ラトックのヘッドフォンアンプ内蔵USBデジタルオーディオトランスポート「RAL-2496UT1」を使用。ソフトは「foobar2000 v1.0.3」で、プラグインを追加し、ロスレスの音楽を中心にOSのカーネルミキサーをバイパスするWASAPIモードで24bit出力している。

 ●EX1000

 まずEX1000から聴いていこう。「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best OF My Love」を再生してみる。この楽曲は、ゆるやかなトーンが特徴だが、EX1000で再生するとメリハリがあり、アコースティックギターやヴォーカルと言った、個々の音をクッキリ描写してくれ、非常に聴きとりやすい。そのため、冒頭のアコースティクギターの硬い弦の音が出た瞬間に感じた第一印象は“ダイナミック型なのに、バランスドアーマチュア(BA)みたいな音がする”というものだった。

 続くヴォーカルの明瞭さ、後方に広がる音場の広さも広大で、ハイエンドモデルならではの艶を感じさせる。しかし、1分過ぎでアコースティックベースの量感のある低音が入ってくると、“BAっぽい”という印象がガラリと変化。ベースの筐体で反響し、増幅された低音が実に分厚く、なおかつ“ゆったりとた”良い意味での“甘さ”を持っている。解像度の低い、寝ぼけた音なのかというとそうではなく、ブルンと震える弦の音自体はクッキリ描写されており、それが生み出す響きの“しなやかさ”という、質感の違う音がキッチリと描きわけられているのだ。

ShureのSE535とEX1000

 ここで比較相手として、実売5万円と、価格が近いShureの「SE535」に変更する。バランスドアーマチュア(BA)を採用したモデルで、2ウェイだが、ツイータ1基、ウーファ2基で構成しているのが特徴。マルチウェイタイプのモデルだが、低域から高域までの音の繋がりが自然で、巧みな音作りの良さで人気のモデルだ。

 同じ楽曲をSE535で再生すると、ヴォーカルやギターの音も含め、全ての音の主張が“より強く”なる。強すぎてヴォーカルのサ行が耳に突き刺さるような勢いだ。EX1000で「BAみたいな音」と感じたのは、ダイナミック型イヤフォンの枠を超える解像感があり、個々の音のクッキリ感を味わったためだが、実際にBA型に切り替えると、“本物はもっと強烈”である事がわかる。

 だが、“強烈”である事が良いとは限らない。例えば1分過ぎから入るアコースティックベースだが、「ボロンボロン」と指でつまびいた時の、最初の“ボ”のアタック音はSE535の方が強烈・鮮烈だが、それが強すぎるため、後に続く“ロン”の部分の響きや余韻があまり味わえない。

 また、「Best OF My Love」のような、小編成でゆったりとした雰囲気の楽曲の場合、音が心地良く広がる音場が広い事が望ましい。しかし、SE535では音像が前へ、前へとせり出してくる主張が激しく、背後に広がる音の余韻が見えにくい。対するEX1000は、楽器が横一列に綺麗に並び、心地良い雰囲気を味わう事ができる。

 反対に、激しい楽曲では評価が変わる。「坂本真綾/トライアングラー」や「Girls Dead Monster/Crow Song」など、ノリの良い楽曲を選ぶと、1つ1つの音のアタックが強く、メリハリがより強いSE535の方が、音楽が派手で、心地良く楽しめる。同じような曲をと考え、「放課後ティータイム/Utauyo!!MIRACLE」を再生すると、さらに高域が強く、音数が多い騒がしい楽曲であるため、SE535では刺激が強すぎて気持よくない。EX1000に変えると、耳穴に殺到していた楽器がスッと奥に引込み、一列に並び、ワイドレンジで聴きやすいサウンドに激変。あまりの違いに思わず笑ってしまった。

 ドライバーの方式の違いで音の印象を簡単にまとめると、ダイナミック型は、音色の自然さ、低音の量感、弦楽器のしなやかさなどが特徴。BA型はメリハリがあり、細かな音の描写がわかる解像感の高さを持つが、1つのユニットで再生できる帯域が狭く、量感のある低域描写にはマルチウェイ展開や、耳への挿入を深くして密閉度を上げるなどの工夫が必要になる。マルチウェイ化の場合は音の繋がりが難しく、また、個々の音の主張が強いため、弱い音(細かい音ではない)の描写が苦手だ。

 EX1000の音は、このダイナミック型とBA型の中間にあるように感じる。つまり、細かな音の描写や、個々の音の輪郭をきっちり描くBA的なメリハリの強さを持ちつつ、低域の豊かさや低音から高音までの自然な繋がりも実現している。“いいとこ取り”なサウンドと言えるだろう。

 さらにもう1つ優れた点が、“音色のナチュラルさ”だ。前回のヘッドフォン比較時にも、液晶ポリマーフィルム振動板の音を聴いていたのである程度“予測”できていた事だが、女性ヴォーカルのアカペラや、ギターの独奏などでSE535と比べると、音が極めて“自然”なのだ。

 例えばアコースティックギターだが、SE535の音はEX1000と比べると、どうしても“金属っぽい”。もともとギターの弦は金属やナイロンで出来ているので硬い音がするものだが、筐体は木なので、金属の硬さと木の響きが合わさったような音がする。しかしSE535では、ボディも金属やチタンなど、薄くて硬い素材で出来たギターのように感じてしまう。

 SE535は、通勤時に毎日使い、音にも満足していたが、EX1000を聴いた後でもう一度聴いてみると「うわー、金属の音だわ」とショックを受ける。一度気にすると、今まで気にならなかったのに、広がる音が消える際の金属っぽい硬さや冷たさが漂う事が気になってくる。EX1000の振動板のナチュラルさは、かなり罪作りだ。

 マッチする音楽としては、EX1000はクラシックやジャズ、小編成の室内楽、アカペラなど、アンプラグドな生音の、質感が重要になるような楽曲で基本性能の高さを発揮するような再生に向いている。一方、ロックや打ち込み系の派手なポップスなど、ノリとメリハリが重視されるような楽曲では、SE535の明瞭さやアタックの強さが快感になるだろう。

 ●EX600

EX1000とEX600

 同じユニットサイズや機構を持ちつつ、振動板がマルチレイヤーになるとどうなるのか? それが下位モデルのEX600だ。EX1000と比べると、まさに“普通のダイナミック型っぽい音”になる。メリハリが低下し、中低域の盛り上がりは顕在だが、その量感に中高域が負けて、細かな音の解像感が下がってしまう。

 「Best OF My Love」のアコースティックベースでは、ヴォーンという量感のある低音が音楽全体を覆い、そこからヴォーカルやパーカッションが強く飛び出してこない。EX1000では個々の音がそれぞれに主張し、それがからみあって音楽を構成していたが、EXZ600ではメインの低域に埋もれて、個々の音がダンゴのようにくっついてしまう。

 ただ、EX600の音が悪いのかと言うと、そんな事はなく、ダイナミック型として非常にレベルの高い音だ。付帯音は少なく、ワイドレンジで、これ単体で聴くならば十分なサウンドだ。あくまでEX1000の革新的とも言える解像感や描写力を体験した後だと、地味に感じるというのが正直なところだ。

 歩行中や電車の中などでEX1000とEX600を使い比べてみると、違いがよりわかる。というもの、同じ音量でも聴き取れる情報量がEX1000の方が豊富で、かつ聴きとりやすいため、それほど音量を上げなくても十分音楽が楽しめる。EX600の場合は、より情報を多く聴きとりたいという欲求が生まれ、無意識のうちにボリュームを上げてしまう。しかし、ボリュームを上げると中低域の勢いも一緒にアップしてしまう。

 この場合、ドライブするアンプを変えたり、イコライザをいじって中低域を若干落とし目にすると良い結果になった。

 解像度だけでなく、純粋な低域の沈み込みも比較したい。「山下達郎/アトムの子」や「Kenny Barron Trio/Fragile」などを再生すると、EX600でも十分量感のある低音が出ているが、EX1000ではさらに1段低く、最低音が沈み込む。感覚的に違いを表現すると、「アトムの子」の1分30秒付近からのドラムソロの、背後でうねるような低音が、EX600では自分の肩の部分から聴こえる程度。EX1000に変えると、ズシンと重みが増し、肺の下あたりから聴こえてくるような感覚だ。低音がキッチリ沈むことで、上下方向に音が重なる様子がわかり、音楽が立体的に感じるられる。


 ●MDR-EX510SL

 ユニットの口径が13.5mm径と、EX1000/EX600よりも小さくなり、低音の量感は下がる。しかし、EX600の音質が前述のように低音寄りであるため、個人的にはEX510の方が、むしろバランスが良いと感じる。「Best OF My Love」のヴォーカルを覆っていた中低域が減った事で、抜けがよくなり、音楽全体の見通しがよくなった。ノリの良い楽曲でも、低域が強くなりすぎないため、安定感があり、女性ヴォーカルが野太くなる事もない。

 全体的なレンジ感や、音のメリハリではEX600よりも若干落ちる印象だが、“その枠の中でセンスよくまとめた”印象だ。前モデルのEX500SLと比べると、中高域の抜けが良くて聴きとりやすく、音場の広さも若干アップしたように感じる。



■ 低音チェックとまとめ

 最後に、ヘッドフォンでも聴き比べた、JAZZのビル・エヴァンストリオ「Waltz for Debby」(Take 2)の地下鉄走行音もチェックしよう。'60年代にライヴハウス「ヴィレッジ・ヴァンガード」で収録されたものだが、6分半過ぎにかすかに地下鉄が通過する音が収録されており、それが聴こえるか否かで低域再生能力が判断できる。

 なお、前回のヘッドフォン記事で読者から質問があったので記載しておくが、聴き比べはiTunes Storeで購入した購入したファイルで行なっている(リリース日が1961/06/25と書かれている方で、リリース日が2010/10/04と書かれた“Original Jazz Classics Remasters”ではない)。これはAACのmp4ファイルでロスレスファイルではないが、走行音がわかりやすいのと、150円で単曲購入できる事から使用している。

 結果から言うと、カナル型イヤフォンだけあり、いずれのモデルでもしっかりと走行音がわかる。音自体の解像度の高さではEX1000が頭一つ抜けているように聴こえるが、EX600とEX510SLでも量感のある「ヴォー」という轟音がキチンと描写されており、差は大きくない。Shure「SE535」でも聴きとれるが、「フォー」という鼓膜を叩く風のような音で、音の輪郭だけはあるが、中身が無いように感じた。

 61,950円という価格を無視し、音質だけを考えるならEX1000の一択だ。他社の高級BAを聞き慣れている人や、購入検討している人には一度聴いて欲しい音で、ダイナミック型に対する印象が変わるだろう。あとは6万円という価格をどうとらえるかだ。

 24,675円のEX600も、普通のダイナミック型イヤフォンの中ではハイレベルな1台。これだけを聴いている分には大きな不満もなく、振動板の固有音や付帯音も少なく、低音にも迫力があるため、店頭で聴いてみても印象の良い1台だろう。同じく低音が強烈だった「MDR-EX700SL」(36,750円)の系譜にあるバランスだ。

 個人的には12,390円と、一番安い「MDR-EX510SL」が気に入った。EX600よりもわずかに中低域を下げたことで、とても良いバランスに仕上がっている。特徴という特徴は無いが、オールラウンドに、どんな音楽も良い音で再生してくれるだろう。ネットで検索すると1万円を切っているところが多く、購入しやすいのはなんといっても魅力だ。

 5万円を超えるようなイヤフォンはBA型が全盛で、おのずと“ダイナミック型は低価格イヤフォン用の技術”と考えがちだ。しかし、各方式には得手不得手があり、一概にどちらが優れているとは言えない。EX1000のサウンドは、その事を思い出させてくれるものだ。その音が低価格で、多くの人が楽しめるようになれば理想的だが、それは今後の機種への期待としておきたい。



(2010年 11月 9日)