【新製品レビュー】

よりクリアに高音質になったウォークマンA

洗練のデジタルNCとタッチ操作 ソニー「NW-A865」


NW-A865

 ソニーは13日、新ウォークマンを発表した。最上位シリーズとなるのは12月に発売する「Androidウォークマン」のNW-Z1000だが、最高音質機として位置づけていたAシリーズもリニューアルし、NW-A860として10月8日より発売される。16/32/64GBの3モデルをラインナップする。

 新ウォークマンAの特徴は、新デジタルアンプ「S-Master MX」を搭載するなど音質強化を図ったことと、タッチパネルによる操作に対応したこと。デジタルノイズキャンセリングなどの従来モデルの特徴を継承しながら、「音質と操作性」というオーディオプレーヤーの基本を着実に進化させている。また、同社のスピーカーの強化にあわせて、Bluetooth機能も強化している。

 Z1000シリーズがiPod touch対抗の“マルチメディアプレーヤー”とするなら、A860シリーズはウォークマンの本質である“音楽プレーヤー”としての性能を追求したモデルといえる。今回発売前の16GBモデル「NW-A865」をテストした。


型番容量仕様カラー店頭予想価格
NW-A86764GBS-Master MX
デジタルNC
2.8型液晶/
240×400ドット
タッチパネル
Bluetooth
ビデオ再生
ブラック
ホワイト
ピンク
35,000円
NW-A86632GB25,000円
NW-A86516GB20,000円

■ タッチパネルを採用

NW-A865

 付属品はUSBケーブルとイヤフォン、WM-PORTドック用アダプタ、イヤーピースなど。

 ディスプレイは2.8型/240×400ドットのタッチパネル液晶を採用。従来モデルでは、液晶下部に操作ボタンを備えていたが、A860では基本的にタッチパネルと液晶下のHOMEボタンで操作を行なう方式となった。最近はスマートフォンの普及により、タッチ操作が一般的になってきた。こうした流れを考えても、タッチパネル化は歓迎したい変更だ。

 一方で、右側面にはボリュームと、再生/停止、スキップ/バックの各ハードウェアボタンも装備。タッチパネル画面を見なくても、基本操作が行なえる。このあたりは専用プレーヤーとしての工夫といえそうだ。


従来モデル(右)との比較

 下面にはWM-PORTとヘッドフォン出力を装備。ストラップホールも備えている。外形寸法は96.9×52.5×9.3mm(縦×横×厚み)、重量は77g。スマートフォンは3.5型以上の液晶を搭載し、100g以上のものがほとんどなので、この軽さ、小ささも単体プレーヤーならではの魅力といえるだろう。


2.8型/240×400ドットのタッチパネル液晶を採用液晶下部にHOMEボタン右側面に操作ボタン
下面にWM-PORTとヘッドフォン出力横位置でビデオ再生も可能背面。ストラップホールも備えている

■ 操作性は向上

X-アプリ

 パソコンからの楽曲転送は、Windowsの場合X-アプリ Ver.3.0を利用する。ウォークマン本体内にVer.2.0が収納されており、発売後にネットに接続するとVer.3.0がダウンロード可能になるとのことだが、まだ提供開始されていないので今回はVer.2.0を利用した。X-アプリの対応OSはWindows XP/Vista/7。なお、Ver.3.0では、アプリのスキン色をウォークマン本体に揃えることができる機能や、20種類のプリセットイコライザや「ノンストップMIX」機能などが追加される。

 Macintosh/Windowsからのドラッグ&ドロップ転送も可能で、iTunesで楽曲を選んでウォークマンの[MUSIC]フォルダにドロップするだけで転送できる。PSPなどで利用する「MediaGo」からの転送も行なえた。ただし、MediaGoやドラッグ&ドロップで転送した場合、X-アプリからは楽曲を確認できない場合もあるので、可能なかぎり転送方法は統一しておいたほうがいい。歌詞ピタなどX-アプリに依存するサービスもあるので、ウォークマンのフル機能を活用できるのはX-アプリだ。

 対応音楽形式は、MP3、WMA、ATRAC、ATRAC Advanced Lossless、リニアPCM、AAC、HE-AAC。なお、FLACには対応せず、実際にドラッグ&ドロップで転送してみたものの、ウォークマンでは認識できなかった。最近はロスレス音楽配信や、ネットワークプレーヤーなどでFLACの対応/活用例が増えており、FLACがロスレスコーデックのデファクトスタンダードになってきた。

 こうしたFLACファイルをそのままポータブルでも活用したいところ。「高音質」を謳うウォークマンの差別化要因にもなると思うので、アップデートや次世代機では対応を期待したい。

メインメニュー

 電源を投入するとメインメニューが表示される。左上から「おすすめチャンネル」、「FM」、「ちょい聴きmora」、「フォト」、「ミュージック」、「ビデオ」、「ノイズキャンセル」、「ポッドキャスト」、「Bluetooth」、「設定」、「録音」、「音楽再生画面へ」の12のアイコンが表示されており、ここから任意の機能を呼び出す形だ。

 メインの音楽再生機能は中央の「ミュージック」から。ここで、検索方法として全曲/アルバム/アーティスト/ジャンル/リリース年/最近転送したアルバム/プレイリスト/ブックマーク/フォルダー/録音した曲/(Bluetooth)受信した曲の各項目が表示される。

 任意のアーティストやアルバムをタッチパネルで選択し、タップすると再生開始する。また、各検索メニュー(アルバム/アーティストなど)の中でも(Search/虫メガネマーク)をクリックすると検索モードに移行できるなど、楽曲検索はこなれていて、とても使いやすい。再生画面や検索画面から、カラオケモードや歌詞表示のON/OFF、イコライザの設定、VPT、ファイルの送信(Bluetooth)などの操作も行なえる。


「ミュージック」メニューアルバム検索アーティスト検索各検索メニュー内でもSearchボタンによる他の検索方法を呼び出せる
アルバムアートで検索

 基本的なUIの構成は従来モデルと同じなのだが、タッチパネルでタップするだけで[決定]になるなど、すっかりタッチ操作に慣れた筆者にとっては、今日的で使いやすい操作体系になったと感じる。

 また、ウォークマンXなどで採用していたアルバムアートからの検索メニューも用意。再生画面のアイコン(■が縦に3つ)を選ぶとアルバムアート検索となり、ジャケット写真を上下スクロールで検索し、決定/再生開始できる。使いやすさというよりは、たくさんの曲が入っていると単純に美しい。これもタッチパネル操作ならではのメリットだ。

 また、再生画面の楽曲再生時間部をタッチすることで、楽曲の任意の箇所までジャンプできるタイムバーサーチにも対応。スマートフォンなどで、タッチパネル操作に慣れた人にとってはこうした機能は必須といえるだろう。


音楽再生画面。タイムバーサーチにも対応する

 もちろん「ハードウェアキーがあること」の魅力も強く感じる。たとえば、スマートフォンの場合は、再生停止したい場合に、タッチパネル見ながら停止操作を行なう必要がある。一方で、A860の場合は、停止ボタンを押すだけ。たとえば、ポケットの中に入れたウォークマンで電車内で音楽を聴いて、目的地について停止するときは、わざわざ取り出してタッチ操作しなくても、ボタンを押すだけで済む。最初はボリュームやスキップと間違えることもあるが、すぐに再生/停止感覚をつかめるようになった。こうした再生機ならではのメリットを感じることができる。

 HOLDボタンの範囲が指定できるのも便利。ハードウェアボタンも含む全操作のHOLD「全操作無効」だけでなく、「タッチパネルだけ」も選択できる。「タッチパネルのみ」にしておけばタッチパネルに触れた際の誤動作を防ぎながら、再生/停止、ボリュームなどのハードウェアボタンはそのまま使える。初期状態では全操作無効になっているようなので、ボタンを活かしたい人は、こちらでの利用を推奨したい。


おまかせチャンネルで、夜のおすすめ

 x-アプリにおける12音解析で好みの“ムード”の自動プレイリスト再生を行なう「おまかせチャンネル」や、カラオケ、ちょい聴きmoraも装備している。おまかせチャンネルはリラックス、アクティブ、夜のおすすめなどのムードから自動プレイリスト作成してくれる機能だ。個人的にはあまり使わないが、「ながら作業」などにはよさそうだ。

 また、moraで購入した楽曲は、「歌詞ピタ」サービスを利用して、歌詞を付与可能。オプションからカラオケも利用できる。



■ 音質は明らかに向上、違和感の無いノイズキャンセル

 操作系だけでなく、音質の向上もNW-A860シリーズの特徴。一番の改善点はデジタルアンプS-Masterを、モバイル機器向けに進化させた「S-Master MX」としたことで、歪みやノイズの低減を図ったとする。

 具体的には、音声信号を出力処理する2つの回路を最適化し、最終出力のパルスの高さを直接制御する「Pulse Height Volume」を搭載したほか、ジッタ処理プロセスを増幅段の前段に統合、さらに、最終増幅段の回路や電源を強化している。

 このS-Master MXに加え、デジタルノイズキャンセリング、高域補間技術の「DSEE」、低音強化の「CLEAR BASE」、チャンネルセパレーションを向上する「CLEAR STEREO」、EXヘッドフォンなどによる「クリアオーディオテクノロジー」も搭載する。

イヤフォン

 イヤフォンは、13.5mmドライバを採用したデジタルNC対応の「EXヘッドフォン」を採用する。

 試聴時は、イコライザOFF、「DSEE」「CLEAR STEREO」、「CLEAR BASS」をONにし、デジタルNCはON/OFFを切り替えながら再生した。S-Master系のウォークマンはスピード感と量感を伴った低域、中高域の解像感の高さが特徴だが、その印象はそのままに、さらに中高域の音像がクリアになった。

 ダイナミックレンジが広く、それぞれの楽器のセパレーションが上がり、とにかく「クリア」。S-Master系の特徴を正常進化させた、ウォークマンらしい音だ。山下達郎「NEVER GROW OLD」を再生すると、聞きなれたiPhone 3GSに比べて、明らかにダイナミックレンジが違い、ボーカルの音像もグッと近くなったので驚いた。

 Bill Evansの「My Foolish Heart」では、元の録音に含まれる“サー”というノイズはもちろんそのまま聞こえるのだが、同じように聞こえるノイズの向こうのステージが広がったように感じる。中高域の分離感がよくなったことで、シンバルやピアノの消え際の音がぐっとクリアに感じられ、音像も明確に感じられる。同じ曲をiPhone 3GS(Ulitmate Ears UE700)で聞くと、悪くはないのだが、明らかにダイナミックレンジが狭くなったことがわかる。

ノイズキャンセル設定NCの効果を選択

 また、驚いたのはNC ON/OFF時の音質差の小ささ。静かな環境であれば音質差が判断できないほどで、NC ONにすると若干の低域にハリを感じる程度。その前に「周囲の“雰囲気”が知覚できてしまうのでOFFだな」と気づいてしまう。デジタルNCがウォークマンに搭載されてから数年経過したが、本当に洗練された機能になってきた。

 NC ONの効果も絶大で地下鉄内の“ゴー”という音もきれいに消えるので、基本的には付属イヤフォンとの組み合わせがお勧めだ、NC OFFで使うのであれば、よほどグレードの高いイヤフォンやヘッドフォンが必要だと思う。

 今回は、Shure「SE535」やUltimate Ears UE700などを使ってみたが、さすがに3ドライバのアーマチュア「SE535」は高域の解像感が高く、低域も量感は減るが、最低域はきっちりと出ていて、「付属イヤフォンを上回ってる」と感じる楽曲もあった。ただし、どんなソースもそつなくこなし、ウォークマンらしさを感じられるのは、付属イヤフォンという印象だ。

 NCモードは「バス/電車」、「飛行機」、「室内」の3モードを用意。「飛行機」モードでは、若干高域が抑えられる感があるが、「室内」と「バス/電車」は顕著な音質差は感じられれなかった。電車内で使う機会が多い人は「バス/電車」、オフィスや喫茶店などで使う機会が多いのであれば「室内」でよさそうだ。なお、NCに伴う圧迫感や違和感はどのモードでもほとんど感じない。このあたりにも世代を重ねたが故の洗練を感じさせてくれる。

Bluetooth設定

 また、NCの各モードで±15段階の強度切り替えができる。+15にすると圧迫感はかなり強くなるが、基本的に0のままでいいと感じた。

 Bluetoothも搭載。対応プロファイルはAVRCP/A2DP/OPPで、Bluetoothヘッドフォンやスピーカーなどに音声出力できる。また、今回は試せなかったが、Bluetooth経由のファイル送受信機能も搭載。携帯電話やスマートフォンで撮影した写真をウォークマンとワイヤレスでやり取りできる。


ビデオ再生画面

 ビデオ再生にも対応。観たいシーンを検索できる「シーンスクロール」も可能となっている。対応ビデオ形式はMPEG-4 AVC/H.264(Baseline Profile)、MPEG-4(.mp4、.m4v)とWMVで、720×480ドットでフレームレートは30fps。ビットレートはAVCが10Mbps、MPEG-4/WMVが6Mbps。

 同社のブルーレイレコーダからの「おでかけ転送」も可能なほか、torneもウォークマンへのビデオ書き出しにも対応(有償)するなど、出力側の機器も増えているので、ソニーレコーダ/torneユーザーにとっては、魅力的な機能だろう。

 FMチューナも搭載する。バッテリは内蔵リチウムイオンで、約2時間で充電可能。連続駆動時間は20時間(音楽/NC ON)、4時間(ビデオ再生/NC ON)。Bluetooth利用時は約8時間(音楽)/約3時間(ビデオ)。



■ 音楽専用プレーヤーの正常進化。FLAC対応も期待

 タッチパネルによる操作性の改善や、S-Master MX搭載による音質向上など、音楽を持ち運んで楽しむための機能をしっかり熟成し、本当に使いやすいプレーヤーに仕上がっている。

 スマートフォンで音楽を聴くのもいいが、汎用機だけになかなか専用のボタンなどはつけにくいし、大きくなってしまう。小さく取り回しの良い専用機ながら、タッチ操作を組み込んだことで、使い勝手も向上。HOLDボタンの設定など細かなところで専用ならではの良さを感じさせてくれる。なにより「音質がいい」という点は魅力的だ。

 また、バッテリ駆動時間も約20時間と長いため、海外旅行や出張の飛行機の搭乗時間なども十分カバーできる。この点もスマートフォンに対するアドバンテージといえるだろう。

 欲を言えば、FLACには対応してほしい。個人的にCDのFLAC化を始めたというのもあるが、LINNやヤマハ、デノン、マランツなどのネットワークオーディオプレーヤーや高音質配信などで、音にこだわるユーザーの中では、FLACの人気が高まっている。また、ソニーの最新AVアンプ「TA-DA5700ES」でもFLACに対応している。こうした機器との連携を考えても、FLACをそのまま転送できるようになると、利便性もウォークマンそのものの魅力も一層高まると感じる。

 FLAC対応したポータブルプレーヤーは少なく、COWONのC2D3 Plenue、ColorfulのHiFi CK4など数えるほど。ウォークマンの音の良さは明らかなので、高音質をアピールする点でも対応を期待したい。

 A860シリーズは音楽プレーヤーとしての王道を地道に追求し、使うほどに良さがわかる製品に仕上がっている。ぜひ音にこだわる人に手に取ってほしいと感じる。


(2011年 9月 30日)

[AV Watch編集部臼田勤哉 ]