【新製品レビュー】

カッコ良くて高音質、1~2万円のオーテク4機種を聴く

-ATH-CKM99/77、ATH-EC707/CM707


左下から時計回りに「ATH-CKM99」、「ATH-CKM77」、「ATH-EC707」、「ATH-CM707」

 イヤフォンやヘッドフォンにとって、音質だけでなくデザインも重視される昨今。女性向けとしてはスワロフスキーが付いたものや、カラフルなデザインのものなどが増えているが、大人の男性に向けたデザイン性の高いモデルというのはそれほど多く無い。特に音質面のクオリティも両立させているものとなると数は限られる。

 そんな中、オーディオテクニカから注目の4機種が発売された。ダイナミック型ユニットを搭載したカナル型(耳栓型)の上位モデル「ATH-CKM99」(21,000円)、「ATH-CKM77」(12,600円)。そして、高級感のある「EARSUIT」シリーズの新製品として投入されるイヤーハンガータイプ付きのインナーイヤー「ATH-EC707」(12,600円)、シンプルなインナーイヤー「ATH-CM707」(9,975円)だ。

 今回はこの4機種のデザインも含め、音質をレポートする。




■ATH-CKM99/77

 それぞれ、2008年発売の「ATH-CKM90」、「ATH-CKM70」の後継モデルにあたる。最大の特徴は、バランスド・アーマチュアユニット(BA)を採用していた「CKM90」に対し、「CKM99」はダイナミック型ユニットになった事。これは、オーテクがBAとダイナミック型のラインナップ整理を進める事に関連したユニット変更だという。

左が「ATH-CKM99」、右が「ATH-CKM77」。よく似たデザインだが、CKM99の方が一回り大きく、CKM77はアルミニウムケース部分が黒いのが特徴
両モデルの裏側。左右の表示は裏面に描かれている

 両機種に共通する特長は2つあり、1つは大口径ユニットを搭載している事。「CKM99」は新開発の専用14mm径ドライバを、「CKM77」も専用の13mm径ドライバを搭載している。特に「CKM99」の14mmは、同社カナル型では最大口径で、他社と比べると、ソニーの「MDR-EX600」(24,675円)が16mm径、その下位モデル「MDR-EX510SL」(12,390円)が13.5mm径と、価格帯とユニット口径がマッチした状態になっている。

 再生周波数帯域はCKM99が5Hz~28kHz、CKM77が5Hz~25kHzで、CKM99の方が若干ワイドレンジ。出力音圧レベルは104dB/mW、最大入力は200mW、インピーダンスは16Ωで共通。

 もう1つの特徴は、硬度の異なる2つの金属を組み合わせた“ハイブリッドメタルハウジング”を採用している事。2機種で素材が異なり、CKM99はチタニウムのハウジング(太くて丸い部分)に、ステンレスのケース(出っ張った帽子のような部分)を組み合わせ、CKM77はステンレスハウジングとアルミニウムケースで構成している。

 どちらも手にするとひんやりと冷たく、金属特有の質感はプラスチック製イヤフォンと格の違う高級感を漂わせている。ケーブルを除いた重量はCKM99が約10g、CKM77が約8gと若干“重め”だが、丸く広がったハウジング部分が、耳穴の周囲の空間にスポッとハマる形状になっており、驚くほど安定感があり、装着も容易。重力に引っ張られて落ちそうになる事はまったく無い。


 ハウジングに異なる金属を組み合わせる理由は、不要な共振を除去するためで、特に中高域のクリアさに効果を発揮すると言う。また、上位機種のCKM99では、金属の間に振動を抑制するダンパーも追加。より念入りに共振を除去している。

CKM99の内部構造

 またCKM99にはもう1つ特徴がある。音が出るノズルの先端にステンレス製の“アコースティックレジスター”というパーツが付いている。これは高域特性を改善するためのもので、広がりのある自然なサウンド再生に寄与するものだという。

「ATH-CKM99」。金属のハウジングにより、触れたときの質感が高いCKM99のノズル先端にある、ステンレス製の“アコースティックレジスター”

 イヤーピースはXS、S、M、Lの4サイズを同梱。ケーブルは本体0.6m+0.6m延長コード構成で、ヘッドフォンアンプなどを間に挟む事も想定した長さとなっている。



■ATH-EC707/ATH-CM707

左が「ATH-EC707」、右が「ATH-CM707」

 上質な素材を使い、オトナっぽいデザインにまとめた「EARSUIT」シリーズの2機種。どちらもインナーイヤータイプ。ユニットサイズは「EC707」が14.8mm径、「CM707」は15.4mm径となっている。どちらも新開発のユニットだそうだ。

 一目でわかるように「EC707」の特徴は“スイングアジャストイヤーハンガー”を備えている事。ハウジングに取り付けたアームの根元と、アームの先についたハンガー部分の2カ所が稼働式になっているため、ハンガー全体がかなり柔軟に動き、耳に容易にフィットする。大口径ユニットを使ったインナーイヤーは外れやすい事も多いが、このハンガーがあれば急に走った時も安心だろう。

 筐体には削り出しのアルミ合金を使っており、高級感があるほか、手にすると思いのほか軽い。大きなハンガーが付いているにも関わらず、ケーブルを除いた質量は約12gに抑えられている。なお、耳裏に当たる部分は柔らかい素材で作られているので、アルミのアームが耳に当たって冷たかったり、痛かったりする事はない。


筐体には削り出しのアルミ合金を使っている裏側。ユニット前面のカバー部分に左右の表記があるのが面白い手にすると思いのほか、軽い
“スイングアジャストイヤーハンガー”は2カ所が稼働式になっており、ハンガー全体がかなり柔軟に動き、耳にフィットする

 音質面の特徴は、ハウジング上部にある“アコースティックダクト”。ドライバーユニットの背面から十分な距離をとったところに設ける事で、最適な低音バランスとなり、クリアな再生が行なえるという。

右の図がクランクブッシュの形状で耳珠を避けているところ
 「CM707」はオーソドックスな形状に見えるが、よく見るとハウジングからケーブルへと伸びる“ブッシュ”部分が、途中で段差を設けたように横にズレているのがわかる。“クランクブッシュ”と名付けられたもので、こうする事で耳穴を隠すように出っ張っている“耳珠”(じじゅ)と呼ばれる部分に当たらないようにしており、装着安定性がアップすると言う。


ATH-CM707はオーソドックスなデザインだが、ブッシュ部分の形状に独自性がある横から見たところ裏から見たところ。こちらもユニットのカバー部分に左右チャンネル表示がある

 実際に着けてみると、こちらもインナーイヤーとしては装着感は良い。しかし、15.4mmの大型ユニットなので、“耳穴付近に大きなものを入れている”という装着感はそれなりにあり、耳が小さな人は異物感を強く感じるかもしれない。

 ハウジングには切削アルミ合金を使い、クランクブッシュには高弾性エラストマー素材を使っている。音質面では15.4mmという大型ユニットが特徴だが、ハウジングに“レゾナンスダクト”と呼ばれる穴を設けており、低域再生に注力。「インナーイヤーにありがちな低音の音抜けを補完する」という機構だ。

 どちらのモデルもケーブルの長さは60cmで共通。Y型で、60cmの延長ケーブルも付属する。キャリングポーチやイヤーパッドが付属する。

両モデルのパッケージ黒いガジェットともマッチする、大人っぽいデザインだ


■ATH-CKM99/77を聴いてみる

 どちらもハイブリッドメタルハウジングを採用し、形状やデザインも良く似ている。そのため、装着安定性やホールド力もソックリ。音もソックリ……と思いきや、やはり価格なりの違いは存在する。

試聴は、ポータブル環境として「第6世代iPod nano」+「ALO AudioのDockケーブル」+「ポータブルヘッドフォンアンプのiBasso Audio D12 Hj」を使用。据え置き環境としては、Windows 7(64bit)のPCと、ラトックのヘッドフォンアンプ内蔵USBデジタルオーディオトランスポート「RAL-2496UT1」を使用。再生ソフトは「foobar2000 v1.0.3」で、プラグインを追加し、ロスレスの音楽を中心にOSのカーネルミキサーをバイパスするWASAPIモードで24bit出力している

 まず、CKM99で「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best OF My Love」を再生。冒頭から瞬時に分かるのが豊かな低音と共存する“低域の締りの良さ”だ。この楽曲はアコースティックギターからスタートし、ヴォーカル、アコースティックベースと音が重なっていくが、いずれの音像も低域が必要以上に膨らまないため、背後に広がる音場の描写を覆い隠さず、空間に音像が定位する様がよく見える。

 また、低価格なイヤフォンでは広がる音場そのものに、ハウジングのプラスチックのカンカン、コンコンした乾いた音が漂い「プラスチックのスタジオで演奏しているんですか」と言いたくなるような音になるが、CKM99では“スタジオの音”が無く、楽器の音の余韻がそのままの音で広がってくれる。当然と言えば当然の事だが、イヤフォンやヘッドフォンではなかなか難しい事だ。

 付帯音の少なさと、低域の締りの良さは、音の描写そのものを細かくする。例えばアコースティックベースの「ヴォーン」という量感豊かな低域が前面に吹き出す場面でも、伴奏のギターの音に、シッカリ弦の固さが保たれており、ヴォーカルのサ行の鋭さも埋もれない。これらの細かな音がキッチリと聴き取れるため、単に低音が力強いだけのイヤフォンとは“格の違い”を感じさせる。

 これらを総じて“クリアな音”と表現できる。前述のハイブリッドメタルハウジングやダンパーの追加により、徹底的に共振を排除した事がこの音に繋がっているのだろう。重くて鳴きにくいスタンドにスピーカーを乗せ、アンプに鉛を載せまくったピュアオーディオのような、音楽の大事な部分のみを再生するようなサウンドだ。

 同じ曲を再生したまま「CKM77」に切り替えると、音場がスーっと“さわやか”に変化する。スタジオの窓を開けて風をいれたような感覚で、音場に広がる“密度”や“熱気”が減退するが、逆に音像はシャープになり、音の動き、楽器の動きはよくみえる。

 だが、ギターやアコースティックベースの芳醇な“響き”の成分も若干無くなってしまうため、楽器の値段が安くなったような感覚を覚える。また、アコースティックベースの低域の沈み込みも一段浅くなるようだ。純粋な再生能力を比較すると、カナル型ならではの豊かな低域の量感と高解像度を合わせ持つ「CKM99」に軍配が上がるが、情報量の多さでは「CKM77」も健闘しており、また、これ単体で聴くならば必要十分な低域は出ている。「低音が派手過ぎるイヤフォンは苦手」と言う人には、むしろCKM77の方がウェルバランスと感じるかもしれない。かなり“好み”で優劣をつけるレベルの違いだ。

 CKM77を着けたまま、「手島葵/The Rose」を再生すると、冬の屋外で歌っているような、クリアでピンと空気が張り詰めた音場が展開、そこにヴォーカルが広がっていく様子が見える。伴奏のピアノの重なるシーンでも、ピアノの膨らみは抑えられ、冷たさのある音場はそのまま、ヴォーカルの口の開閉など、細かい音が実に明瞭に聴き取れ、驚かされる。

ATH-CKM99

 同じ曲をCKM99で再生すると、ピアノの鍵盤を下まで押し下げた時の“コン”、“コン”というアタック音に気付くほど中低域に重心が移動した、安定感のある再生音に変化。ヴォーカルが肉厚になり、低域が豊かになった事で音像が立体的になり、手島葵独特の倍音の多い、叙情的な歌声がよりドラマチックに聴こえる。声にならない、漏れる吐息の音もCKM99の方が生々しく、胸にせまる。

 広がる音場はCKM77と同様に冷たさのあるものだが、手島葵が一歩自分そばに近づいたようで、音像がより強く感じられ、冷たさの中にも体温が伝わってくるような“暖かさ”を感じる。先ほどCKM77の音を“冬の屋外”と書いたが、CKM99は同じ場所で、ヴォーカルがダウンジャケットを着せてもらい、一歩前に出てきたような感覚だ。価格差を考えると甲乙付けがたい比較ではあるが、「このままここで音楽を聴き続けていたい」と感じるのはCKM99の方だ。

 また、両機種に共通する特徴として、高域の美しさが挙げられる。前述のように付帯音の少ないモデルなのだが、高域だけに注意して何曲も聴いていると、金属ハウジングのわずかな鳴きが感じられ、これが高域にかすかに綺羅びやかな色をつけている。ケニー・バロン・トリオ「Fragile」のピアノの高域のまろやかさ、トライアングラーの坂本真綾のヴォーカルの伸びやかさなどが心地良い。名作ゲーム「大神」のサントラも格別の美しさだ。原音再生と言う面では付帯音は少ないほうがいいのだが、個人的には心地良い演出だと感じる。


 ●他社製品との比較

ソニー、MDR-EX600
ソニー、MDR-EX510SL
 同じくダイナミック型で価格の近いライバル新製品と言えば、ソニーの「MDR-EX510SL」(12,390円)や、「MDR-EX600」(24,675円)が挙げられる。CKM99が14mmのドライバであるのに対し、EX510SLは13.5mm、EX600は16mmのユニットを採用している。

 音の前に質感やデザインで比べると、ハイブリッドメタル構造のCKM99がどちらの機種にも優っていると感じる。ソニーの2機種は制振ABSハウジングで、EX600はそれなりに質感があるが、やはり見た目や手で触れた際の高級感はCKM99が一枚上だ。

 ソニーの2機種の音質は、以前のレビュー記事で紹介しているが、「MDR-EX510SL」がニュートラル重視、「MDR-EX600」が低音が強めのバランスになっている。そのため、バランス面ではCKM99はEX600と良く似ている。

 EX510SLと比べると、CKM99の低域は強く、全体的に低域に寄ったバランスだ。ベースが強いロックやジャズなどは、腰が座った安定感のあるサウンドで、迫力もあり、CKM99の方が雰囲気のある再生をする。反面、音場の広さや見通しの良さ、高域の抜けの良さではEX510SLの方に軍配があがる。510SLの方がマニア受けするニュートラルさで、ピュアオーディオライクなバランスだ。

 ただ、こう書くとCKM99が低域ばかりボンボン膨らむ品のないサウンドに思えるかもしれないが、決してそうではない。ワイドレンジなサウンドを実現した上で、個性として低域が強いバランスになっているというイメージで、完全に“好み”の領域だ。また、CKM99ならではの特徴として、ハウジングの剛性が高く、ユニットからの余分な振動で筐体が“鳴く”感覚が少なく、中高域が非常にクリアだ。EX510SLの高域も付帯音が少なく、優秀だが、いかんせん音の厚みが薄く、安っぽい簡素な音に聴こえる。CKM99の方が高域の音の質感が高く、滑らかだ。ロックなどを好み、低域の迫力を重視するならCKM99、全体のバランスならEX510SLと言ったところだろう。

 低域寄りというバランスが似ている「MDR-EX600」と比べると、非常に良い勝負になる。EX600では、EX510SLで感じられた高域の簡素さが改善され、全域に渡って品位の高い奥行きのある音になる。低域の強さは同程度だが、EX600の方が若干低域の解像感が高く感じられる。このあたりは価格差もあるので仕方のない部分だ。装着感やデザインも含めるとCKM99の方に軍配を挙げたくなる。非常に良いライバル関係で、店頭などで聴き比べて好みで決めて欲しい。



■ATH-EC707/ATH-CM707を聴いてみる

ATH-EC707

 「EC707」で「Best OF My Love」を再生する。インナーイヤー型としてはバランスの良いワイドレンジなサウンドで、アコースティックベースの量感のある音が「ゴーン」と入ってきても、芯の通った固い低音が確かに感じられる。ボリューム感がありながら、膨張したような低域にならず、しっかりと解像感を伴っている事にも驚かされる。「山下達郎/アトムの子」冒頭のドラム連打も、低域の“うねり”が感じられる。大口径ユニットの利点を感じさせるサウンドだ。

 そんな低域に負けず、中高域も突き抜けて主張し、バランスをとっている。ただし、カナル型と比べると、広がる音場に付帯音を若干感じ、また、低域の沈み込みの深さでもかなわない。一方で、インナーイヤー型ならではの音場の“広さ”や、閉塞感の無さはアドバンテージであり、このイヤフォンならではの心地良さがある。


ATH-CM707。上から見ると15.4mm径の大型ドライバを搭載している事がよくわかる“広がり”だ

 続いて「CM707」。EC707より大口径なので、さらなる低音を期待したが、意外にも低域の量感や沈み込みは「EC707」の方が強い。「おかしいな」と思ってCM707のハウジングを指でグッと耳に押し付けると低域が一気にパワーアップ。そのまま指を離してもしばらくは継続するが、時間が経って耳への密着度が弱まると、元に戻る。EC707の構造的な“安定感”、“密着度”の高さが、音質に良い影響を与えている事が、CM707との比較でよくわかる。

 ただ、この低音比較はあくまでEC707とCM707の比較での事。CM707単体では、大口径ユニットであるため、インナーイヤー型として十分な低音は出ている。むしろ量感が薄まることでキレの良さを感じさせ、アコースティックベースの弦の動きはEC707よりも良く見える。

 また、僅差ではあるが、EC707と比べると中高域の付帯音が少なく、音場のクリアさが優れている。低域も含め、スッキリと、クリアな音が楽しみたいというニーズにはCM707、確かなホールドとインナーイヤーとしては優秀な低音再生能力を楽しみたい時はEC707という選択になるだろうか。




■まとめ

 4機種に共通する特徴は、デザイン性や高級感の高さと、音質が高い次元でバランスがとれている事だ。カナル型のCKM99/77は、どちらもクリアな中高域が特徴で、同価格帯の他社製品と比べても完成度の高さが光るモデルだ。

 EC707/CM707も、スーツやコートと組み合わせても映えそうなデザインと、音質の高さを兼ね備えている。インナーイヤー型ならではの閉塞感の少なさや、外部の音が適度に聴こえる事などを活かし、電車のアナウンスを聞き逃さないなど、仕事の合間の移動時にも快適に使えそうだ。


(2010年 12月 27日)

[AV Watch編集部山崎健太郎 ]