遂に登場したソニーのBAイヤフォン、4機種を一気に聴く
-ユニット自社開発。可能性を秘めた第1弾モデル
左上から右へ「XBA-1SL」、「XBA-2SL」、左下から右へ「XBA-3SL」、「XBA-4SL」(XBA-4IP) |
高級イヤフォンの代名詞ともなっているバランスド・アーマチュア(BA)イヤフォン。従来ダイナミック型イヤフォンのみを手がけていたメーカーの中にも、BAモデルに参入するところが増えているが、ついにソニーからもBAイヤフォンが発売された。
ユニット数1基のモデルから、4基のモデルまで、合計4モデルを一気に投入するという力の入った展開で、2011年のイヤフォン業界における最大の話題作と言ってもいいだろう。
11月10日に一斉発売される予定だったが、御存知の通りタイの洪水により延期。それを乗り越え、12月に入ってようやく店頭に並ぶようになった。今回は4機種を一気に聴いてみたい。
■ラインナップ
まずはラインナップをおさらいしよう。基本となるモデルは「XBA-1SL」、「XBA-2SL」、「XBA-3SL」、「XBA-4SL」の4つで、型番の数字がユニット数と同じになっている。つまり、「XBA-1SL」はフルレンジ1基、「XBA-4SL」には4つのユニットが入っているわけだ。価格幅は7,455円~30,975円。
また、各モデルの型番末尾が「IP」になっているモデルも存在する。これは、iPhone/iPod/iPadに対応したマイク付きリモコンを追加したバージョンであり、通常モデルより少し高価になっている。なお、基本モデルは全て12月10日発売だが、「XBA-3IP」と「XBA-4IP」だけは、2012年2月10日の発売になっている。なお、今回は「XBA-4」のみ「XBA-4SL」ではなく、「XBA-4IP」バージョンをお借りしている。
「XBA-1SL」はフルレンジ1基 | 「XBA-2SL」はフルレンジとウーファ |
「XBA-3SL」はフルレンジ、ウーファ、ツイータ | 「XBA-4SL」(XBA-4IP)はフルレンジ、ウーファ、スーパーウーファ、ツイータ | 各モデルのケースを並べたところ。右上に幾つのユニットを内蔵しているかが表示されている |
モデル名 | ユニット仕様 | マイク付き リモコン | 価格 | 発売日 |
XBA-1SL | フルレンジ×1 | - | 7,455円 | 12月10日 |
XBA-1IP | ○ | 8,715円 | ||
XBA-2SL | フルレンジ×1 ウーファ×1 | - | 18,375円 | |
XBA-2IP | ○ | 19,635円 | ||
XBA-3SL | フルレンジ×1 ウーファ×1 ツイータ×1 | - | 24,675円 | |
XBA-3IP | ○ | 25,935円 | 2012年 2月10日 | |
XBA-4SL | フルレンジ×1 ウーファ×1 スーパーウーファ×1 ツイータ×1 | - | 30,975円 | 12月10日 |
XBA-4IP | ○ | 32,235円 | 2012年 2月10日 |
XBA-1SLの内部。赤く色がついている部分がBAユニット | XBA-2SLの内部。フルレンジ+ウーファ |
XBA-3SLの内部。フルレンジとウーファ、ツイータ | XBA-4SLの内部。フルレンジとウーファ、スーパーウーファ、ツイータ |
ソニーのBAイヤフォン最大の特徴は、BAユニットを自社開発したことだ。ユニットを部品メーカーから購入してそのまま使ったり、カスタマイズして使うメーカーが多い中、一から自社で作り、量産もしている。これにより、作りたいイヤフォンに合わせて自由度の高いユニット設計ができるようになっている。
違いは一目瞭然で、通常のBAユニットには、細いパイプ状のダクトから音が出るが、ソニーのBAユニットにはパイプが無く、フラットで、代わりに大きな穴が空いている。これにより、「広帯域に伸びのある再生が可能になった」という。
突起が無い事もあるが、BAユニット自体が小さくまとめられているのが特徴だ。これはユニットを複数ハウジングに詰め込むマルチウェイイヤフォンでは大きなアドバンテージになる。また、フルレンジのユニットだけでなく、各帯域専用ユニットも開発。例えばウーファユニットでは、ユニットのケースに微細な穴を空けることで、音響的なローパスフィルタにしているという。ツイータでは、振動板の仕様を変え、共振周波数を高いところに持ってきている……という具合だ。
ハウジングにも特徴がある。外側は制振ABSを使っているのだが、ユニットを固定する内部パーツにはマグネシウム合金が使われている(XBA-1SLは液晶ポリマーフィルム)。異なる素材を組み合わせる事で、振動を抑える工夫で、「ダブルレイヤードハウジング構造」と呼ばれている。
XBA-1SLの構成パーツ | XBA-4SLの内部パーツと、そこに固定されたBAユニット | XBA-4SLの構成パーツ |
イヤーピースは、音道の形状を維持する固いシリコンと、耳穴に触れる側の柔らかいシリコンを組み合わせたハイブリッドイヤーピースと、同様の機構を採用しつつ、傘のようになったピースの内側に低反発ウレタンを充填し、耳穴との隙間を最小化する「ノイズアイソレーションイヤーピース」の2種類を同梱。サイズは、ハイブリッドがS/M/S/SS、ノイズアイソレーションがL/M/Sだ。特にノイズアイソレーションイヤーピースは、騒音の混入防止だけでなく、装着感向上にも効果がある。
他にも延長ケーブルやキャリングポーチ/ケース、ケーブルアジャスタなどが付属する。
付属するイヤーピース。サイズはハイブリッドがS/M/S/SS、ノイズアイソレーションがL/M/S | 緑の部分が音道の形状を維持する固いシリコン、外側の黒い部分が耳穴に触れる側の柔らかいシリコン。写真のノイズアイソレーションイヤーピースでは、低反発ウレタンを充填して耳穴との隙間を最小化している | ケーブルは60cmでネックチェーン型。iPhone対応の「XBA-4IP」は1.2mのY型となる |
「XBA-4IP」のリモコン部分。マイクも内蔵している | XBA-1SLの付属品 | 上位モデルはキャリングケースになる |
■試聴してみる
ポータブルヘッドフォンアンプはiBasso Audio D12 Hjを使用 |
では音を聴いてみよう。試聴はいつもの環境で、「第6世代iPod nano」を使い、「ALO AudioのDockケーブル」+「ポータブルヘッドフォンアンプのiBasso Audio D12 Hj」を使用。なお、iPhone 4Sと直接接続した場合、個人的に「ちょうど良いボリューム」と感じるのが、ボリュームバー8割程度の位置。フルボリュームまで上げても「煩くて聴いていられない」というほどの音量までは至らない。
●XBA-1SL
フルレンジ1基の「XBA-1SL」 |
XBA-1SLの周波数特性 |
まずは基本として、シングルの「XBA-1SL」から。再生周波数帯域は5Hz~25kHzだ。「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best OF My Love」を再生。すぐにわかるのは、雑味が少なく、クリアな音である事。1分過ぎから入るアコースティックベースが、「ゴォーン」と量感豊かに再生されて驚く。とてもシングルのBAイヤフォンとは思えない分厚さだ。シングルのイヤフォンで低域を出すため、耳穴のかなり奥まで挿入するイヤフォンもあるが、「XBA-1SL」の場合は普通につけただけでも十分な低域が出ている。BAユニット自体の素性の良さがよくわかる。
マルチウェイではないので当然音の繋がりは良く、アーマチュアにありがちな高域と低域だけが主張して真ん中が抜けるような事はない。ピーク・ディップが少なく、どちらかというと低域が強めではあるが、基本的にはニュートラルなバランス。
量感のある低域が力強く出る一方で、中高域、特にヴォーカルの描写は細かく、歌い出しの直前に口を開ける「パッ」という音や、空気を吸い込む「スッ」という細かな音も良く聴こえる。この解像感の高さは、BAイヤフォンならではの描写であり、ダイナミック型ドライバのような量感のある低域と、繋がりの良い音を出しながら、解像度の高さという「BAの良さ」もキッチリと聴かせてくれる。完成度の高いモデルだ。細身であるため、装着感も良好。
●XBA-2SL
フルレンジ+ウーファの「XBA-2SL」 |
XBA-2SLの周波数特性 |
XBA-1SLとXBA-2SLのサイズ比較 |
同じ楽曲、環境のまま「XBA-2SL」に切り替える。フルレンジにウーファを追加したモデルだ。周波数帯域は4Hz~25kHzと、1SLと比べ、低域方向にレンジが広がる。
当たり前の話だが、「XBA-1SL(フルレンジ)にウーファを追加した音」に聴こえる。低域のボリュームが1.5倍程度アップした感覚。フルレンジでは、アコースティックベースが「ゴーン」という音で沈み込んでいたが、「2SL」では野太く、「ヴォーン」に変化。振動そのもののパワーも増しており、頭蓋骨まで響くようだ。
感心するのは、これほど強い低域が出ているにも関わらず、「1SL」で書いた“細かい音の描写”がそのまま残り、キチンと聴き取れる事だ。低域が強いイヤフォンは、中高域までその音に覆われ、明瞭度が落ちるものだが、「2SL」ではその心配が無い。異なる素材を組み合わせた、筐体のダブルレイヤードハウジング構造が効いているようだ。
そのまま再生する曲を、JAZZ「Kenny Barron Trio」の「Fragile」に変更。ルーファス・リードのベースを聴いてみると、「ズズーン」と地を這うような低音に圧倒される。それでも、ケニー・バロンのピアノの描写は解像度の高いままで、キッチリ描写できている。各帯域の良さを出しながら、共存しているところに音作りの上手さが光る。ビートルズの「Hey Bulldog」では、右チャンネルでうねりまくるポール・マッカトニーのベースが心地良い。
だが、全体的なバランスを見渡すと、若干低域が強すぎると感じる。低域に迫力があるのは結構な事だが、音圧と量感の面で、中高域が負けてしまい、聴いているとベースラインやドラムばかりが意識に入ってしまう。それを逆手にとって、激しいロックや、ベースラインが印象的な楽曲などはこのイヤフォンで聴くと楽しいだろう。
●XBA-3SL
フルレンジ+ウーファ+ツイータの「XBA-3SL」 |
3番目は「XBA-3SL」。フルレンジにウーファ、さらにツイータを追加したモデルだ。周波数帯域は4Hz~28kHzで、超高域が伸びている。
先ほどの「2SL」で感じた不満が払拭される。つまり、低域の強さに負けていた中高域が、元気を取り戻し、低域と同レベルに主張。結果的に上から下まで、音がバランス良く耳に入る。「Best OF My Love」のベースに圧倒されながらも、ヴォーカルがキッチリ聴き取れ、ベースはそれを下支えする役割に徹してくれる。低域そのものの沈み込みや量感は「2SL」とほぼ同じレベルだ。
中高域が見やすくなった事で、音場の広さや抜けの良さも、2SLより感じやすくなる。ヴォーカルやシンバルの音が広い空間に波紋のように広がり、やがて虚空に消えていく様が明瞭だ。ボリュームのある低域は左下あたりで「ヴォーン」と主張しているのだが、その上に広がる空間はあくまでクリアで、低域の響きは上の空間まで染み出さない。
バランスが良い事もあり、「2SL」と比べると再生する楽曲を選ばず、どんな曲にでも対応できるのが好印象だ。
しかし、1点だけ気になるところがある。それは“高域のキツさ”だ。高域チェック用に使っている「坂本真綾/トライアングラー」を再生。この曲はヴォーカルのサ行を含め、高音成分が多い楽曲であり、それゆえ、高域の描写が荒いイヤフォン/ヘッドフォンで聴くと、ガサガサした刺激音になり、ヒドイ時には耳が痛いと感じてしまう。
XBA-3SLの周波数特性 |
「3SL」でこの曲を再生すると、高音に「シャンシャン」、「キンキン」した刺激音が含まれ、BAユニットの金属的な響きが若干耳につく。パワーのある低域に負けないよう、高域が強調され過ぎるきらいがある。シンバルなど、高い音を出す楽器でも、高い音だけ出ているわけではない。しかし、高い部分だけが強調されると、「バシャン」というシンバルの音の「シャン」の部分だけが耳に残り、楽器自体が薄っぺらくなったように感じてしまう。
フルレンジユニットが高域を担当している「2SL」や「1SL」に戻すと、この“強調感”が無くなり、中域から自然につながる、しなやかな高域が味わえる。「Best OF My Love」の冒頭、アコースティックギターの音で比べると、ギターの弦の金属的な音と、ギターのボディの木の響きが、それなりに描き分けられる「2SL」、「1SKL」と比べ、「4SL」は全体的に金属的な響きが付帯。ぬくもりや温かみが減退する。
●XBA-4SL
フルレンジ+ウーファ+スーパーウーファ+ツイータの「XBA-4SL」。イヤーピースを外したところ |
XBA-4SLの周波数特性 |
XBA-3SLとXBA-4SLのサイズ比較 |
ラストは「XBA-4SL」。フルレンジ、ウーファ、ツイータにスーパーウーファという構成。つまり、先程の「3SL」にスーパーウーファを追加した形だ。周波数帯域は3Hz~28kHzと、さらに低い音まで出るようになっている。
内容的には「3SL」の低域をさらにパワーアップした音だが、一聴した印象はとにかく「ゴージャス」の一言。「Best OF My Love」のベースの音は、もはやイヤフォンのそれではなく、大口径ユニットを使ったヘッドフォンを聴いているような感覚だ。
「Fragile」のベースは頭蓋骨を振動させるだけでは飽きたらず、背骨まで響いているよう。「ズーン」、「ドーン」というより、「バゴーン」と表現したくなる迫力だ。勢いのあるクラシック「展覧会の絵」(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団)から「バーバ・ヤーガの小屋」を再生すると、ホールの空間が前面から押し寄せてくるような迫力が心地良い。ダイナミック型に負けないスケール感のある低域が最大の特徴だ。
だが、「3SL」で突き抜ける高域を奏でていたツイータは、この低域にも負けていない。いや、逆にこのツイータと組み合わせるには、「4SL」の低域くらいは必要なのかもしれない。どちらも非常にパワフルだが、その中でもバランスがとれている。派手目で、ガツンガツンと主張するが、調和はとれているという、今まであまり体験した事がないサウンドだ。
個々の音の輪郭がハッキリしており、歯切れが良く、楽器の動きが明瞭に見えるのはBAらしいポイント。それらの音がどれも力強く演奏する、躍動感に溢れたモデルだ。「3SL」で感じた、高域の金属的な響きなどはそのまま感じるが、なんというか「細かいことはいいや」と思わせるゴージャスさ、ある種の“凄み”のようなものがある。好き嫌いは別にして、とりあえず一度聴いて、驚いて欲しいサウンドだ。
■まとめ
全モデルを通して聴くと、それぞれに明確な個性があるため、選びやすいラインナップと言える。低域の迫力を求める人には「XBA-2SL」や「XBA-4SL」、高域にも同様の抜けの良さ、力強さを求める人は「4SL」が合うだろう。これらのモデルはある意味「BAらしい」音と言える。
バランスの良さ、ニュートラルさといった、いわゆるピュアオーディオライクな音を求める人には、「1SL」か「3SL」が合うだろう。1SLよりも3SLの方が上位モデルなので、無条件に全てが優れているというわけではなく、フルレンジ1基の1SLにも、フルレンジならではのナチュラルさがあり、独自開発BAユニットの素性の良さが一番ダイレクトに味わえる見逃せないモデルだ。7,455円という買いやすい価格も含め、個人的には4機種の中で一番気に入った。
なお、BAを投入したからといってダイナミック型が無くなるわけではなく、「MDR-EX1000」や「MDR-EX600」、「MDR-EX510SL」などの強力なラインナップはそのまま併売される。音色の自然さやバランスの良さなどを求める人は、ユニットの違いにとらわれず、ダイナミック型も聴いてみて欲しい。
どちらかと言うと海外メーカー勢の存在感が大きいBAイヤフォン市場に、ソニーが4タイプ、8機種ものラインナップを揃えて参入したインパクトは大きい。ユニットレベルで他社とはひと味違う音を出しており、“自社で自由なユニットを生み出せる事”の強みを感じさせてくれる。
その強みは、音質だけではない。BAユニットが小型化できた事で、ハウジングの空いたスペースにバッテリやNC機能を入れてしまったノイズキャンセリングイヤフォン「XBA-NC85D」(43,050円)や、バッテリ+Bluetooth機能をハウジングに入れたBluetoothヘッドセット「XBA-BT75」(24,675円)などもラインナップしている。いずれもケーブルの途中にバッテリケースなどを必要とせず、BAユニットの自社開発が音質だけでなく、デザインや使い勝手の向上に繋がった形だ。
音質面でも、機能面でも、今後のBAイヤフォン自体の可能性を広げてくれそうな、そんな予感を感じさせるBA第1弾モデルだ。
ノイズキャンセリングイヤフォン「XBA-NC85D」 | Bluetoothヘッドセット「XBA-BT75」。小型フルレンジBAユニットを採用した事で、その他のパーツを内蔵するスペースが生まれた。Bluetoothボックスは無いが、ケーブルに小さなボリュームコントローラーは備えている |
[ Reported by 山崎健太郎 ]