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FitEar“多ドライバと密閉から脱却に挑む”新イヤモニ。中国から個性派7社上陸。佐々木的注目はコレ!
2025年11月4日 10:49
FitEarの新機軸イヤモニ
まず今回のヘッドフォン祭では、プロ用イヤモニで知られるFitEarがこれまでにない新機軸のイヤモニを初出展した。これは来春発売という新製品の参考出品で、製品名や価格は未定だ。
そのポイントは多ドライバーへの挑戦、かつ完全な密閉型からの脱却である。
近年のFitEarは比較的少ドライバー構成を志向していたが、今回のモデルは10ドライバーと多数搭載している。内訳はウーファーがSONION新型BA 3800を4基、フルレンジとしてSONION製BA G90が2基、そしてSONIONの新型ESTが4基である。
またこれまでイヤモニは静粛性を高めるために密閉にするのが常識であった。ところが、今回のモデルは新規採用の特殊フィルターを介して外気と音響的に接続されている。これは新モデルの外観上の特徴にもなっている。
これらの新しい試みについて、開発者である堀田氏にインタビューして詳細を聞いた。
まず今回注目のフィルターだが、これはオランダのDynamic Ear Company(DEC)製のフィルターで、3年ほど前から研究を重ねてきたものだという。
このDEC製フィルターは耳の内部と外を繋ぐためのアンビエントフィルターであり、ライブ用の耳栓などにも使われており、海外IEMメーカーでの採用例もある。堀田氏によると、このDEC製フィルターをFitEarが採用した理由には、プロ用途とコンシューマー用途の2通りがあるという。
プロ用途に使われる場合は外の音を自然に取り込むために使われる。その背景には昔のステージ上の環境はとにかく騒々しく、イヤモニは完全に密閉することが求められた。それがイヤモニにBAドライバーが使われる理由でもある。
しかし最近はステージもさまざまな変化により、かなり静かになってきたということだ。そうした場合、イヤモニを密閉しすぎるとヴォーカリスト自身の声が頭内で響きすぎてしまうという。その対策として外の音を取り入れることが求められてきた。
ところが単にベント穴のようなものを開けると、今度はローエンドが減ってしまう。そうした時にこのDEC製フィルターを使うと、全帯域の減衰特性を均等化し、周波数バランスを崩さずに外音を導入できることで自然に聞こえるようになるということだ。
わかりやすく言い換えると、密閉イヤモニにライブ用のイヤプラグフィルターをつけたものと言える。ただし、このプロ用のイヤモニはあくまでプロ用のみに製作される。
そしてもう一つ、今回の出展機のようにコンシューマー用途に使われる場合には、耳内部の圧力を調整するために使われる。これは外耳道内の音響インピーダンス(空気の流れやすさ)を調整するもので、これにより鼓膜の動きがより自由になり、BAドライバーの本来の細かさと、まるでダイナミックドライバーのような迫力が両立できるような音質向上が得られるそうだ。プロ用途とコンシューマー用途のフィルターはそれぞれの用途に応じて別に調整されるとのこと。
そして堀田氏はこのイヤフォンにはドライバーにもこだわりがあると語る。
この新製品の高域用に搭載されたSONION製のESTドライバーは量産前の新型で、面白い新機軸が採用されている。それはドライバーが横向きに配置されていて、従来のドライバーのように前方に音を放射するのではなく、いったん横向けに音を放射してから、前方に向かうように設計されているということだ。
こうすることで、4基のESTドライバーのそれぞれが前方に放射されるまでの時間差(経路差)が生じることになり、わずかな到達時間の差を利用して音質をチューニングすることができるということだ。それと同時に実装面積もよりコンパクトにすることが可能になったという。これはEST4基などの多ドライバーで特に効果的なため、もしかすると今回多ドライバーに挑戦したのはこのESTを端緒としたのかもしれない。
説明を聞いた後に実際に今回のコンシューマー用の展示機を試聴させてもらった。
短時間の試聴なのであまり多くは書けないが、まず音の広がりの良さが感じられ、立体的かつ空間が広がるように聴こえる。これはかなり印象的で特徴的だ。また解像力も高く、細かい音がよく聴き取れた。こうした特徴的なサウンドは側面放射式の新型ESTのメリットかもしれない。
そして全体的な音の印象として、たしかにオールBA&ESTのイヤフォンというよりも、まるでダイナミックとのハイブリッド型のように躍動感が感じられた。これはDEC製フィルターの効果のように思われる。
今回の新製品は新機軸の設計で特徴的なサウンドを実現、FitEarの新時代を予感させるような次世代モデルだ。
ヘッドフォン祭に上陸した、中国7社の製品を聴く
もう一点紹介したいのは今回のヘッドフォン祭で試みられた中国オーディオ協会とのコラボレーションだ。このコラボは「中国国際ヘッドフォン展 in Japan」と題されたもので、中国のヘッドフォン展をフジヤエービック主催ヘッドフォン祭の中で試験的に開催してみるというものだ。
このコラボについて、メディア向け説明会及び実際にブースを回って試聴してみたことをレポートする。(ちなみに漢字名称は日本の漢字に当てはめたものを使用)
中国オーディオ協会は日本の公益社団法人に似た組織で、政府に提言したり会員の権利を維持するというものだ。2017年にそのヘッドフォン分科会ができて、現在の活動を始めたという。母体はアメリカのHeadFiフォーラムに相当する中国のerji.net(アルジ・ネット)であり、マニアックな活動を背景としているようだ。
2019年からフジヤエービックと交流を始めたが、新型コロナ禍で中断を経て交流を再開したという。今回はテストケースとして課題を洗い出すため出展したそうだ。今回は会員からEPZ、Gold Planar、Matrix Audio、QIGOM、QLS、Temperament、DAARTの7社を厳選して参加したとのこと。
その中からまずQIGOM(チーガム)のブースを紹介する。QIGOMは最近開発されたFitEar「Monitor-1 Studio Reference」ヘッドフォンのドライバーのOEM相手先ということだ。こちらは開発の張氏と、社長の周氏が対応してくれた。
QIGOMは2004年設立のヘッドフォンユニット生産会社から転換した深センの会社で、自社ブランドとしてQIGOMブランドのヘッドフォンやイヤフォンを開発・販売している。
そのラインナップの中からフラッグシップモデル「妖聖(ようせい)」という平面磁界型ヘッドフォンをまず聴いてみた。110mmという大口径のドライバーを搭載している。はじめ手持ちのDAPで再生しようとしたが、ハイゲインにしても歯が立たないほど鳴らしにくいモデルだ。
据え置きのヘッドフォンアンプを使わせてもらって再生したが、音はモニター的で着色感が少なく、平面磁界型らしいシャープな音だ。音の広がりも良く、低音のパンチもある。価格は日本円で約18万円前後ということだが、その価格以上の性能があると感じた。
次にイヤフォンの「昊天錘(こうてんすい)」というモデルを聴いてみた。これも音は着色感が少なくシャープな音だ。耳掛け式のインナーイヤー型ながら音に深みを感じる。価格は約8万円くらいということだ。
QIGOMは全般的にモニター的な音の特徴で、FitEarが採用した理由も分かったような気がした。
次はGoldPlanar。
これは某海外ヘッドフォンのOEM先としてよく耳にしていたメーカーなので、前から名前は知っていた。社長の何氏が対応してくれた。ここもOEMだけではなく自社ブランドでも製品を出している。ドライバーの種類としてはAMT型とリボン型、そして平面磁界型が得意のようだ。
ここではまず「GL3000」という平面磁界型ヘッドフォンを試聴した。これは平面型らしいシャープな音ながら音色が美しく、ヴォーカル再現が滑らかな印象だった。音場感がよく広がり、低音のパンチもある。個人的に聴き込みたくなるようなサウンドだ。価格は30万円台半ばほどということだ。
次に聴いたのは、「AMT16」というハイエンドイヤフォン。これは名前の通りに16mmの大口径フルレンジAMTドライバーを搭載しているという驚きの製品である。よくアコーディオンと称されるAMT(別名ハイルドライバー)型ドライバーを採用している。
「AMT16」はDAPでも鳴らしにくくはない。音は平面磁界型に似たシャープでハイスピードの特徴的な音色だが、平面磁界型とも違う独特の音色を感じる。もしかするとトランジェント(音の立ち上がり・下り)は平面型より高いかもしれない。25万円ほどという高価格だが音を聴けば納得するだろう。
GoldPlanarは高性能ながらもリスニング寄りの美しい音が印象的だった。
そして日本でも一部製品が入り始めているTemperamentを紹介する。ここはインナーイヤー型を一貫して開発している会社で、社長の凱氏が案内してくれた。
ここではまず「DM7 TI」というハイエンドのインナーイヤフォンを試聴した。筐体にはチタンを使用した豪華な造りだ。音はかなり良好で、全域クリアで鮮明なサウンドだ。はじめ3.5mmで聴いたが、4.4mm端子に替えてもらうとグッと音質が向上した。能率はやや低めだが、インナーイヤー型とは思えないほど良い音だ。価格は10万円ほどだそうだ。
次に「X6」という廉価版のイヤフォンも聴いてみた。これはプラスチックの筐体だが、音はかなり優れている。あとで調べてみたところ、50$以下のおすすめということでHeadFiでも紹介されていた。オンラインで手軽に入手できるようになったら人気を博するだろう。
総じてOEMで知られる中国オーディオ業界が独自ブランドの自社製品で世界に挑戦しているということがよく分かる企画だった。
中国メーカーの製品は、個人の意思が色濃く反映された個性的なサウンドで、そうした意味では日本というよりは欧米のオーディオにも似ていると感じた。競争が激しいという点も個性的な差別化を後押ししているのかもしれない。
日本ではカナル型が多いのに、インナーイヤー型が多いのも特徴的だ。この点は通勤・通学が多い日本とは異なる使用環境を感じる。
このイベントについての要望としては、馴染みのない会社も多いので各ブースに簡単な会社の紹介と、まずどの製品を聴いたら良いかという代表製品などを書いた共通フォーマットのパンフを置くと良いのではないかと思う。そうしたパンフがあれば身振り手振りでも会話が進むだろう。
そしてライターとしては専門的な通訳の充実を期待したい。機能・構造面の多少込み入ったところでは翻訳ソフトを使いながらメーカー担当者との会話を行なう必要もあった。
いずれにせよ今回が初めてのイベントなので、次回はさらに充実した内容で中国オーディオ業界の紹介をしてくれることを期待したい。














