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スマートフォンの次の戦いに臨むApple、未来を担うARとスピーカー。WWDC2017詳報

 WWDC2017基調講演の詳報をお伝えする。AV Watchでは、すでにハンズオンのレポート本田氏によるHomePodの予想記事が出ているが、ここではそれらをお読みいただいた上で、アップルの全体戦略を解説したい。

会場となったサンノゼ・コンベンションセンター。例年はサンフランシスコ市内で開催されていたが、サンノゼでの開催は十数年ぶりとなる

 アップルはiPhoneにおいてスマートフォンで圧倒的な勝者となった。一方で、AIやクラウドで先進的なビジョンを次々と発表するGoogleやマイクロソフト、Amazonなどに比べると、良く言えば地に足のついた、悪くいえば保守的な展開が続いており、「この先どうするのか」が見えづらいところがあった。ティム・クックCEOの戦略がどうなるか、今回のWWDCが試金石になる、と指摘する業界関係者は多かった。

アップルのティム・クックCEO。例年以上に長時間壇上に立ち、これからのアップルのビジョンを解説した

 デベロッパーを引きつけることがアップルの成功を支えており、それは今年も変わらない。基調講演の冒頭では、わざわざこのために作った大がかりなショートムービーを流し、「あなたがたなしでは世界はなりたたない」と語ったほどだ。一方で、デベロッパーに魅力を感じてもらうには、ビジネス的な旨味に加え、技術的な魅力、ビジョン的な先進性も必要となる。アップルに今求められているのは後者2つである。

基調講演冒頭では、サーバーの電源を抜いたことから始まるアポカリプスをコメディタッチに描き、我々の生活がなにに支えられているかをアピール。すなわち、それはすべてデベロッパーの働き……という主張である

 結論から言えば、アップルは「突飛な策はないが、ライバルに着実に追いつく策を出し、先を見据えた布石も打った」と筆者は考える。それがなにかを探っていこう。

VRムーブメントにキャッチアップするmacOS

 アップルには主要なOSが4つある。macOSにiOS、WatchOSにtvOSだ。このうち、製品として順当な進化を待てばいいのは後者2つだ。WWDCでも細かな発表(とはいえ、Apple TVにAmazon Videoがやってくることは大きなトピックだ)はあったものの、さほど驚くような話ではない。

Apple TVにやっとAmazon Video系サービスが登場。特にAmazonプライムビデオを使いたい人は多いのでは
WatchOS次期バージョンでは、Siriをエージェントとしてより活用。「次になにをすべきか」といった点を考慮して行動を伝える機能がフィーチャーされる
エクササイズ中に音楽を聴く人も多いので、Apple Watchでの音楽機能は、AirPodsとの連携を軸に強化。プレイリストの自動同期などが行われる。

 主要OSはすべて秋に無料アップデートされるが、特にアップルの戦略としては、なにより重要なのは「iOS」「macOS」という、主軸製品を支える2つのOSについて、どのようなビジョンをもって臨むかが大切なところである。

 まずはmacOSから行こう。

 次期macOSの名称は「High Sierra」。現在がSierraだから、そのさらに高みに……というところか。ただ、名称的にはマイナーチェンジにも思える。実際、UIのテイスト変更を伴った以前のアップデートに比べると地味に見えるし、派手な機能追加が行なわれるわけではない。アップデートの中心は「基盤整備」であり、ある意味でこれからのための準備とも言えるものだ。

次のmacOSの愛称は「High Sierra」。基盤整備でさらなる高みへ……というところか

 例えば、ファイルシステムは正式に、新しい技術である「Apple File System」がデフォルトになる。ファイル転送速度やセキュリティが向上し、フラッシュメモリーベースのストレージへの最適化も進んでいる。写真アプリにはより詳細な編集機能が付き、GPUを使った機械学習処理をカバーするフレームワークも準備される。個人は使うだけだが、ソフト開発のシーンでは機械学習への対応が重要になっているため、重要な要素ではある。

「写真」アプリの画像編集機能は大幅強化。iPhoneと連携して使っている人にはありがたい進化だ
機械学習用のフレームワークとなるCoreML。セキュリティを確保した状態で、大量のデータから機械学習を活用するソフトを開発することを助ける

 一方で、「基盤整備」という面でもっとも大きな変化は「VRへの対応」とそのためのフレームワーク整備だ。ここ数年、VRはコンテンツ製作のフロンティアとして価値を高めてきたが、その中心はWindowsのゲーミングPCであり、Macは蚊帳の外だった。アップルがハイエンドGPUを搭載した製品を出さず、外付けGPUへの対応にも積極的でなかったからだ。だが、High Sierraでは、iMacのリニューアルや、MacBook ProでのThunderbolt3経由による外付けGPU対応など、ハイパワーなGPUへの対応を一気に強化し、OS側でのVRに向けた最適化も行った。基調講演ではILM開発によるスターウォーズをテーマにしたデモが行われ、筆者もハンズオンイベントでそれを体験したが、品質は十分だ。

Thunderbolt3搭載のMacBook系で、外付けGPUが利用可能に。まずは開発キットの形で提供され、環境が整備されることになる。開発キットではRadeon RX580が使われていた
スターウォーズをテーマにしたデモ。HTC Viveを使い、高品質なVRが開発できることをアピールした

 MacにおけるVRは、Steamが推進する「SteamVR」をターゲットとする。具体的には、SteamVR対応機器の中でも、HTC Viveを中心に置き、HTC ViveでVRができるようにしていく。HMDはもちろん、Vive用のハンドコントローラーも使える。Unity・Unreal Engineが開発環境として整備されており、Windows上からの移行も非常に容易だ。また、映像編集ソフトの「Final Cut Pro」が360度動画に対応し、そのプレビュー用としても、HTC Viveが使える。要は、Viveを軸にWindows上とあまり変わらない環境を整備しよう……という狙いなのだ。

 MacはゲーミングPCのトレンドからは離れた位置にいるので、VRをコンシューマ向けにガンガン押す……という立ち位置ではない。むしろ彼らが狙うのはコンテンツクリエーションだ。Macを使う開発者は多いが、これまではVR開発となるとWindowsへ行かざるを得なかった。アップルとしては、彼らをMacに引き留めておければ十分であり、その準備は十分に整ったといえる。Oculusなど別プラットフォームに対するコメントは得られなかったが、実際問題、コンシューマ向けでないならそれでも……という判断はあるのだろう。

 そして、ハイパワー路線の最後の一押しとなるのが、ハイエンドiMacである「iMac Pro」の登場だ。iMac Proは完全なコンテンツクリエーション向け製品であり、ゲームにはオーバースペックだ。しかし、機械学習開発やVR開発には適している。ディスプレイとしてiMac向け以上のものを別途用意するのは難しく、ならばいっそ一体型で……という判断はアップルらしいと言える。

iMac Pro。発売は年末なので、今回は「顔見せ」の扱い。非常にパワフルで、完全にコンテンツクリエーション向けだ

iOSの強みは「ハイエンド特化の市場性」にあり

 今のアップルにとって、macOS以上に重要なのがiOSである。アップルの利益の大半はiPhoneから生まれており、iPadを個人向けコンピュータの主軸とも位置付けている。iOS機器とそのOSの進化こそ、アップルの次世代戦略を担うものだ。

 iOSについて、ティム・クックCEOは興味深いデータを示した。Androidでは最新のバージョン(Android 7 Nougat)を使っている人が7%しかいないのに対し、iOSでは86%の人が最新版(iOS10)を使っている、と言う指摘だ。いつもの「Androidは断片化している」という主張なのだが、この点は、アップルと他社のビジネス環境の違いを探る上で、非常に重要な要素と言える。

Androidは最新版が7%しか使われていない、と主張。両者のビジネス上の立ち位置を示す重要なデータである

 新しいOSを使っている人が少ない=最新のOSを軸にした最新のアプリやサービスでビジネスがしづらい……ということなのだが、これは、iPhoneとAndroid総体では、もはやビジネスの領域が異なっている、ということを示している。

 Androidで最新バージョンの利用者が少ないのは、アップデートに掛かるコストなどもあるが、なにより「全体で見れば、最新のハイエンド製品を使っているのは少数派である」ということだ。スマートフォンの拡散に伴い、低価格かつローエンドな製品が増え、Androidはそこで使われる率が高い。日本にいるとどうしてもハイエンド端末に注目が集まりがちだし、特にガジェット系メディアではそうした製品ばかりが紹介される。しかし、Android全体を見回すとハイエンドで最新の製品は少ない。

 一方でiPhoneは、アップルがソフト・ハード一体のビジネスをしており、ずっとハイエンドだけに注力している。iPhone SEのようなお手軽なモデルも出ているが、それでも、ハイエンドよりの製品展開といっていい。そうした端末を買う人々は、総じて最新技術に興味があり、新しいアプリやサービスにもコストを払いやすい。それだけ肥沃で質の揃った市場である……というアピールを、アップルはデベロッパーに対して行ないたいのである。

 そして言うまでもなく、これから出てくる「iOS11」もこの基盤の上にある。

次のiOSは「11」。10年を迎えるiPhoneのこれからの基盤だ

個人間決済からAIまで、機能アップ多彩なiOS11

 iOS11に追加される機能は数多い。例えば、Siriに音声認識による翻訳機能が搭載されたり、動画がHEVCに、静止画記録にはHEVC由来の「HEIF」に対応したりと、順当なアップデートが多い印象だ。

iOS11のSiriに、音声での翻訳機能が搭載に。ただし、当初日本語は対象外

 中でも筆者が特に注目しているのは主に4つの要素になる。

 一つ目が、Apple Payによる個人間送金機能だ。個人間送金はキャッシュレス決済の中でも特別な分野で、「市場規模はそこまででもないが利用者の利便性は高い」ものだ。アメリカでは古くからPayPalによる個人間送金による売買やワリカンが行われているし、中国でもWeChatPayなどが普及しはじめている。Apple Payで安全な個人間決済を、というのは論理的な流れである。

 Apple Payでの個人間決済は、アップルが専用のキャッシュカード「Apple Pay Cash」を作り、そこを介して送金し合うような形を採る。アップル標準のメッセージングサービスである「iMessage」に添付して、簡単に送金決済ができる。ただし、現状はアメリカでのドル送金のみだ。金融の仕組みは各国で異なるため、日本などで対応できるかは未知数。現地ではその辺の情報が不足している。おそらく、すぐにはできないの……と予想できるし、やるとすれば、アメリカとは違う形になるのではないだろうか。

Apple Payでの個人間決済が実現。ただし、現状はアメリカドルでの決済のみが対象だ

 二つ目として、画像認識などのAI系機能を開発者が利用可能になる点を挙げたい。

 機械学習を軸にした画像・音声・テキストの処理技術は、間違いなくこれからを支える基盤となるものだ。だから、Googleもマイクロソフトもその能力を開発者に解放し、活用してもらうことを戦略の基盤に置いている。アップルもそこは変わらない。iO11にAI処理系の技術が入り、デベロッパーが使いやすくなるのは必然だ。一方で、アップルは他社と違い、そこで処理の主体を「端末」に置こうとしている。クラウドでの集約処理が基本なのだが、そうすると多数のプライバシー情報を集めることにもなり、利用者に不安を与える可能性もある。だからアップルは、サーバーで機械学習した結果を機器に送り、個人のデータとの照合は端末で行なう……というアプローチを基本にするのだ。このことは、隠れた戦略の違いとして覚えておきたい。

画像認識系のAPIがデベロッパーに公開。これによって、アップルの持つ機械学習の能力をアプリの中で広く使えるようになる

「ARKit」で生まれる巨大な「ARアプリ」市場

 そして3つめは、大きな未来への布石である「AR(Augmented Reality)」だ。iOS11には「ARKit」というフレームワークが用意され、iPhone 6以降のiPhoneとiPadが、皆そのまま「高精度なAR端末」になる。そのクオリティはなかなか。動画を見ていただければ、納得してもらえるだろう。

iOS11にARのためのフレームワーク「ARKit」が登場。iPhoneだけで特別な機器を使わず、かなり精度の高いARが実現できるようになる
基調講演でデモされた「Wingnut AR」。
ARKitのデモを動画で。ARとしては基本的なものだが、一般的なiPhoneやiPadで、特にハードを追加することもなくこれだけできる点に注目
Pokemon GOもARKitに対応、ARモードのクオリティが大幅に向上する

 ARKitの特徴は、iPhoneのカメラとモーションセンサーなどだけを使って、比較的シンプルだが高精度なARを実現する点にある。HoloLens(マイクロソフト)やProject Tango(Google)のように物体の複雑な形状を認識したり、遠くの空間形状まで把握したりはできない。周囲にある平面と環境光の強さや色、現在位置などを利用する程度だ。だがそれでも、数年前からあるシンプルなARよりはずっとレベルが高いし、位置ズレも少ない。AR用のミドルウエアには似た事をするものもあるが、そうしたミドルウエアのライセンスを取得しなくても、iOS開発者であれば簡単に安価に使えるのは、きわめて大きなことだ。

 開発環境としては、ここもVRと同じくUnityとUnreal Engineがサポートされており、すでに開発用のドキュメントや開発ツールも整備されている。開発のハードルはきわめて低い(ARKitの開発ドキュメント。英語かつ開発者向けなので、興味のある方に)。

iOS機器に内蔵された「普通のデバイス」だけで、今日的な精度・機能を備えたARが活用可能に

 現状、ARKitは「空間OS」のような特別な機能をもっているわけではなく、比較的シンプルなARを実現するものだ。だから、Windows Mixed Realityのような野心的なものに比べると踏みだしは小さい。しかし重要なのは、「ほとんどのiPhoneで使える」という市場の大きさだ。しかも先ほど述べたように、iOS機器の市場は均質性が高く、ハイエンドに寄っており、新しいアプリやサービスへの意欲が高い。

 ARを一気に身近にし、実際にビジネスとして回してコンテンツを増やす、という意味では、アップルの施策はきわめて意義が深い。

「ファイル操作」に向き合うiPad、道具としての完成度を高める

 そして最後が「iPad向け」である。

 今回のWWDCに合わせ、iPad Proはリニューアルした。詳細は別記事に譲るが、最大120Hzのリフレッシュレートによる描画は本当になめらかで快適だったし、リフレッシュレートの向上により、Apple Pencilでの描画にかかる遅延が20msに短くなった。要は道具として進化したわけだ。ちなみに、Apple Pencilでの描画遅延である「20ms」は、先日マイクロソフトが発表した2017年版Surface Proでのペン描画遅延「21ms」よりほんのわずかに速い。Surface Proは特別なハードウエアを搭載することで、従来(50msクラス)の半分にまで遅延を縮めてきたが、Apple Pencilも同様にぐっと縮めた。両者は間違いなく、お互いの存在を意識しあって進歩しており、非常に良いサイクルが出来上がっていると感じる。

新iPad Proのディスプレイは、可変フレームレートを採用。最高120Hzで、非常になめらかな表示になった
新iPad Proでのペン描画遅延は「20ms」に。従来の半分になり、業界最短クラスになった

 iPad Proのプロセッサーは順当に進化を続けており、既存モデルよりさらに40%速くなった。カメラもiPhone 7と同じものになり、性能は十分だ。道具としての完成度はかなりのレベルになってきた。

新iPad ProのCPUは「A10X Fusion」
新iPad ProのカメラはiPhone 7とほぼ同等に

 一方で、こうした進化を冷ややかに見ている人もいるのではないだろうか。
「しょせんタブレットはタブレット。コンテンツを見ることが中心なのに、そこまでの性能はいらない」

 こうした声は、近年のタブレット市場減速の原因とも言える。タブレット、特にiOSを使ったiPadは、PCと異なり、ファイルの処理が非常に苦手だった。出来なくはないのだが、サードパーティー製のアプリを組み合わせ、PCとはかなり異なる操作方法が必要だったため、わかりづらいし面倒くさかった。「なにかを作る道具のように使うならPCが良く、結局iPadでは仕事はできない」という評価はなかなか覆せていない。

 一方で、アップルは低価格で個人向けのコンピュータとしてiPadを主軸に置いており、低価格PCとの競合もiPadに担わせていた。この戦略は、iOSの構造の問題から、ある種の矛盾をはらんでいた、とも言える。

 だが今回、iOS11では、そうした部分に大胆なメスが入る。iOS11が「ファイル操作」を全面的に認め、ドラッグ&ドロップを含め新しい操作体系を搭載し、さらにはWindowsの「エクスプローラー」やMacの「ファインダー」にあたる「Files」というアプリも用意した。

ファイル操作の方法を大胆に改善。アプリ切り換えの高度化やドラッグ&ドロップの導入、ファイル管理アプリの追加など、改善点は多い

 この操作については、ハンズオンで撮影した動画を見ていただくのが一番わかりやすい。ちょっと複雑なのだが、わかってしまえば非常に快適で、私もすぐにも自分のiPadで使いたいくらいだ。

iOS 11での操作を動画で。写真を複数選んでドラッグ&ドロップしてメールへ添付
iOS 11での操作を動画で。アプリを切り換えつつドラッグ&ドロップする

 そもそもiPhoneは、PCと違い「ファイルを意識させないからわかりやすい」というところからスタートした。今もそれは生きており、画像管理やメッセージングなど、日常的なことではファイルを意識しない。しかし、これが事務作業やものづくりとなると、結局は「人と情報を渡し合う」ことが必要なので、なかなかファイルの概念から離れることができない。新しいOSや機器が出るたび、学習ハードルが高く日常的な整理作業が必須な「ファイル」というものを捨てよう……としてきた。だが、結局それに成功した例はなく、iOSも例外ではなかった……とも言える。

 しかし、現実問題として、ファイル処理が求められているのは間違いなく、iOS11での改良によって、iPadにおける戦略の「ねじれ」は解消に向かいそうだ。

「もっとインテリジェントなスピーカー」を狙うHomePodは「iPodの成功」を再現できるか

 そして、アップルが基調講演で最後に発表したのが、スマートスピーカーである「HomePod」だ。その特徴は本田氏の原稿に詳しく書かれているので、ここではさらっと触れるに留めておこう。

 そもそもアメリカの市場には、「リビングでストリーミング・ミュージックを聞きたい」というニーズがある。そこをカバーするのがWi-Fiスピーカーでありスマートスピーカーなのだが、こと使い勝手や音質については、さほどいいものが揃っていなかった。

 そこでアップルは、音場処理をより「インテリジェント」な方向に振り、さらにSiriによる音声エージェント機能を組み合わせることで、リビングにおける音楽体験を変えよう……としているのである。

インテリジェントな音場処理で体験を上げ、先行するスマートスピーカーと差別化する
スマートスピーカーは簡素なハードウエアを使う場合が多いのだが、HomePodはハイスペックなA8チップを搭載し、ローカルにかなりの「演算力」を持つ

 その狙いは分かるが、「体験を変える」という性質上、自分で使ってみないことには他との差がわかりつらい。特にアップルは、他社製品よりも高い値付けをしており、その差は「音質」「体験」ということになる。

一方でHomePodは349ドルと、競合に比べかなり強気な価格設定だ

 だがどちらにしろ、これは「MP3プレイヤーとiPod」の関係が試金石になる。あのときも、iPodは別に「トップランナー」ではなかったし、高かった。だが、体験が良かったので一気にメジャーになり、安価で先に普及し始めていた機器を駆逐していった。HomePodが本当に素晴らしい体験を提供できるなら、そうした成功を再現する可能性もある。

 一方で、過去と異なるのは、体験を担保するものが手元の技術だけでなく、クラウドとAIに依存するようになっている……ということだ。そこで各社は戦いを繰り広げている。アップルがその中でどのくらいの差別化ができるのか。

 未来は間違いなくこの方向にあるが、そこでなにができたのかは、やはり実物を体験するまでコメントを保留しておきたいと思う。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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