西田宗千佳のRandomTracking
新iPad Proの進化、MacでVR、Siriスマートスピーカー「HomePod」を体験
2017年6月6日 12:02
アップルは6月5日(現地時間)より、米カリフォルニア州サンノゼにて、年次開発者会議「WWDC 2017」を開催中だ。基調講演では、Siri対応のスマートスピーカー「HomePod」や新iPad ProやiMac Pro、iOS 11など多岐にわたる発表が行なわれたが、まずは基調講演後のハンズオンイベントのレポートからお伝えしよう。
HomePodは「音なし」展示
AVファン的に一番の注目は、アップルの手によるスマートスピーカーである「HomePod」だろう。残念ながら、ハンズオンイベントでも外観が展示されたのみで、実際に音を聞くことはできなかった。インテリジェントな音場調整や音声認識など「体験」が差別化点の製品なので、この段階では本質がわかりづらい。だが、外観のイメージはよくわかった。
HomePodは、意外なほど小さい。手を広げたくらいで、コンパクトスピーカーとしては標準的なサイズである。メッシュに覆われ、上面にはアップルの音声認識AI「Siri」を思わせるLEDによるライティングがあった。電源と思われるケーブルが一本出ていたが、目立ったのはそのくらいだ。他のスマートスピーカー以上にシンプルな形状である。このメッシュの奥に、7つのビームフォーミングアレイやA8チップなどが隠れているわけだが、その機能については、また別途の機会にお伝えしたい。
MacもついにVR対応へ
今回アップルはMac・iPadともにラインナップを一新している。このうちMacBook系については、主にプロセッサーをKaby Lakeこと第7世代Core iシリーズに置き換えることが中心で、さほど大きな変化ではない。iMacについてはグラフィックを強化し、21インチモデルの上位機種と27インチモデルにて、外付けGPUとしてAMD Radeon Pro570、575、580を搭載した。
次期macOSである「macOS High Sierra」ではVR対応が決まっており、その結果、新iMacはMacとしては初めて、単体でVRに対応する機器となった。そのためハンズオン会場でも、HMDを使ったVRデモが行なわれていた。HMDとしてはHTC Viveを使っており、品質も、筆者の見たところ、Windows PC系のそれと大差ない。
また、macOS High Sierraでは、Thunderbolt3経由での外付けグラフィックに対応する。展示されていた開発キットはSonnet製のThunderbolt3対応の外付けGPUボックスを使ったもので、GPUとしてはAMD Radeon RX580を使っている。これ以外の組み合わせについてどうなるか、現地でも今は詳しい情報が得られなかった。
また、アップルの動画編集ソフト「Final Cut Pro」は360動画の制作ワークフローに対応し、このキット+HTC Viveを使い、HMDでプレビューしつつ制作できる。
年末にはMac Proの実質的な後継として、黒くパワフルなiMacとなる「iMac Pro」が登場することがアナウンスされたが、ハンズオン会場にも展示されていた。ただ展示されていたのみで触れたわけではないため、使い勝手など、詳しいところはわからない。
新iPad ProはiOS 11とセットで価値拡大。PCに近づくiOS
今回、ハードウエアの発表として一番の注目は、新しいiPad Proだろう。10.5インチと12.9インチの2サイズ展開となる。ハンズオン会場にあったiPad Proには、すべて次期iOSとなる「iOS 11」が搭載されていたので、その機能も含めてご紹介したい。
10.5インチのiPad Proは、既存の9.7インチモデルとさほど変わらないサイズながら、ディスプレイ面積が20%拡大したのが特徴。ベゼルがかなり細くなり、ディスプレイ解像度も2,224×1,668ピクセル(従来は2,048×1,536ピクセル)に上がった。12.9インチモデルは数字上若干軽くなっているのだが、あまり大きな変化はないように思える。LTE周りのデザインが、9.7インチiPad Pro以降のものと共通になり、Apple SIMも内蔵に変わったので、実は外観以上の変化がある。
映像ではなかなか伝わらないのだが、実際に使ってみて感じたのは、「ProMotion」と呼ばれる、リフレッシュレート・120Hzによる描画の効果だ。今回ディスプレイのリフレッシュレートは、従来の60Hzから、可変式で最高120Hzに変わった。そのため、スクロールや各種トランジションが非常になめらかだ。とはいえ、ずっと120Hzで駆動するとバッテリー消費が増えるため、スクロールを止めると同時にリフレッシュレートを24Hzに自動的に落とす、という要素も盛り込まれている。動作するリフレッシュレートはアプリの側で決められるようなので、ゲームなどではリフレッシュレートを上げ、電子書籍などでは下げる……ということもできそうだ。
そして、使い勝手の面で大きな変化となるのが、iOS 11で搭載される「ファイルの扱い」の変更だ。これまでiOSはファイルを意識しないような使い方が軸で、それはiPadでも変わらなかった。だがPC的な使い方をするとそれはちょっと面倒で、サードパーティー製のアプリをいくつも使い分けないと、PCと同じことはできなかった。できないわけではなかったのだが、操作も使い方も違うので非常にクセがあったのだ。
だがiOS 11ではそれが変わる。Macにおけるファインダー、ウィンドウズにおけるエクスプローラに相当する「Files」というアプリが増え、ドラッグ&ドロップやファイルの複数選択がサポートされるなど、大幅な機能強化の結果、PCで行なうことがほぼそのままiPadでも可能になる。どんな操作になるかは、以下の動画を見ていただくのがわかりやすいだろう。日本の担当者に、解説を加えていただきながら操作してもらった。
アップルはiPad Pro登場以降、「低価格なPCの用途はiPadで」とアピールしてきた。だが、ファイルの扱いが大きく異なるため、同じ事をする時のストレスは、PCやMacの方が小さい……というジレンマを抱えていた。iOS 11でのこうした変化は、アップルがiOSを本気で主軸OSとして使うために必要なものであり、「ようやく」の変化でもある。その背景分析などは、別記事で詳しく行ないたい。
ARプラットフォーム拡大に寄与するARKitの登場
iOS 11の機能には色々と興味深い部分が多いが、特にこれからの布石として今日深いのがAR(Augmented Reality)への対応だ。iOS 11には、OS標準のAR実現用フレームワークとして「ARKit」が搭載され、平面と環境光を認識した上で、そこにオブジェクトを合成する。iPhone・iPadに内蔵のカメラと加速度センサーを活用しており、特に別の機器が必要なわけではない。多くの機器がいきなりAR対応になり、アプリも作りやすくなるわけで、市場に与えるインパクトは大きそうだ。
動画を見ていただければ分かるが、その精度はなかなかのものだ。デモでは、スターウォーズ・エピソードIVでお馴染みのチェスゲームが使われていたが、そのまま売って欲しいくらいだ。
ちなみに、チェスゲームのデモはUnityで作られている。ARKitにはUnity・Unreal Engineなどの主要ゲームエンジンが対応を決めており、UnityはMacでのVR・iOSでのARともに、サポート関連情報が公開されている。