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東芝が「エントリー層」からBlu-rayに参入する理由

下田事業部長に聞く、「ブルーレイVARDIA」の狙い


東芝DM社 TV&ネットワーク事業部 下田乾二事業部長

 1月14日、東芝は、日本国内おけるBlu-ray Disc事業への本格参入を発表した。製品出荷も2月中旬とされており、本記事が出てから、そう遠くない時期に「東芝初のBlu-rayレコーダ/プレーヤー」が出荷されることになるだろう。

 だが、1月14日に発表された第1弾製品群が、これまで東芝のVARDIA(特にXの名を持つRDシリーズ)を熱狂的に支持してきた人々にとって納得のいく仕様のものであったか、というと、それは「否」としかいいようがない。RDの特徴といえる強力な編集機能やネットワーク機能等は搭載されておらず、スカパー! 連携/CATV連携機能も備えていない。だからこそ、「東芝のBlu-rayには失望した」という声も、各所で聞こえてきてしまう。

 では、東芝はなぜ「RD型番ではないVARDIA」をBlu-ray参入第1弾に選んだのだろうか? そして、「Xの名を持つRD」の系譜はここで途絶えてしまうのだろうか?

 東芝デジタルメディアネットワーク社で、テレビとレコーダー事業を統括する、TV&ネットワーク事業部の下田乾二事業部長に、「Blu-ray移行への真意」と「RDの今後」について聞いた。

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■ 東芝の映像事業は「テレビ中心」へ。エコポイントが「BD参入」を後押し

 思えば、東芝がHD DVD事業の「終息」を発表してから、すでに2年の時間が経過しようとしている。その間に、他社のブルーレイディスク事業は大きな成長を遂げた。インフラとして成長しきった感のあるDVDに比べれば、まだまだ小さなビジネスだ。しかし、私を含め、映像を日常的に「買う」人にとって、BDはすでにDVDよりも高いマインドシェアを持っている。

 2年の間、東芝はなにを考え、市場をどう見ていたのだろうか? 下田氏の話は、「HD DVDの時代」と「今」をつなぐところから始まった。

下田: HD DVDをやっていた時代は、極端に言えば、テレビよりもHD DVDの事業がメインになるぐらいに取り組んでいました。

 しかし、それ以降、テレビの市場全体が拡大し、テレビのビジネスが急激に伸び始めました。それにつれ、弊社のテレビビジネスもシェアを上げてきました。そんな状況で、東芝の映像事業の中心が、DVD関連の商品からテレビに移っていった、と言えます。元々金額的にはテレビの方が大きかったのですが。事業の比重の山が置き換わったような感じ、といえるでしょうか。

 その中でのDVD関連の事業は、単独でももちろん事業として成立するのですが、東芝として「両方を攻める」のかというと……。HD DVDに関する世間の雰囲気もあり、ちょっと比重としては落ちたのは事実です。もちろん、日本のDVD関連事業といううのは規模的にも社内的にも大きいんです。しかし、ワールドワイドで見ると、やっぱりテレビの方が大きい。「高画質なレグザ」という評価が伸びたこともあり、事業全体の今後を考えた時、このまま伸ばしていくにはどうしたらいいか……ということを検討する必要がありました。

 一方、テレビを売る時に、お客様の声として「テレビを買う時にBDも一緒に欲しい」という声があります。テレビを「高画質」で訴求して売っている以上、高画質のコンテンツを再生できないDVDしかない、というのは厳しい。

 そのような声が、まず海外で不満、特にお店からのクレームという形で挙がり、営業としても、東芝のテレビの横に他社のプレーヤーが置かれるのはいかがなものか、という声が出ていました。ですから、まずは海外から、再生機器としてもっとも高画質な規格として、BDプレーヤーへの取り組みを始めたのです。

 とはいえ、今回の主題は「国内ビジネス」だ。国内向けのBDビジネス展開は、どのような発想から生まれたものなのだろうか?

下田: 日本では、レコーダーにおけるBDの構成比が60%くらいまで上がってきていました。こんなに高い市場は世界で日本だけですが、日本の色々なお店と話をしても、HD DVDを止めた頃でも、「(BDへの参入を)考えてもいいんじゃないのか」というお声はいただいていました。

 とはいえ、日本では「再生」といってもレンタルが中心で、BDをどこまでやらねばいけないのかがわかりませんでした。ですので「検討はしていますが……」という状態が続いていたのです。

 そんな状況を変える出来事があった。それが「エコポイント」の導入だ。

下田: エコポイントの導入によって、「テレビを買うと同時にBDレコーダも」というお話が増えてきました。要は、テレビを購入した際のエコポイントと店頭ポイントで、BDを買う、という流れですね。そういう比率が高まってきた中で、テレビは順調に売上が伸びるんだけれど、それを(レコーダ事業は)生かし切れていない、というところがありました。

 やはり日本でも、テレビの画質を謳う以上はソースとしてBDが必要だ、という形になってきたのです。

 すなわち「REGZAの人気」と「エコポイント」が、最終的に東芝をBD参入へと決断させたのである。

 


■ 無視できない大きさの「初心者層」。拙速な「RD投入」はむしろブランドを傷つける?!

 ここでやはり、一番気になっていることを聞かなくてはならないだろう。「VARDIAは、第1世代商品のようなBDレコーダでいいのか?」という点だ。

 詳しくは発表会記事を参照していただきたいが、第1世代製品は、これまでのVARDIA、正確にいえば「RD」から始まる型番を持つシリーズが持っていた、高度な編集機能やダビング機能、EPGを生かした自動録画といった部分を持ち合わせていない。ごくごくシンプルな「BDプレーヤー/レコーダ」であり、VARDIAシリーズのファンが待ち望んだ内容の製品とは言い難い。厳しい言い方をするなら「VARDIAのブランドで出すのは、ブランド価値の毀損につながるのではないか」とも感じる。

 第1世代製品が旧来のVARDIAを踏襲したものでなく、同じ価値を持っているわけでない、という点は、下田氏も認める。だがそれには、東芝側なりの理由がある。

下田: これまでのVARDIAというのは、編集機能のようにマニアックな部分と、非常に使い安いという部分の両方で評判をいただいていました。ユーザーの方だけでなく、お店の中にもファンがいらしたことが大きかったでしょう。評価された部分というのは、DVDとかBDとかは関係なく発展させてきたつもりです。

 ですがある時期から、「その方向性を追いかけていっても数が伸びない」という現象が起きてきました。ブランドイメージとは別に、市場でのプレーヤー(メーカー)が増え、価格競争も激しい中では、シェアを獲得するのが難しい市場になってきています。そこは、BDをやっているから、やっていないから、というお話ではない。そんな中で「より良いもの」というのがわかりにくくなっていました。

 そんな市場に大きな影響を与えた、と下田氏が指摘するのが「HDMI CEC」。テレビとレコーダの「リンク機能」である。現在の市場で「テレビと同じメーカーのレコーダーが売れる」のも、リンク機能による分かりやすさを訴求した結果だ。

下田: 逆に言えば、(レコーダの分かりやすさよりも)HDMI CECのもたらしたものに“満足”されているお客様が増えてきた、ということもいえます。

 弊社は(BDレコーダがないので)違いましたけれど、他社が元々CECを使った戦略で顧客の囲い込みをしはじめましたよね? そういうところが、「セットの方がいい」と受け止められている理由だろうと思います。それが、日本国内だけを言えば、BDを始めることになった「第二の理由」といえるでしょう。

 すなわち、「エコポイント+αで買える」「HDMIリンクでテレビと連動して使える」ことが、現在、テレビ市場と連携して映像機器市場を広げていくために必要なものだった、ということである。

 機能も抑えめだが価格も抑えめ、でもHDMIリンクはきちんと自社のテレビに合わせてチューニングし、「BDで得られる画質・音質の価値」は提供できるようにする……。そういう目で見ると、東芝の「BD第1世代商品」というのは、明確にその種の市場を狙って作られていることが分かる。

下田: ですから、今回の新製品は、「マニア層」ではなく、エントリー層を意識しているものです。逆にいえば、編集やダビングなどにこだわりをお持ちのお客様は、テレビとの組み合わせ、メーカーの違いというのはあまり気にされないと思っています。ですが、テレビと一緒に購入される方は違う。

 そしてもう一つ、下田氏は「いまこのような製品をいち早く投入しなければいけない理由」を、また別の形で説明する。

下田: 「シェア」がないと、市場でのポジショニングがとれないんです。別の言い方をすれば、店頭できちんとテレビと一緒に並べて訴求していただく場所を用意していただけない、ということです。せっかくいい商品でも、売れていないと、地位や価値が安く、低く見られてしまいます。

 シェアが高い商品というのは、どうしても価格が安く、お手頃な商品です。そういったところを戦略的に獲りたい。そういった意識は多分にあります。

VHS一体型BD/HDDレコーダの「D-BW1005K」

 ただし、単純に安くするだけではいけない。例えば、VHS一体型の商品を用意しているのもそのためですし、BDレコーダにアナログチューナを搭載しているのもそのためです。単純に安くするだけなら、デジタルチューナだけにした方が当然有利です。しかし、我々が狙う、『これからご購入される』お客様というのは、そういった機能を必要とされているお客様なのです。

 すなわち、第1世代商品は、まさに「価格」と「テレビのシェア」を背景に数を取りに行く商品であり、まずはこのような形で出すことが、東芝としての「戦略判断」であったということである。「リンクする商品がない」ことによるハンデでシェアを失う前に勝負するには、なによりいち早く商品を投入することが必要であった、という事情も見えてくる。


戦略商品という「32R1BDP」

 またさらに下田氏は、次のような市場の変化も指摘する。

下田: 以前は、日本といえば圧倒的に「レコーダ」の市場でした。現在もそれは変わっていないのですが、以前よりも「プレーヤー」を求める声が大きくなっているのも事実です。

 例えば今回、REGZAにBDプレーヤーを組みこんだ商品を用意しているのですが、これの評価が思った以上に高い。機能を見ると「BDへの録画ができない」という点がマイナスなのですが、そこはさほど問題視されていません。我々が狙ったのは、「個室で見られる」という用途です。録画は従来通りハードディスクを使い、BDの映像はきちんと見られる。そういった部分が評価されているのでしょう。

 ですから実は、BDレコーダ以上に、あの製品が「戦略製品」だったのです。

BDプレーヤー内蔵液晶テレビ「32R1BDP」 側面にBDプレーヤーを内蔵している 単体BDプレーヤー「SD-BD1K」も発売

 では、そういった「戦略商品」の型番が「RD」でなかったのはなぜだろう?

下田: RDシリーズ、その中でも特にX系は、「全部そろえているよ」とか、「全部ではないけれど何機種も持っている」という、熱心なお客様がいらっしゃる製品です。

 だとすれば、やはり「X」に見合った製品をご提供するためには、我々も「BDならではのなにか」というものを、本当に入れられるのか、といったことを考える時間が必要です。

 2009年8月にBDAに加盟しましたが、そこから勉強し、開発してきました。ただ、他のメーカーがその前に何年もかけて努力されています。その中で、「(DVDレコーダと)似ているとはいっても違うもの」を理解し、差異化していくかということが重要で、単にベースの性能を良くするだけで済むのか、というと違うでしょう。

 やはり、「求められているものの違い」はあると思っています。逆にいえば、RDやXの名だけを持つものを拙速に出す方が失望感は大きいのではないか、と思うのです。

 これがおそらく、東芝の戦略からみた「第1世代商品」を選ぶ上での、もう一つの大きな理由、ということになるのだろう。

 


■ 残された時間はあと2年? 来るべきブルーレイRDに向け「大型アンケート」を実施

 とはいうものの、「RD」を望む人の多くにとって、BD第1世代商品が希望に適うものではなかった、という事実は揺るがない。また先日の会見でも、下田氏が「DVDのVARDIAで入っているような編集機能などについては今検討している」とコメントしたことから、「RDの血を引き継ぐBDレコーダはこの後出てくる」と期待はできそうだ。

 下田氏は、「さすがに新製品の出荷直前なので、次の機器がいつ、どのように出てくるのか、といったことについてののコメントは避けさせていただきたい」と苦笑する。

 他方で、「RDの血を引き継ぐBDレコーダ」の開発自身を否定することはなかった。そこにはRDから続く改善に対する反省もあるようだ。

下田: 編集機能など、当時やっていたことというのは、時代と比較すると、あまりにも早く「目指すところ」にたどり着こうとしすぎた、という意識もあります。

 我々の中には、片岡(筆者注:RDシリーズの企画者である片岡秀夫氏)をはじめとするオピニオンリーダーがいて、彼らのビジョンが開発を主導してきました。それが待ち望まれていたことではあるのですが、他方で、ある時期から「難し過ぎる」との評価もあったのも事実です。彼らはそんなつもりで作っているわけではないのですが……。

 BDを手がける中で、もう一度原点に立ち返り、「本当に望まれているのはなにか?」を考えてみよう、ということになりました。

 単純に「録って」「見て」「消す」、というものはテレビに任せ、いろんな使い方、楽しみ方の中で、なにをお客様が望まれているのか、ということを知る。それを重視しながら、自分たちが従来から持っている提案型の部分を生かしていきたい、と考えています。“提案”の部分はやっぱり、忘れるわけにはいきません。これまでのメンバーはもちろん、新たに育ってきたオピニオンリーダー達もいます。新しい提案はいくつかさせていただきたいな、と思っています。

 そこで現在、東芝のレコーダチームが検討しているのは、ウェブを使った大規模な「機能に対するアンケート調査」だ。調査は2月の中旬から下旬にかけて行われる予定で、内容は実に細かい点にまで及ぶ。取材時、筆者は検討中の質問事項の内容を見ているのだが、その詳細さ・充実度は、一言では語り尽くせないほどである。

 もちろん、それだけのアンケートに答えるのは「録画に熱気を持った」人々が中心となる。素直にそれを反映するだけではマニアックなものとなる可能性があるが、それをうまく咀嚼し、「新しいRDを作ろう」というのが、東芝開発チームの狙いである。

 現在東芝では、テレビである「REGZA」のチームと、レコーダである「VARDIA」のチームの合流準備が進んでいる。新RDが、仮に今年の「いつか」に出てくるとすれば、それはこの両チームが統合してあたる、新たな製品ということになるだろう。

 それがどうなるか、現時点では当然わからない。だが、今回行なわれるアンケートは、「新RD」を考える上で大きなチャンスになるのは間違いない。

 これは筆者からのお願いだが、RDに期待する方だけでなく、「レコーダーという文化」に期待する方は、ぜひアンケートに答えていただきたい。

 アナログ放送全盛の時代、DVDレコーダは群雄割拠で活気にあふれていた。現在は、それが固定化され、いまひとつおもしろみに欠ける。コピー制御の影響もあるだろうが、「製品バリエーションの不足」が与える影響も少なくないはずだ。

 ブルーレイ「RD」がどのような形で出てこようとも、それは各メーカーに影響を与えるはずだ。そうすれば、レコーダ市場は再び「面白い」ことになる可能性が高い。

 下田氏はインタビュー中、「このような試みは、今でなくてはできない。2年後には難しい」と本音を語った。

 2011年7月、アナログ放送は終了する。現在のテレビ・レコーダ市場は、この時期に向けての「市場の先食い」との評価もある。2011年になった時、日本という市場に向けた独自商品である「レコーダ」に、大きな開発費をかけた「試行錯誤」を許す余力はないかも知れない。このような考え方は、日本の家電業界では良く聞かれる。

 だとすれば、今年の「レコーダ」市場が生み出すものは、今後数年間の家電市場を占う上で、大きな意味を持ってくる。

 東芝がBlu-rayで苦闘する裏には、そのような「時間との競争」も見え隠れしているのである。

(2010年 2月 5日)


= 西田宗千佳 =  1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、月刊宝島、週刊朝日、週刊東洋経済、Pcfan(毎日コミュニケーションズ)、家電情報サイト「教えて!家電」(ALBELT社)などに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。

[Reported by 西田宗千佳]