西田宗千佳の
― RandomTracking

3DもW AVCも新プラットフォームで実現

~新ブルーレイDIGA開発者インタビュー その1~


左から高画質化技術担当の甲野氏、商品企画担当の前田氏、UniPhierなど先行開発担当の森本氏、省電力設計を担当した溝内氏、戦略半導体開発センター佐山氏、高音質技術担当の梅迫氏

 今春のパナソニックのAV新製品といえば、中心はやはり「3D」。その一角を支えるのが、3D対応のBlu-rayレコーダ「DIGA」や、プレーヤーの「DMP-BDT900」だ。3D対応が注目される製品だが、今春モデルについては、久々に「大きな改変」が行なわれた製品であることも、見逃せない点である。

 今回から2回に分け、新DIGA「BWTシリーズ」および「BW/BR*80シリーズ」(以下80系)の詳細について、同社開発陣へのインタビューをお届けする。

 初回は特に、新シリーズより採用となった「新プラットフォーム」の価値について見ていこう。


 


■ 新レコーダは「2D」と「3D」の2ライン

 まずは、今回の新製品のラインナップをおさらいしておきたい。これまでDIGAシリーズは、Wチューナーモデルが「BW」、シングルチューナーモデルが「BR」から始まり、末尾3桁の一桁目がグレードを、二桁目が世代を表していた。

 例えば、2009年のフラッグシップモデル「DMR-BW970」の場合、Wチューナーでフラッグシップ(900番台)、第四世代(70系)、という形である。

 その流れに沿って言えば、1月19日に発表になった4モデル(BW880、BW780、BW680、BR580)は、末尾80番台の「第五世代」という扱いになる(以下、この世代の製品を「80系」と呼ぶ)。

 その伝統が変わったのが、2月9日に発表になった3D対応の3モデルだ。型番は新たに「BWT」シリーズとなり、主にHDD搭載量の違いから、1000/2000/3000の3モデルが用意されている。このうち、BWT3000については「プレミアム」モデルとして、従来機種でいえばBW970と同様、特別な高画質化・高音質化回路を搭載した製品、という特殊な位置づけとなっている。

3D対応のフラッグシップ機「DMR-BWT3000」DMR-BW880
BWT系、BW80系(BR580を除く)で新UniPhier(ユニフィエ)を搭載BWT3000の中核プロセッサとして新UniPhierを内蔵する

 DIGAシリーズの高画質化設計を担当する、パナソニック・AVCネットワークス社 ビデオビジネスユニット 商品技術グループ 主幹技師の甲野和彦氏は、「今回の製品では、UniPhier(ユニフィエ)など開発プラットフォームの世代を新しくしています。BWTシリーズも80系も、BR580を除いて同じ新しいユニフィエを採用しています」と話す。

 何度か本連載でも触れてきたが、パナソニックのAV家電の特徴は、開発プラットフォームを自社開発の「ユニフィエ」に統一している点にある。中核となるのはもちろんLSIであり、一般にはLSIの名称としてユニフィエが使われるが、実際には、そこで動作する各種ソフトウエアコンポーネントや、各種開発環境まで含んだプロジェクト全体の名称と言った方が正確だ。2007年秋モデル以降、70系まで利用されてきたLSIは同じであったが、周辺回路やソフトウエアの大幅な改善で、2年近く最先端のBDレコーダが開発されてきた。BWT系、80系では、いよいよLSIが刷新され、名実ともに「新しい世代のDIGA」へと生まれ変わったことになる。

品番HDD容量特徴HDMI出力店頭予想価格
DMR-BWT30002TBBlu-ray 3D
2番組AVC録画
10倍長時間録画
スカパー! HD録画
230万円前後
DMR-BWT20001TB20万円前後
DMR-BWT1000750GB116万円前後


品番HDD容量デジタル

チューナ
新・番組持ち出し店頭予想価格
DMR-BW8801TB地上/BS/110度
デジタル×2
高画質モード
ワンセグ相当
16万円前後
DMR-BW780750GB14万円前後
DMR-BW680500GB12万円前後
DMR-BR580500GB地上/BS/110度
デジタル×1
ワンセグ相当10万円前後

 


■ 新ユニフィエを投入、高機能と「高速化」を両立

 では、新プラットフォームはどのような特徴を持っているのだろうか? ユニフィエのLSI設計を担当する、戦略半導体開発センター・システム第一開発グループ・特命担当・参事の佐山卓也氏は、次のように説明する。

戦略半導体開発センター システム第一開発グループ 特命担当参事 佐山卓也氏

佐山:ユニフィエの考え方そのものは、新プラットフォームでも変わっていません。3D対応も含め、コストを維持しつつ、機能を進化させる、という発想です。

 その中で、従来から大きく進化した点はいくつかあるのですが、まずはやはり「3D対応」です。MVC(ブルーレイの3Dタイトルで利用される、MPEG-4 MVCコーデック)に対応し、LとR、両方のチャンネルをデコードするにはより高い能力が必要となります。

 もうひとつはWAVC(2チャンネル同時のAVCエンコード)対応。こちらも、従来より非常に望まれていた機能で、個人的にも欲しかったものです。

 これらコーデック関係のエンジンは大きく進化しましたが、ベースとなるLSIの構造自体は従来の考え方を継承しています。その中で、CPUコアのクロックをアップしていたりと、全体的な処理速度の底上げを行なっています。それから、内部のキャッシュメモリも増やしていますね。こういった部分は、処理全体の「体感速度」アップにつながっています。操作感は「使って分かる」程度に速くなっていると、個人的にも感じています。

 あとは、メモリをDDR3対応にしていることです。民生機器ではあまりないと思うのですが。3DやW AVC録画機能に余裕を持って対応するため、(LSIの)外のメモリとのバンド幅をできるだけ広くする必要がある、との判断からです。

 それ以外の特徴としては、従来は複数LSIで対応していたUSBやEthernetなどを内蔵し、1つのLSIで対応できるようにしたこと、などが挙げられるでしょうか。

 以前から、フルHDの映像を2ストリーム同時に扱う、ということはやっていました。しかし、MVCでは+αが必要となりますので、その部分の対応をしています。とはいえ、クロックを上げすぎると消費電力も上がってしまいますので……。その辺は兼ね合いですね。今回の新ユニフィエでは、従来と同じ処理内容であれば、約2割ほど消費電力が減っています。

 PCのCPUと違い、家電用LSIは長く使われることが多い。当然ながら、今回新しく採用されたLSIも、それなりに長期に利用することを前提としたものだと考えられる。LSIの製造プロセスは「基本的なゲートサイズは前回のものと変わっていないが、処理速度と消費電力の両方を改善する工夫が盛り込まれている」(佐山氏)とのことだが、MVCやWAVCのエンコードといった、高い負荷の処理を行なえるようになった分だけ、当然LSIの性能は上がっている。

 機器側の開発を担当した、AVCネットワークス社 ビデオビジネスユニット 商品技術グループ 先行開発チーム 主幹技師の森本健嗣氏は、新しいシステムの負荷の重さを次のように解説する。

AVCネットワークス社 ビデオビジネスユニット 商品技術グループ 先行開発チーム 主幹技師 森本健嗣氏

森本:従来は、録画時のAVCエンコードは1本しか処理できませんでしたが、今回はWAVCですから、当然それだけ重くなります。

 MVCについては、AVCを基本としていながらも、やはり相当に重いコーデックです。メモリ負荷もより大きなものとなっています。AVCを2チャンネルデコードしつつ、それぞれを1フレーム毎に同期させなくてはならないので、ソフトウエア的には非常に大変なのです。この部分は、ユニフィエ内部のソフトウエアであるとか、より上位のアプリケーション層であるとか、様々なソフト開発により実現しています。

 また、本体やBD-Javaの起動速度も、はっきりと高速化しています。


AVCネットワークス社 ビデオビジネスユニット 商品技術グループ 先行開発チーム 主幹技師 甲野和彦氏

 では、BWT系と80系では、まったく同じハードウエアが使われているのだろうか? もちろん、同じではない。商品技術グループ 先行開発チーム 主幹技師の甲野和彦氏は、各モデルの違いを次のように説明する。

甲野:プラットフォームとしては、BWT系も80系も同じものを採用しています。ただし、シングルチューナのBR580だけは旧世代のユニフィエです。BWT系と80系の違いは、主に3D対応です。そのためBWT系は外部メモリが大きくなっている他、HDMIのTx(トランスミッター)が、HDMI 1.4の3D対応になっています。

 このため、同じ80系であっても、WAVC搭載の「BW680以上」と「BR580」では、商品性が大きく異なっている。詳しくは次回解説するが、新ユニフィエには「高画質化機能」も搭載されており、新モデルの特徴としてあげられている「高画質化」の多くは、新ユニフィエの機能によるものだ。そのため、80系ではあっても既存のユニフィエを使うBR580の高画質化機能は、2009年秋モデル(70系)と同等となる。そのため、「BW680のコストパーバリューが非常に良くなっている」ともいえる。

 また実は、新ユニフィエは、3D対応のBDプレイヤーである「DMP-BDT900」にも搭載されており、画質/音質面では、プレミアムモデルとして、BWT3000と遜色のないスペックが実現されている。

 これらのことから、メモリやTxなどの変更により3D対応はしているものの、元々新ユニフィエは「WAVCと3D対応」が可能なプラットフォームであり、むしろ3Dのない80系が低コスト版、と考えた方がすっきりする。

 


■ 2Dと3DでDIGAが「2ライン」である理由

 では、BWT系と80系が両立している理由はなんなのだろう?

AVCネットワークス社 ビデオビジネスユニット 商品企画グループ チームリーダーの前田将徳氏

 商品企画を担当する、AVCネットワークス社 ビデオビジネスユニット 商品企画グループ チームリーダーの前田将徳氏は、モデル構成の考え方を次のように説明する。

前田:3Dのコストはゼロではありません。ですので、どうしても価格差が生まれてしまいます。そのため、今年春に関しては2ライン持とう、ということになりました。どちらが多くなるか、という点は内部でも検討していますが、思った以上に3Dの方に(ユーザーが)来そうだ、という実感をもっている、というのが正直なところです。ご想像されているような「3Dへの一本化」についても、加速される可能性はあります。将来的にどこまで2ラインで行くかは、お客様の反応を見ながら考えていきたいと考えています。3Dの機能は対応テレビを買われた方しか使えませんので、それを将来の保証としてどれだけ評価していただけるか、という点がありますし……。

 このあたりの事情は、テレビ側とほぼ同じと考えていい。現在はテレビ+レコーダで9万円程度(テレビで7万円、レコーダで2万円)の価格差が存在するが、これはパーツ単価の積み上げというよりは、「製品化の初期段階だから十分な差別化をしたい」という意識からつけられているものであろう。3Dメガネを除くセット側のコストは量産効果の効きやすいパーツによるものがほとんどなので、現時点はともかく、そう遠くないうちに3D対応のコストはもっと下がり、2Dと3Dのラインを隔てる境目は低くなっていくだろう、と予測される。

 では、3Dに必要な機能とはなんだろう?

 コメントにあるように、BWTシリーズとDMP-BDT900では、MVCデコードなどの3D再生のための外部メモリと、HDMI 1.4の3Dで必要となるTxの変更が行なわれている。

 特に問題となるのが、Txの変更だ。この点については少々混乱もあるようなので、ここで解説をしておきたい。既報のように、ブルーレイ3Dディスクへの対応は、HDMIとしてはVer.1.4から行なわれている。だが、現行の機器の中には、HDMI 1.4対応機器でないにもかかわらず3D対応が明言されている製品がある。代表格はもちろんPlayStation 3だ。

 HDMI 1.4のうち、3D対応に関するスペックについては、主に2つの条件が必要となる。一つは、映像の伝送に必要な「帯域」。こちらは、実はHDMI 1.3の時と変わっていない。だから、こちらのために機器側を変更する必要はない。

 問題なのはもうひとつだ。3D対応をする場合には、映像送信時に3Dに対応した「Vendor Specific InfoFrame Packet」を、2フレームに最低でも1パケットを送出することが定められている。

甲野:3Dモデルに搭載したTxは、このパケットの送出に対応しています。各フレームでパケットを送出するのは、やはりハード側でやらないと負荷が大きくなる。ハードのほうが効率が良く、システムの負荷も少なくなります。

 他のプラットフォームが、Vendor Specific InfoFrame Packetをどのように扱っているかは、現時点ではわからない。だが、パナソニックが2Dモデルと3DモデルでTX-LSIを分けることを考える程度には、処理負荷が重いものであるようだ。

 また同様に、処理負荷が重いのがMVCのデコードである。現在のブルーレイレコーダは、多くの機種がフルHD/60フィールドの映像を2画面分扱う能力を持っており、3Dへの対応が容易である根拠の一つとされてきた。だが、実際には、そこまで単純ではなかったようだ。ユニフィエを新しい世代に変え、3D対応のためにメモリ容量も増やしたのは、AVC以上にデコード負荷の高いMVCを扱うために必要なもの、という判断であったという。

 これらの点を考えると、やはり相応にパワーに余裕があり、ソフト面でも工夫ができる機器でないと、既存製品をアップデートで3D対応する、というのは難しい、ということになるだろう。

 3Dという点では、もうひとつ気になることがある。それは、BWTシリーズで「3D放送の録画も対応できるのか」ということだ。

森本:現時点で3D放送の規格が確定しているわけではありませんが、スカパー! HDでの3D放送も「サイドバイサイド」と聞いていますので、基本的には大丈夫だと認識しています。

 今回の新機種では、新たにスカパー! HDのLAN経由録画に対応している。その主な理由は、「スカパー! HD利用者が増えてくる中で、パナソニックのレコーダもお客様の選択肢として提供すべきであると考えた」(前田氏)ということであるようだが、今後3D放送が増えていく中でも、当面はスカパー! HDでの放送が多くなると考えると、そこへの対応は必須のものだった、ということなのだろう。


■ DLNAに独自拡張で使いやすさを訴求

 スカパー! HD同様、ネット機能という点で強化されているのが「お部屋ジャンプリンク」だ。この機能の正体は、DLNA+DTCP-IPであり、地デジなどの著作権保護された映像をLAN経由で伝送するための技術である。

 ただし、パナソニックがDLNA+DTCP-IPを「お部屋ジャンプリンク」として訴求するのには、もちろん理由がある。独自機能を追加しているからだ。

森本:「お部屋ジャンプリンク」では、サーバー側の操作画面がネットワークを通じて、クライアント側にも送られるので、DIGAの操作画面がそのまま利用できます。ですから、操作性が統一されて使いやすくなっているのです。

前田:実はこの機能は、2009年の製品から一部導入していたんですが、どうもうまく訴求できていなくて(笑)

 この機能で操作画面を送る部分は、パナソニックの独自拡張であるため、同社の対応機器でのみ利用できる。他社製品では通常のDLNA機器として見えるため、動作に問題は発生しないという。

お部屋ジャンプリンクの画面。居間に置いてあるDIGAに別の部屋のVIERAから接続ビデオを見るか写真を見るかを選択VIERAからリビングのDIGA内の録画番組を見ているところ。わかりやすくするため、画面のデザインがDIGAの画面デザインと同じになっている

 面白いのは、プレーヤーであるDMP-BDT900とレコーダのBWTシリーズ・80系両方がきちんと対応している、ということだ。レコーダはリビングに置きたいけれど、プレイヤーはホームシアターに置きたい、といったような場合、録画番組の視聴はお部屋ジャンプリンクを使って……といった使い方も考えられるわけだ。

 ただし現状では、DIGAユーザーの中でDLNA系の機能の認知度は高くない。HDMI CECが「VIERA LINK」として認知されている点に比べれば、まだまだスタート段階といえるだろう。

前田:「お部屋ジャンプリンク」の利用ユーザー像は、いま模索中です。DIGAのネット機能利用者は、まだまだ少なく全体の20%弱というのが実態です。ただ、たくさん録画してたくさん見ていただくには時間も必要なので、こういった機能が有効だと考えています。

 今回のモデルから無線LANアダプターに対応したのも、レコーダ/プレーヤーをネットにつなぐ価値を訴求したい、という発想からだ。家電における無線LAN利用は、店頭訴求が難しいことなどから、特に日本ではなかなか進んでなかったが、「なにができるか」をはっきりと示せるようになってきた今であれば、より広がっていく可能性は高いと考えられる。


■ プラットフォームによる小型化・省電力化は「画質・音質」に通ず

AVCネットワークス社 ビデオビジネスユニット 商品技術グループ 主任技師の溝内弘人氏

 もうひとつ、DIGAが「ユニフィエ」というプラットフォームで開発されているメリットとして同社が挙げるのが、「小型化」と「省電力化」だ。省電力化技術の開発を担当する、AVCネットワークス社 ビデオビジネスユニット 商品技術グループ 主任技師の溝内弘人氏は、「前のプラットフォームではできなかったことを、新プラットフォームでは盛り込んでいくことができました」と語る。

 レコーダにおいてユニフィエを採用したのは、AVCによるエンコードを採用した「DMR-BW900(2007年11月発売)」からだが、機能が追加されているにもかかわらず、本体サイズはどんどん小さく、薄くなっている。


シングルチューナモデルのサイズ比較(パナソニック提供)プレミアムモデルモデルのサイズ比較(パナソニック提供)

溝内:今回、3D対応になっているにも関わらず、サイズはほとんど変わっていない、という点に注目してください。80系についてはより小さくなっています。

 これにあわせ、消費電力も大きく削減されている。この過程は、プラットフォームの変更による効果によるものもあるが、それ以上に「統一プラットフォーム」を活かした涙ぐましい努力による部分が大きい。

シングルチューナモデルの消費電力推移(パナソニック提供)プレミアムモデルモデルの消費電力推移(パナソニック提供)

 サイズ同様、消費電力についても下がっている。製品発売前で、年間消費電力量はまだ算出されていないが、定格消費電力は同レベル、もしくはさらに低い値に抑えられているのがわかる。

溝内:実は、使わない部分の電力を細かく切ることで、消費電力を抑える工夫をしています。例えば、BDを再生している最中は、チューナはほとんど電源が切れています。アナログチューナなどは、アナログ放送を利用していなければ、購入以来一度も電源が入らない……ということもあるはずです(笑)。これ以外にも様々な工夫をしていますが、これは自社で開発したプラットフォームを知り尽くしたハード/ソフトウェア技術者が省エネにもこだわってユニフィエを徹底活用することで実現しています。多種多様なLSIやパーツを組み合わせて使っていると、きめ細かな電力制御をするのが難しくなります。

 ただし溝内氏は、ちょっと悔しそうにこうもつぶやく。

「それでも、3Dモデルだけは、消費電力が少し上がってしまったんですが……」

 ここで思い出していただきたいのだが、BWTシリーズは、クロックやキャッシュ搭載量が進化した「新ユニフィエ」を使っている。だが、製造プロセスは変わっていないので、LSIそのものの消費電力は大きく落ちているわけではない。大幅に機能アップしながら、機器トータルでの消費電力が上がっていない、というのは、それだけでも十分にすごいことに思えるのだが、開発陣にとっては「苦渋」だったようだ。

 具体的には、3D対応モデルの中でもプレミアムモデルにあたるBWT3000のみが消費電力が上がり、BWT1000および2000が同じ消費電力となっている。その差は「HDDと高音質化回路」だ。

 実は、この「HDD」にも、これまでのDIGAでの消費電力との戦いがある。

溝内:実は「30系」より、HDDメーカー側に、HDDの回転数を7,200回転から5,400回転へと、特別にスペックを落としていただいているんです。そうすると、振動も騒音も減りますし、消費電力も減ります。非常にAV向けとしては理想的なHDDができあがった、と思います。

我々はHDDメーカーに一生懸命説明したのですが、「パフォーマンスが下がるのに、なぜ回転数を下げる必要があるのか?」を納得していただくのが大変でした。「時代に逆行することにならないか?」と言われましたが、AVにとっては良いことずくめだ、と説得しました。

 ただし「画質」「音質」にこだわる人は、他方でこうも思うのではないだろうか。「ハイエンドモデル・プレミアムモデルでは、小ささや消費電力はあまり関係ないのでは?」

 だが、甲野氏はそれを否定する。

甲野:現在、我々の考え方は「シンプル・スマート・サイレント」の3Sです。これを追求することが、結果的には画質・音質にも生きてきます。エコとクオリティは両立するんです。この考え方は、前モデルの「BW970」より採用したものですが、今回も考え方は変えていません。

 では、どのような高画質化・高音質化が行なわれたのか? その点については、次回詳しく見ていくことにしよう。

(2010年 3月 5日)


= 西田宗千佳 = 1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、月刊宝島、週刊朝日、週刊東洋経済、Pcfan(毎日コミュニケーションズ)、家電情報サイト「教えて!家電」(ALBELT社)などに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。

[Reported by 西田宗千佳]