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西田宗千佳の
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WWDC 2010 基調講演詳報。“最薄”iPhone 4を発表

「iPhone OS」から「iOS」へ、アップルのシフト鮮明に


会場のMoscone West Center。新iPhoneとその開発情報を求め、多数のデベロッパーが来場。プレスの数も過去最高

 今年も、アメリカ・サンフランシスコにて開かれている、米Appleの開発者会議「World Wide Developer's Confrence(WWDC) 2010」の基調講演詳報をお伝えする。

 事前に情報漏洩があったこともあってか、今年は特に「次期iPhone」に対する期待が高まっていた。会場となるMoscone West Centerの周囲に見えるのも、iPhone用アプリのアイコン。WWDCもすっかり「iPhone/iPad関連の開発者会議」になったかのようなたたずまいだ。

 そして基調講演は、期待通り新型iPhone「iPhone 4」の発表に沸いた。すでに製品の概要は別記事にて報道済みだが、ここではその発表に至る流れから、アップルの戦略を読み解いてみたい。なお、基調講演開催後、プレス向けにハンズオン・セッションが設けられた。iPhone 4のファーストインプレッションなどは、そちらの記事を別途掲載予定なので、そちらをご覧いただきたい。


 


■ 「2つのプラットフォーム」を強調。利益還元の厚さでデベロッパーを集めろ

 同社CEOのスティーブ・ジョブズ氏による基調講演は、まず、発売されたばかりのiPadに関する状況説明から始まった。販売台数は全世界ですでに200万台を超え、3秒に1台売れている計算になるという。

スティーブ・ジョブズCEO 参加者にまず、WWDCの状況を説明するジョブズ氏 iPadの販売台数が200万台を超え、「3秒に1台」売れていることを公表

「iPadは、ウェブやメール、コンテンツに関わる方法を変えつつある」。ジョブズ氏はそう語る。各国でのテレビニュースをつないだ映像を流し、世界中で熱狂が続く様子をアピールしながら、iPadが売れ行きだけでなく、コンテンツの販売という面で、きわめて大きな流れを生み出しつつある状況を解説した。

 中でも、大きな潮流として強調したのが、電子書籍ストア「iBookstore」の好調ぶりだ。アメリカ市場では、発売から65日で500万冊分の書籍がダウンロードされ、市場全体の22%を占めるに至った。筆者が知る限り、2010年1月まで、アメリカの電子書籍市場はアマゾンが6割・ソニーが3割を占める寡占市場だったのだが、アップルは4月のiBook Storeのスタートからたった2カ月で、「トップ2社」に迫る存在へと成長したことになる。

 リーダー「iBooks」については、ちょっとしたアップデートが用意されており、それが冒頭で公開されたのだが、その内容については後述することとしたい。

 ジョブズ氏のiPadに関する言及はここまでだ。続いては、「コンテンツ販売」の大きな軸となるアプリケーション・プラットフォームについての解説へと移った。

 その冒頭、ジョブズ氏は次のように強調した。

「最初にはっきりさせておきたいことがある。我々は2つのプラットフォームを用意している。一つはHTML5。完全にオープンで、どこの企業にもコントロールされていないものだ。そしてもう一つが『App Store』。22万5,000本以上のアプリケーションが配布されている、この惑星上で最も活発なアプリケーションストアだ」

 このように強調する理由は、もちろん、アドビの「Flash」の存在が大きい。アップルは、iPhone/iPad上でFlashをサポートせず、その理由として、モバイル機器上では処理能力・消費電力の問題があること、完全にオープンとは言えないことなどを挙げてきた

 ここで改めて、「Flashのようなことができて、しかもオープンな、スクリプトベースのプラットフォーム」としてはHTML5を推奨し、ネイティブなアプリケーションのプラットフォームとしてはApp Storeを推進する、との立場を明確にしたことになる。

App Storeでの審査状況について解説するジョブズ氏。多くのデベロッパーが持つ「不安」を払拭する狙いだろう

 続けてジョブズ氏が解説したのは、App Storeでの審査の状況だ。

「現在、週に1万5,000本のアプリケーションが審査のために登録申請される。しかも、その言語は30にものぼる。しかし、それらのアプリケーションの95%は、7日以内に審査を通過(Approve)されている。ほとんどが通過しているのだ。登録を却下する基準は主に3つある。一つは、デベロッパーの説明通り動作していない、というもの。もう一つは、プライベートなAPIを利用しているもの。プライベートなAPIを利用すると、OSのアップグレード時に問題を起こすことが多いので、我々は許可をしていない。そして最後が、バグがあってアプリがクラッシュしてしまう場合だ」

 審査状況について詳しく語るのは、デベロッパーやメディアから「審査の不透明性」について批判が集まっているからに他ならない。プラットフォームの安全性・健全性を保つために、アップルが大きな努力を払っていることは間違いなく、彼らとしては「ほとんど問題などなく、明快な技術的な条件が中心である」ことをアピールしたいのであろう。

 だが、この情報だけではまだ説明になっていないのも事実である。この件については、別途レポートの掲載を予定している。

 とはいうものの、App Storeが大きな成功を生み出しており、多くのデベロッパーが注目しているのはまぎれもない事実である。基調講演の中でも、アメリカでの映像ネット配信大手「Netflix」がiPhone用アプリを夏に無償公開すること、ソーシャル系アプリ「Farmville」も6月末から配布されること、そして、音楽ゲームとして大きな成功を見せている「Guitar Hero」のiPhone版が本日から、2.99ドルで発売されることなどが発表された。それぞれの出来がどうこうよりも、これらの「メジャーなプラットフォーム」がApp Storeでのビジネスに、大きな期待をかけている、ということが、App Storeというプラットフォームの定着を意味している。

NetflixのアプリがiPhone版にもこの夏公開。iPad版アプリは現在、アメリカ版のランキングではエンターテインメント分野でトップとなっている アメリカで人気の「ソーシャル系」ゲーム、zyngaの「Farmville」。日本で言えば「サンシャイン牧場」のようなもの。さほどクオリティは高いと思えなかったので、日本企業も同様のアプリを海外展開すれば、十分勝算があるかも?! Activisionは、家庭用ゲーム機向けで人気の音楽ゲーム「Guitar Hero」のiPhone版を本日より配布。2.99ドル。アバターをカスタマイズする「ソーシャル」な機能も持つ

 App Storeからのダウンロード数は「つい先日」(ジョブズ氏)50億ダウンロードを突破し、全デベロッパーに支払われた販売金額の累計も「10億ドル」を超えたという。

アプリケーションもついに「50億ダウンロード」に到達。アプリ配布プラットフォームとして完全に定着した デベロッパーへの支払い額が10億ドルを突破。すなわち、それだけの「アプリを買う市場」が世界に成立したということであり、デベロッパーには魅力的な数字だ

 WWDCは「開発者会議」だ。デベロッパーに対し「このプラットフォームで開発することはビジネスになる」ことを認識してもらうことが特に大切だ。App Storeで配布されるアプリの数が増えるに伴い、単価下落や売上の集中などの問題も指摘されているが、まずはなによりも「きちんと有料でアプリが販売され、しっかりとリターンがある」ことを数字でアピールするのが、同社の狙いである。もちろんそのことは、アップルの収入にも直結する。デベロッパーのへの還元額は、ユーザーの支払い額のうち70%だから、アップルはApp Storeからの売上だけで約4.3億ドルを得た計算になるのだから。 


■ 広告プラットフォーム「iAd」を7月1日からスタート

 同様に、「デベロッパーの収入」という点で注目されるのが、基調講演後半で解説された「iAd」の状況である。

 iAdは、アップルが運営するモバイル向け広告プラットフォーム。デベロッパーがアプリケーションに「枠」を組みこんでおくだけで、アップルが集めた広告が入り、しかも、アップルが得た広告の売上のうち、60%がデベロッパー側へと還元される。

iAdはバナー的な外見。だが、その内容は従来のバナー広告とは大きく異なる iAdについて解説するジョブズ氏。デベロッパーについての「広告プラットフォームとしての価値」をアピールした

「なぜiAdをはじめるのか? それは、デベロッパーに『稼いでもらう』ためだ。広告主への営業と運営は、すべてアップルが行なう。デベロッパーは、なにもしなくていい。これだけで60%のレベニューをシェアできることになる。無料で多くのアプリケーションを公開し、市場を活性化してもらいたい」。ジョブズ氏は狙いをそう語る。

 アップルはすでにiAd向けの広告営業を始めており、日産やCitiグループ、ユニリーバ、ベストバイ、ディズニーなどの大手企業からの出稿が決まっている。7月1日より運営が開始されるが、その売上額は、2010年下半期の分だけで6,000万ドルにのぼる予定だという。

「これは、2010年・アメリカのモバイル広告市場、2億5,000万ドルのうち、25%程度だ。だが、2010年下半期に限れば48%を占める。しかも、我々が営業に回った期間はたった8週間なのだ」(ジョブズ氏)

アメリカのモバイル広告市場の4分の1を、iAdはスタートから半年で占めることになる、とアップルは予想している

 iAdのデベロッパーへの還元率は、すでに述べたように60%。とすれば、それだけで3,600万ドルが、iAdに参加するデベロッパー全体の売上として還元されることになる。彼らの意欲をかきたてるには十分な金額といえる。

 iAdのデモの中で、「本当は、キーノートで見せてしまうことにためらいがあるのだけれど」というコメントとともに公開されたのが、日産の電気自動車リーフ(LEAF)の広告だ。

 iAdはリンク広告ではない。アプリ内にバナーが表示されるものの、そこをタップしてもウェブブラウザーに飛ばされることはない。アプリ上に広告がオーバーレイされる形で表示される。

 リーフの広告デモは、美しいムービーの再生後、リーフの詳細を見たり、他の車との燃費比較を見たり、といったことができるもの。一見アプリのように見えるが、その内実は「HTML5」である。PC用のウェブの世界ではFlashで構築するようなものがHTML5で実現され、しかも「各アプリ内」で見せられるのだから、広告効果も高くなるだろう、と予想される。なにより大きいのは、iAdを表示するための機能が「OSに組みこまれている」ということだ。これまで、広告の表示機能をOSに取り込んでしまった例はない。しかし、アプリ単位での組み込みでは、デベロッパー側に負担が大きく、見せ方も統一できない。広告効果と開発効率の一石二鳥を狙った構造といえる。

日産リーフを題材としたiAd広告のデモ。HTML5で記述され、インタラクティブ性に富んでいる。アンケート機能などを持たせることも可能だ

 冒頭、ジョブズ氏が「2つのプラットフォーム」として、HTML5とApp Storeを強調したのは、プラットフォーム全体のことはもちろん、iAdのようなアプローチにも関わる大きな戦略の一環なのだろう。 


■ iPhone「4」でライバル引き離し。アンテナとディスプレイに秘密あり

 次にジョブズ氏が採り上げたのは、「iPhoneのシェア」だ。先日アメリカにおいて、調査会社ガートナーグループが、Androidのシェアが2012年にはiPhoneのそれを抜くと予測した、との報道もあった。その点を意識してのものであるのは間違いない。

 現状、アメリカでトップシェアのスマートフォンはResearch in Motion(RIM)のBlackberryシリーズ。iPhoneは2位、AndroidはWindows Mobileに続き4位である。

 他方、モバイルでのウェブブラウザの利用率の調査を見ると、圧倒的にiPhoneがトップとなる。同様にウェブブラウズに強いAndroidも2位に登ってくるのだが、差はまだ大きい。ジョブズ氏としては「まだまだiPhoneは優位だ」と考えている、ということだ。

スマートフォンに関し、アメリカでの統計を紹介。iPhoneがいまだ「モバイルインターネットを利用するスマートフォン」としては優位なプラットフォームであり、ライバルに差があることを示した

 そして、その勢いを引き継いで、さらに引き離すための武器として紹介したのが次世代iPhone「iPhone 4」である。アップルは「初代iPhoneの登場以来、最大の飛躍」というキャッチフレーズで呼んでいる。

「iPhone HD」などと噂されてきたのは「iPhone 4」だった

 ジョブズ氏は「iPhone 4には、8つの特徴がある」と語り、解説を始めた。そのうち「7番目の特徴」であるiAdについてはすでに解説済みなので、残りを順に説明していきたい。

 ジョブズ氏が最初に挙げたのは「デザイン」だ。

「まったく新しく、美しいものだ。でもみんな、“見たことがある”んじゃないかな?」 半ば笑いながら写真を見せると、会場は爆笑に包まれた。もちろん、すでに「情報流出」したものと同じデザインだったからだ。

 かといって、それで新鮮さが失われたわけではない。正面から見たサイズこそほとんど同じだが、厚さは9.3mm。3GSに比べ24%薄くなり、「世界で最も薄いスマートフォン」(ジョブズ氏)になったという。

表面積はほとんど変わらないのだが、本体が9.3mmまで薄くなり、驚くほどコンパクトな印象に変わった

 新たに「自分撮り」用のフロントカメラと、メインカメラ用のLEDフラッシュが内蔵され、カメラ周りの機能は大幅に強化された。本体のディテールを見せつつ、ジョブズ氏は次のように話しはじめた。

「もうさんざん聞かれたことなんだが……。ベゼルに“継ぎ目”があるのはアップルらしくない、と言われる。しかも3カ所に。でも、それにはきちんとした理由があるんだ」

 そういってジョブズ氏が示したのは、ベゼル部が、そのまま「アンテナ」になっているという構造の詳細である。通信機器の命はアンテナだ。デザインをスポイルしないようにアンテナを組みこむと、アンテナ自体が小さなものになってしまい、受信効率の問題が出る。また、高級感のある金属のボディは、アンテナが電波を受信する際の障害となりやすい。

不自然に見えるベゼルの「継ぎ目」は、各パーツをアンテナとして使うための仕組みだった。ベゼルは全体で3パーツに分割可能
 だが、露出しているベゼルそのものをアンテナとして使えれば、高級感の演出と受信効率の向上、両方を狙うことが可能となる。受信効率がどのくらい変化したか、については言及していない。だが、ボディの強度と美観、そして受信効率の3点を向上させるために、アップルが巧妙な設計を施したことは間違いない。

 2つめのポイントが「ディスプレイ」だ。ジョブズ氏はiPhone 4のディスプレイを「Retina(網膜)display」とよんだ。網膜ディスプレイとはなんともサイバーというか士郎正宗的な響きだが、実のところ、単なるIPS液晶ディプレイで、その示すところは「高解像度」ということだ。

「Retina displayは、従来の4倍のピクセルを持っている。ということはすなわち、それだけなめらかな表示が可能、ということだ。Retina displayは326ppi(pixel per inch)。人間の網膜の認識は300ppiが限界と言われているので、それを超えている計算になる。だから我々は、この美しいIPS液晶ディスプレイを『Retina display』と名付けたのだ」

「Retina(レティーナ) display」を発表するジョブズ氏。 Retina displayの考え方。要は「解像度が高いとエッジがなめらかになる」という基本的なことだが、解像度が高いと別の価値を持ってくる

 Retina displayは、3.5インチ/960×640ドット。この数字だけを見れば、日本の携帯電話を知る人なら、さほど驚かないだろう。

 しかし、実際の表示は違う。フォントや画像の表示がとにかく美しく、単純に解像度がより高いディスプレイよりも「上」と感じる。くわしい感想は実機ハンズオン記事に譲るが、プレゼンを見た段階ですら、「ジャギーやドット」とは無縁の、印刷物に近い印象を受けた。この「ドットを感じにくいなめらかさ」が、「Retina」と命名された理由なのである。

この画像は、ぜひ拡大してチェックを(拡大画像は横1,920ドット)。左は3GSの、右はiPhone 4のRetinaで表示された画面。よく見ると解像感がまったく異なり、Retinaではジャギーがほとんど感じられない

 なお、iPhone 4では、OS側がRetina displayに合わせてアプリ側の描画を行うため、既存のiPhoneアプリの解像度も向上する。このあたりは、単純に2倍に拡大していたiPadとは異なるアプローチ。OSのバージョンアップによる効果、と考えて良さそうだ。 


■ 「小ささ」をバッテリー容量に?! ジャイロ搭載、API整備でアプリの可能性が広がる

A4について解説するジョブズ氏。iPhoneの基本的なスペックについては、無線LANが11n対応になり、3GのベースバンドチップがHSUPA対応になったことをのぞけば大きな変化はない。だが、画質も含め、体感性能はまったく異なる

 3つめの秘密が「中身」だ。iPhone 4は、iPad同様、プロセッサーに「Apple A4」を利用する。ただしiPadと違い、クロック周波数は未公表だ。

 ジョブズ氏は、A4を採用した理由について、速度などについても言及しつつ、iPadとはまた別のアプローチで解説を行なった。そこで見せたのは、同社としては珍しく、基板レイアウトを含めた「内部構造」だった。

「A4はパワフルでありながら、とても小さなチップだ。iPhone 4では、SIMカードもMicro SIMにした。3Gの通信モジュールも非常に小さなものだ。そうすると、本体内部のもっとも大きなコンポーネントはバッテリになる。A4は消費電力がとても小さなチップだが、バッテリー容量が大きくなったこともあり、バッテリライフがとても長くなった」

 ジョブズ氏はそう説明する。

 実のところ、どんなに消費電力の小さなLSIを使っても、バッテリ持続時間の伸びは限られる。シンプルな解決策は1つ。できる限り容量が多いバッテリを搭載することだ。iPadが長時間動作するのも、本体内部の大部分をバッテリが覆っているからだ。iPhone 4でも同じアプローチにより、iPhoneでは特に不満が集まりやすかった「バッテリ動作時間」にメスを入れたのである。

 A4というチップの特徴は、独自開発による効率の良さもさることながら、実装面積の小型化によるバッテリ実装面積の拡大が計れる、という点にあるのだろう。LSIが小さいということは、それだけ生産コストの面でもプラスに働くため、PCなどに比べ低価格なモバイル機器ではさらに有利だ。

 iPhone 4のバッテリ持続時間は、3Gでの通話時が7時間、3Gでのウェブブラウズ時が6時間。ビデオ再生は10時間、音楽再生は40時間。待ち受け状態では300時間となっている。待ち受け時間こそ変わっていないが、その他は1、2時間ずつ伸びている。日本メーカーの作る携帯電話との差がかなり小さくなり、不満が出にくくなっていると予想される。

iPhone 4の内部構造。A4やMicro SIMの領域はおどろくほど小さく、ほとんどがバッテリーで占められていることがわかる バッテリー持続時間の一覧。待ち受け時間は変わっていないが、通信・通話の実質的な時間は長くなったので、はっきり変化を体感できる可能性が高い

 4つめのポイントが「ジャイロスコープ」だ。なによりもまず、プレゼン中のデモのムービーをみていただきたい。これは、ジョブズ氏がiPhone 4を使い、ジャイロを使ったゲームのデモを行なった際の映像だ。積み木を抜いていくおなじみのゲームをシミュレートしたものだが、体を回すと映像の向きも変わり、それが操作となっている。

【ジャイロセンサーのデモ】
ジョブズ氏によるジャイロセンサーのデモ。体の方向を動かすと、それに追従して画面が動くようになっている
ジャイロや加速度など、iPhoneに内蔵された各種「外界認識用センサー」は、CoreMotion APIで統合的に扱われ、アプリで自由に使えるようになる

 従来iPhoneには重力・加速度センサーが入っていた。だがそれだけでは「位置把握」が難しい。iPhone 4には3軸のジャイロセンサーが入ったため、微細な位置変化を取得できるようになる。

「CoreMotion APIを新たに用意し、デベロッパーが活用できるようにする」とジョブズ氏は語る。

 これはきわめて重要なことだ。日本の携帯電話にもジャイロを搭載したものはあるのだが、デベロッパーへの情報開示が進まず、特定のメーカーが端末内のアプリに利用するに止まっていた。携帯電話は「外界とのインターフェース」がとても大切な製品である。従来の重力・加速度だけでなく、ジャイロによる情報の入力が行なえるようになると、ソフトやサービスの可能性は飛躍的に高まる。

 だが日本ではゲームくらいにか使われず、実質的に「死蔵」されていた。ゲームのデモとして表現されたが、その可能性はゲームにとどまらない。例えば、GPSの補助に利用すれば、ナビの精度を飛躍的に高められる。アップルがこれらの「モーション系API」を規定するならば、アップルはこの分野で一歩も二歩も先に出ることになるわけだ。


■ 「裏面照射採用」でカメラの性能が大幅向上。iMovieで「モバイル編集」も

 5つめのポイントは「カメラ」だ。すでに述べたように、iPhone 4では自分撮りのフロントカメラが追加されるなど、カメラ関連の強化が行われている。

 中でもまず、ジョブズ氏が強調したのは「クオリティアップ」だ。

「iPhone 4では、500万画素の裏面照射型センサーを採用している。しかし、携帯電話のデジカメにピクセルは重要ではない。大切なのは写真の品質だ。携帯電話のカメラは、レンズもセンサーもとても小さく、光が入りづらい。3GSでは300万画素、iPhone 4では500万画素と増えているが、センサーの1画素あたりでの面積は変わっていない。すなわち、よりクオリティが上がるのだ」

 利用しているのは、1.75μmクラスのセンサーであるという。裏面照射型のCMOSというとソニーの印象が強く、事実ソニーはこのクラスの携帯電話向けセンサーを量産しているが、どのメーカーのセンサーが採用されているか、言及はなかった。また、ソニー以外にも同クラスのセンサーを生産している企業はあるので、現状は「光量不足に強くなったと考えられる」ことだけが事実と考えた方が良い。実際、サンプル写真のクオリティは、これまでのiPhone内蔵カメラよりかなり上がっている。

カメラ機能の詳細。解像度は500万画素と「並」に見えるが、裏面照射型CMOSやLEDフラッシュの効果により、3GSに比べると大きな進歩が見られる iPhone 4での写真。クオリティはかなり高くなっており、解像度の上がったディスプレイに映えそうだ

 また、動画面も強化された。720p/30fpsによる撮影が可能になったのだ。昨年発売された「iPhone 3GS」より、動画の簡易編集やメール/MMSでの送信などにも対応しているが、その機能はもちろん健在だ。

 そこでさらに発表されたのが「iMovie for iPhone」である。開発を担当し、基調講演でデモを行なったのは、アップルでビデオ関連ソフトを長年手がけている、ビデオアプリケーション関連のチーフアーキテクトである、ランディ・ウビリオス氏だ。

iMovieを発表するジョブズ氏。アイコンもMac版と同じデザインを踏襲している デモを行なったのは、ビデオアプリケーション関連のチーフアーキテクトである、ランディ・ウビリオス氏。操作は指に特化しているものの、機能はかなり本格的である。

「iMovie for iPhoneは、iPhoneのために一から開発したアプリ。iMovieの持つ基本的なビデオ編集機能を備え、720pのHDビデオとしての書き出しもできる」とウビリオス氏は解説する。

 確かに、iMovieの持つジオタグ連携やトランジション機能などの多くが引き継がれており、iPhoneで撮影した映像がそのまま、その場で編集できるようになっていた。

 iMovie for iPhoneは、iPadにおける「iWorks 2010」と同じような位置づけのアプリになるようだ。すなわち、アップルが作った「そのハードを生かす象徴的アプリ」といえるだろう。動作状況などはハンズオン記事に譲るが、「携帯の中で動いているとは思えない」ほど高機能で、魅力的なものだった。ちなみに価格は4.99ドルと、かなり安い。 


■ OS名称は「iOS」へ。家電本格進出ののろしか

 実は6つめのポイントを解説する前に、ジョブズ氏よりお願いがあった。

「みんな、Mifiなどの無線LANルータや無線LANカードを止めてもらえないだろうか。この会場には175もの無線LAN機器があるようだ。デモが今後もうまく行かない可能性があるので、協力してもらいたい。ノートパソコンが動いていたら、ちょっと床に置いてほしい」

 ポイントその4、ディスプレイに関するデモの最中、無線LANが不通になり、iPhone 4側の通信ができない、というトラブルがあった。いまやみんなが通信を欲しており、キーノート参加者の多くが、iPadやiPhone、PCを使いながら聞いている。中には、常にTwitterにつぶやいている人もいただろう。だがさすがに、5,000人近い聴衆が同時に無線LANを利用していると、輻輳が起きてデモにも支障が起きてしまう。

デモのために無線LANを切ってくれたことへ、聴衆に対し礼で答えるジョブズ氏

 拍手とともに皆が無線LANを切り、デモがスタートすると、ポイント6のデモは問題なく進んだ。ジョブズ氏は壇上から一礼、また会場からは歓声が上がった。ひょっとすると今後は、「会見中は通信完全禁止」もあり得るかな、と感じたヒトコマだ。

 さて、話題を元に戻そう。ポイント6は「OS」だ。ご存じのように、次期iPhone向けOS「iPhone OS 4」は、すでに4月に開かれた会見にて概要が発表されている。今回のキーノートも、それを踏まえての発表が多い。

「さて、iPhone OS 4だけれど、iPadやiPod touchにも使われているから、“Phone”というのもおかしい。だから“Phone”を取ることにした。OSの名前は”iOS 4"になる。ついでに、ロゴデザインもクロームにしてみたよ(笑)」

iOS4の新ロゴ。「Phone」がはずれ、白からクロームのカラーリングに変更になっている

 現状の追認といえばそれまでだが、これはとても大きな意味を持つ。アップルはこれまでにも、「iPhone OSはiPhoneのためだけのものではない」とコメントしてきた。これにより、名実ともに「Macというパソコン以外」の広い家電機器に使えるOSとして、デベロッパーにお披露目したことになるのだ。

 メーカー名は伏せさせていただくが、実は、WWDCの会場にて、幾人かの「携帯電話とは関わりのない」家電メーカー関係者の姿を見かけている。なにかか決まったわけではないし、それ以上の情報をつかんでいないので、深読みは危険だ。だが単純に「アップルの状況を学ぶために来ている」としても、それだけ「家電向けOS・プラットフォーム」として、iOSが注目されている証拠といえるのではないだろうか。

 逆に、結論から言ってしまうと、基調講演にて、Mac関連の情報は一切言及されなかった。昨年のWWDCで「Mac OS X Snow Leopard」の情報が公開されたことを思うと、大きな差といえる。ただ、このことが「アップルのMac離れ・iOS注力」を示す、と言ってしまうのは乱暴で、単にメッセージをぶらすことを嫌っただけ、と考える方が良い。だが、「今デベロッパーが望むのはiOSがらみの話」とアップルが考えているのは間違いないだろうし、それは基調講演の内容や会場の雰囲気からも感じとれた。「もうすぐ、1億台目のiOSデバイスが出荷される」と紹介するジョブズ氏の口ぶりからも、今の同社の軸が「まずはiOS」という意識にあることが見て取れる。

 iOS 4の機能は、マルチタスクやメール機能の改善など、4月に発表されたものと大きく異なる点はない。細かな使い勝手については、ハンズオン記事をご参照いただきたい。少なくとも感じたのは、iPhoneが持っていた「シングルタスク指向であるがゆえのもたつき感」が、確実に解消されているという点である。iPhone 4でのデモだったため、3GSでどのくらい速度が保てるかは不明だが、多少なりとも快適になるのは確実だ。

1億台目の「iOSデバイス」の出荷はもうすぐ。それはiPhoneか、iPadか。それとも…… iOS4での改善点一覧。全般的に動作の制限や遅さを改善する仕組みの導入が中心だが、中には「iAd」のような野心的な取り組みも

新たにBingがデフォルト選択可能な検索エンジンに。Googleとの関係を心配する向きもあるが、とりあえずは「選択肢を増やす」ことが目的であるようだ
 新しく公表された情報として見逃せないのは、検索エンジンとしてマイクロソフトの「Bing」を選択することも可能になった、ということだ。「Google、Yahooにあわせ、これで3つのサーチエンジンから選べることになる。特にマイクロソフトは、BingでHTML5を生かした実装を行なっており、興味深い」とジョブス氏は説明する。この点も、アップルおよびジョブズ氏の「HTML5への傾倒」を感じさせる。

 もう一つ意外だったのは、iBooksに新たな機能が2つ追加されたことだ。こちらはアプリでの対応なので、iOS4搭載機だけでなく、iPadも対象となる。

 一つ目の機能は、iBooksでの「PDF対応」だ。従来iBooksはePUB形式の電子書籍を見ることのみに特化していたが、「PDFを読みたいという声が大きい」(ジョブス氏)という理由から、PDFの表示に対応する。iBooksの「ページをめくる操作」などはそのままに、PDFの閲覧が可能になる。ビジネス文書だけでなく、スキャンした本を読むにも良さそうだ。


iBooksがiPhoneなどにも対応。しおりなどの「読むだけでない機能」も利用可能となり、読書環境の整備が進む

 もう一つが「メモ」「しおり」機能の強化だ。元々iBooksでは、本にマーカーで印などを入れられたが、今回よりテキストのメモを書き込めるようになった。紙の本と同じように使える、というにはまだ拙いが、「読むだけでなく、本に記録していきたい」というニーズに答えたものだろう。

 重要なのは、このメモやしおりの情報は、「デバイスをまたぐ」という点である。iTunesのIDが同じであれば、どこかで購入した電子書籍は、別のデバイスでも読める。例えば、iPadで購入した書籍は、自動的にiPhoneなどでも読めるようになる。またその際、メモ・しおりの情報は、アップルにアップロードされ、クラウドを経由して各デバイスに「同期」される。しおりについては、アマゾンがKindleで同様の機能を実現しているが、その機能をより拡張して実現したようなものである。

 なお残念ながら、iBooksの日本でのビジネススタートや、縦書きを含む日本語展開についての追加情報はない。

 iOS 4の開発者向けゴールデンマスターは、本日より公開がスタートした。一般ユーザー向けにも、6月21日より無償公開が始まる。以前はiPod touchユーザー向けには有償とされてきたが、今回より、iPhone/iPod touchユーザーのどちらもが「無償」となった。「iPod touchユーザーには喜んでもらえると思う」とジョブズ氏も笑う。個人的には、「秋」と言われるiPad向けのアップデートが待ち遠しい。 


■ テレビ電話機能「FaceTime」を本格展開。「iPhone 4」以外のデバイスにも準備中?

 七つ目の「iAd」はすでに解説済みなので省こう。

アップルキーノートおなじみの「One more Thing」。今回は新製品ではなく、新機能「FaceTime」だった

 8つめは、ジョブズおなじみの「One more thing....」だった。それまで終始立ってデモを行なっていたジョブズ氏が、やおらiPhone 4を持って、壇上端に用意されたソファに座った。なにをはじめるのか?

 聴衆がかたずを飲んで見守ると、プレゼン画面に映し出されたのは、「電話」画面。だが違うのは、中央に「フロントカメラ」で撮影されたジョブズ氏の顔が映し出されていることだ。

 この瞬間、聴衆はなにが起きているかを理解した。彼がデモしていたのは、「テレビ電話機能」なのである。

 すぐに通話はつながった。相手は、アップル・インダストリアルデザイングループ担当上級副社長のジョナサン・アイブ氏。非常に美しい映像と音声で、テレビ電話が行なわれていった。

ソファに座り、iPhone 4で通話を開始するジョブズ氏。通話は音声ではなく「テレビ電話」であり、相手はジョナサン・アイブ氏だった

 この機能は「FaceTime」と名付けられたもの。iPhone 4同士で通話を行えるのが特徴だが、いままでの「携帯のテレビ電話」と違うのは、フルIPベースのサービスだ、ということである。

「FaceTimeは、H.264やSIPなどの、業界標準技術を使って構築されている。すなわち”オープン”なサービスだ」。ジョブズ氏はそう断言した。

 フルIPベースということは、通信回線さえ維持されていればいつでも付加料金なしに通話できる、ということである。メッセンジャーやSkypeの通話と変わりない。それが携帯電話端末で、しかもハイクオリティにできるのが大きな違いだ。また、通話用の設定作業も「いっさい不要」(ジョブズ氏)だという。

FaceTimeの概要。簡単かつハイクオリティ、というのが特徴になるだろう FaceTimeは「オープンだ」と宣言するジョブズ氏。通話を抱え込むのではなく、「iPhoneがFaceTimeに一番いいデバイス」になることで、最終的に価値を出そう、という作戦だ

 ただし「2010年中」(ジョブズ氏)は無線LAN環境下でのみ利用できる。3G回線への負荷が読めず、通信事業者との合意が必要だからだろう。「今はWi-Fiのみだが、将来に向け話し合いははじめている」とジョブズ氏は説明する。合意することになれば、とてもすごいことである。携帯電話におけるテレビ電話機能では、ついに「追加料金をとれない」ことが決まってしまうのだから。

 ジョブズ氏はデモの中で、「今年中に1,000万台のFaceTime対応デバイスを出荷する」と述べた。その大半はiPhone 4だろうが、1機種で1,000万台は難しい可能性も高く、iPod touch後継機など「別のFaceTime対応デバイス」が存在している、ということなのだろう。想像をたくましくすると、「電話やモバイル機器以外」の可能性だって広がっている。

 最後に述べたのは発売日と価格だ。すでにご存じのように、iPhone 4は日本でも、6月24日から発売される。価格体系などは未発表だが、6月15日から予約開始だ。アメリカでは、8GBの3GSが下位モデルに、16GBと32GBのiPhone 4が上位モデルという扱いになるようだ。

他の「FaceTimeデバイス」に言及があることに注目。自社製品はもちろんだが、オープン化による「他社製品登場」にも期待しているのだろう アメリカでは旧機種・3GSを含めた3モデル展開になる。価格は昨年の3GS発表時とさほど変わらないので、日本での展開も同様になるか?

(2010年 6月 8日)


= 西田宗千佳 =  1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「iPad VS. キンドル日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)、「iPhone仕事術!ビジネスで役立つ74の方法」(朝日新聞出版)、「クラウドの象徴 セールスフォース」(インプレスジャパン)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)などがある。

[Reported by 西田宗千佳]