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西田宗千佳の
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「ゲーム」にこだわったPS3用3Dディスプレイ

「CECH-ZED1J」の3DとSimul Viewの秘密


ソニー・コンピュータエンタテインメント 商品企画部企画3課チーフの高橋泰生氏(左)、同 ペリフェラル事業部商品部2課課長の森田章義氏(右)

 SCEは、11月2日に、3D対応ディスプレイ「CECH-ZED1J」(以下ZED1)を発売する。この製品は、今年のE3にて発表されたもので、同社が「PlayStation 3用の周辺機器」に位置づけた個人用ディスプレイになる。

 価格は44,980円。パソコン用ディスプレイと比較するとやや高価だが、3Dテレビと比較すると安価といえる。ウリはもちろん「3D対応」だが、それだけに留まらない特徴を備えている点にも注目したい。

 今回は、発売前にこの製品をチェックしつつ、商品企画と開発の担当者に話を聞く機会を得た。SCEは、ZED1にどのような狙いを込めたのだろうか? 担当者の声から探ってみよう。取材に御対応いただいたのは、ソニー・コンピュータエンタテインメント 商品企画部企画3課チーフの高橋泰生氏と、同ペリフェラル事業部商品部2課課長の森田章義氏だ。



■ 「モニターライク」な絵作り、3D表示クロストークのなさに好感触

 まず最初に、ZED1のスペックをおさらいしておこう。

 ZED1は、テレビチューナを搭載しない「ディスプレイ」製品。24型/フルHDの液晶パネルを採用し、デザイン的にも、どことなくPSPを思わせる、いかにもプレイステーションの周辺機器、といったたたずまいの製品だ。使用しているパネルはVA型で、コントラスト比は5,000:1。バックライトはエッジ式のLEDで、下側一列だ。

 HDMI入力を2系統、コンポーネント入力を1系統搭載しており、3D表示用に3Dメガネ「CECH-ZEG1J」(別売で5,980円)を1つと、2メートルのHDMIケーブルが同梱している。

ZED1。ディスプレイ部はいわゆるグレア処理になっている。写真ではかなり反射が強く見えるが、実際に使った時にはここまで目立つものではない。24型パネルのサイドにはスピーカーが用意されている。2chではあるが、このサイズのディスプレイとしてはなかなか迫力のある音が出る 本体右側面。コンポーネントとHDMIの入力端子はこちら側にある。スタンド部は上下にチルトする機能を内蔵。奥行きはかなり薄くなっている
ZED1専用の3Dメガネ「CECH-ZEG1J」。様々な機能を搭載するため、ZED1専用設計。重量は47gで、ホールド感が良いためか、かけてみるとかなり軽く感じる

 リモコンは付属せず、各種操作は基本的に本体のボタンから行なうようになっているが、別売のPS3用Bluetoothリモコン「CECH-ZRC1J」を併用すると、内蔵の赤外線リモコン機能を使って、ZED1の操作も行なえる。CECH-ZRC1Jを発売した3月の時点でZED1の投入は決まっており、「実は最初から両方を組み合わせて使っていただくことを考えていたんです」と高橋氏は笑う。

 なにより重要なのは、画質だろう。

 2Dの画質は問題ない。短時間見た限りだが、発色も良く、十分な画質のように見える。


SCE ペリフェラル事業部商品部2課課長の森田氏

森田氏(以下敬称略):色については、あまり派手な絵作りをしない、モニターライクな感じとしました。

 ゲームは低階調を生かした画面、すなわち暗いシーンで遊ぶものが多くなっています。テレビ的な絵作りとすると、低階調な部分が黒くつぶれてしまうものもあるので、そういった部分がしっかり出るように、という配慮からです。とはいえ、ゲーム側でテレビの色温度を考慮して作っているものも多いので、その点については配慮しています。


SCE 商品企画部企画3課チーフの高橋氏

高橋:2Dでは、テレビというよりモニターに近い感じですね。輝度は公表していませんが、テレビと違い視聴距離が近いので、モニター的な輝度で楽しめるようにしています。リビングで使うという想定ではないので、ガンガンと日差しが入る中でも負けないような明るさを、というポリシーではないです。むしろそれよりは「クロストークを減らす」ように設定をしています。

 高橋氏の言葉にあるよう、ZED1はクロストーク、3Dでの二重像をできる限り減らし、「快適な3D表示を実現する」ことを狙って設計されているという。

 実際に体験してみたが、確かにその通りなのだ。

 ZED1では、液晶シャッターを使ったアクティブ型「(フレームシーケンシャル)の3D表示を採用しているが、表示品質はかなり自然だ。アクティブ型の3D表示は、解像度を高くできる一方で、3D表示時のクロストークがなかなか消えないのが難点だ。特に、低価格なディスプレイではその問題が大きい。大型の液晶テレビであっても、バックライトとフレーム生成のコントロールが高度な製品でないと、クロストークがなかなか消えない。高級機でないとなかなか満足する結果が得られない。

 だが、ZED1のクロストークのなさは、そういった状況の中でみればかなり優秀なものだ。今回は、シューティングゲームの「STAR STRIKE HD」と、レースゲーム「グランツーリスモ5」で体験したが、どちらでもクロストークはほとんど見受けられなかった。例えばSTAR STRIKE HDで上(実際には球面に添って、奥へと飛んでいくと思えば良い)に弾を撃った場合、クロストークが強いと弾の形が手前側でぶれて表示されやすくなり、位置関係を把握しづらくなるのだが、ZED1ではそういったことを感じなかった。グランツーリスモ5のようなゲームでは、クロストークは3D酔い(実は筆者はこれに弱い)の原因となりやすいが、こちらも大丈夫だった。

高橋:ZED1を企画した理由は、プライベートに利用するものでもしっかりとした3D表示ができるディスプレイを提供するためです。

 PS3は昨年の段階で、出荷しているすべてのモデルが3D対応になりましたが、ソニー全社的に3Dを盛り上げていく中では「なかなか遊んでいただける量が増えていかない」という点が問題でした。もちろん一番の問題はコンテンツが少ないこと。しかしこちらは徐々にこれはひろがっていくことが見えていました。

 問題は、3Dテレビ自体の価格が、手に届きにくいものであったということです。少なくとも、ゲーマーの方が気楽に買えるものではなかった。そこで、手に届くような価格のディスプレイを商品にし、たくさんの方に楽しんでもらいたいと考えたわけです。

 その際にターゲットとしたのが、ゲーマーの方々の手に届く価格で、プライベートユースで3Dの迫力を楽しんでいただけるサイズ。24インチならば、机の上におけて迫力が出るだろう、という想定です。

 その中で「アクティブシャッターにするか、パッシブ(筆者注:偏光式)にするか」という議論はありました。しかし、パッシブでは垂直解像度が半分になり、このサイズではボケ感も出てしまいます。せっかくフルHDの3D、という形でBDも出ているのに、解像度を半分にはしたくない。アクティブシャッターでなんとか低価格にできないか、と考えました。

森田:クロストークの軽減については、どのような液晶パネルを使うのか、という点がもっとも大きく効いてきます。今回は、240Hz駆動のものを使うのが、最も効果的であるという結論になりました。最終的には、細かな駆動パラメーターまで調整し、クロストークが出ないよう調整に調整を重ねることになりましたが。

 ゲーム向けの3Dディスプレイを、ということで、ZED1は、他のソニーグループ製3D対応テレビとは違う決断を下したところがある。それは、液晶シャッター内蔵のメガネにも偏光板を入れていることだ。

 ソニーのBRAVIAなどは、偏光板によって輝度が下がることを嫌い、偏光板を入れないメガネと組み合わせる機構を採用してきた。ソニー以外のメーカーは、テレビであっても3D用メガネに偏光板を入れている。

 しかし、ZED1とセットで使う「CECH-ZEG1J」では偏光板を入れた。ZED1側も、偏光板があることを前提とした調整がなされている。この点は、当然メガネごしでの映像の明るさに不利に働く。3Dテレビに比べるとトップ輝度が低く、光が強く入る日中の室内では不満も出そうだ。だが、この選択は「ゲーム向け」ゆえのものでもある。

高橋:ゲームでは体が動いてしまうこともあります。どこからでも色や見え方が変わらないことを重視し、偏光板を入れました。

 パッシブ方式を採用しないのもこのためです。パッシブ方式は、上下視野角に弱さがあります。よりかかると逆視がみえたりもします。どこからでも3Dで見えて、フルHDのケーパビリティを体験できる、ということを重視したのです。

 ゲーム向けという点でもう一つ、テレビやパソコン用ディスプレイとは違う判断を下した部分がある。それは「遅延」と「機能」のトレードオフだ。

森田:システム遅延は、2D表示時で1.65フレーム、3D表示時で2.5フレームです。できる限り遅延を少なくすることを重視して開発を行ないました。

 例えば、入力ソースに応じて自動的に入力や画質モードを切り替えたり、調節したりする機能は入れていません。ある意味、そこは割り切ったことになります。

 ただし、240Hz表示にはこだわりました。ディスプレイパネルのパーツとしては、その分高価になるわけですが。240Hz駆動に関しても、特別な画像補間を行なうわけではなく、単純にコマを重ね書きする方式です。遅延をできるだけ減らしつつ、3Dでのクロストークを抑えるためです。ちなみに、2D表示時には120Hz駆動となります。

 もちろん、画質モードとして「シネマ」など、一般的なものは用意してあります。自動切り替えを行わないだけですので、利用者側で切り替えていただければと思います。また、映画などの24pタイトルや、60iの入力もきちんと表示します。

高橋:商品の仕様として「PS3をつないで使ってもらう」ことを前提としています。「ゲームモードを選ばないと遅延が大きくなる」というのは逆にわかりにくいのではないか、と判断しました。デフォルトでシステム遅延ができるかぎり小さくなるようにした、ということです。

 なお、PSPを接続した際に、画面を全面にズームして楽しむ機能は搭載しています。

 このあたりの考え方は、他の製品とは大きく異なるところだろう。もちろん、HDMIで1080pの信号としてPCなどの入力を接続すれば、表示することができるが、主軸はあくまで「パーソナルスペースでのゲーム用ディスプレイ」という扱いなのだ。


■ 3Dより大変だった「サイマル・ビュー」、メガネと縦解像度のコントロールで実現

 ゲーム用ディスプレイとして、ZED1に搭載されたもう一つのユニークな機能が「サイマル・ビュー(Simul View)」である。これは、簡単にいえば「1つのディスプレイで、2つの画面を再現する」ものだ。3Dでは、右目用の映像と左目用の映像を用意し、液晶シャッターを使って切り替えることで立体感を表現する。ならば、右目用を1プレーヤー側に、左目用を2プレーヤー側にだけ見えるようにして、相互に別々の映像を見せてしまえばどうだろう?

メガネの上部には小さなボタンがあり、サイマル・ビュー利用時にここを押すと、1P用と2P用の映像が切り替わる

 1つのディスプレイで2人対戦などを、画面分割することなく再現できることになる。具体的には、3Dモードでは右・左と順に開閉を繰り返す液晶シャッターを、1プレーヤー側・2プレーヤー側のタイミングで「全開」「全閉」を繰り返すようにすればいい。

 こちらも実際に試してみたが、その効果は実に奇妙で面白いものだった。メガネをかけないと、なんとなく2つの画面が混ざり合ったような映像が見えているのだが、メガネをかけると、見事に「自分側」の映像しか見えない。

 参考として、メガネごしにみたサイマル・ビューの映像をご覧いただきたい。途中、まるで視界を切り替えたかのように映像が切り替わるが、これはPS3側で画面を切り替えたのではなく、メガネ側にある「1P・2P切り替えボタン」を押して、見える画面を切り替えたものである。途中ちょっとメガネをずらしたタイミングがあるが、そこでは「二重像」のように、1P側・2P側の映像が混ざっているのがわかるはずだ。撮影条件が良くないため、映像ではノイズ感が強く見えるが、実際に見た場合には、若干上下の解像感が落ち、薄い感じの絵になること以外、大きな違いは生まれない。気軽に「協力プレイ」「対戦プレイ」ができる機能としては、確かに画期的といえるものだ。

【サイマル・ビュー】

専用メガネを介し、サイマル・ビュー時の映像を録画。撮影条件の関係上、ノイズなどはご容赦を。普通の2D画面に見えるが、メガネ側のボタンを押すと映像が1P側・2P側で切り替わる。途中、メガネを半分くらいずらすと、メガネなしだと画像が「両方」表示されている様がわかる
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高橋:SCEがゲーム用ディスプレイを本格的に商品化するのは初めてのことです。これまでも、PS1につける小型ディスプレイなどはやっていましたが……。SCEが出すプロダクトとして、我々がこんなフィーチャーをつけると、こんな面白いことができますよ、という意味のメッセージを込めたかったのです。

森田:実際問題、クロストークの抑え込みは、3Dよりもサイマル・ビューの方が辛かったですね。こちらの場合、見えてしまってはもっと大変ですから。

 とはいえ、技術的にものすごく特別なものを入れているわけではありません。240Hz駆動はおこなっていますが、機構としてはそのくらいのものです。ただし、どこまで消せるか、どこまで消せば使えるというレベルと認識してもらえるかが問題。いまの3Dテレビで見ると、相当最適化しないと、ZED1と同等のレベルにはなってこないと思います。特にこの値段では、なかなかできるものではないかな、と思います。この製品の開発の中で最も重要なポイントとして、こだわりをもってやってきました。

 実は、クロストークを抑え込むために、サイマル・ビューモードで表示する時には、縦方向の解像度をいじっています。入力に対し、3分の2程度に落としているのです。問題になるのは、 液晶応答の物理限界をどうするか、書き込み・表示のタイミングをどうするか。そのために採ったのがこの方法です。

 今回、メガネを独自開発したのも、サイマル・ビューを実現するためでした。クロストークを抑えるには、メガネ側のシャッター開閉速度まで、我々の側でコントロールしてあげる必要がありました。また3Dメガネとして、ディスプレイ側との通信プロトコルが異なるので、そちらの変更も必要でした。実際の動作としては、PS3側からサイマル・ビューモードであることがHDMIを介してZED1に伝わり、ZED1とメガネ側で赤外線を通じてコントロールがなされる、という形です。

 このように、サイマル・ビュー実現のため、ZED1は相当な工夫がなされている。しかし、ゲーム側ではその必要はない。

森田:3Dでは、元々二視点分映像を生成していますしね。その位置を変えるだけです。元々の思想として「ゲームコンテンツ側になにも苦労させない」というものがありましたから。その分、ハード設計は大変だったんですが。

高橋:実際、デモ用でよければ1日で対応が完成してしまう程度だったようです。グランツーリスモ5の他、「Killzone 3」「STAR STRIKE HD」がパッチでサイマル・ビューに対応しますが、対応のための作業期間は非常に短いものでした。

 サイマル・ビューについては、別にZED1に閉じ込めるものではない、と考えています。とはいえ、まずはこの製品で、クロストークをいかに消すかで一生懸命でした。 メガネなどの標準化まで議論を広げているタイミングではなかったです。まずは「こういう形で実現できる」ということを示した、とお考えください。しかし、この機能は広く使っていただける方がいいのは事実ですので、今後検討していきたいと考えています。

 ZED1は、サイマル・ビューまで搭載していることで、実に「SCEらしい」ディスプレイになった。24型のディスプレイは競争の激しいジャンルではあるが、ゲーム向けにこだわるユーザーには、十分魅力的な製品になったといえる。

 次は、ぜひサイマル・ビューの仕様を公開し、広く3Dテレビにも広げていっていく準備をすすめていただきたい。この機能は、3Dとともに「ディスプレイの可能性」を広げる、すばらしい技術だと感じるからだ。もし、店頭などでサイマル・ビューをみかける機会があれば、ぜひ一度試してみていただきたい。

(2011年 10月 27日)


= 西田宗千佳 =  1971 年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う?世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ!クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(徳間書店、神尾寿氏との共著)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)などがある。

[Reported by 西田宗千佳]