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西田宗千佳の
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PS Vita発売前の最終情報を開発チームに聞く

AV機能、マルチタスク、LSI、そしてセキュリティ


左から商品企画担当の若井氏、第2事業部長の松本氏、第2事業部 ソフト開発部部長の島田氏

 PlayStation Vita(以下Vita)が発売される12月17日まで、あと少し。ゲーム機としてはもちろんのこと、「オリジナルアーキテクチャのデジタルガジェット」としても、久々に登場する注目株だ。

 本連載では、9月の東京ゲームショウで、その中身の一端に関するインタビューをお伝えしたが、まだまだ「わからない」ことはたくさんある。そこで今回は、Vitaがどのような構成の機器なのか、そして、数々の機能はどのような考え方で作られているのかを、開発・商品企画の担当者にたずねてみたい。9月のインタビューにもご登場いただいた、ソニー・コンピュータエンタテインメント SVP 兼 第2事業部長の松本吉生氏と、同 第2事業部 ソフト開発部部長の島田宗毅(むねき)氏、商品企画部 企画2課チーフ 兼 企画4課チーフ マネージャーの若井宏美氏の3名だ。

 なお、本インタビューに際しては、実機を見ながら説明をうけた部分が多いのだが、ユーザーインターフェースの最終画面など、取材中に利用した機材の撮影は許可されなかった。そのため、SCEが公開している画像を元に説明を行なう。画像とキャプションだけでは若干わかりづらくなるところがあることをご了承願いたい。


PlayStation Vita 背面

■ タッチして選ぶ、タッチして「はがす」

Vitaのホーム画面。丸いアイコンをタッチするとソフトが起動する

 まず、Vitaをどのように操作をするのか、解説してみたいと思う。

 XMBでいうところのホーム画面は「ライブエリア」という名称になる。ここには、アプリやゲームが丸い「アイコン」の形で並んでいて、それをタッチすれば呼び出せる。ここまではスマートフォンと同じような感である。

 VitaにもPSPやPS3と同じような「PSボタン」があり、ゲームからアプリへの切り替えなどにはこれを使う。だが、XMBが採用されていないVitaでは、PS3などとはちょっと使い方が異なる。

商品企画部 企画2課チーフ 兼 企画4課チーフの若井宏美氏

若井氏(以下敬称略)PSボタンをゲーム中に押した場合、「ホーム」に戻るわけではないんです。ライブエリアが表示される形になります。

島田:この時、ゲームは一瞬でフリーズした状態になります。また戻ってくれば、そのまま続きを始められます。ゲームと他のアプリの行き来は、スムーズに一瞬で行なえます。

 ライブエリアでは、ゲームやアプリが並ぶ。といってもアイコンなどになるわけではない。画面全体に「付箋」を貼ったような感じになるのだ。ここで右もしくは左にスワイプすると、アプリが切り替わっていく。素早く切り替えたい場合には、もう一度PSボタンを押す。それぞれの「付箋」的なものが一覧表示的に重なった「インデックス表示」になるので、1画面で切り替えができるようになる。アプリ・ゲームをタップすると、今度はそれらに利用するアプリが「切り替わる」、という仕組みだ。


「ライブエリア」。各ゲームやアプリが「付箋」のように、画面に張り付いているモチーフだ。右上の「耳折れ」部分を引っ張るように指を動かすと、ライブエリアが「はがれ」て、そのソフトが完全に終了する インデックス表示。いま使えるライブエリアが積み重ねられた感じになる。使いたいものを1画面で素早くピックアップするための仕組みだ

 よく見ると、画面の右には「耳」のように折れた部分がある。ここも実に付箋っぽい。この部分をさわって「はがす」ようにスワイプすると、今度は消える。いわばこれが「完全終了」にあたるわけだ。付箋をはがすようなUIを採用したのは「5インチディスプレイ+タッチという特性」(若井氏)を生かすためだ。

SCE 第2事業部 ソフト開発部部長の島田宗毅

島田:サイドメニューなどでタスク切り替えをするのでなく、フル画面でいかに切り替えるか、という意志をもって開発しました。「はがす」は要はウィンドウズにおける「×ボタン」なんですが……

若井:せっかくなので「手触り感」を重視したUIにしてみました。

 ライブエリアはゲームやアプリのローンチャーであると同時に、そのゲーム/アプリに関する情報を表示するエリアでもある。通信によって最新の情報を取得し、そこに表示する機能を備えているからこそ「ライブエリア」と名付けられているわけだ。

若井:ライブエリアには、そのゲームに関する最新情報、例えば新しいダウンロードコンテンツが出ましたとか、ネットでこのようなイベントをやっています、といった情報が表示されます。同時に、その下は「コミュニケーションゾーン」と呼ばれています。自分のフレンドがどういう風にゲームを遊んでいるかが見れます。たくさんの情報があつまった場所になっているので、終わってしまうなら「はがす」、というモチーフをつかって表現してみました。

松本:これまではUIとは別のところにあったオンラインの情報を、同じ場所にくっつけた、とお考えいただければわかりやすいかと。


■ 動画は720pまで対応、torneでのリモートプレイは解像度が向上

 ここで「起動」の対象となるのは、いわゆるゲームだけではない。本体に内蔵されたウェブブラウザーや「near」(詳しくは後述)のようなアプリケーション、さらにはTwitterクライアントに代表される、比較的規模の小さなユーティリティ的アプリケーションも含まれる。

 中でもAV Watch的に注目したいのは、いわゆる「メディアプレーヤー」機能とウェブブラウザー機能だろう。

メディアプレーヤー機能。PSP時代と同様、映像や音楽を楽しむために利用する。タッチ操作で使う Webブラウザ。Webkitベースのモダンなものに生まれ変わった。マルチタッチを生かしピンチイン・ピンチアウトも可能。日本語入力ももちろんOKなので、検索だけでなく、ウェブメールなどの利用も可能

 既報の通り、VitaのWebブラウザはWebKitベースであり、PSP時代のそれに比べ、かなりiPhoneやAndroidなどのブラウザに近くなった。筆者も実機(ソフト的にはまだ未完成なものだという)でWebブラウザを動かしてみたが、確かになかなか快適だ。メールアプリなどは組み込まれない予定だというが、このブラウザならば、ウェブメールなどもそれなりに快適に使えるだろう。

 そこでやはり気になるのは「Flash」の動向。前回のインタビューでは「ノーコメント」とされたが、その後進展はあったのだろうか?

 モバイル機器向けのFlashについては、その後アドビが「モバイル向けFlash Player」の開発を中止し、今後はHTML5に注力する、と発表している。そのため、Vita向けについても提供されないのではないか……という予測が成り立つ。

SCE SVP 兼 第2事業部長の松本氏

松本:現状では、まだ進展はないですね。

島田:アドビとは交渉を継続しています。あきらめてしまったわけではないです。

 とりあえず、Vitaは出荷段階ではFlashに対応しないのは間違いなさそうだ。その後サポートされるかどうかは、Flash Playerがモバイル環境で「結局いつまで必要とされるのか」にかかってきそうである。

 メディアプレーヤー機能は、デザイン面を見ると、ちょっとPSP/PS3を思わせるところもあるものが採用された。


メディアプレーヤーは、音楽・映像共用。「カスタム・サウンドトラック」機能に対応し、音楽を再生しつつゲームに戻れば、その音楽をBGMにしてゲームが楽しめる

島田:現状では、720pまでの映像に対応しています。1080pには対応していませんが、これはあくまで「現状」です。今後の改良によって機能が向上する可能性もあります。どちらにしろ、(Vitaのディスプレイ解像度である)縦544ドットに縮小して表示することにはなりますので、720pはリーズナブルな値かと思います。

 すでにカタログスペックにて、VitaはMPEG-4 AVC/H.264のHigh Profileまで対応することがわかっていたが、この情報で、とりあえず出荷時では「対応解像度は720pまで」ということがわかった。

 映像という点で、もう一つ気になるのが「torne連携」だ。すでにSCEは、近日中にtorneのシステムソフトウエアを「3.50」へアップデートし、Vitaと連携する機能を追加すると発表している。torneで録画した番組をVitaへ持ち出したり、PS3のリモートプレイ機能を使って宅内で楽しんだり、といったことが可能になる。その詳細はまだ発表されていないが、今回の取材中に、その一端がわかった。

若井:持ち出しについては、解像度などを落として転送する、とうかがっています。

島田:リモートプレイについては高画質化するでしょう。まず、PSPは無線LANが「IEEE 802.11b」でしたが、これが「11n」もしくは「g」になるので、帯域の面でかなり余裕が生まれますので。

 ただ、リモートプレイ向けの映像エンコードを行なうのはPS3なので、そちら側でどのくらいのことができるか、という話になりますね。

若井:とりあえずXMBとtorneは、解像度の高い状態でのリモートプレイに対応するはずです。ゲームに関しては、既存(PSPと同じ解像度)のままになります。

 とりあえずこれらの点については「PSPよりも確実にクオリティアップが見込める」と考えて良さそうだ。

 なおリモートプレイついては、一部海外メディアで「アップデートにより、すべてのPS3タイトルがVitaでのリモートプレイに対応し、プレイが可能になる」との報道があったが、どうやらこれは誤報であるようだ。

島田:従来通り、ゲーム側でAPIを利用する必要がありますから、そういうことにはなりませんね。

松本:PS3用ゲームの側で対応したものだけ、という、従来通りの形となりますから、その情報は間違いです。

 メディアプレーヤー機能には、当然音楽再生機能がある。Vitaではこの機能が、PSPやPS3よりも強化される。

若井:メディアプレーヤーで音楽を再生した状態で、ライブエリアを切り替えてゲームに戻ると、再生中の音楽を流したまま、ゲームへと切り替えることができます。

島田:いくつか制限はあるはずなのですが、サウンドエフェクトなども音楽の上に合成した上で再生されるはずです。この機能は、ゲーム側で特別な対応をすることなく、すべてのゲームで利用できます。トータルのユーザーエクスペリエンスとしてはこうあるべきだろう、という判断です。

 この種の、ゲーム中に自分の好きな音楽を流す機能は、Xbox 360用の「Xbox Live」にて「カスタム・サウンドトラック」として実装されたのが最初だ。PS3でも、発売後に行なわれたシステムソフトウエア・アップデートにて対応したが、PS3での機能の場合には、ゲーム側での対応も必要になった。そのため、カスタム・サウンドトラックに対応したゲームは意外と少ない。Vitaでは、システムソフトウエアがより「マルチタスク指向」に変わる結果、全ゲームでのカスタム・サウンドトラックが実現された、と考えられる。


■ ゲームは3コア、OSは1コアを占有、他の負荷がゲームに影響を与えない構成に

 すでにご承知の通り、Vitaは非常にパワフルなゲーム機だ。だが、PSPやPS3が、LSIとしてかなり独自性の高いものを利用しているのに対し、VitaのメインLSIはかなりスマートフォンに近い。CPUはCortex-A9系の4コア、GPUはiPhone/iPadにも使われているPowerVR系の「SGX543」の4コア版である。

 現在、スマートフォン/タブレット市場で使われているのは2コアまでのもので、4コアのものを搭載した製品として、大々的に世に出るのはVitaが初となる。しかし、早晩4コアのLSIを使ったスマートフォン/タブレットは珍しいものでなくなることは間違いない。家庭用ゲーム機は同一仕様の製品が長期的に販売されることから、性能が早期に陳腐化しないよう、価格の割に高性能なハードウエアが採用される場合が多い。Vitaも高性能なハード、という点ではその条件を満たしているが、「LSIの性能」という点でのアドバンテージがある期間は、PS3やPSPが出た当時に比べると、短くなると考えるのが妥当だ。

 通信機能があり、タッチセンサーやモーションセンサーもある。CPU、LSIの構成も似ている。「ならスマートフォンとゲーム機をまったく同じハード、OSで作ればいいじゃないか。Vitaはスマートフォンと差別化できない」と主張する声の裏には、当然そういう分析がある。

 だが、島田氏はVitaの構成について、スマートフォンなどとは「明確に異なる」と説明する。それは、ゲームに割り当てる資産(リソース)に対する考え方が違うためだ。

島田:スマートフォンなどの「マルチタスク」とゲームコンソールのものとでは性質がまったく異なります。ゲームに与える影響を考慮して、メモリーやCPUリソースの量についてもそうですし、プライオリティについてもそうなのですが、ゲームに対しては優先的に与えています。

 一方、ゲームをしながらフレンドリストを立ち上げたりしたい、ということは当初から考えていました。ゲームをいったん中断して、Twitterクライアントを呼び出し、作業が終わったらまたゲームへ戻る、といったように、瞬時に各機能の間を行き来できます。

【訂正】
 記事初出時に「Webブラウザとゲームが同時に動く」と表現をしていたが、SCEより「Vitaの提供当初は、Webブラウザとゲームの動作は排他処理になる」との連絡をいただいた。発売直後は、ゲームとWebブラウザの同時利用はできないが、システムソフトウェアのアップデートによる対応を期待したい。

 ゲームなどのアプリには、実際にはいくつかのタイプがあるのですが……。フレンドリストやTwitterアプリなどは、メモリー上にいくつか同時に存在して利用できます。それらはもちろん、それぞれネットや位置情報を使うのですが、ゲームに与える影響度を慎重に考えて動いています。

「ゲームに与える影響」という点が、Vitaとスマートフォンを分ける大きなポイントとなる。Vitaでは、ゲーム以外の機能がゲームに影響を与えないようにシステム設計がなされているという。

島田:スマートフォンでは、各タスクが「ベストエフォート」で動いています。ですが、ゲームに対しては「ベストエフォート」とは言えません。

 Vitaでは、4コアのCPUのうち3つをゲームが使い、1つをシステムが利用するようになっています。3コアを完全にゲームが占有し、動作するようにしています。メモリーについても同様で、一部を占有する形で動作しています。

 Windowsや他のスマートフォンOSが採っているように、マルチコアCPUであっても特別な割り当てはしないで動く、という構成も採り得たわけですが、やはりゲームでの確実性を考え、このような構成を選びました。

 逆にいえば、ゲームの方は「他の処理がどうなっているか」を気にすることなく3コアを完全に占有して動かせます。そこはメリットといえるでしょう。

 システムソフトウエアとして提供される機能の中には、常にメモリー上に展開されている部分もあります。

「ゲームのためにメモリーやCPUなどの資産を切り分ける」という考え方は、ゲーム専用機ならではの構成である。

 スマートフォンもパソコンも汎用OSであるので、その上で動くソフトは基本的に「平等」だ。ゲームが大量の処理能力を必要としている時でも、同時に動いているアプリも同様に処理能力を必要としているならば、「CPU能力をひとりじめ」にするわけにはいかない。結果、処理オチ、コマ落ちが発生したり、操作感が悪くなったりする。そういった問題が出ないようにするには、ゲームが必要とする処理能力を「低めに見積もる」ことで取り合いが発生しないようにするか、ゲームソフト側が動作状況を管理しながら「無理をしないように作る」ことになる。パソコン黎明期からある古典的な方法として「必要な処理能力を満たすハードウエアが出ることに期待する」というものもあるが。

 ゲームを作る側からみれば、「占有されている範囲で作る」ようにするだけで、そのハードウエアの持っている能力のほとんどを出し切ったゲームが作りやすい、ということになるし、性能を出し切らない場合であっても、別のアプリによる処理能力低下を想定しなくていい分、開発は楽になる。

 これは、どちらがいい、悪いというものではない。「ゲームは多くの用途の1つ」と考える汎用機と、「ゲームが主たる要素」のゲーム機とでは、開発コンセプトが異なるということだ。同じマイクロソフトの製品でも、パソコン用OSであるWindowsは当然「汎用型」だが、ゲーム機であるXbox 360では、システムリソースを占有する形式を採っている。

 汎用機でもある程度のゲームができるようになってきた一方、世の中のニーズの変化により、専用機であるゲーム機でも、ウェブやSNS、GPS連携といった汎用機的性質の機能が求められるようになった。それを実現するための構成が、Vitaの採用したもの、といっていいだろう。

 他方、そういった付加的な機能、特に通信関連の機能は、携帯型ゲーム機にとって重要な「省電力性能」に響いてくる。スマートフォンに比べ大柄で、バッテリー容量も大きいVitaだが、それでも、ゲームが求める高い処理性能を実現した上で、通信面でも十分なパフォーマンスを実現するには、様々な困難が伴う。

 例えばVitaは、移動中に周辺のプレーヤーの情報を取得したり、自分のプレイ情報を転送したりする「near」という機能を持っている。nearのようなサービスは、常に通信をし続けているわけではないものの、通信の頻度は少ないわけではない。また、Twitterアプリのようなものを使うと、通信頻度は当然増えていく。その中でいかにバッテリー消費を減らすかは、メーカーの力の見せ所といえる。

島田:ハードウエアの設計段階からソフトウエア担当チームも一緒に開発していますので、かなり細かなチューニングが行なえます。無線系パーツの電源を切るタイミングにも気をつかってハードウエアを開発しています。こういったものは、細かいチューニングの例です。我々はLSIまで自分達のハードウエアに合わせて作ります。普通のスマートフォンより細かいレベルで制御していると思っていただいてかまいません。


■ GPUの「+」の意味は不明、PSPエミュはソフト+ハードの合わせ技

 Vitaは、CPUコアやGPUコアはオリジナル設計ではないが、それを組み合わせたLSIそのものは「Vita専用」のものだ。実際、GPUの型番は「SGX543MP4+」。最後の4文字のうち「MP4」はマルチプロセッサ・4コアを指すのだが、最後にある「+」は、具体的になんの機能を指すのか不明なままだ。ただしSCEがLSIを開発する際、なにがしかのカスタマイズを行ない、単なるSGX543とは異なる機能を追加している、といことは間違いない。

 「+」の部分にも関わるものなのか、それ以外の独自部分なのかはわからないが、島田氏はVitaの独自機能として、次のような要素があることを明かしてくれた。

島田:VitaにおけるPSPのエミュレーションには、ソフトウエアだけでなくハードも利用する複合タイプです。ハードの上にアシストする機能が乗っているわけです。当然ながら、こういう部分はスマートフォンにはない要素です。

 操作性の他、画質面でのエンハンスも行なわれます。ディスプレイ解像度が縦横二倍になり、ハードウエアのスケーラーを使った拡大が行なわれるのですが、そのときバイリニアフィルタが使われます。これで相当にきれいに見えるはずです。他方、OLED(有機ELディスプレイ)が相当に美しいです。それだけでも満足度は高いと思います。

 互換性はかなり高いといってよく、おおむね満足できているレベルです。今後システムアップデートを通じ、互換性レベルはさらに高くなっていくでしょう。

 1月に「NGP」としてVitaがはじめてお披露目された時、Vita上でのPSPソフト互換は「エミュレーションである」とお伝えした。製品版についても、ソフトウエア処理が大半である点に変化はないようだが、完全にソフトだけで処理するのではなく、ソフトとハードのコンビネーションでより高い互換性を実現する形になっているようだ。SCEはPS2やPS3の初期2モデルにおいて、互換性維持を実現しているが、それも実際には、ソフトとハードをミックスして実現するモデルを採っていた。もちろん、どれだけの部分がソフトであり、どれだけの部分がハードであるかは各設計によって大きく異なる。おそらくVitaにおいてはソフトの割合がより大きいのだろうと予想されるが、「互換性維持用のハードウエアを搭載する」という発想は、確かにゲーム機ならではのものといえそうだ。


■ 「ミニアプリ」は当面SCEが提供、PSSでの自由なアプリ供給は来春よりスタート

 Vitaは、非常に多彩なソフトが動くゲーム機になる。主軸は、いうまでもなく「Vita専用ゲーム」。だがそれ以外に「ダウンロード販売されたPSP用ゲーム」が動き、さらにはTwitterアプリのような「小規模なアプリ」も動作する。そして、現在はまだ開発キット(SDK)のクローズドベータテスト扱いである「PlayStation Suite」(PSS)プラットフォーム向けのアプリも動作するようになる。PSSについて詳しく知りたい場合には、TGSの際の松本氏へのインタビューをご参照いただきたいが、最終的には、Androidで動くスマートフォンやタブレットに加え、Vita、PS3などでも動作する開発が可能になる。

 残念ながら、Vita発表当初には予定に上がっていた「初代PlayStation向けソフトを使ったゲームアーカイブスのタイトル」は、まだ動作しない。

若井:現在検討を進めています。今後、システムアップデートで対応できる予定なのですが。

 ちょっとわかりづらいが、SCEの中で、「各ソフトウエア規格」の位置づけはどうなっているのだろう? PSPタイトルやPS1タイトルは、あくまで「ユーザー資産」の継承が狙いだ。では、Twitterクライアントなどの「ミニアプリ」はどうだろう?

島田:現状、あのミニアプリ的な、ゲームでないコンテンツに向けた開発環境は提供していません。今後どうなるかはまだわかりませんが、基本的にはSCEが準備するもの、とお考えください。

 PSSという取り組みなどがまさにそうなのですが、多くのデベロッパーに参入していただきたいので、状況をみながらやっていこうと考えています

松本:商品的に見ると「ゲーム機」からはいってただくのが一番です。しかし実際には、よりいろんなアプリケーションが望まれるようになると考えていますので、デベロッパーの方々とのむすびつきを強めることが重要、と考えます。

 先ほど「Vitaには4つのプラットフォームがある」というお話がでましが、それをどのようにコントロールしていくべきか、考えているところです。

 PSSについては、11月11日から、デベロッパープログラムのクローズドベータテストが始まっている。PSS向けにソフトを開発したい企業や個人(!)を対象に開発者を募集、開発環境とビジネスモデルの検討が進められている。

松本:これまでのゲームビジネスは「ロイヤリティ ライセンシー モデル」を採用していましたが、もう少し違った形もできるのでは、と考えています。

 そこで気になる点がひとつ。アップルはApp Storeで、配布できるアプリの種類や内容に制限をかけている。それはアプリ市場を健全で安全なものに保つための仕組みだが、他方、自由な開発が難しいことに反感を持つデベロッパーも少なくない。

 ゲーム機は、これまでアップルに近い「上限の厳しい」ライセンスモデルを採ってきた。PSSはどうなるのだろう? エミュレーターや2chブラウザなど、他のプラットフォームでは排除される可能性があるものも対象となるのだろうか?

島田:今はまだ(集めたアプリを)一般公開しませんから、特に制限はかけていません。もちろん、その内容を当方でチェックさせていただいてはいますが。一般公開時に、どのレベルまでオープンにするかはわかりません。まだ方針は定まっていませんが、来春にスタートするまでは、ディスカッションしながら考えていきたいです。

 最終的な結果はもちろんまだわからないが、「とにかくNG」という作りはならない可能性もある、ということだろう。おそらく、エミュレーターや性的なコンテンツ(いわゆる18禁)など、直接的に問題が大きいものは許可されない可能性も高いが、そうでなけれな、個人がアプリを作って有償/無償で配信、という、AndroidやiOSでおなじみのモデルが作れるようになるかも知れない。


■ 将来的には「Wi-Fiも3Gも等価にしたい」、APN設定は変更可能

 Vitaの仕様には、気になる点もいくつか存在する。

 そのうちもっとも大きいのは「通信」に関するものだろう。通信料金については既報であるため、ここでは取り上げない。もう一つの問題は、3G回線網のスピードと利用できるアプリケーションの制限だ。

若井:Skypeなど、Vitaで利用するNTTドコモの回線で閉じてしまっているアプリは利用できません。

島田:ルールについて、基本的には各国個別に話し合っています。世界中の携帯電話事業者と話す中で、回線に負担をかけないよう、全体的なルールとして、3G回線では、20MBを超えるコンテンツはダウンロードしない、ということを定めています。ダウンロードはWi-Fiで、というのが基本です。

 その中で、特別な位置づけにしているのがリモートプレイです。ストリーミングによって、かなり帯域を継続的に食うので、3G回線で最初からOKにしていいのだろうか、と考えて、自主的に使えないようにしています。現在のところは、ですが。

松本:本当は通信という意味では、Wi-Fiも3Gも同じフィールドで使えるように、差がないようにしたいんです。しかし、携帯電話事業者側の制約もあります。そういったことには依存せざるを得ません。

 ただし、世の中の状況は、すこしずつ変わってきたと考えています。3G通信がはいった機器を複数持つ人も増え、料金プランにも工夫が求められるようになってきました。制約はだんだん緩和してくる方向にあると思います。

 このプラットフォームは7年、10年を目指すものです。流れをどんどんかえていけるよう、我々からも提案するかたちにしていきたいです。

島田:3Gに関しては、我々も初挑戦です。プラン的な問題は色々ありますが、ある意味時間が解決すると思っています。少なくとも、悪い方向には向かいませんよ。

 なお既報の通り、日本で販売されるVitaには、NTTドコモ向けのSIMロックが施されている。Vitaで正式にサポートされる3つのプラン(プリペイド100h、プリペイド20h、定額データプラン)については、最初からAPN設定設定がされているので、なにも設定することなく使える。だが、APN設定については「変更することもできる」(若井)ということだ。ただし、SCEのサポート外となる。


■ 専用メモカは「取り外さないで使う」前提?!

 Vitaでは、ゲームの供給には専用のカード型メディアにゲームを収録して店頭販売する方法と、PSNを通じたダウンロード販売がある。Vitaにはフラッシュメモリーなどの「内蔵ストレージ」がないため、ダウンロード販売を利用する場合には、別途専用メモリーカードを購入し、利用する必要がある。

 また同様に、ゲームデータの保存をする場合や、音楽・映像などのデータを活用する場合にも、専用メモリーカードが必要だ。

 ちょっとわかりにくいのは、カード型メディアで供給されるゲームの場合、カード型メディアの中にセーブデータを保存する場合もあれば、メモリーカード側に保存する場合もある、ということだ。しかも、カード型メディア内に保存されたセーブデータは、メモリーカード側にはコピーができない。

 メモリーカードはSDカードでもメモリースティックでもない、Vitaオリジナルのものだ。なぜ専用で、このようにわかりにくい仕様なのだろうか?

メモリーカード32GB

島田:SDカードもメモリースティックも、汎用メモリーカードは色々なものがあって、ゲームが作りにくいという苦情が寄せられていました。それはスピードが遅いとか、速いとかいう話しではなく「一定でない」ということなのですが。

 そこで、完全にイコールコンディションの、性能が保障されたメモリーカードを用意しよう、と考えたのがことの発端です。セキュリティを担保する、という狙いもあります。

 実物をみるとわかるのだが、専用メモリーカードはおどろくほど小さい。microSDカードに似たようなたたずまいで、いかにもなくしてしまいそうな印象を受けた。だが、それも当然。SDカードやメモリースティックDuoとは、使い方が違う想定なのだ。

若井:あまり頻繁に取り外すことは想定していません。Androidで採用されているmicro SDカードとおなじような位置づけ、と考えるとわかりやすいでしょうか。あれはAndroidにとっての「ストレージ」という扱いで、利用中には取り外しません。

 最初から内蔵ストレージを用意しても良かったのですが、そうすると容量によってバリエーションが増えますし、容量が増えるたびに本体を買い換えていただくことになります。それよりは、予算に応じて専用メモリーカードを買い換えていただいた方がいいだろう、と考えたわけです。

島田:ゲーム用メディアにセーブデータが集約されるのが一番わかりやすかったのは事実でしょう。しかし、パッチやゲームデータ、ダウンロードコンテンツなどが増えていくことを考えると、ゲーム用メディアでは足りない。専用メモリーカードはゲーム用のセーブメディアではなく、Vitaの「ストレージ」なのです。

 確かに、そういう発想ならばわかる。ならば、キャンペーンのような形で最小容量のカードを添付しても良かったのではないだろうか。スマートフォンを買うと、多くの機種に容量の小さなmicroSDカードがついてくる。「試供品」という扱いだが、それによってスマートフォンを使う際のトラブルは減る。Vitaも同じ発想で良かったのではないだろうか。

 市場では、最大容量である32GBの専用メモリーが品薄になっているという。松本氏も「予想以上に32GBを選ぶ方が多かった」と話す。しばらく、メモリーについては品薄を覚悟した方がよさそうだ。


■ ファイル転送は「Vitaから」、まずはPS3とWinより、マックと「その他」は今後に

 PSPの時代、メモリーカードであるメモリースティックDuoにアクセスするには、PSPをパソコンやPS3に接続するだけで良かった。そうすれば、メモリースティックDuoが「マスストレージ」として認識されるので、あとはファイルコピーの要領で、必要なデータをコピーしてやれば良かった。カードリーダがあるなら、メモリーカードを直接そこに差し込んでもいい。

 だが、Vitaではそのあたりのルールが大きく変わる。専用メモリーカード用のアダプタは用意されないし、Vitaは「マスストレージ」にもならない。

 PCとPS3に、専用のUSBケーブルで接続する点は変わらないのだが、別途専用ユーティリティを使い、Vitaとの転送を行なうことになる。PS3はすでにVita用のユーティリティを組み込んだ形へのアップデートが行なわれているし、PC用ソフトは発売時までに公開される。

島田:今回の考え方は「PCから操作して転送するより、Vitaの側から操作した方がイケるのでは」ということです。

 接続すると、小さなユーティリティがPC側で動きます。これは「コンテンツマネジメントアシスタント」というもので、PC内でどのフォルダにどのコンテンツが入っているかを指定する「だけ」の仕事をします。

 あとは、Vitaの側でユーティリティを使う、実際の転送作業を行なうことになります。PS3やPC側の画面を見ることなく、Vita側ですべての操作を行ないます。画面が大きいので、こちらで操作した方が直感的だろう、と考えたわけです。メモリカードのどのフォルダにどのデータがはいっているかを覚えておく必要もありません。

若井: コンテンツマネジメントアシスタントはほんとうに小規模でシンプルなソフトです。現在はWindowsのみの対応ですが、Macにも、そう遠くない将来に対応する予定です。軽いアプリにしておくと、様々な製品への対応が簡単なんです。

松本:現在はPS3とPCが対象ですが、今後は色々な機器でコンテンツを扱うようになるはずです。ホスト機器毎にソフトを作ってUIを作って対応を……ということになると大変です。Vita側で対応できるようにしておけば、後々色々な可能性が出てくると考えています。

 なお、各種データを転送する時には、1点だけ注意が必要な点がある。ダウンロード購入したコンテンツのうち、PSP用のゲームは、PS3から転送するのでなく、Vita側で改めてダウンロードする必要があるのだ。

若井:ダウンロード後、PS3側で「インストール」処理をしているとダメなんです。一度展開されてしまったゲームは、Vitaに転送できません。ダウンロードしただけでインストールしていない「アーカイブ」状態ならば転送できるのですが。ですからPSP用ゲームについては、Vita上で「再ダウンロード」していただく必要があります。


■ 位置情報のからむセキュリティに配慮、「すべてを自分で判断する」方針に

 Vitaでは、位置情報を使う「near」や、ゲームの進捗状況・プレイ状況を共有する「アクティビティ」など、様々なコミュニケーション要素が搭載されている。

位置情報を使ったコミュニケーションツール「near」。自分の周囲でどのようなゲームがプレイされているか、といった情報を交換することで、新しいゲームの楽しみ方を探す、という狙いがある 現在いる場所の周囲でどのようなゲームがプレイされているかを調べることも可能。自分が知らないゲームとの出会いを演出する

 これらは、ゲームする仲間を増やすための仕組みであり、それぞれ非常に意欲的なものだが、他方で「プライバシー侵害につながるのでは」という懸念も出てくる。PSNの情報、特にPS3が利用している「トロフィー」は、自ら非公開とすることができない仕様で、一部のユーザーから不満があがっていた。

 持ち歩くために、よりプライベート性が高くなるVitaでは、プライバシーに配慮し、「どんな情報を発信し、交換しているのか」を自分できちんと把握する必要がある。

 SCEも、その点については理解していると話す。

島田:Vitaでは、「位置情報」「トロフィー」「アクティビティ」といった情報をコミュニケーションのためにつかいます。それぞれの役割はオーバーラップしている部分もあります。トロフィーは厳格なゲームの進捗状況を示すもので、新たに登場した「アクティビティ」は、もっとカジュアルなものだと思っていただければいいかと思います。

ゲームの進捗状況を示す「アクティビティ」。トロフィーに似ているが、方向性は大きく異なる。トロフィーが「挑戦の結果を残す」ようなものだとすれば、アクティビティは「これだけ遊んだ」「これを面白いとおもっている」といった、比較的緩い情報を扱う

松本:Vitaから、「フレンドのフレンドリスト」が見られるようになりました。そこで、情報をどこまで公開するのか、公開する範囲も設定を行なうようにするようにしました。Vitaから最初にPSNへアクセスする時に、必ず設定していただくことになります。

若井:デフォルトでは「なにも設定されていない」状態です。色々と議論をしたのですが、「必ずなにかしないといけない」形にするのが良いだろう、という結論になりました。

 位置関係はもう少しセンシティブです。位置情報の公開をするか・しないかだけでなく、公開時に確認をするかも選びます。「確認をしない」とするのは、慣れたユーザーの方向けの設定かと思います。

 また、位置情報やゲームの情報は公開しても、オンラインIDは公開しない、という設定も用意しています。nearでは、通常はPSNのアバターがアイコンとして表示されるわけですが、オンラインIDを公開しない場合、グレーアウトした仮のアバターで表示されることになります。「プライバシーコンテンツ」「プライバシーエリア」という設定もできます。

 通知を行なわないコンテンツ・ゲームを指定できる他、プライバシーエリアでは、特定のエリア内では通知を行なわない、という設定ができます。要は「この場所にいる時はなにも通知しない」という形でも使えるわけです。もちろん、それぞれでペアレンタル・コントロールもできます。

島田:プライバシー対策については、国によって事情が異なります。日本とヨーロッパでも、アメリカとでも違います。そこで一番厳しい国にすべてを合わせてしまっても大変なことになります。

オンラインIDや位置情報を公開し、フレンド情報を交換すると、その人との相性度や一緒にプレイしたゲーム、すれ違った場所などまでわかる

 ですから、適切なところをどうやって設定していただくかに知恵を使いました。

 文字で書くとなにやら複雑な感じがするが、実際に設定画面を見ると、そこまで大変ではない。(画面をみていただけるといいのだが、残念ながらまだ公表できる画像の用意がないという)面倒なら全部オフでもいいし、積極的に楽しみたいなら、判断がつく部分からオンにしていけばいいだろう。自分がすべてを把握した状態で、「自分が見せたい分だけ」を公開できるようにするのが理想だ。

(2011年 12月 2日)


= 西田宗千佳 =  1971 年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う?世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ!クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(徳間書店、神尾寿氏との共著)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)などがある。

[Reported by 西田宗千佳]