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「NGP」と「PSS」でSCEが狙うもの。平井CEOインタビュー

「究極の没入感」へ。3Gやスマートフォン展開など


SCEの代表取締役社長兼グループCEOの平井一夫氏

 1月27日、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)は「PlayStation Meeting 2011」と題した戦略説明会を開催した。

 そこで新ポータブルゲーム機「Next Generation Portable(NGP、コードネーム)」の開発計画と、PlayStationプラットフォームのオープン展開といえる「PlayStation Suite(PSS)」が発表されたのは、既報の通りである。

 それらの戦略はどのような意味を持っているのだろうか? 今回は、SCE 平井一夫社長を囲んで開かれたラウンドテーブルでの質疑応答の内容を交え、NGPやPSSの詳細と方向性について語ってみたい。


発表会場で展示されたNGP。ホワイトとブラックの2色が展示された 背面。模様が描かれている部分がバックタッチパッド

 


■ 「究極」を狙ったNGP、画質は確かに良好

 おそらく、読者のみなさんの興味は、NGPに集中していることだろう。SCEとしては4年ぶり、同社のポータブル機としては6年ぶりの完全新型であり、その性能も3G対応、5型有機ELディスプレイ、前/背面タッチパネル、GPSなどを統合した、かなりアグレッシブなものだ。

平井氏は説明会にて「The power is now in your hand」というキャッチフレーズで、NGPのパワーを解説

 戦略説明会にて平井氏は、NGPを次のように語った。

「究極の没入感のあるゲーム体験を可能にし、本当の意味でのインタラクティブコンピュータエンターテイメントのための、統合された専用システム」

 その言葉通り、NGPのデザインはまさに「ゲーム機」。もっと率直にいえばPSPそのものを継承しているように見える。

平井氏(以下敬称略)実際、いろんなフォームファクタ(形状)を検討しました。その中には「PSPgo」のようなスライド形状もあったのは事実です。

 実際に色々なモックアップを作ってみて、ボタン配置などを検討しました。社内の商品企画としても検討しましたし、ワールドワイドスタジオ(SCE内のゲーム開発部隊)側でも試してみました。持ちやすさ、遊びやすさ、長時間のプレイに耐えるか、重心がどこにあるかなど……。

 結局、今回発表させていただきました「スーパーオーバルデザイン」が最もバランスが良く、ゲームプレイに適したものではないかという結論に至ったのです。

 もう一つは、PSPの魅力が「スクリーンが大きい」ということだった、という点です。やはり究極のポータブルゲーム機を狙っていきたかったので、スクリーンはもっと鮮やかで大きくできないか、という議論がありました。それが最終的にフォームファクターを決定する要因の一つにもなっています。

NGPはPSPを一回り大きくしたようなサイズ。操作感はほぼPSPを踏襲しているが、タッチパネルや2本のアナログスティックの搭載により、ゲームでの使い勝手はさらに増している 本体裏面の「バックタッチパッド」は、画面を見ながらその裏を触る、といった感じで使う。画面を遮らないこと、スティック操作を併用できることなどが特徴だ

 すなわち、あの形状を決める上でのポイントは「ゲーム」にあったわけだ。

平井:NGPはいろんなことができますが、主眼は「ゲーム」。SCEのDNAですし、一番の魅力を発揮できるデバイスでないといけない。PSPも同じでした。ゲーム機として評価していただけないとダメだよね、という考え方でした。

 実はラウンドテーブルの際、短時間ではあるが、動画表示とゲームが実際に体験できる実機に触れることができた。残念ながら写真などの撮影は禁止であったので、写真は会見の際のものでご勘弁願いたいが、気になるファーストインプレッションをお伝えしよう。

 やはりなによりインパクトが大きいのは「ディスプレイ」の美しさだ。コントラスト感・発色の美しさは図抜けている。iPhone 4などの高精細デバイスが増えたこともあり、単純な精細さでは飛び抜けた印象は感じなかったが、そこに表示されるゲーム(「アンチャーテッド」のNGP移植デモだった)のクオリティは極めて高いものと感じた。新アナログスティックや表裏両面にあるタッチパッドの操作感はきわめて良好。ゲーム機としての手触りに文句はなかった。

 NGP本体の重さはまだ公開されていないが、PSP-3000(約189g)よりは重いといった感じで、初代PSP(約280g)程度なのかもしれない。特に厚いとも感じなかった。

 では、これらハードウエアを構成するパーツはどこで製造されているのだろうか? 特に5型/940×544ドット有機ELディスプレイの供給元が気になる。

平井:PSP発売当時は、ソニーグループ内からの調達比率が高かったのは事実ですが、6年のうちにずいぶん変わってきています。一般的に言って、色々なパーツがあり、グループ内からの供給がもっとも効率的なものはできるかぎりグループ内から供給を受けますが、やはりコストや性能、なによりも供給能力の点を考え、他社のものの方が良ければそちらを採用していくこともあります。なにより一番良い商品をお届けすることがSCEの使命と考えます。

 ディスプレイについても、まだ最終的にどのパートナーとやるのか、それが1社なのか複数なのかも決定していない段階です。

 NGPが3Dに対応しない理由についても、平井氏は次のように率直に語る。

平井:社内で議論をし、コンテンツクリエイターとも議論し、目指すゲームの世界観・コスト・ポータブルデバイスでの3Dでの必要性を議論した上で、採用しないと決断しました。携帯型ゲームの場合、3Dによる没入感よりも、別の方法で没入感を高めたいと思います。他方、据え置き型は落ち着いて、固定した状況で没入できますので、3Dは積極的に展開していきます。

 NGP用ゲームの配布メディアは、専用のメモリーカードになる。基本的にROMだが書き換え可能な領域も用意されていて、セーブデータやダウンロードデータの追記もできる。完全ROM型光メディアであったUMDから、ニンテンドーDSが採用しているメモリーカードに近いものに変わった、と考えればいいだろう。

 なお、規格は明らかではないが、この他に「汎用記録向けのメモリーカードをサポートする」(SCE商品企画担当)という。

 試作機の本体上面には、電源と音量調整、ゲーム用メディア向けと思われるスロットが用意されている。下面には、専用のコネクタとヘッドホン端子がある。またNGPは現状では「映像の外部出力には対応しない」(SCE商品企画担当)としている。

 NGP背面はタッチパッドに覆われている。完全な平面ではなく、指がひっかかるようくぼみが用意された。他方で、バッテリを取り外す蓋や、UMDの排出口はなくなり、iPhoneなどと同様に「開けるところのない」機械になった。

 この点はおそらく、薄型化とバッテリ搭載量の増加、そして動作時間の延長にはプラスと働くだろう。物理的に稼働する部分がなくなったことにより、その分の電力消費は不要になる。また物理的スペースの余裕はバッテリ搭載容量を増やす余地を生み出す。NGPは非常に高性能なプロセッサを採用したが、能力は高くともLSIのサイズはさほどでもないと考えられる。だとすれば、ディスプレイサイズ拡大とUMDのスペースがなくなった分を、そのままLSI/通信が消費する電力の分をカバーするバッテリに費やすことができるはずだ。

平井:まだ試作機ですから、価格やバッテリ動作時間の正確なところはご容赦ください。しかしどちらも「アフォーダブル」(十分受け入れられる)なレベルを目指していることは間違いありません。

 NGPは、カードもしくはダウンロード販売で提供される「NGP専用ソフト」の他、初代PlayStationアーキテクチャを基本としたPSS向けタイトル(詳しくは後述する)と、PSPタイトルが利用できる。

 すでに述べたように、NGPは店頭ルートによるソフト供給媒体をUMDからメモリーカードに変更する。NGPボディにも、UMDドライブはない。

カプコンがデモした、NGP上で動作するPSP用「モンスターハンターポータブル3rd」。ディスプレイ解像度がPSPのちょうど縦横2倍であることも、エミュレーションが容易な理由の一つだろう

平井:NGP向けには、UMDでPSP用ソフトは供給されません。すべてダウンロードでの対応となります。ですから、各パブリシャーの方々には、積極的にダウンロード版をご提供いただくよう交渉を進めています。昨日もカプコンさんから「モンスターハンターポータブル3rd(MHP3)」のダウンロード版が準備中である、との発表がありました。

 他方で、NGPが出たからといってUMD、すなわちPSP向けのビジネスを止めてしまうわけでもありません。我々はこれまでも行ってきたように、各プラットフォームがオーバーラップする形でビジネスを続けていきます。

 すなわち、すでにお持ちの「UMDによるPSPタイトル」はNGPでは利用できないが、ダウンロード版ならばOK、ということのようだ。

 では、NGPでのダウンロード版PSPタイトルはどのように動作しているのだろうか? NGPのソフトウエア開発責任者である、SCE第2事業部ソフト開発部部長兼1課課長の島田宗毅(むねき)氏は次のように説明する。

島田:PSPタイトルについては完全にエミュレーションで動作しています。ですから、PlayStation Network(PSN)の認証が許す範囲の台数に入っていれば、すでに購入済みのダウンロード版PSPタイトルをNGPで遊ぶこともできます。

 PSPはMIPS系、NGPはARM系とCPUのコアアーキテクチャが異なる。同様にGPUも異なり、まったくの別ハードウェアではあるのだが、CPU4コア+GPU4コアというきわめて強力な演算能力が用意されたことにより、エミュレーションによる互換が実現された、ということのようだ。実際、27日にデモされた「PSP版MHP3」は、動作もまったくなめらかで、短時間見た限り、PSP版に劣るところは感じられなかった。

 そこで気になる点がもう一つ。NGPのOSはどうなっているのだろうか?

島田:OSはAndroidなどではなく、ゲームに特化したオリジナルのものです。ただしPSPとは異なり、パソコンに近いモダンな構造のOSになっているので、ゲームとOS側の持つ機能を切り替えながら動作させられます。

 NGPは「ゲームに特化した機器」とされている。だからこそOSも汎用のものではなく特化したものを、という考えのようだ。パフォーマンス的にはその方が確かに有利ではある。27日のデモでも、ゲーム中にコミュニケーション機能である「LiveArea」を瞬時に呼び出しており、パソコンやスマートフォンでの「アプリ切り替え」と同様の環境が実現されていることは確認できる。

「モダンなOSの力で多機能なゲーム専用機を作る」というアプローチは、ライバルであるニンテンドー3DSにも共通した特徴。ネットを使ったコミュニケーションや情報発信とゲームを融合させるには、もはや必須のアプローチだ。

 なお、NGPには、3Gを使った通話機能は搭載されていない。

平井:ゲームに向くならわざわざ搭載する必要はない、と判断しました。また、この形状ですと電話のように持って話すのもナンセンス。ヘッドセットを必須にしたり、通話のためにまた形状を変えるのもおかしな話ですので、搭載は見送りしました。通話にひきずられたくない、という気持ちがありました。

 現在ソニーは、全社を挙げてネットワークサービスの充実に取り組んでいる。テレビやスマートフォン、PS3、PSPに向けて、映像配信や音楽配信のビジネスを展開中だ。これらはNGPでどうなるのだろうか?

平井:もちろんやります。PSPでできていたものがNGPでできなくなる、などということはありません。AVクオリティはPSPよりも優れたものになります。Music Unlimited(Music Unlimited powered by Qriocity)は、3G内蔵ということで、特にNGPと相性の良いサービスになるでしょう。

 このような動きは、アップルがiPhoneやiPodなどですすめているものと似ており、アップル対策という側面も大きい。平井氏もそれを否定しないが、「アップルがどうこうというより重要な点がある」とも主張する。

平井:もっとも大切なのは、ソニーならではの利点をどう打ち出すか、ということです。(Music Unlimitedのように)クラウド型のサービスを提供するのは、マルチデバイスというソニーの特徴を生かすためです。すべての機器がハードディスクを搭載しているわけではないので、ダウンロードさせるわけにはいきません。どのデバイスからでも、サービスが透過的に利用できることが、ソニーの特徴であり価値になると考えています。

 



■ 3Gの詳細は「交渉中」、交渉のために早めに発表

 何度か解説してきたように、NGPは3G通信機能を内蔵している。3Gを内蔵しているからこそ、様々な場所で通信を「待ち受け」て、情報を自動的に送受信してゲームに生かすことができる。他方で、やはり最大の懸念も「3Gを内蔵している」ということ。契約や販売がどうなるのか、それによって実際の利用コスト、販売コストは大きく変わってくる。だがこの点については、まだほとんど情報はない。

平井:まず商品展開も、地域によって変わるだろうと考えています。例えば3G+Wi-Fi、Wi-Fiのみ、といった商品の展開です。

 その上で3Gなのですが、まさしく今、各地域のキャリアさんとディスカッションをさせていただいている段階です。その中でどのようなレートプランをやるか、それをどうお客様に料金展開するかを議論しています。具体的にどのキャリアでいくらくらいで、というお話は、時期がきたらお話させていただきたいと考えています。

NGPに内蔵される、位置情報を使ったコミュニケーションサービス「Near」。自分が移動した場所でどんな人が、どんなゲームを楽しんでいるのか、といった情報が分かる

 やはり、レートプランに対して3Gで繋ぎ、魅力を感じていただけるようなサービスやコンテンツを提供できることが第一だと考えています。昨日ご説明させていただきました「Near」などはその一例です。

 あとはユーザーのみなさんの嗜好もあると思います。一例ですが、Wi-Fiは必ずついていますので、Wi-Fiのみで楽しんでいただき、満足するお客様もいらっしゃると思います。他方でリアルタイム性、いつでもどこでも通信できることを重視し、3Gに魅力を感じるかたもいるはず。ホットスポットに行って通信するのではなく、いますぐに! という方々に対しては3Gの魅力が効いてくるでしょう。

 究極的にはSCEが決めることではなく、コンテンツクリエイターの方々がどのくらい3Gを利用していただけるかということで、3Gモデルの比率ですとか「3Gモデルだけで行けるね」ということを判断するきっかけになるのだと考えています。

 実はこの点に、SCEが「1月の末」にNGPを発表した理由があるようだ。

平井:昨日も面白い問いをいただきました。「年末に発売するものを、なんでこんなに早く発表してしまうんですか?」と。

 ここには過去の経験を生かし、とにかく早くパブリシャーさん、キャリアさんに情報をお伝えし、コラボレーションで発売まで持って行きたい、という私の強い意志があるんです。東京ゲームショウで発表して年末発売、では時間が限られてしまいますからね。できるだけ早くご紹介したかった。

 みなさんに公平に情報をお出ししていきたかったんです。いくつかのメーカーにだけヒソヒソ話のように、5社のここのスタジオだけに話をして、というような進め方ではなく、オープンな場で話したかった。特にキャリアさんのようなお立場の企業とコラボレーションが必要なNGPだけに、いちはやく情報を出したかった、ということがあります。

 もちろん、間近に控えたニンテンドー3DSに対する牽制、という意識も裏にはあるのだろう。だが、平井氏は3DSに対する意識よりも、別の観点で「ゲーム業界」を語った。だがその話は、もう一つの話題を解説してからの方が良さそうだ。

 


■ オープンな「スマートフォン」へ打って出る、PSSの狙い

 NGPより前、戦略説明会の最初に発表されたのは「PlayStation Suite(PSS)」と呼ばれる展開だった。少々わかりにくいもので、誤解している方も多いようなので、あえてきちんと解説しておこう。

 PSSは、簡単にいえば「Android向けにプレイステーションブランドのゲームを供給するためのフレームワーク」である。AndroidをOSとして採用したスマートフォンなどにPSSを組みこめば、PSNなどを介してAndroid上で「プレイステーションブランドのゲーム」が動くことになる。

 すなわち、Androidで「ゲームを提供しやすくするためのプラットフォーム」をSCEが提供する、と考えればいいだろうか。

 そのような話が実際にあったかは判然としないが、PSSが挙げる「OSはAndroidのVer.2.3以降」という条件には、グーグル側にもこの計画が織り込み済みであったのでは、と思わせる情報もある。Android Ver.2.3のSDKには、ゲーム向けにカーソルキーや「L/Rキー」を扱う機能が組みこまれている。PSSでは確かに必要な機能であり、登場時期が合っていることを考えても、「AndroidとPSSが補完関係を目指している」というのはあながち外れてはいないような印象を受ける。

PSSを発表する平井氏。Androidを対象とした「オープンなサービス」を狙う

平井:PSSのイニシアチブの魅力は、あえて「Androidの世界に」プレイステーションが出て行く、ということです。世界中に何千万台とあるAndroid対応のハンドセットの数を生かそうと考えているわけですから、パートナーをこちらから選ぶ、ということはありません。完全にオープンなスタンスです。キャリアさんでも、ハンドセットメーカーさんでもです。

 狙いはハンドセットだけなのだろうか? 他の端末や、さらには「Android以外」をどう見ているのだろうか?

平井:色々なOSがありますが、まずはAndoridにフォーカスします。WindowsやiOSなどもありますが、すべてに最初から対応するリソースはありませんので。次に台数を追求するならば、そこの中でもフォーカスしなければならないのはまずスマートフォンであり、次にタブレットです。

 当然のことながら「Sony Internet TV Powerd by Google」(Google TV)のような製品も、普及が増えていけば、もしくは普及に大きく貢献できるならば、(PSSの提供を)否定するものではありません。けれども、なにしろオープンな世界で台数があるところに打って出て行くのだ、という発想ですので、まずはスマートフォンとタブレットになります。テレビも無視はしませんが、台数が問題です。

 PSSはAndorid端末であれば基本的に走ります。しかしちゃんと動作に反応するかは分かりませんし、キーの位置がゲーム操作にはまったく向かない端末であることも考えられます。そこでまずはハード的に「PlayStation Certified」という基準を用意し、プレイステーション規格のソフトが最適に動作するか保証を行ないます。

 ソフトについては、昔から規格審査や内容のチェックをして、過度な暴力表現や公序良俗に反しないものを提供するようにしていますので、「PlayStation Certified」対応ハードの上で動くPSS対応ソフトについても、同じような審査をすることになります。なんでもありのPCの世界とは一線を引いた、SCEやソニーが品質を保証したハードの上で動くエコシステムを提供できるということは、単にゲームが出て行くことに比べると、お客様に対するメッセージになるし、差異化要因になります。

 ここで気になるのは、PSSがどのように提供されるのか、ということだ。

 ソニーエリクソンは、PSSを自社のスマートフォン「Xperia」に搭載して出荷するものと見られている。これと同様に、SCEと提携したハードメーカーが、ハードに組みこんだ形でのみ出荷されるのか?

 それとも、一般的なアプリのように配布され、どの端末にも自由に後から組みこめるもの、「PlayStation Certified」対応ハードでないと保証はされない……というスタンスなのだろうか?

平井:そこもまさにキャリアさんとの交渉です。キャリアさんの中には独自のアプリストアを提供中で、さらにゲームが差異化要因になると考えていらっしゃるところがあります。ではそのストアの位置づけがどうなのか? そことPSSがどう絡むのか? といったことは、各地域のキャリアさんとお話し合いを、まさにこれからはじめるところです。

 もう少し基本的な部分も確認しておきたい。PSSで「動くソフト」はどんなものになるのだろうか? 会見では、PS1用ソフトのエミュレーションがまず行なわれ、将来的にPSP用ソフトにも広げる、という話だったが、実際のところどのような範疇になるのだろうか? 平井氏は「まずはPS1からはじめます」と解説する。

PSS上で動作する、PS1用ソフト。操作はタッチパネル上のバーチャルボタンの他、ハードボタンにも対応しているという

平井:まずはオリジナルPlayStation用ソフトのエミュレーションからです。これからパブリシャーさんに「PSS向けの新規タイトル」を作っていただく準備を進めます。これが一番大きいポイントです。やはり新しいソフトが出てこないと。PS1用ソフトだけでは物足りませんので。NGPでも、PSS用ソフトは動作します。

 ロイヤリティについても、これから検討を行なっていきます。ここでは「いくらをいただく」というお話はしませんが、SCEにもコストはかかりますので、なんらかのレベニューシェア(利益分配)を行なう形とさせていただきます。率直にいえば、まだ議論が進んでいません。キャリアさんも関わるお話ですし。

 PSSのデベロッパーになっていただく方々についても、なるべく間口を広げたいと考えています。トラディショナルなゲームデベロッパーさんとの関係も大切ですが、それだけでは間口が広がりません。場合によっては「ひとりデベロッパー」の方々でも参加できるような形にしないといけない、と考えています。なにしろAndroidのマーケットで戦おうとしているわけですから、「PS3と同じような環境で作って下さい」というアプローチはないんじゃないか、と考えています。広げる方向にやっていかなくては、と思っています。

 iOSやAndroidでは、個人や小さなチームのデベロッパーでのビジネスが活発だ。家庭用ゲーム機では「ゲーム開発機材とノウハウを提供するデベロッパー契約」が必要になり、小さなチームでのビジネスがなかなか広がらなかった。PSSではこの点について、「スマートフォンの世界にあった」形が選択されるようである。

 


■ PSSは「カジュアル」「ソーシャル」の窓口。「楽しいゲーム」のためにNGP

 そこで気になるポイントがある。現在ゲーム業界は大きな転機にさしかかっている、と言われる。

「スマートフォンの性能が向上することで携帯ゲーム機はいらなくなるのではないか」という考え方と、「ソーシャルゲームのような簡単で間口の広いゲームのほうが市場が大きく、こってりとした家庭用ゲーム機向けの市場は縮小するのでは」という意見だ。

 PSSは、特に前者に対するアプローチといえる。ただ他方で、PSSでそれなりのクオリティのゲームができてしまうことになれば、わざわざ携帯ゲーム機は買わないのではないか? と考える人もいそうだ。PS1クラスのゲームができるとすると、それなりに満足感は高まる。なにしろ10年前にはテレビでそれを「メインコンテンツ」として遊んでいたくらいなのだから。

 だが平井氏は、この意見に反対する。

平井:じゃあPSSがあればNGP用ソフトはいらないのか、というと、そんなことはないと思っているんです。かけられるパワーですとか、機能がまったく異なりますので。

 結局、スマートフォンはスマートフォンなんです。没入感のある徹底的にゲームを遊ぶんだ! という気持ちのためには、NGPのような環境が必要です。スマートフォンにプレイステーションとして参入していくにはどうしたらいいのか? そこを考えて発表させていただいたのがPSS。究極の存在としてNGPもやります。

 しかし、カジュアルにゲームをする方はどんどん増えている。それは認識しなければいけない。そこに対する対策がPSSなんです。スマートフォンに勝つ・負けるではなく、その上でもいかにビジネスを展開していくか、という判断をさせていただいた、ということです。

 そして話はニンテンドー3DSとの「対抗」論にもつながる。

平井:3DSなどとの「勝ち負け」も話題としては出てくることではあると思いますが、私はいつも「ゲームプラットフォーム同士の戦いの構図」で見ているのは視野が狭い、と思っているんです。

 これは「エンターテインメント」です。究極的には、映画もテレビもゲームもそう。3DSに勝った負けたで喜んだところで、全然違う娯楽が世界で盛り上がっていて、世界中でゲームを誰もしなくなっていた……という形ではまったく意味がないんです。いかにユーザーのみなさんに「ゲームは楽しいね」と思っていただけるプラットフォームやソフトを供給することが大切だと思っています。だから、競合他社さんのことはあまり心配していないんです。

 現実的にはライバルですが、そこにとらわれていては大きな波にのまれてしまうのではないか……と心配なんです。ソーシャルゲームのようなカジュアルなものが流行る、というのもわかります。PSSのようなイニシアチブで、その大きくなっている市場に対応はしていきます。

 ただ見方を変えると、いままで「ゲーム専用機」といわれたトラディショナルなゲームにはまったく興味がない、触ったこともない、といった人々が、たまたまAndroid端末に入っているゲームをちょっとやってみて、この世界にはいって来て頂けるかも知れない。もちろん、大半のお客様はそのままカジュアルなゲームの世界に居続けるのだと思いますが、中には「ゲームって結構面白いね」と感じ、トラディショナルな方に移ってきていただける方もいるはずです。

 そういう意味では、これまで獲得できなかったお客様を捕まえられる世界を、カジュアルゲームは作ってくれたのではないかと思うのです。決して「みんなカジュアルに移行して市場から出て行くばかり」とは思いません。もちろん出て行く方もいるでしょうが、入って来る方もいるはずなんです。両方の行き来があるんじゃないかと。

 とは言っても、「楽しいゲーム」が出れば、そちらの方にユーザーの方は来る。それは否定できない。グランツーリスモ5は500万本出荷できましたし、MHP3の勢いもそうです。

 PSSのお客様全員がNGPまで来ていただける、とは思っていませんが、いままでのビジネスでは一度もゲームに入ってこなかったお客様が「ゲームに触れていただける」機会を広げていくことになると思います。「こっちが流行ったからこっちが廃れる」という単純なトレンドではないでしょう。

 SCEは今回、NGPとPSSの両方を同時に発表した。どちらも非常に大きな発表で、本来なら「それぞれ別々に」公表しても良さそうな内容である。

 だが、平井氏の考えを聞くと、NGPとPSSは「両方あってこれからの戦略」なのだ、という印象が強まる。NGPは、スマートフォンで使われる技術を大幅に採用したハードでありながら「究極の携帯ゲーム機」を目指し、PSSはプラットフォームをバーチャル化して「スマートフォンそのものへ浸食していく」ことを狙っているのだ。

 ここで、筆者の感想を一言付け加えておきたい。NGPはすばらしいハードウエアだが、ことLSIやディスプレイの能力の点でいえば、スマートフォンのトレンドを「2年ほど先取り」したに過ぎない。いつかは性能面で追いつかれることだろう。

 だが他方で、NGPは「スマートフォンにはできない」とも感じる。理由は、多数のセンサーを「すべて同時に搭載」したことだ。電話として使うには過剰であり、そもそもゲームとしても全部使うと複雑すぎる。

 とはいえそれでいいのだ。ゲーム機は「操作を伴う遊び」。センサーの多様さにより、新しい可能性を生み出すことが大きな差別化要因となり得る。すべてのスマートフォンが、NGPと同じ数のセンサーを搭載することにはならないだろうし、同じデザインにもしづらい。とすれば、「NGPだけでできること」が残ることになる。

 これは逆に考えると、任天堂が3DSで取ったアプローチとも似ている。

 モダンなOSやスマートフォン的LSIを使いつつ、オリジナルなOSやデバイス、そしてサービスの組み合わせで「独自のプラットフォーム」を世に問えることが、ゲームメーカーの強みでもある。

 日本が弱っている、と言われるこの時期に、任天堂とSCEという日本を代表する企業から「世界に向けた独自の提案」が出てくることを、なによりもまずは喜びたい。

(2011年 1月 28日)


= 西田宗千佳 =  1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「iPad VS. キンドル日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)、「iPhone仕事術!ビジネスで役立つ74の方法」(朝日新聞出版)、「クラウドの象徴 セールスフォース」(インプレスジャパン)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)などがある。

[Reported by 西田宗千佳]