西田宗千佳の
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ソニー独自の「写真、動画連携」とは?

~担当者に聞く「PlayMemories」の狙い~


ソニー DI事業本部 ネットワークサービス推進部 1課 敷田康 統括課長(右)、鈴木文明氏(左)

 ソニーが今春中の開始を目指し、写真、動画を軸とした、マルチデバイス型ネットワークサービス「PlayMemories Online」の構築をすすめている。また、その準備の一環として、スマートフォン/タブレット向け、パソコン向け、Playstaion 3(PS3)向けの専用アプリケーションも公開をはじめた。今回は特に、構築中のサービスの概要と、3月29日より配信を開始したPS3向けアプリ「PlayMemories Studio」から、その狙いを探ってみたい。クラウド型のフォトストレージがすでに全盛である今、家電メーカーとして統一的なサービスを目指す理由、そして、オリジナルのソフトを提供することによって、どのようなことを行おうと考えているのだろうか?

 今回御対応いただいたのは、PlayMemories全体を担当する、ソニー DI事業本部 ネットワークサービス推進部 1課 統括課長の敷田康氏と、PlayMemories Studioを担当する、同推進部 1課 鈴木文明氏だ。



■ 3アプリで構成、「オンライン連携」を軸に

 ソニーが「PlayMemories」を正式に発表したのが、今年1月のことだ。実際には、ソニーが現在のSony Entertainment Network(SEN)に続く構想を打ち出した2009年秋より、写真・動画関連のサービスを統合する、という話は出ており、パソコンやPS3向けに管理ソフトなどが公開されていた。そもそもPlayMemoriesという名称も、2011年夏にPS3向けの3D写真・動画表示アプリケーションに使われたのが最初だ。

 今回、PlayMemories「Online」のスタートの前段階として、Windows PC用に使われてきた「Picture Motion Browser」は「PlayMemories Home」に、PS3向けのPlayMemoriesは編集機能などを大幅に強化して「PlayMemories Stuidio」に、そして、スマートフォン/タブレット上で動くアプリとしては「PlayMemories Mobile」が用意された。

 現状ではPlayMemories Onlineがまだスタートしていないので、オンライン部分に目立った機能は見えてこない。敷田氏も「今はオンラインとホームストレージの整理・連携を強化している段階。この春のうちには、連携度が高いものをお見せできるよう考えている」と話す。

 PlayMemories Onlineの提供、そして、各アプリケーションの「PlayMemorisブランドへの統合と機能変化」について、経緯は次の様なものになるという。

DI事業本部 ネットワークサービス推進部 1課 敷田氏

敷田氏(以下敬称略):アプリは「Mobile」「Home」「Studio」の3つが用意されます。このうち後者2つはホームストレージ(家庭内機器への写真蓄積)です。そこから「Online」へアップロードして色々な機器で利用する、という形を目指しています。連携度という点では、まだ初期段階というところですが。

 2006年からPC用に「Picture Motion Browser」といったソフトを供給してきました。これが「Home」になります。そういったソフトで 本質的にやろうとしていたことは、カメラがサポートするフォーマットに確実に対応させること、コンテンツ管理だけでなく、ソニーのカメラを完璧に扱うためのものと位置づけてきました。画像の管理などについては、もちろん、他のソフトをお使いいただいてもかまわない。しかし「100%すべての機能を使う」ためのものとして位置づけてきました。

 しかしその中で、PCはあるものの、PCを使わなくなってくる環境が増えてきました。ですから、タブレット、スマートフォンでビューするもの、すなわち「Mobile」も用意しよう、と考えたわけです。また同様に、必ずしもPCに保存したままでなく、オンラインにあげていただく導線を訴求する必要も出てきました。

 実は「Home」とPlayMemories Onlineは、ユーザーインターフェース上の連携が強いんです。Homeを使っていてもOnlineを使っているような感覚になります。

 また、手軽にOnlineにアップロードできる環境も整えます。早くみんなで見たいものはOnlineに、という感覚でしょうか。内部的には「Access Anywhere」と呼んでいます。

 管理ソフトを使うのではなく、ウェブブラウザーから利用する導線も用意します。管理ソフトとしてのHomeは管理ソフトとして、使い方は変わらないのですが、ウェブブラウザーからもお使いいただけます。

 現時点では、まだ「Online」のサービスが具体的にスタートしていないため、各サービスがどのようになるか、細かい点は公表されていない。だが方針として、彼らの中で「Online」をしっかりとした連携の「軸」にしようと位置づけているのは理解できる。Onlineとの連携の可能性については、また後述することとしたい。

 なお、PlayMemories Homeについては、現状Windows用のみが公開されている。フル機能のMac版を提供する可能性についてはコメントされていないが、PlayMemories Onlineへのアップロードなどを手助けするアプリケーションを提供予定だという。


■ 「スマホだけ」のユーザーもカメラの世界へ引き込め!

 Onlineの姿がまだ明確でないため、PC用の「Home」については、既存の各種画像管理ソフトとの差がわかりにくくなっている。

 他方で、狙いなどが明確なのが「Mobile」と「Studio」だ。

PlayMemories Mobile。現在は、Android用とiOS用が無償公開中。現状では、同社の無線LAN内蔵のデジカメとの連携用ソフトだが、今後「Online」とも連携する

敷田:「Mobile」の背景については、弊社のスマートフォンをお持ちでない方も想定してのものです。スマートフォンからオンラインへアップロードする導線を提供したい、と考えています。我々のスマートフォンだけでなく、iOS向けのアプリを提供しているのもそういう意図です。貴重なコンテンツがさらに貴重になるよう、さらに簡単に扱えるようにしたい、と考えているわけです。

 情報をサクサクと撮ってサクサクとあげてしまい、コンテンツをディスポーザル(使い捨て)にする、という発想がありますが、そことは一線を画したいのです。スマートフォンではこのクオリティになる。それがもっと良くなるなら、αやNEXでやってみようか……と思っていただくような形になればと思います。

 スマートフォンがカメラの市場を侵食している、と言われますが、そこに入っていって押し返す、という考え方だけでなく、そのまま使い続けていただこう、とも考えています。その上で、もう一台、クオリティの良いものを持っていただくために、どうしたらいいのか。オンラインの価値、機能性、顧客体験などのバリュー提供を考えていかねばならないと考えています。

 なお「Mobile」も現状は、Onlineへの連携機能が搭載されていない。使い勝手については、前回の本連載をご一読いただけると幸いだ。

 「Studio」の方は、もっと明確な用途提案・意図がある。

敷田:「Studio」の方は、まずどなたでも使えるように、という意識があります。しかし、そこでの「写真管理」だけではなく、PlayStationのエンジンを利用したソニーらしいコンテンツでの遊び方を意識していただければ、と思います。

 我々からすると、Studioという存在に気がついて、PS3本体を買っていただければ、とも思います。ゲーム機だけじゃなく、ストレージマシンとしての可能性も十分にありますので。

PlayMemories Studio。PS3上で写真・動画(どちらも3D対応)を編集し、アルバムを作成できる

鈴木:PCとの違いは「テレビとつなぐ、大画面で楽しむ」ということ、そして、ゲームパッドによる「サクサクとした、直感的な操作」です。

 PCをやめてPS3で作業を、という意識ではありません。やりたいシーン、シチュエーションに応じて使い分けていただければ、と考えているのです。

 例えば、 旅行に出かけた時の写真を見るとします。今はパソコンで見るか、テレビに直接メモリーカードを差し込んで見ていたはずです。それでは、一覧で時系列に合わせて見たりするのは難しい。

 PS3にカメラを直接繋げばいいのです。どこかに写真を転送、コピーしないといけない、ということはありません。そのまま「Studio」上で見られます。

 実際その通りで、「Studio」では、PS3のUSB端子につないだカメラやメモリーカード内の写真が、PS3のハードディスク内の写真と並列に表示される。「取り込み」という作業を意識することなく見られる。これは、簡単だしわかりやすい。

 さらに特徴的なのが「編集」の考え方だ。


写真は時系列表示の他、GPS情報を使った位置表示も可能になっている。この時には、写真をPS3にコピーする必要はなく、接続されたストレージ(含むカメラ)の中のものが並列に表示される
DI事業本部 ネットワークサービス推進部 1課 鈴木氏

鈴木:動画を活用する際にも有効です。

 動画は整理が大変ですし、見返すのも大変です。ハンディカムには「ハイライト再生」などの機能も用意されていますが、それに加え、「Studio」で好きな部分だけを簡単に切り取って見ていただけば、と思います。それに「1.5倍速再生」もありますし。

敷田:実は私自身、25年前にハンディカムの商品企画からキャリアをスタートしました。

 カムコーダーの市場は最近減ってきています。動画には動画ならではの思い出の良さがあるのですが、「見る事」そのものに負担感があり、死蔵の構造があります。

 PlayMemoriesとしても、動画について、どう死蔵さぜずに見られる環境を提供するか、という全体のミッションがあるんです。

鈴木:パワーがあればいいという話だけじゃなく、コントローラの操作感が、存在感として非常に大きいです。

 テレビの前で、家族みんなでわいわい言いながら編集する、その過程で思い出を楽しむ、という、いままでとは違う価値観を提供できるのではないか、と思っています。

 確かにその通りだ。Studioは、カット編集などは非常にシンプルで、別のいい方をすれば「単純なこと」しかできない。「マイアルバム」という仮想のアルバムに写真と動画を並べ、簡単にスライドショーを作る機能が軸になっていて、逆にそれ以外の場合、時系列や記録された位置情報を元に写真を整理する機能が中心だ。

 しかし、映像を見ながらリアルタイムに「ここに笑い声を重ねたい」「テロップを出したい」「スロー再生したい」という、バラエティ番組的な効果を、コントローラ操作で行なえるようになっていて、そこはパソコン用と異なる雰囲気だ。鈴木氏の指摘する通り、編集の効率よりも「わいわい」使うのに向いている。

 しかも、1080pの3D映像であっても、2Dの映像となにも変わりなくサクサクと編集・表示できる。この点は、パワフルなPS3ならではの要素といえそうだ。

まずは「マイリスト」を作成。ここに並んだ写真・動画がスライドショーのような扱いで再生されると思えば良い
挿入した写真・動画には、各種エフェクトや音、テロップなどを自由に挿入できる。操作はパッドで「挿入位置」を決めるだけだ動画の場合も写真の場合も、エフェクトの挿入位置・カット位置などが決められる。再生しながら「ここ!」という感じで指定していくシンプルさだ

 ただ、Studioは他の2アプリと違い「有料」だ。基本的には、1,500円でダウンロード販売されるアプリである。この価格設定の理由はなんだろう? 無償提供の可能性はなかったのだろうか?

敷田:Studioは、決して「タダで配る」という考え方で作ったものではありません。価格に比した価値はあると思っていますし、かかっているコストも決して小さなものではありません。

 他方で、体験していただかないカタチでは、その価値も認めていただけないか、と考えています。ですから30日間無償でご体験いただけるようにしました。

 カメラを買われる方には、カメラを買われる方には、弊社製品の販売に寄与する形でのプレミアム感の演出、という意味で、対象モデルに無償提供させていただいています。また、月額制のサービスである「PlayStation Plus」の会員の方にも、無償提供させていただきます。

 今後の扱いについては、フィードバックをうけて考えていきたいと思います。


■ ソニーとしての価値を打ち出すために「ソニーだけ」にはしない?!

 ここまで解説してきた各種アプリケーションは、最終的に「Online」に連携することで価値が高まる。現状では、「5GBのフリースペースが提供される」ことだけが正式に公開されている段階で、実際の姿を推し量るのはまだ難しい。だが、冒頭で述べたように、各アプリは「Online」へのアップロード機能を備え、なんらかの連携を行なうことだけは間違いない。

敷田:Studioについても、最低限アップロード対応はやらなければいけない、と考えています。(編集によって)変わったコンテンツは、どうしてもシェアしたくなります。そういうユーザー体験をきちんと作ることが重要だと考えています。例えば、そこからブラビアと連携するといった、顧客体験、一種のエコシステムを作りたいです。

 そこで問題となるのは、ソニーが「PlayMemories Online」というサービス自身でどのくらい直接的な利益を取ろうとしているのか、ということだ。有料なのか無料なのか、ソニー製品を買わなかった人にも提供するのか、組み合わせはどのような形を想定しているのだろうか?

敷田:連携については、ユーザーの方々の声を聞くことで検討していきます。どこどこには出さない、使わせない、というものではないです。少なくとも、サービスを(ソニー製品に)閉じたものにすることは、ユーザーの満足度を最大にすることではない、と理解していますので。

 しかし、なんでもやる、ということではないです。ソニーのカメラを使って楽しんでもらう、という目的に適わないものまで、なんでもできるものにするのが、ビジネスモデルにとって良いことなのかはわかりません。

 サービスへの課金で儲けることができるビジネスか、という点ですか? PlayMemoriesの狙いは顧客体験を広げていくことで、そこを指向するサービスです。将来的にStudioのように別売でもご購入いただけるものができれば、そのバリューがあれば、有料というものも出るかと思います。ただStudioにしても、それだけで何千万本も売れるようなものではないですし、そういう想定もしていません。

 おそらく、いろんなビジネスモデルの組み合わせになるだろうと考えています。ニーズを含め、調査をしていくことになるでしょう。

 ネットワーク上に写真を保存するサービスは、なにもソニーにこだわる必要はない。アメリカでは、SNSであるFacebookが最大のフォト共有サービスとなって長い。アップルのものを使いたい、という人だっているだろう。そういった「ソニーの外にあって、すでに使っているもの」と、ソニーが提案する価値をどう差別化し、ソニーの価値に顧客をひきつけるかが重要だ。

 現状、Onlineのサービス内容がすべて明らかになっていないため、その点を云々するのは難しい。だが、少なくとも現状、ブランド名以上の「統一感」がまだできあがっていない、というのが、筆者の正直な感想だ。

 4月12日の経営方針説明会でも、同社社長兼CEOの平井一夫氏は、カメラを中心としたデジタルイメージング事業を「3つの重点領域」の一つとしていた。狙い通り成功するには、ハードウエアに加え、ハードの魅力を補完するネットワークサービスが必要だ。ソニーがそこで「試行錯誤期間」を許される時間は、そう長くないはず。明確な統一感をもち、独自の価値を持つネットワークサービスがどのようなものになるのか。素早い登場を期待したい。

(2012年 4月 13日)


= 西田宗千佳 = 1971 年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う?世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ!クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(徳間書店、神尾寿氏との共著)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)などがある。

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[Reported by 西田宗千佳]