西田宗千佳の
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デジタルカメラのトレンド、無線LAN連携をチェック

~4メーカー5機種のiOS/Androidスマホ連携の今~


 昨年末以降、コンパクトデジカメとビデオカメラのトレンドは「無線LAN対応」だ。目的は、無線LANを使ってスマートフォンと連携し、ネットワークサービスを利用することである。気がついてみると、今春発売の製品には、多くの無線LAN対応デジカメが登場している。

 だが、どのような感覚でデジカメとスマートフォンが連携するのかは、メーカーによって異なっている。どのメーカーがどのような方針で、どのような機能を搭載していて、実際どこのものが便利なのだろうか?

 今回は、ソニー、キヤノン、富士フイルム、JVCケンウッドの4社の製品を集め、それぞれの使い勝手をチェックしてみた。その結果からは、各社が考える今後のデジカメとスマートフォン、ネットワークサービスのあり方が見えてくる。

今回テストした4社/5機種。都合で写真は分かれているが、キヤノン「iVIS HF M52」、「IXY1」、ソニー「DSC-TX300V」、富士フイルム FinePix Z1000EXR、JVC Everio「GZ-VX770」
メーカーソニー富士フイルムキヤノンJVC
型番DSC-TX300VFinePix Z1000EXRIXY1iVIS HF M52Everio GZ-VX770
タイプデジタルカメラビデオカメラ
実売価格約46,800円約24,800円約34,000円約65,800円約86,000円

■ 歴史は長いが「スマホ登場」でようやくブレイク

 無線LAN(Wi-Fi)連携デジカメというと、歴史はそう新しいものではない。2005年にニコンが「COOLPIX P1」を、2007年にソニーが「サイバーショットDSC-G1」を発売しているし、SDカードに無線LANを搭載した「Eye-Fi」が登場したのも2007年のことだった。

 それが今ひとつここまでぱっとしなかったのには、いくつかの理由がある。

 まずコストだ。無線LANチップは普及したとはいえまだ高かった。ネット機能を搭載するには、それを支えるだけのプロセッサも必要になる。操作系の開発もいる。高価でハイスペックなモデルには搭載できても、普及モデルに広げるのが難しかった。

 この状況をひっくり返すきっかけとなったのが「スマートフォン」の登場だ。スマートフォンの普及はあらゆる部分でルールを変えてしまった。

 無線LANチップもプロセッサも、スマートフォン向けに量産されることで劇的にコストが下がった。デジカメ、ビデオカメラの値段はずっとさがり続けていたが、そこに無線LANチップなどを追加しても、値段はたいして上がらない。処理能力も上がったので、ネット機能を搭載する余力が生まれた。

 なによりも大きいのは「ニーズ」が生まれた、ということだ。

 スマートフォン以前、デジカメで撮影した映像を「すぐその場でネット連携して使いたい」と思う人は少なかった。初歩的なフォトストレージはあったが、そこに写真を「その場で」アップロードする価値は少なかった。自宅やカフェなどでパソコンからアップロードすればいい、と考えられたからだ。もちろん、外からアップできることの価値はあったが、それに高いコストを払ってくれる人はそういなかった。

 だが、今は大きく変わっている。リアルタイム性の高いSNSの浸透により、「いま行なっていること」の写真をネットへアップロードしたい、という欲求は高まった。スマートフォンのカメラ機能も進化しているが、ズーム性能など、どうしてもある程度の物理的サイズが必要な点については、デジカメの方が有利だ。高画質なデジカメから撮影した写真をスマートフォンやタブレットへ送り、素早くSNSへアップロードする、という用途を満たせれば、それは大きなニーズとなる。また、フォトストレージも以前よりは一般化している。それに、スマートフォンやタブレットだけでなく、パソコンへも無線で写真を転送できた方が良い。

 スマートフォンの登場で生まれた環境変化が、デジタルカメラをスタンドアローン・デバイスからコネクテッド・デバイスへと変えつつある、というのが、現在起きつつある、カメラへの無線LAN搭載の背景なのである。


■ アプリは無料、静止画系と動画系でアプリは異なる

 今回試用しているのは、ソニー、キヤノン、富士フイルム、JVCの4社の製品だ。

 ソニーからは「サイバーショットDSC-TX300V」。全面ガラスボディで、非接触充電・非接触高速通信(TranferJet)対応、GPS内蔵、さらに無線LAN内蔵と、同社のカメラの中でも、スペック面でのフラッグシップといえる。

ソニー「サイバーショット DSC-TX300V」。全面ガラスの特徴的なボディが目を惹く操作は背面をタッチして行なう。センサーは静電容量式。ディスプレイは有機ELを使っているGPSとWi-Fiの両方を搭載。ライフログカメラとしての利用を想定しているという
TX300V付属の非接触型クレードル。microUSBコネクタがあり、非接触充電(独自規格)と非接触高速データ転送(TansferJet)に対応。パソコンとクレードルの接続は特別なドライバーソフトなどを必要としない
キヤノンの「IXY 1」。IXY登場当時のようなスクエアなデザインに戻り、コンパクトでありながら質感十分

 キヤノンからは、カメラとビデオカメラで1機種ずつ用意した。カメラは「IXY 1」。IXYブランドらしいボディデザインのコンパクトデジカメだ。ビデオカメラは「iVIS HF M52」。同社のビデオカメラの主軸といえるモデルで、無線LANを搭載したM52は上位機種といえる。


iXY 1は背面をタッチして操作。センサーは静電容量式。ディスプレイは有機ELキヤノンの「iVIS HF M52」。外見では、無線LANのない下位機種「M51」と大差ない。唯一違うのは「Wi-Fi」のロゴが目立つところiVIS HF M52の操作系。Wi-Fiなどの設定はタッチパネル側で行なう

 富士フイルムは「FinePix Z1000EXR」。位置づけとしては、TX300VやIXY 1のライバルにあたる。シーンレイアウト作成や二画面比較など、加工系・表示系の機能も充実している。

富士フイルム「FinePix Z1000EXR」。いかにも同社らしい薄型・スライドドアのデザイン。今回紹介した機種の中でももっとも女性ユーザー指向が強そうな印象を受けるレンズなどはシャッターでカバーできる。このカバーはもちろん電源と連動タッチセンサーは感圧式。静電容量式を選んだ他社に比べると、ほんの少し操作の快適さでは劣る
JVCの「Everio GZ-VX770」。かなりスリムなボディで、iVIS HF M52よりさらに一回り小さい

 最後、JVCの「Everio GZ-VX770」はAVCHD/MP4ビデオカメラ。後ほど詳しく説明するが、他のものとは、無線LAN連携の位置づけが多少異なる。ある意味もっとも意欲的なモデルといえる。

 すでに述べたように、現在の「無線LAN連携」は、スマートフォンとの連携が中心だ。カメラで撮影した写真を、連携機能でスマートフォン側に転送する。


各アプリ・iOS版のアイコン。キヤノンのみ、3月末現在ではiOS版のみが用意されている

 どの機種もiOS、Android版のアプリをダウンロードして使う。ソフト名はそれぞれ「PlayMemories Mobile」(ソニー)、「CameraWindow」(キヤノン IXY 1)、「Movie Uploader」(キヤノン iVIS HF M52・ピクセラOEM)、「FUJIFILM Photo Receiver」(富士フイルム)、「Everio Sync」(JVC)。アプリはどれも無料である。記事を書いている3月末現在、キヤノンのみiOS用だけが公開されているが、4月末には、IXY 1用のアプリ「CameraWindow」のAndroid版も公開される予定となっている。


メーカーカメラソフトウェアiOSAndroid
ソニーDSC-TX300VPlayMemories Mobile
キヤノンiXY1CameraWindow-
(4月提供予定)
HF M52Movie Uploader-
富士フイルムZ1000EXRFUJIFILM
Photo Receiver
JVCGZ-VX770Everio Sync

■ Androidは「無線LAN切り替え」が楽、iOSは手動

 まず、デジタルカメラの方から見ていこう。

 連携の手順は主に2つになる。ひとつは、カメラとスマートフォンを無線LANでつなぐこと。もう一つは、転送を行なうこと。この順番やタイミングが、各機種の使い勝手の差になっている。

 一番簡単だと思ったのが、Androidのスマートフォン/タブレットへ、ソニーTX300VからPlayMemories Mobileを使って転送する方法だ。

 カメラを再生モードにし、画面の左下端にある「Wi-Fi」ボタンをタッチし、転送する写真の種別を選ぶと、後はアプリ側の作業になる。アプリがカメラの無線LANアクセスポイントを見つけるので、カメラ側に表示されているアクセス用パスワードを入力すれば、接続作業は完了。次回からは接続は、カメラを選ぶだけでいい。

 カメラ内で転送対象となった画像はアプリ側で一覧で表示されるので、転送したいものを選んで、転送を開始すればOKだ。

まずカメラ側で写真を表示、左下にある「Wi-Fi」アイコンをタップするその後、「この画像だけ」「この日に撮影した画像」「すべての画像」のどれを転送するかを選ぶ
アプリを立ち上げて、TX300Vの無線LAN接続を待機するTX300Vが見つかるのでタップ無線LANのパスワードを入力
パスワードはTX300V側に表示される転送対象になる写真が表示され、実際に転送したい写真を選ぶ

 重要なのは、デジカメ側の電源を切るなどして通信状態が終わり、アプリを切り替えれば、無線LANのアクセスポイントはカメラ連携前の設定に戻る、ということだ。別途無線LANを使ってスマートフォンに接続している場合も、無線LAN設定に一切手をかけることなく、アプリだけで作業が完結する。日常的には「アプリを起動し」「カメラを無線LANモードにし」「カメラを選んで」「写真を選ぶ」だけのシンプルさだ。

 若干の手順の違いはあるが、FinePix Z1000EXR用のFUJIFILM Photo Receiverも操作は近い。アプリを起動し、カメラ側で転送する写真を選んで無線LANモードにした上で、アプリ側で「接続する」ボタンを押すと、無線LANのアクセスポイントがカメラのものに切り替わって、転送がスタートする。

FUJIFILM Photo Receiverを立ち上げ、「接続する」ボタンを押せば、待機状態にあるFinePix Z1000EXRの無線LANと接続する。富士フイルムはパスワードを利用しないカメラ側で選んでおいた写真が順番に転送されてくる。転送が終わったら、そこから各種ネットサービスやアプリなどへ転送も可能
iOSで利用する場合には、どのアプリでも、まず「設定」の「Wi-Fi」から手動で無線LAN接続を切り替える必要がある。わかっていれば難しいものではないが、正直手間が面倒だIXY 1の「CameraWindow」。カメラ内の写真がサムネイルで一気に表示されるので、そこから写真を選んでいく。カメラ側で選んだものを待ち受けることもできる

 このように、Androidの場合、無線LANアクセスポイントの設定をアプリが操作できるため、実作業もアプリで行なえばいい。非常にシンプルだ。

 だが、iOSとなるとちょっと面倒だ。

 ソニーの場合もキヤノンの場合も、まずは最初にカメラ側を無線LANモードにした上で、iOSの「設定」から「Wi-Fi」を選び、カメラの無線LANへ自ら接続設定を行なう必要がある。繋がったらアプリに切り替え、アプリ側から操作を行なうわけだ。当然、作業が終わったらもう一度設定に移動し、切り替えを行なう必要がある(宅外などで、無線LANをその時使っていない状態なら、カメラの電源を切ってしまえばいいわけで、多少は楽になる)。

 富士フイルムの場合、アプリで「接続」ボタンを押す必要があるため、無線LANへの接続とアプリの切り替え、そしてボタンのタップと、ちょっとタイミング的に微妙な難しさがあり、慣れるまでスムーズに転送作業をはじめにくいと感じた。

 日常的な使いやすさという点で、アプリの作り以上にスマートフォン側のOSの制約が影響している、というのが、カメラの無線LAN連携機能の現状といえそうだ。


iOS版FUJIFILM Photo Receiver。アプリ側のボタンを押して転送をスタートするので、無線LAN設定からの切り替えでちょっと戸惑う。タイミングによってはエラーメッセージが出ることも

■ メーカーによって異なる「操作方針」、ソニーの「転送解像度制限」は不満

 メーカー毎の使い方もちょっと異なる。

 ソニーは基本的にアプリ側で転送する写真を選択し、富士フイルムではカメラ側で選ぶ。前者は「スマートフォン側での操作が中心」と考えており、後者は「カメラ側での操作が中心」と考えているのだろう。キヤノンは富士フイルム同様、カメラ側で選んだ写真を待ち受けることも、ソニー同様スマートフォン側で操作することもできるのだが、ユーザーインターフェース思想としては、やはり「スマートフォン操作」が中心なのだろう、とも感じる。

キヤノンの場合、「選んだものを受ける」「スマートフォンで選んでコピーする」の両方を指向。操作方法選択の自由度が高く、わかりやすい

 また富士フイルムのみ、無線LANでの通信の際、カメラとの転送で暗号化を行なわない。短時間しか使わないので他人に盗まれる可能性が低く、ユーザビリティ重視なら暗号化は不要、という判断なのだろう。暗号化は「するべき」とは思うが、他の用途に比べ悪影響が出にくいと考えられるのも事実で、判断のしどころだと思う。

 転送時にソニーだけが必ず画像サイズを圧縮する点は、一番気になった不満だ。スマートフォンへ転送する画像のサイズは「最大2Mピクセル」に規定されており、それより大きなサイズは圧縮してしまう。圧縮しない設定そのものがないのだ。

 他機種は転送サイズを変えられるのだが、そちらの方が正しいと思う。特に、第3世代iPadのような解像度の高いデバイスが登場した以上、今後はフル解像度で利用したいと思うシーンも増えてくる。「SNS向けなら解像度は低くてもいい」という発想はもったいない。TX300Vの場合、同じLAN内にあるパソコン(ただしWindowsのみ)に、カメラ内の写真を転送する機能もある。こちらでは解像度変換を行なわないので、スマートフォン連携でも同様にすべきだ。また、パソコンへの転送については、Macへの対応も望まれる。

 ソニー、富士フイルムとキヤノンの違いとして「カメラからの直接ネット接続」を意識していない点も挙げられる。TX300Vでは、スマートフォンやパソコンへの接続はできるものの、カメラから直接ネットサービスへアクセスする機能がない。おそらくは、カメラ側をよりシンプルに設計するためだろう。無線LANを「機器転送用」に割り切っているわけだ。

 FinePix Z1000EXRの場合は、パソコンと接続した時に自動的に指定のサービスへデータをアップロードする「指定」をカメラ側で行なえる「アップロード先設定」という機能でカバーしている。

 カメラ側にはTX300V同様、インターネット側への接続機能はなく「機器転送用」という扱いだが、カメラでマーキングしておけば、Windowsパソコンに画像を転送し、付属の管理ソフト「MyFinePix Studio」に取り込んだ段階でFacebookなどの外部サービスへの転送がスタートする。この点も他社と異なり「カメラからの操作中心」主義だ。やりたいことはわかるが、ちょっと回りくどい。パソコンから転送するなら、自分でやってもいいと感じる。


TX300Vでは、「PlayMemories Home」をインストールしたWindows PCに、カメラ内の画像を無線経由で転送できる。PlayMemories Homeはカメラに内蔵しており、USB接続でインストール。同時にパソコンとの転送設定も行なわれるFinePix Z1000EXRの「アップロード先設定」。フラグをつけておくことで、その場ではアップロードせず、パソコン側のソフトで転送する、という機能だ

 他方、キヤノンのデジカメは、カメラ側からネットへ接続し、写真をSNSに転送できる。パソコン側で同社のネットサービス「CANON iMAGE GATEWAY」に登録、このサービスを経由し、ウェブサービスへとアップロードすることになる。パソコン側で利用するサービスを選んでカメラへ設定を転送、カメラ側からはアイコンをタップしてアップロードする、という仕組みだ。

 日常的な簡単さと機器側のリソースの問題を解決するための仕組みだと思うが、コメントは事前にパソコンでつけたものしか使えないなど、スマートフォンで行なえることに比べ制限が多い。意欲的だが、これならばスマートフォン連携を中心にした方がいいのでは、とも感じる。


ネットサービス「CANON iMAGE GATEWAY」に登録することで、IXY 1から直接インターネットに繋ぎ、各種サービスへ写真を転送できるようになる利用できるウェブサービスは現状、CANON iMAGE GATEWAY、Twitter、Facebookの3つ。使うものを選んでカメラに設定する。この時にはカメラをパソコンへUSBで接続しておく必要がある設定が終わっているIXY 1。使うサービスのアイコンが登録されて、タップすれば転送作業ができるようになる。カメラ側での操作は至ってシンプルだ

■ 独自の工夫が光る「ビデオカメラでの連携」

 ビデオカメラである2機種は、それぞれ特徴的な連携となっている。どちらもiOS用なので、無線LAN接続は「設定」から手動で行なわねばならない。ここはカメラの時と事情は同じだ。

iVIS HF M52のWiFiメニューの中の「DLNAメディアサーバー」。これをタップすると、iVIS HF M52がDLNAサーバーになる

 キヤノンiVIS HF M52の連携は、DLNAを中核に据えたものといって良さそうだ。実は、アプリケーションはピクセラからのOEMとなっているが、これも、ピクセラがDLNA連携を得意とする企業で、iVIS HF M52では同社と協業して無線LAN連携を実現している。

 iVIS HF M52は、無線LANを介し、直接DLNAサーバーになる。カメラからこの機能を呼び出せば、DLNA対応のテレビやゲーム機、パソコンなどから、簡単に映像・写真を呼び出して再生できる。

 他方、iPhone/iPadとの連携も、技術的には「ファイルを手続きにしたがって取り出す」という、DLNAをベースにしたものと考えていい。ただし、ユーザーインターフェースなどはよりiOS的になっていて、「カメラに無線LANで接続し、ファイルをコピーする」という印象のものになっている。


iVIS HF M52用の連携アプリ「Movie Uploader」。無線LANでつながったiOS機器から、iVIS HF M52内の動画・静止画を見て表示する。メニューをたどっていってファイルを見つける流れはDLNAそのものだ
MP4設定で録画したデータなら「再生可能」である表示が出る

 カメラ単体のDLNAと、アプリ「Movie Uploader」を使ったiOS機器からのアクセスとでは、対応動画形式に違いがある。DLNAではAVCHDで記録した映像にも、MP4形式で記録した映像にも対応するものの、iOSからはMP4形式のみが扱える。これは、OS側が対応しているファイル形式の制限によるものだろう。iPadで動画を直接編集する、という経験はなかなか面白いのだが、MP4形式では1,280×720ドット/9Mbpsまでとなり、iVIS HF M52の動画撮影性能のすべてを生かせないのが残念だ。


 GZ-VX770は、今回紹介する機種の中でもっとも意欲的で変わった使い方をする製品だ。一言でいえば「サーバーになることで真価を発揮するビデオカメラ」だ。

 パソコンと連携するウェブカメラや定点監視用カメラでは、動いたものを自動撮影したり、屋外からカメラの映像を確認したりできる。GZ-VX770の場合、それが単体でできるのだ。無線LANに接続すればサーバーになり、パソコンからアクセスして設定できるし、監視などはアプリ「Everio Sync」から行なえる。できることが多い分、正直ちょっと難易度が高いな、とは思ったが、「イベントの時以外に、ビデオカメラをなにに使うのか」という命題に答える、面白い取り組みだと感じる。

パソコンからEverioの設定が行なえる。ルーターの設定のように、ウェブブラウザーで行なうところが、いかにも「サーバー的」カメラ、という印象だEverio内のメニューでも、無線LAN連携機能は大きくフィーチャーされているEverioのWi-Fiメニュー。様々な機能が並ぶところが、他機種の無線LAN連携とはちょっと趣が異なる
連携アプリ「Everio Sync」から遠隔モニターも可能。映像遅延はあるが、リモコンとしての反応は早い

 家庭のLAN内に入れるだけでなく、Everio Syncからコントロールすることで、外出時に「遠隔撮影モニター兼リモコン」として使うこともできる。リモコン操作遅延はあまりないが、モニターとしての遅延は1秒強ある感じで、実用性は限定されているとは思う。

 またこちらもiVIS HF M52同様、スマートフォンにはMP4形式しか転送できない。しかも、640×360ドット/1MbpsのMP4形式へ変換されてしまうので、そこは残念だ。



■ 「ウェブサービス」経由でカメラから直に連携する形にさらなる可能性が

 さて、まとめである。無線LAN連携は、まだはじまったばかりだ。今はデータ転送が中心になっているが、今後フォトストレージなどとの連携が強化されることで、一体感の強いものになっていけば面白い。

 機能の幅の広さという点ではビデオカメラの方がより高い価値を持つと思うが、スマートフォン連携という点ではカメラの方が、用途が見えている分だけ実用的だ。これは以前小寺信良氏も指摘していたが、家電連携に強いAVCHDが、ことネットワーク連携・スマートフォン連携では使いづらく感じる。

 本来は静止画、動画ともに、カメラからアップロードする機能がもっとあっていいのだと思う。だが、カメラ側での操作や設定の難易度などを考えると、それを本当にカメラ側が担当すべきなのか、という命題がはっきり見えてきた、とも感じるのだ。SNSやフォトストレージとの連携については、より操作・ネットワーク活用の自由度が高いスマートフォンなどに任せて、カメラは「撮影して必要な時に転送」することに専念する、という発想をつきつめるやり方もありだろう。逆に、GPS連携やUstream連携、簡易実況など「即時アップロードである良さ」をカメラ側に組み込めれば、スマートフォンを使わない分、新しい面白さが演出できそうだ。IXY 1でキヤノンが採ったウェブ連携の仕組みは、まだまだ作り込みは必要となるが、そういった柔軟性を実現する可能性を秘めている。

 どちらにしろ、無線LAN設定の切り替えなどをアプリから行なえるAndroid環境は、思った以上に使いやすいと感じた。iOS側でも、そういった部分へのアクセスを認める形になっていけば、同様の良さが実現できるはずだ。

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(2012年 3月 29日)


= 西田宗千佳 = 1971 年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う?世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ!クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(徳間書店、神尾寿氏との共著)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)などがある。

 個人メディアサービス「MAGon」では「西田宗千佳のRandom Analysis」を毎月第2・4週水曜日に配信中。


[Reported by 西田宗千佳]