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Kindle Fire HD 8.9インチは「コミック重視」?

担当者インタビュー&ショートレビュー

Kindle Fire HD 8.9。価格は16GBで24.800円

 アマゾンジャパンは3月12日より、同社サービスに特化したタブレット端末「Kindle Fire HD」の8.9インチモデル「Kindle Fire HD 8.9」を発売する。同端末は、昨年末にアメリカ市場に投入されたのに続き、2カ国目の導入となる。価格は16GBが24,800円、32GBが29,800円だ。

 同社が8.9インチモデルを導入する理由はなんなのだろうか? また、8.9インチモデルの出来はどうなっているのだろうか? 担当者インタビューと、実機のショートレビューをお伝えする。

コミックの見開き表現を最適化、工夫によって見やすさを実現

 アマゾン(Amazon)がKindle Fire HDを日本市場に導入したのは、昨年12月のことだ。ただしその際に販売されたのは、7インチモデルのみである。その1カ前には、電子書籍専用端末「Kindle Paperwhite」を発売開始している。それからほぼ3カ月が経過したことになるが、アマゾンは販売実績をどう評価しているのだろうか?

アマゾンジャパン株式会社 Kindle デバイス&アクセサリー事業部 事業部長の小河内亮氏

 アマゾンジャパン Kindle デバイス&アクセサリー事業部 事業部長の小河内亮氏は、次のように語る。

小河内:我々としても、非常に大きな期待を抱いてのスタートとなりました。商戦期ともぶつかりましたしね。申し訳ないのですが、実数をお伝えすることはできません。ですが、Kindle Fire HDは、2012年12月18日の発売以来、弊社で取り扱う商品すべての中でも、もっとも売れている商品になった、という事実だけで、相当な規模が売れていると思っていただけると思います。

 コンテンツについても、ローンチ(立ち上げ)の段階では総計で2,200万件であったものが、2,400万件まで増えています。書籍だけでも、5万件から8万件に増えました。我々はいたずらに数字を追うのでなく、お客様が欲しいと思うであろうものから増やす、というポリシーで臨んでいるのですが、特にコンテンツホルダーの方々からの反応が良く、増加に繋がっています。ローンチしてみると、Kindle Fireでのコンテンツ販売数量が増加し、「こんなに売れるのか」という驚きの声が上がっています。

Kindle Fire HD 8.9

 そこで、なぜ今回8.9インチを投入することになったのだろうか? 冒頭でも述べた通り、小河内氏によれば、Kindle Fire HD 8.9インチモデルが市場投入される国は、アメリカに続き、日本が二カ国目となる。昨年中は、アメリカ国内でも8.9インチモデルは人気が高く、数量に限界があった、という見方もある。数量の点について、小河内氏はコメントを避けたが、8.9インチモデル投入への流れについては、次のように語った。

小河内:7インチのHDを出してみると、日本でとても好調だった、という点があります。8.9インチを出すかどうかは、当初も社内で議論がありました。その点(7インチの好調)も考慮して、今回市場投入することになりました。この製品はディスプレイが8.9インチと他社製品に比べ若干小さくなっていますが、他社の10インチと比べて薄い、軽い。ちょうどいいサイズ、といえると思います。

本体右側面。電源ボタンやボリュームなどの操作系はこちらに集中している。薄さは8.8mmと、実は現行のKindleシリーズの中でもっとも薄い

 特に8.9インチモデルを日本でアピールしたい理由はなんだろう? その背景には「コミック」があるようだ。

小河内:コミックが非常に美しく表示できるのは大きなメリットだと考えています。

 ハードウエア的に見ると、アメリカ版と日本版には違いはありません。しかしソフトウエア面では、特にコミック向けのビュワーなどで色々なカスタマイズが行なわれています。内部で様々な処理を行ない、縁を切り落として表示するなど、コミックの魅力を最大限に生かせるようにしています。売り上げランキングでもコミックは上位にありますが、カラー版の「ワンピース」などは、とてもきれいに見えますよ。

 小河内氏の言う通り、8.9インチモデルは、特にコミックの表示品質が高い。

 8.9インチモデルの特徴の一つは、ディスプレイ解像度が1,920×1,200ドットと高いことだ。10インチクラスの製品でも、いまだ1,280×800ドットクラスのものは多いが、このくらいの解像度があれば、コミックを表示する際の精細度はかなり上がる。ppi(pixel per inch/インチあたりのピクセル数)で表すと、8.9インチモデルのディスプレイは254ppi。現行の9.7インチ版iPadが264ppiとなっている。

 ことppiだけでいえば、さらに上の製品はある。GoogleのNexus 10は、10インチ/2,560×1,600ドットのディスプレイを採用し、300ppiだ。

 だが、ことコミックを実際に表示する、ということになると、大きな違いが一つある。

 Nexus 10の上でKindleアプリなどの電子書籍ビュワーアプリを使った場合、各種ステータスや操作用のメニューなどの領域が用意され、画面全体を書籍データの表示に使えない場合がほとんどだ。例えばKindleアプリの場合、ホームボタンなどの領域の分が無駄になる。

 実際に表示させてみると、コンテンツの実画面の縦方向のサイズは、Kindle Fire HD 8.9インチと、Nexus10でまったく同じ。横方向のみ、Nexus 10の方が長い、という結果になった。Kindle Fire HDに比べると、Nexus 10は「額縁」が大きくなり、コンテンツに集中しづらい印象だ。

小河内:我々は、「コンテンツに集中してほしい」と考えています。それは、Kindle Fire HDも、Paperwhiteも同様です。そのために工夫を加えています。

 こういった点を考慮すると、Kindle Fire HD 8.9インチモデルは、特に「見開き表現」「カラー表現」を考慮に入れた、電子書籍コミックに向いたものといえそうだ。重量が40g軽く、16GBモデル同士であれば12,000円安いことを考慮すると、「コミック向け」であれば、Nexus 10よりKindle Fire HD 8.9インチの方が好ましい……と筆者は感じた。

Kindleシリーズ

ビデオストアは「今後の検討」、DLNAアプリなどの動作状況は良好

ディスプレイの発色は良好で、視野角も広い。色温度が低めなので、白は多少黄色みを帯びているが、長時間書籍を読むならこちらの方が良いだろう。映像を見る場合にも違和感のある色合いではない

 もちろん、動画などもかなり美しい。色温度は多少低めだが、視野角も良好で、動画クオリティは申し分ない。

 アメリカでは、アマゾンのビデオストアが非常に充実しており、特に8.9インチモデルは、ビデオストアの魅力とセットで売れていったところがある。だがしかし、日本ではまだビデオストアはスタートしておらず、その点で魅力に欠ける、という意見もあるだろう。

小河内:ビデオストアにつては、今後も検討を続けていきます。しかし日本の場合には、アプリストアからTSUTAYAさんのビデオストアアプリなどをダウンロードして利用することもできます。それらを体験していただく形でも、十分に魅力はご理解いただけるものと思います。

 動画という意味では、DLNAを使ったテレビ番組視聴も重要だ。アプリストアからTwonky Beamをダウンロードし、nasneとの連携を試してみたが、まったく問題なく、快適に動作した。安定度も申し分ない。実はこの点は、すでに7インチモデルで実証されていたことでもあり、驚くにあたらない点ではあるのだが。

 nasneはモバイル向けには480pの映像を配信するため、さすがに8.9インチ/1,920×1,200ドットというサイズでは、解像度の不足を感じるものの、Kindle Fire HD 8.9の液晶パネルの発色が良好であること、内蔵ステレオスピーカーの音質がタブレットとしてはかなり良質であることなども勘案すると、この組み合わせは悪くない。

本体底面。充電用のマイクロUSB(左側)と、映像出力用のHDMIマイクロ(右側)がある

 映像連携という意味では、HDMIマイクロ出力がある点も重要だ。アメリカでは、HDMIマイクロケーブルを使い、テレビにつないでビデオを楽しむ、という利用例も多かったようだ。

小河内:HDMI出力は見落とされがちなのですが、使いやすさという点で重要だと考えています。Facebookアプリでは、写真を取り込んで楽しめます。HDMIでテレビにつなげば、動画を楽しむだけでなく、こうしたアプリでの写真を皆で一緒に見る、といったこともできますから。

 ちなみに、Kindle Fire HDには、充電用のマイクロUSBケーブルを除き、付属品がついてこない。HDMIマイクロケーブルも、ACアダプタも別売だ。箱は本体が入るだけの、きわめてシンプルでコンパクトなものとなっている。

Kindle Fire HD 8.9のパッケージ。内容物はちょっとしたマニュアルとマイクロUSBケーブル、本体だけ

小河内:我々は「ストレスフリーパッケージ」を心がけています。「アマゾンは段ボール箱を無駄に使う」と言われることが多いのですが、各メーカーとも協力の上、できる限りシンプルで小さなパッケージになるよう、努力させていただいてはいるのです。特にKindleについては、ジェフ・ベゾスの思想がそのまま反映されているので、特にコンパクトなパッケージにしています。付属品が少ないのも、皆さんが必要なものだけを、という思想なんです。

 なお余談だが、アマゾンは自社の「段ボール」に並々ならぬ愛着を持つことで知られている。小売業として、この段ボールが顧客の手に「直接届く」ものだからだ。

 アマゾンジャパン本社のエレベーターは、写真のように段ボールパッケージを模したものになっているし、同社の至るところには、段ボールのモチーフがある。漫画「よつばと!」(あずまきよひこ著)に登場する「ダンボー」とアマゾンの段ボール箱を組み合わせたキャラクターは、同社のカフェテリアなど、いくつもの場所に描かれている。

 これは「社内用途」として正式に許諾を得て使っているものだという(ただし、同社の広告宣伝キャラクターとしての契約はなされていない)。

アマゾンジャパン本社のエレベーター。見慣れた同社の段ボール箱を模した装飾になっている
アマゾンジャパンの社内用カフェテリア「A2Z」
カフェテリアの柱をよく見るとアマゾン ダンボーの姿が……

8.9インチで「ステーショナリー」的な使い方も広がる?!

 8.9インチと7インチ、2つのモデルが用意されることになるが、アマゾンとしては、どちらがどのくらい売れると考えているのだろうか?

小河内:正直、どちらに転がるかわからない、というところです。結局お客様が選ぶものですから、選択肢が多いに越したことはないですよね。

 7インチと8.9インチには、それぞれ利点があります。特に8.9インチは、「ゆったり使える」のがいいところかと思います。メールが読みやすいんですよ。添付書類やドキュメント類を表示する時にも、横に持つと、ちょうどA4の幅くらいになって、あまりスクロールも拡大もしなくてすみます。弊社でも、「Amazon Cloud Drive」のようなサービスを用意しています。会社からファイルを持ち帰って閲覧し、また自宅から必要なデータを持ち出す……といった使い方もできるはずです。そういうステーショナリー的な使い方も、7インチより、さらにしやすくなると思います。

 ですからアクセサリーについても、サードパーティーさんと協力するなどして、キーボードなども充実していかないと、と考えています。

 ちなみに、Kindle Paperwhiteは、昨年11月の出荷時に欠品が発生し、ずいぶん入手待ちが続いた。8.9インチはどうだろうか?

小河内:実は私が(Kindle Paperwhiteの)担当でして……。欠品を出した時には社内でもかなり怒られました。ですから、7インチの時も慎重に、多めに手配いたしましたし、今回も同様に考えています。おそらくは大丈夫、十分に手配しているつもりです(笑)。

Amazonで購入
Kindle Fire HD 8.9

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41

臼田勤哉