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「PS4」でSCEが狙う「ゲーム」の構造変化

SCE アンドリュー・ハウス社長インタビュー

SCE アンドリュー・ハウス社長

 今回は、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)社長のアンドリュー・ハウス氏への、PlayStation 4(PS4)に関するインタビューをお届けする。

 SCEは、2月20日のPS4に関する会見でなにを語りたかったのだろうか? その疑問は彼らに聞くのが一番だ。ハウス社長が考える「次世代コンソール」の要素とはなにか、そして、どのようなビジネスが実現できると考えているかを聞いた。

デベロッパーのストレス軽減が目標、限界性能の可能性は後日アナウンスか

 PS4には色々な特徴がある。だが、まずハウス社長が強調したのは「ストレスのなさ」だ。

ハウス:プレゼンで何度も強調したことなのですが、まずデベロッパーのストレスポイントを減らすことです。もっと前向きに言えば、次のゲームの体験としてなにを目指すのか、というところを大事にしています。従って、ユーザーにはなんらかの形で、新しいゲーム体験のベネフィットが生まれます。

 PS3の問題点は、初期にソフトウェア開発が難しかった、ということである。そして後期には、チューニングノウハウが「PS3専用のものであり、効率が悪くなる」ことにあった。

 PS3の世代は「難航したプロジェクトが多すぎるのではないか」と考えるのは、筆者だけではあるまい。会見やゲーム誌などで何度も開発状況が伝えられているのに、いっこうにゲームが発売されない。ゲームビジネスでは、プロジェクトが頓挫して消えていくものは元々それなりにあり、それは別にPS3に限った話ではない(それこそ、スーパーファミコンの時代からいくらでもあった)のだが、特にPS3では、開発に何年もかかってソフトが出てこない……というものが目立つ。アートワークやゲームシステム開発の難航もあり、理由は技術的なものだけではないのだけれど、やはり「PS3というハードで、理想通りのゲームを作ることの難しさ」がハードルの一つであったことは間違いない。

 問題への対応は必要、とSCEも認識しているようだ。

ハウス:今回、(PCで一般的な)x86ベースになりましたので、本当にすぐ使える、すぐゲームがベストなクオリティで作れる環境を用意しました。これはこちらの勝手な予想ですが……。これまでの各世代のプラットフォームよりも早く、フルスペックなゲームを再現できるようになるといいな、と思います。なるべく良いツールであって、環境であること。よりラーニングカーブが低くなる仕組みとして、PS4を導入しようとしています。それによって、残念な結果を極力少なくしようと思っています。

 すなわち、開発が容易で、すぐにある程度高いクオリティが出せる開発環境の提供、ということだろう。CPUをx86系にしたことはその最たるものだが、一方で、他社機器やPCとの差別化が難しくなる可能性もある。また、SCEのゲーム機作りは、伝統的に「絞り出せば特別なことができる」、余力の多い部分にもあったはずだ。そういった点を、ハウス社長も否定はしない。

タッチパッド付のPS4新コントローラ「DUALSHOCK 4」

ハウス:ライバルがなにをしようとしているかは、噂ベースでしかコメントできませんが……。その点については、(完全に汎用なものと、まったく独自なものの)間くらい、とコメントさせてください。アーキテクチャベースだけではなく、人と人とのつなぎ方であるとか、PlayStation Network(PSN)に対するロイヤリティ(忠誠心)をどうやってつけるか、といったことは大切です。もう一つはインターフェース。PS4のコントローラー自体を、より幅広い人達が使えるようにタッチパッドをつけたことと、自分のゲームプレイをブロードキャストしてシェアできるようにしたことは、非常に大事な部分だと思うのです。

 すなわち、「x86であること」以外の部分の独自性が差別化戦略の根幹である、と考えているわけだ。ただし、次のようにも付け加えた。

ハウス:x86の上でも、我々向けに特化したGPUを搭載する予定です。なにより、開発者が喜んでいるのはGDDR5、8GBのメモリを搭載していることです。それに……、ある意味逃げるような言い方ですが、「まだまだ発表した段階」です。使いこなした時の可能性や性能の限界点については、あと、もうちょっと見てから、また、お答えしようと思います(笑)

 要は、「特別な使いこなし」「限界性能」などについては、今後語りたい、ということのようだ。そしておそらく、そこでカギを握るのは、PS4向けになんらかの特別な要素を持つGPUの側……ということになるのではないだろうか。

 性能が向上することは、ゲームのグラフィックを高めることにつながる。「ゲームにとってグラフィックはもう十分」という意見もあるし、ゲームを多様化する要素として、グラフィック以外の部分が重要である、という点をハウス社長も否定しない。

 だが、グラフィックの進化がもたらす要素について、ハウス社長は次のような言葉を使って説明した。

ハウス:十分な答えになるかわかりませんが……。
 今回は初期の発表ですから、まずいわゆる「コアユーザー」の方に、素晴らしいPS4で新たなゲーム体験ができる、ということにワクワクしてもらいたい、というメッセージを伝えるのが狙いでした。

 次のステップとしては、新たなユーザーやゲームにあまり興味を示さないユーザーに、コンテンツの良さをアピールする必要があります。そこでの武器として、モーションコントロールがこれまで果たしてきた役割は、いい例だと思います。体験自体が変わって、やりやすい・面白いといった情報を出すべきだと思っていますし、出すつもりでいます。

 一番大事なのは「それは見たことがない」「それはプレイしたことがない」「それは体験したことがない」ということでしょう。我々は責任感をもって、(PS4について)そういう点をアピールしなければいけない、と思っています。

 私がバックステージで何度もプレゼンを聞いていて、それでも心に響くのは、デイヴィッド・ケイジのプレゼンテーションです。

 今までのゲームだと「よりリアル」「フォトリアリズム」を目指していました。でも「それでなんなの?」ということですよね。デイヴィッドの作ったゲーム、私も「HEAVY RAIN」をプレイしましたが、とても感動しました。フォトリアリズムによって、単なるキャラクターではなく、人のように感動する、映画で心を揺さぶる俳優と同じように、五感を刺激するということが、次のゲームコンソールの目指すところでしょう。

 それがどれだけの人々に響くのか、という話はあるでしょうが、この要素によってゲームの本質が変わるのではないでしょうか。私自身は、ゲームにとって、一人の中年のライトプレイヤーだと思っていますが「そういう要素があるならぜひやりたい」と感じます。

ハウス:もうひとつ心に響く事件があったんです。企業名などは明確にできないのですが……。

 ある会社のトップが、あるゲームの開発途上のテクノロジーデモを見せてくれたんです。キャラクターをどのくらい精緻に表現できるか、というものです。ノン・プレイヤーキャラクターで、プレイヤーの同僚のような立場のものなんですが、とてもいい感じなんですよ。

 親しみをもって見ていると、一言言われたんです。

 「ねえ、彼を撃って殺せる?」

 いやいや、とてもできない、と思いましたね。いままでのノンプレイヤー・キャラクターは、結局キャラクター自分とはそんなに近くない。でも「彼」は友達のように感じたというか……。こういう要素はまだ「種」のようなものですが、非常に面白いと感じました。

 グラフィックの向上に加え、ストーリー性とキャラクター性。根っこは感動、ということだと思います。

 ハウス社長の言うQuantic Dreamのクリエイター、デイヴィッド・ケイジ氏のプレゼンテーションについては、PS4発表会に関する筆者のレポートの中で触れたので、そちらをご覧いただきたい。

「真に迫ったキャラクターによって感情への影響が変わる」という点については、大げさな物言いだと感じる人もいるだろう。そして、それをもたらすのは技術ではない、と思う人がいても不思議はない。

 だが、表現のための道具に自由度が増すことに価値は必ずある。ゲームというリアルタイム・エンターテインメントにとって、使える道具にはまだ制限があり、「据え置き型ゲーム機の性能進化」はその制限を取り払う一助である、というのが、彼の発言の本質だ。

 性能向上も開発難易度の低下も、結局はそこに帰結する。

PS4のリード・システム・アーキテクトのマーク・サーニー氏

 他方で、そうした要素の洗い出しには、PS4のリード・システム・アーキテクトを担当する、マーク・サーニー氏の力によるところも少なくない、とハウス氏は言う。

ハウス:マークとは長い間の友人です。彼の素晴らしいところは、アーキテクチャ技術に詳しいことに加え、自分自身がクリエイターとして長い歴史をもっていることです。両方の立場で、要求を聞き出す・要求を語る役割を果たせます。

 ただし、サーニー氏が主導することで、SCEの「ゲーム機開発体制」がまったく違ったものになった、という見方については否定している。

ハウス:マーク・サーニーがトップで、システム開発に重要な役割を果たしているのは事実です。しかし、テクノロジーの部分と全般のビジネスについては、従来同様、弊社の第一事業部が、全戦略を見ています。

 すなわち、ハード開発やビジネス開発といった部分はいままでのSCEのやり方で行ないつつも、デベロッパーの関係改善、そして必要な要素の洗い出しに関する部分について、よりデベロッパーに近しいサーニー氏を充て、チームとしてのバランスを修正した、というのが実情のようだ。

スマホの登場がゲームに影響、「セカンドスクリーン」化でゲームへのタッチポイント増

 性能向上と開発難易度の低下は、x86系に移行することで生まれる。では、それ以外の部分、新しいゲーム体験を目指す上で、PS4を開発する上で必要と考える要素とはなんなのだろうか。「主に2つの観点で議論した」とハウス社長は言う。

ハウス:この6、7年の間に、世の中が非常に変わった、ということは事実でしょう。あらゆるデバイスの使い方が変わったのです。極端な例ではありますが、アメリカでは、85%の人々が『セカンドスクリーン』を楽しんでいるといいます。

 あらゆる機器よりも没入感のあるゲームを提供する、「Best Place to Play」というゲーム機の役割はかわっていません。とはいいつつ、新たな生活・デバイスの使い方・ネットワークとのつながり方は、認識しておくべきことです。

 ハウス社長の言う「セカンドスクリーン」とは、テレビの前でスマートフォンやタブレットを使う行為のことを指す。急速に普及したスマートデバイスを使い、パラレルにコンテンツを楽しむスタイルだ。スマートフォンやタブレットは好きな時に、どこでもコンテンツやコミュニケーションを楽しめる。だからこそ、他のエンターテイメント機器を侵食しつつあるのだが、その要素をうまくゲーム機に採り入れることこそが必要とされている、という主張だ。

ハウス:ゲームの最高の体験というのは、なるべくPS4で直接感じていただきたいです。しかし、とはいいつつ、人は色々な時間帯で生活しています。他のデバイスとゲームの世界をつなぐことができれば、さらに面白いのではないかと思うのです。

 そこでは、そのデバイスに一番適切なつなぎ方で、プレイ環境を作るのがいいでしょう。つまり、ゲームプレイ自体はできなくても、『いま友達がゲームをプレイしている』『ゲームの中でなにが起きているか』といったことがわかったり、もっと経済的な話では、『欲しい』と思った時に、外出先でも友人からお勧めされたゲームそのものや追加コンテンツなどを買えるようになる。そして、帰宅すればもうダウンロードが終わっていてすぐプレイできる……。そういう発想が必要です。

 確かに、今までの超ハイスペック指向、グラフィックスのリアリズムも大事なのですが、ネットによって、マルチデバイスによって、新たな発想が生まれてくるものと思います。その中央にあるのはPS4、です。

 PS4では、スマートフォンやタブレットに専用アプリ「PlayStaion App」を入れて連携が図れる他、PlayStation Vitaとの連携も用意されている。ネットワークを介して各種機器とPS4が連動することで、ゲーム機の前にいない時間にも(自宅にいる時はもちろん、そうでない時も)ゲームのことを考えられる、ゲームのある要素を楽しめるようにしよう、というのが、PS4の一つの考え方といえる。

 他方でそのためには、PSシリーズのネットワークサービスであるPlayStaion Network(PSN)も変わらねばならない。

ハウス:おかげさまで、PSNは浸透してきました。ユーザーアカウントは1億1,000万まで伸びています。

 とはいいつつも、今、世の中で、人と人とをつないでいるのは、単純なオンラインプレイです。そういった背景で成功しているフランチャイズはたくさんありますが、それだけでちょっと物足りないのではないか……と思っていたのです。そのくらいの人達が、ゲームによって一緒につながって、新たな、極端にいえば「健全な」ネットワークのつながり方を目指すことができるのではないか、と考えています。

 ネットワーク要素は当然として、オンラインプレイを越えた人々の関係を作ることが、ゲームコンソールとしてのビジネスを広げる、という考え方だ。要は「SNS的要素」という点なのだが、ここでカギとなるのが「実名制」である。

ハウス:アノニマスな(匿名の)ネットワークは、もちろん、これまで通り必要です。それはキープします。しかしそれに加えて、Facebookなどで当たり前になっているように、本当の名前、本名でつなぐことができるのではないか、と思っています。

 なぜそれが大切なのかというと、まず「友達を探しやすい」ということ。また、本当に楽しんでいるゲームを実際の世界の友達にも知らせられる、ということです。これにより、据え置きのゲーム機であっても、まったく新しいゲーム体験が生み出されるのではないかと思っています。

 プレゼンテーションを担当した、リード・システム・アーキテクトのマーク・サーニーは、あらゆる世界のゲーム開発者と話をしました。そこで、まったく同じような発想が、彼らの側からも出てきたんですよ。

 要は、いかに「ゲーム」とのタッチポイントを増やし、多くの人に「今、面白いゲームがある」ことを知ってもらうかが重要、ということだ。人と人とのつながり、SNSに期待するのはそういう部分になる。

 別の見方をすれば、そうした要素によって、「まずゲームのことを考えてもらう」ようなプラットフォームを構築したい、というのがSCEの狙いだろう。BD再生などのAV機能は用意されるようだが、やはり「まずはゲームのため」なのだ。

ハウス:一つの文化として、いかにゲームのおもしろさや流行を広めるか、という話です。

 いわゆる「ネットワーク効果」(筆者注:ここでいうネットワーク効果とは、口コミなどによって価値が伝播する様のことで、IT的な意味ではない)が、今までの据え置き型ゲーム機ではフルに楽しめていないと思うのです。匿名のネットワーク上では限界がある。実名上でネットワークを作ることは、ゲームの良さを伝える上でもっと高い価値を持ちます。

 人々のコミュニケーションによって良いコンテンツが売れるようになる。そういう要素を、SCEはすでに「現在のPSN」で体験しているという。その要素をさらに拡大することを、PS4の世代では狙っている。

ハウス:最近我々は、ゲームのマーケティングの考え方を変えています。

 例えば、PSN向けの規模のダウンロード専用ゲーム「風ノ旅ビト」などの場合です。

 インディー系のゲームでも、我々が本当に「これはいい」と考え、ぜひ色々な人々に知らせたい、と思ったものの場合、そのゲームを、PS+のユーザーにまず無料配布して、認めてもらうというやり方があります。無料配布しても、その人達からクチコミで良さが伝わり、瞬間的に売り上げにつながることがわかっています。無料でダウンロードが増えているのではなく、そこから「有料ダウンロード」が増えるのです。そういうやり方は、もっと提供しないといけないと思います。

 もちろん、これまで通りの大々的なフランチャイズについては、こちらはどんどんマーケティング費用を使っていただきたい。要は、映画に近いような展開になっている、ということですね。

 これは私の考えですが……。ゲーム業界としては、まだ映画業界に比べれば若い。それに対して映画業界は何十年もの時間をかけて作った構造があります。ハリウッドのブロックバスター・タイトル(超大作)もあれば、インディー系やアートハウス系の作品もある。そうした所から時には大ヒットが生まれます。

 ゲーム業界にもそのような多彩な構造に近いものを用意し、なるべく新しいゲームの才能にも、出番が来るような形にすべきだと考えています。

 大量の宣伝で売れるゲームだけに着目するのでなく、比較的規模の小さなゲームプロジェクトも注目され、ヒットにつながるような継続的な仕組みを作る。PS3からPS4の世代で狙うのは、そうしたビジネス構造の変化だ。

 「インディー系」という言葉からは、既存のゲーム会社とは異なる「新興勢力」というイメージを持つだろうが、実際には、プロジェクトの規模感やフランチャイズとしての新奇性、と言い換えることもできる。日本でも、最初から数万本までの成功を狙った規模のゲームプロジェクトや、ダウンロード向けのプロジェクトも生まれており、そうしたものがゲームビジネスの裾野を支えつつあるが、その流れをさらに本格化したい、というのが彼らの狙いといえる。これは結果的に、家庭用ゲーム機ビジネスに活力を取り戻すことにもつながる。

ハウス:インディー系プロジェクト、というと、スマートフォンやタブレット向け、というイメージが強いのですが、我々としてはPS4を、彼らの「次の出口」としての位置付けにもっていきたいと思っているのです。

 今の日本のインディー系メーカーと話をしても、モバイルは確かにビジネスとして大きいのですが、彼らもクリエイターとして、(モバイルだけでない)別の出口を求めている、という声をよく聞きます。モバイル、ローコストの世界から、もう少し規模が大きくて、没入感のあるフルな体験の世界へという流れを作りたいな、と思っています。

PCで巻き起こる「配信」「実況」のトレンドをオリジナルハードウェアで

 PS4ならではの要素として、発表会で特にフィーチャーされたのが、コントローラーに搭載される「SHARE」ボタンと、それを使い、ゲームの動画を簡単に共有する、という仕組みである。その背景にあるのは、すでに述べたような「ゲームの良さを消費者側のコミュニケーションで広げる」という要素だが、それを実現しているのは、PS4に搭載された「第二のカスタムチップ」と呼ばれるものだ。

ハウス:その部分は、まさにPS4独自の部分だと思います。

 まったく同じことをできるPCというのはないんですが、他方で、ユーザートレンドとしては、似たものがすでに存在します。幅広い意味で、自分の写真や映像を人に知らせたい、というものがあるのは事実です。

 PCの世界では「Twitch TV」などでゲームプレイを配信する人々が大勢います。有名な人なら、平気で何百万人もの規模で視聴者がいます。PC業界のトレンドが据え置きでも起きる、とは必ずしも言えないのですが、このトレンドは面白いです。このトレンドは次の据え置きゲーム機にとって非常に大きなポテンシャルがあるだろうと思います。

 Twitch TVとは、欧米で人気の「ゲーム実況サイト」だ。日本ではニコニコ動画を使った実況が人気だが、同様の流れは当然世界にもある。そして、「世界」が相手だけに、そこが生み出す人の流れは大きい。YouTubeやTwitchでの「実況」による広告効果をビジネスとし、それで生計を立てている「メジャー実況主」も現れている、と聞いている。

 そうした行為はPCと画像取り込みの知識、そして手間がなければできなかったものだが、PS4はそこを「特別なハードウェア」の力を借りてカバーし、より一般に広げようとしている。

 リアルタイムでの「ネット視聴」の動きは、今回の発表自体にも影響を与えている。

ハウス:会見をニューヨークで行なった理由ですか? まず第一に、アメリカで発表することは、はじめてではないです。PS3の時もE3での発表でした。

 そもそもは単純な話で……。メディアの方には多少失礼に聞こえるかも知れませんが、英語の媒体とメディアマーケットを考えた場合、もっともどこで注目が集まるか、ということを考えれば、アメリカで、ということになってしまいます。

 しかし、我々がアメリカ市場だけに注目しているわけではないです。ご存じの通り、我々が強い市場はヨーロッパと日本。そういう意味で、マーケットのポテンシャルという意味では、必ずしもアメリカではない。

 実際、本当に単純な話で、時間帯を考えると、ニューヨークの夕方であれば、日本の朝に間に合います。ヨーロッパは多少苦しいですが、なんとかなる。

 特に現在はネットの時代。メディアのお客様はとても大事なんですが、プレイステーション・ファンが、直接ライブで見られるような形にすることが一つの狙いでした。世の中そこまで変わってきた、ということです。

 そして、こうした行為をゲームの売り上げに結びつけるには、理想的には「オンラインでのゲーム販売」の比率が上がる必要がある。そうなっていくことが一つの理想であることは、ハウス社長も認める。ただし、そうした流れが「どこでも一様に、急速に起こる」とは考えていない。

ハウス:私は、ダウンロードとパッケージは、両方大事だと思っています。

 特にブロックバスター・タイトル(超大作)の場合、データ容量がきわめて大きい。毎世代、ゲーム機が進化するとサイズが大きくなっています。PS4でもそうなる、とは必ずしも言えないのですが、トレンドは変わらないでしょう。大容量ゲームを一番便利に買えるのは、まだパッケージです。

 しかし同時に、ネット上でお知らせされたものをすぐ買う、という行動につなげるには、オンラインで購入するのが自然なものです。私は、最初の数年間はパッケージもダウンロードも大事になるだろう、と予測しています。

 あとは、地域によって当然変わるでしょう。ネットのバンド幅が良好な国ではオンライン販売のトレンドが広がっていくでしょうが、新興国は当面パッケージかと。幸いなことに、我々のビジネスは新興国で非常にいいトレンドになっています。従来ならば海賊版だらけであった国が、正規版を購入しはじめました。そういった国々は、まずはパッケージということになるでしょう。

 我々の指針としては、なるべくフレキシブルにやって、ユーザーが一番コンテンツにアクセスしやすい環境を用意しよう、ということになります。より便利なやり方として、ダウンロードとデジタル配信も大事にすべきだと考えているところです。

 新興国と先進国、そしてパッケージの考え方については、PS3からPS4への移行も関係している。

ハウス:ゲーム機世代変更に伴うトランジションについては、なるべくスムーズなものになるよう、がんばっています。

 オールソニーという意味でですが、全世界の小売店のリーチといった点で、新興国においても、ようやく「家庭用ゲーム」市場が流行はじめています。十分PS3の段階で、その市場をカバーできると考えています。

 我々の市場管理の面で唯一変わってきた点は、PSN、あるいはSony Entertainment Network(SEN)の存在感です。どんな世代のハードウェアであっても、PSNとSENによって、ユーザーとの関係をより深いものにできます。それをどううまく管理するか、これを我々がやらなければいけません。PS2の段階ではさほど重要ではなかったのですが。PS2は10年以上のサイクルを経て、最後には新興国を中心に売れました。そういうような形をPS3でも目指すと同時に、PS3ではどうやってPSNをコミュニティとして成立させるか。それが我々のチャレンジです。

互換は「長期目標」の間に、「フルゲーム体験」ができるまで提供はしない?

 他方で、「PS3とPS4」の関係を考える時、大きな問題となるのは「互換」だ。PS3とPS4はまったく異なるアーキテクチャであり、ディスクレベルでローカルな動作としては、まったく互換性を持っていない。そこでPS4では、「PS3のゲームを、ネットワーク越しに動作させる」、いわゆるクラウドによる互換を目指している、とされている。だが、ネットワーク越しで、本当に「ローカルでの濃いゲーム体験」と同じものは実現できるのだろうか?

ハウス:まず、確認しておきたいのは、「クラウド互換を取る」とまでは、我々の側として発表はしていません。我々が実現しようとしているのは、PS3のコンテンツに限らず、すべてのプレイステーションのコンテンツの互換性をクラウドで実現する、ということです。まずはPS3のコンテンツからスタートしますし、PS4はその1つのクライアントになります。しかし将来的には、PS4だけでなく、他のネットワークに接続されたデバイスでも、コンソールと同じようなゲームの体験を実現できるようにしよう、と考えています。あくまでロングターム(長期)での目標として、ですが。

 どれくらいのレイテンシー(遅延)になるか、サーバー負担をどうするかも課題です。今の段階では、申し訳ないですが、本当に開発中なので、これから定期的にどういう風にロールアウトし、どういうデバイスで使えるかをアナウンスしていきます。

 Gaikaiを買収した理由は、彼らがマルチデバイス向けの優れたクライアント技術を作れるからです。彼らも、クラウドで提供するとしても、本当にゲームのフルの体験でないと納得しなないメンバーです。ですからユーザーの皆さんには、その点はご安心いただきたい、と考えています。

 いつどのような形で、という具体的な部分はアナウンスできる状況にありませんが、まずはPS4向けにPS3のコンテンツから提供し、その後にロングタームの目標として、すべてのクライアントにすべてのプレイステーションコンテンツを、という形になるとご理解ください。これから順々に発表していきます。

 すなわち、「すぐ」の用意ではなく、じっくりと「最終的にすべてのゲームをすべての端末」で動かすことを目標に開発を行ない、その過程で「PS3のゲームがPS4でも、問題なくクラウド経由で遊べる」ことを目指す、という順番だ。

 PS4の一機能として「互換」のコミットメントを出すのではない、ということと、「将来の目標とする」という点のニュアンスのわかりづらさはある。だが、ハウス社長の言葉を信じるのであれば、「ローカルでのゲーム体験に近いレベル」になっった時に提供される、ということになるのだろう。その点は期待を持ちたい。また、Gaikaiを買収した際の評価点が、サーバー技術だけでなく「クライアント側」の技術にあることも見えてくる。PS4とVitaの「リモートプレイ」にも同社の技術が使われることはアナウンス済みであり、応用範囲の広い技術・ノウハウであろうことは想像に難くない。

 過去のプレイステーションユーザーが安心して移行できるようにするためにも、できれば無理な「買い直しに伴う出費」があまり発生しない形で、理想に近い互換が実現できることを望みたい。この辺りについては、SCE側の提供するサービス内容について、継続的な検証が必要となるだろう。

西田 宗千佳

1971 年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「漂流するソニーのDNA プレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う?世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ!クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(徳間書店、神尾寿氏との共著)などがある。  個人メディアサービス「MAGon」では「西田宗千佳のRandom Analysis」を毎月第2・4週水曜日に配信中。 Twitterは@mnishi41