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SCEアンドリュー・ハウス社長インタビュー

「地域にあった体験」「PS4世代ならではの体験」戦略とは

ソニー・コンピュータエンタテインメントのアンドリュー・ハウス社長。「PS4とVita TVを一緒に持って写真に写るのは初めて」なんだとか

 本連載ではおなじみとなった、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)社長、アンドリュー・ハウス氏の単独インタビューをお届けする。

 9月9日に「PlayStation 4」(PS4)の発売が「2014年2月になる」と発表された。その後、9月19日から22日まで東京ゲームショウ(TGS)が開催されたが、会場はPS4と「PlayStation Vita TV」を見たいと考える人であふれ、特にSCEブースには長蛇の列ができた。

東京ゲームショウのSCEブース。ビジネスデー・一般公開日ともに来場者が多く、一般公開日には行列しても遊べないほど人が集まっていた

 他方で、発売時期が「ソニーの母国」である日本で遅れることについて、あまりいい感情を持っていない人は多く、その点はTGS会場でも色々な意見が聞かれた。すでに、開発責任者を含め、複数のSCE関係者のインタビューをお届けしているが、トップであるハウス社長はどういう考えの元に決断したのだろうか?

 また、Vita TVを含めた新プラットフォームについて、どのようなビジネスプランを考えているのだろうか? TGS後、欧米でのPS4発売、そして、日本での発売までになにをしようとしているのかを聞いた。

PS4が2月になる理由は「PS4ならではの体験」の準備に

 SCEの戦略の中で、一番気になるのは「PS4が日本では2月発売」となったことだ。その理由はインタビューや会見などでも明かされているが、ハウス社長は、また別の切り口から解説してくれた。

 ポイントは「PS4世代のゲームの魅力」だ。欧米では特に6月のE3以降、PS4とXboxOneに代表される「新しい世代のゲームコンソール」に対する期待が高まっている。日本から見ていると、理解しづらいかもしれない。それは「ゲーム(の映像)がきれいになったから」というだけでは理解できないものである、という。欧米での支持の拡大と、日本での発売の遅延。両者は同一の流れにある。ただしそれは、「供給量」という単純な話だけではない、という。

ハウス:これらの件についてのいちばんストレートな答えとして、それらの問題は、テーマが絡み合っていると考えています。

 我々が現在狙っているのは「ゲーム専用機の付加価値観を再定義したい」ということです。

 幸いに、欧米においては、特にE3の後、ユーザーの反応からみると、コアゲームだけでなく、もう少し総合的なエンターテインメント向けの、リビングに置いておくデバイスとしての可能性がある、ポテンシャルが高い、と受け止めていただけけたようです。

 次に必要になるのは、日本国内で、どうやって同じような「復活劇」というか、モメンタムを作るか、ということだと思っています。ここに関連してくるのが、やはり「魅力的なコンテンツ」です。欧米にはネットワークマルチプレイのゲームを中心にしたフランチャイズがすでに揃っていますが、それだけでなく、本当に日本のお客様の心にひびくコンテンツと体験が揃わないと、我々の総合的なメッセージが届かないのでは、と懸念していました。

 この考えを日本市場への批判、ととられたくはないのですが、日本のゲームメーカーさんは、ユーザーが好むゲームのテイストが異なるために、ネットワークプレイを中心に置いたゲームを、メインのコンテンツとしては作り始めていない、という部分があります。

 ですからPS4ならでは、という部分が体験できるゲームが揃うには、もう少し時間がかかるのではないか。それは我々も正直に認めるべきだろう、と考えました。

 では、そういうタイトルの準備と体験はいつできるのか? 色々なゲームメーカーさんと協議した上で、たぶん、2014年2月、あるいは春くらいには、PS4ならではの良い体験が見えてくる、と判断したのです。

 2月発売と決めたことについては、これが唯一の理由です。

 あえて年内発売にして、「ゲームが少ない」「ああ、やっぱりゲームは携帯機やスマートフォンで十分だ」ということになっては、良いモメンタムを作りにくくなります。そこから状況を取り戻すのは、良い状態からモメンタムを作り上げるよりさらに困難なことです。

 PS4は、据え置きとしては7年ぶりに提案するプラットフォームになりますが、全社的な、非常に大きなチャレンジでもあります。技術的なもの以外にも、ユーザー体験・ユーザーインターフェース・ネットワークサービス・ゲームの品揃えまで、色々なことが絡みます。それをすべて提供するのが我々の使命です。しかし、そこで中途半端なメッセージを出してしまっては、さらに困難さが増します。それは避けたかった、ということです。

 我々の使命は、全世界のユーザーが喜ぶ商品と体験を提供したい、ということです。そのために一番適切なタイミング、ということでビジネス判断をしました。

 もちろん、コアなファンにとってはガッカリなメッセージである、ということは強く認識しています。だからこそ我々は、もう一度力を入れて、いい体験・いい商品を出したいと思っています。

 これで気持ちを収めていただけるとは思っていませんが、マーク・サーニーの作った最新作である「KNACK」を、日本版を購入する初期の全ユーザー向けに同梱することにしました。気持ちとしては、もちろん日本のユーザーを大事にしているんです。

 PS4の日本での発売延期は「ゲームが揃わないため」と言われてきた。それは実際その通りなのだが、単純に「プレイするゲームが不足してくる」だけでなく、そこで今後作り上げたい「新しいゲーム体験」の部分について、PS4の世代に合わせた開発をするには時間が必要、と判断された、ということなのだろう。

 そこでポイントとなるのは、「日本はなぜそこまで違うと判断されたのか」「日本の違うところはどこか」ということだ。一般には「アニメ的だ」「FPS(ファーストパーソン・シューティング)がヒットしづらい」「携帯ゲーム機が主力」などと言われるが、ハウス社長の挙げたのは、似た話でありながら、ちょっと切り口の違う話題だった。

ハウス:欧米では、ネットワークが中心になっているゲームが、ゲーム専用機でも膨大な数を売り上げるフランチャイズになっています。ですから、いままでの体験から、PS4世代の姿を想像しやすい環境があるんです。

 例えば……。タイトル名はあくまで「例」ですから、深読みや勘違いはしていただきたくないですが(笑)、Call of Dutyが、どこにいても、自分のスマートフォンを使い、ゲームの世界の中でなにが起きているのか、友だちがなにをやっているかがわかる、そして、さらに人と人のつながりを新たに作っていける、というのが、今世代のゲーム機の新たな魅力だと、私は思っています。

 ベースのゲームの体験が日本と欧米では若干異なる上に、「PS4の世代で起きること」が想像できるだけの環境も、若干異なっている。その両面の環境を考えると、2月発売にするのがベストだ、と判断したわけです。

 それは、いわゆる「洋ゲー」でPS4世代の体験ができればいい、ということではありません。日本のユーザーの方々が好むゲームにおいても、そういった体験ができる環境が揃わねばなりません。

 確かに最近、日本でもいわゆる「洋ゲー」のファンは増えています。これからPS3版が発売される「Grand Theft Auto V」の日本でも売り上げには、私も非常に期待しています。とはいいつつも、ムーブメントとしてみれば、(欧米で好まれるようなゲームが日本で大ヒットするようになるのは)まだまだこれから、というところだと思いますし、なおかつ、欧米で生まれたゲームだけで、日本のユーザーに対して、PS4のフルな可能性を見せられるとは思っていないです。

 すでにハマっている欧米産のゲームタイトルがPS4で出る、「それはすごい!買います!」っていうのは、すぐに判断できますよね。その上に、スマートフォンとの連携であるとか、ネットワーク上で本名でコミュニケーションをするであるとか、色々な体験ができて、さらなる期待感が高まる。

東京ゲームショウの基調講演で、PlayStation AppをデモするWWS・吉田修平プレジデント。手元のスマートフォン(Xperia Z1)で実際に操作してデモを行なった

 ではその「PS4ならではの世界」とはどんなものなのだろうか? ハウス社長は「一つの例が、TGSの基調講演で見せたデモにある」と話す。

ハウス:2月のPS4発表から、ずれない1つのメッセージを出しています。それは「スマートフォン対ゲーム機」という見方ではなく、(PS4で作る)新たな世界では、スマートフォンなどの自分がすでに持っているデバイスとゲーム専用機でしか楽しめないゲームとの「融合」という点。ここが大きく変わってくるということです。

 しかし、おわかりの通り、それをプレゼン資料やきれいな言葉の中で説明しても、なかなか響くものではないです。

 なによりも「このコンテンツで、こんな風に体験してみてください」という実例を見せて、初めて理解していただけるものです。しかもそれが楽しく見えることが重要です。「おお、それ、僕もやってみたい!」という気持ちを作り出すことこそが、我々がやるべきことです。

 そういう意味で、小さな例ではありますが、東京ゲームショウの基調講演の中でも一番重要だったのは、吉田(筆者注:SCE・ワールドワイドスタジオ プレジデントの吉田修平氏)がデモした「PlayStation App」です。あれは実機を使ったものとしては世界初のデモだったんですが、近くで見ている人達から「おお」という言葉が聞こえてきたのが、とてもうれしかったのです。「こういうことができるんですね」と、彼らにもピンときた、ということだと思うからです。

 英語では「Don't tell me, Show me.」というのですが、これからそんな例を増やしていかなくては、と思います。なおかつ、いままでずっと日本のゲーム業界で育った、素晴らしいフランチャイズを、そうした環境に反映するようなものを見せたいです。

 日本の場合には、そうした環境を理解してもらえるタイトルなどが揃うのが、2月以降、春にかけてだ、と判断したんです。

 TGS基調講演で吉田氏の行なったデモというのは、スマートフォン上のアプリ「PlayStation App」(AndroidとiOS用に公開を予定)を使い、PS4のゲームから配信された「ゲームプレイ動画」や友人のゲームプレイ状況を見つつ、PS4のゲームの一部操作も行なう、という形のものだ。こうしたことは、PS3・Xbox 360の世代から一部行なわれてきたが、PS4世代ではプラットフォーム側が積極的にサポートすることで、より一般化する。

 家にいない時にはスマートフォンでゲームの世界に関わり、家に帰ったりPlayStaiton Vitaを持っている時には、ゲームをガッツリと楽しむ……という形を想定している。そうした「複数のデバイスが関連して、いつもゲームに触れていられる」世界をきちんと提供できるタイミングが、日本と欧米では異なる……というのが、ハウス社長の主張である。

PlayStation Appの画面。他のユーザーのゲームプレイ状況やプレイ動画をチェックし、気に入ったらそこからゲームを買える
PS4メイン画面。ゲームについては様々なプレイヤーの「アクティビティ」も同時表示されている点に注目
同じく東京ゲームショウのデモより。PS4にバンドルされる「THE PLAYROOM」というゲームで、操作するだけでなく、PlayStaion Appと連携。スマホ側で描いた絵をゲーム側に反映したりもできる

「オンライン配信」の時代に、PS3時代からの積み重ねが花開く

 PS4世代で「ネットワークと連携した体験」がトレンドになる、ということには、もう一つ、背景となる出来事が存在し、それが日本ではまだ「薄い」ことが、受け止められ方の違いとなっている、とハウス社長は言う。

 そのトレンドとは「ストリーミングビデオ」だ。そしてもちろんこれは、Vita TVとも絡んでくる。

ハウス:もう一つ、これはVita TVとの関係になりますが……

 日本でまだはっきりしていないトレンドとして、ストリーミングビデオによる映像配信も絡んでいます。

「なぜこの世代(PS4・XboxOne世代)のゲーム機にここまでの期待が集まるのか」と聞かれて、私の読みとしては、PS3時代からの積み重ねがあると思います。

 PS3が出た当時は、機能的に、正直にいえば、ブルーレイプレーヤー+非常に優れたゲーム機、としての作りでした。そこから我々が非常に努力してPlayStation Networkを立ち上げ、ゲーム専用機から非常に広い機能を持つエンターテインメントデバイスになり「つつ」あります。特に、ストリーミングベースの映像配信が定着しつつある欧米では、こうした見方が一般的です。

 文化的な状況により、流行のきっかけはちょっと変わってきます。例えば、私がいつも例として挙げているのは、アメリカの場合、こうした部分はライブスポーツ配信に大きく影響を受けています。

 うちのアメリカのスタッフの例なのですが、彼はシカゴ出身です。そして現在サンフランシスコに住んでいる。どうやってシカゴの試合をライブで見るか? これがネットで解決されたのが、ストリーミング配信の魅力です。

 ヨーロッパでは、一人で使うゲーム機から、家族でリビングで使うものへとかわってきました。そのきっかけになったのはCatch up TV(筆者注:テレビ放送の「見逃し配信」)です。例えば、BBCのiPlayerであるとか、4 on Demandであるとか。その便利さを大画面で楽しめる、ということがとても大きなものでした。

 このトレンドは、まちがいなく日本でもやってくると思います。しかし時期的には、欧米とは違う。これも、これからのプラットフォームを見る上で重要な点です。

 だからこそ、Vita TVに「つなぐ」ことなのですが……。慎重に考えたのは、Vita TVを市場導入する際、タイミングとして、膨大なゲーム資産が整っていることは当然です。我々の言う1,300タイトルの、PS1・PSP・Vitaのタイトルです。しかしその上で、ちゃんとしたネット配信のサービスが揃わないと、我々の作りたい総合的なビジョンを提供できない。

 ですので提供を始める段階(11月14日)では、HuluやTSUTAYA TVを中心に、我々のVideo Unlimitedまできちんと揃ってから始めます。これならば、我々のビジョンも伝わる、と思います。

 若干脱線するが、実はこうしたことは、ゲームを含めたコンテンツビジネスが直面している、ビジネスモデルの変化と大きく関係する。ハウス社長は、PS4以降の世代でこうした変化が大きく関わってくるため、「本格的に取り組む」としている。そして、その中核にあるのが、ゲームにおいては「会員制」「Free to Play」的なものであり、映像においては「ストリーミングビデオ」だ。

ハウス:パッケージゲームを1度だけ販売して終わり、というところから、ビジネスモデルのシフトが起こっているのは間違いありません。追加コンテンツを販売して利益を大きくする、という柱と、会員制ネットワークによって付加価値がユーザーに見えるような形にする、という柱です。特に後者については、我々もPS4から本格的に取り組みます。

 その上で、ネットワークの規模は取った上で、広告や第三者のネットワークポータルとの連携、というモデルもあるでしょう。

 さらにその上に、現在起こっているトレンドとしては、ネットワークの規模が大きくなることで「オリジナルの映像コンテンツ」が最初にネット向けに登場する、という流れが広がっています。ネットワークが「コンテンツの再利用先」でなく、最初にコンテンツを流すチャンネルになります。すでにNetflixでは「House of Cards」というドラマシリーズを配信していますし、他のネット配信大手も同じような路線に入っていくでしょう。

 これによってテレビ局からの配信がなくなる、という話ではまったくない、と思っていますが、クリエイターの観点から見れば、自分のコンテンツをダイレクトにネットで配信するチャンスが増えるのは、非常にうれしいことです。我々もそうしたプレイヤーの一人になりたいと思っていますし、早期からそうしたことができる、ということを打ち出してきました。「One Sony」的には、すでに優れたテレビ制作の人材・資産がソニー・ピクチャーズエンタテインメントにありますから、すぐにも加速していくことと思います。

 ハウス社長の言葉に出てきた「House of Cards」については、若干補足をしておきたい。

 今年2月より、米映像配信大手Netflixは、初のオリジナルドラマとして展開している。それが「House of Cards」だ。制作:デヴィッド・フィンチャー、主演:ケヴィン・スペイシーで評判を呼び、今年のエミー賞でも最優秀ドラマ賞こそ逃したものの、9部門にノミネートされ、監督・撮影・キャスティングの3部門を獲っている。日本でも10月5日より、nottvで放送がスタートする。

 これまでNetflixは、映画会社やテレビ局からコンテンツを仕入れて配信する立場だった。日本でいえばTSUTAYAに相当する。だが、アメリカを中心とした会員数は2,700万人を超え、それだけではビジネスが伸びづらくなった。その数を背景に、「伝統的なケーブルテレビ局的なビジネス」の世界に乗り込んできた象徴が、「House of Cards」なのだ。

 伝統的なテレビ局でなく、ネット配信だけでこれだけのドラマが制作できて、しかもエミー賞まで獲る「本流」になってきたことが、アメリカでは大きな話題であり、「テレビとネットが同列になる時代がついにきた」とも言われている。

 PS4やVita TVが、パッケージメディアとネットメディアの橋渡しとなるプラットフォームになるとすれば、こうした動きには注目しておく必要がある。

1つのハードおよびプラットフォームを「地域にあわせて」展開

 話をVita TVにもどそう。だとすればVita TVは、ストリーミングビデオが強い欧米から始めるべきでは……とも思える。特に、Apple TVのようなセットトップボックスと対抗するのならばそちらが重要だ。だが、ハウス社長は別の戦略を示す。

ハウス:Vita TVがゲームファーストな製品である、というよりも、こう考えた方がわかりやすいと思います。

 Vitaの魅力のベースの一つはゲームの資産です。主にPSPとVita専用タイトルでしょう。我々が市場を分析した結果、まずはその魅力がすぐに響き、反応がいいのは、ポータブルゲーム専用機が一番流行っている日本。そして次にアジア、ということなんです。できるだけその強みを生かせる市場からスタートしたい、ということです。

 逆に言えば、これはポジショニングの話にもなりますが、仮に欧米でも出したとすれば、Vitaのゲームはもちろん大きい魅力ですが、むしろPS4への期待感を考えますと、PS4のリモートプレイを楽しむ、PS4のエクステンダーのような形が強くなるのかと思います。もしかして、メインとなるのはそちらかもしれない……と感じるくらいです。

 これは、SCEにおけるハードウエア・プラットフォーム戦略の今後を象徴している。同じハードウエアやプラットフォームでも、その市場への導入の方法や戦略は異なる、ということだ。

ハウス:間違いなく、プラットフォームは1つです。

 ですが、我々はコンテンツビジネスであり、体験のビジネスをやっています。それはできるだけ、国や文化の違いを踏まえた上で、それぞれの地域で強い1つのプラットフォームを提示できれば、と思います。

 一つのプラットフォームで、1モデルできるだけ売りたい、というのは基本。PS4はまさにそういう構造です。またVita2000(新型Vita、PCH-2000シリーズ)は、現状日本だけで発売します。海外展開などについては現状なにも言えないのですが、ポイントは「時期と地域に合わせた適切な導入の仕方」です。

 良い例としては、PS3の新モデルとして、12GBのフラッシュストレージを搭載したものがあります。これは先にヨーロッパで、229ユーロで売り出しました。元々、EUのローカルマーケティングからの要望で作って出したものです。アメリカではネットワークサービスへの要望が大きいので、大容量のHDDから切り換えてしまうのがいいのかどうか、という議論がありました。実際大容量HDDはかなりの売り上げの比率に達しています。

 他方、今度はさらにコスト低減により、アメリカでもマジックプライスである199ドルが実現できそうな道筋が見えてきました。ですので、ようやく「こんどこそ米国にも12GBを導入できるのではないか」ということになったのです。

 ベースとしては、できるだけ12GBモデルを全世界で出したいのですが、ユーザーニーズと時期と国の違いを考えた上で、プランを組み立てているわけです。

 先日お伝えしたVita開発者インタビューと、WWS・吉田プレジデントのインタビューの中で、彼らは「Vitaコア」と呼ばれるものの存在を明かした。要は、VitaのSoCとOSを使い、様々な機器を作っていこう、という戦略だ。Vita TVはその第一弾であり、今後もそうした存在が出てくるであろうことが予想できるが、SCE全体としてはどう考えているのだろうか?

ハウス:もちろん可能性としては否定すべきではないし、色々な可能性はあると思います。が、まず「成功例」を作るべきだと考えています。

 まずインパクトとしてあったのは、Vitaの素晴らしい内容が(Vita TVをもって)こんなに小さな中に入ってしまったことがあります。

 これは個人的な体験なのですが、自宅にVita TVを初めて持って帰った時に、妻が「はやく自宅用のをもってきて!」という反応だったんですよ(笑)。これで新しいユーザー層がつかめたな、と思いましたね。この小ささは、うちのエンジニア・スタッフともに、吉生さん(筆者注:Vita開発責任者である、SVP 兼 第2事業部長の松本吉生氏)の下で一生懸命努力した結果です。我々の商品企画の強みでもあると思っています。彼らの努力の結果です。

 他方、そこまでよくできた「コンパクトな据え置き型ゲーム機」があると、PS3やPS4とのビジネス競合(俗にいうカニバライズ)を起こしそうにも思える。

 だが、ハウス社長はそれも否定する。軸が「ハード」ではなく「PSN」にあるからだ。

ハウス:私は逆に見ています。これからのビジネスを考えると、中心にあるPSNのネットコミュニティをハブとして考えなくてはいけません。

 ハードウエアが大事なのではない、とはまったく思っていませんが、しかしそれでも、単独のハードウエアビジネス、一つ一つのハードウエアを売るよりも、こうしたPSNをハブとしたネットワークコミュニティのタッチポイントを増やすことが重要です。

 ユーザーセグメントによって、PSNという世界への入り口・タッチポイントは、多少異なっていてもいいと思います。価格も違いますし、ユーザーがなにを求めているかも、人によって違います。

 なによりも最先端のゲーム体験をしたい人には「はい! PS4です!」、昔はゲームもしていたけれど、今は正直お金をかけたくない……、でもビデオ配信にも興味があります、と言う人には「はい、Vita TVです!」という感じですね。その中間のお客様はPS3のお客様でしょう。結局はユーザーセグメントによって変わってくるということです。

One Sonyはまず「PSN」「SEN」から

 SCEとしても、複数のプラットフォーム展開が広がっていくことになるが、それと「ソニー本体」の連携はどうだろうか? Vita TVを見ると、機能面では必ずしもXperiaやBRAVIAなどと一体化しているようには見えない。「One Sony」の中でのSCEは、どういう方向性に向かうのだろうか。

ハウス:独自戦略をすすめているわけではないです。他の兄弟会社とも連携をとって、議論をしつつすすめています。

 ひとつ、非常に変わってきたのは、特にPSN・ソニーエンターテインメントネットワーク(SEN)を中心に考えることで、このところ努力してきたのは「ユーザーインターフェース」「ユーザー体験」の部分です。Xperiaであっても、PS3であっても、場合によってはBRAVIAであっても、同じアカウントの同じデータで楽しめる、ということが大きな進展だと思います。実際のルック&フィールについても努力しています。性能は大幅に異なる機器同士ではありますが、SENのストアフロントは、PS4であろうがPS3であろうがBRAVIAであろうが、できる限り同じように見えるよう努力しています。従来はバラバラだったのですが、多少は統一感が出てきたと思います。

 最後のポイントは小さなことに聞こえるかもしれませんが、「メッセージ」の出し方です。Xperia Z1のローンチにおいて、SENのマーケティングスタッフが努力しているのは、ネットワークサービスにおいて、いかに自らのメディアを売り出すための道具としてうまく使うか、ということです。ソニーモバイルと一緒にこの点も手を組んで、彼らの製品ローンチをサポートすることをやっています。

 そうしたことが連続的に起これば、もうひとつのOne Sonyの顔になります。

 OSの部分から言うと、多少異なる部分はあります。プレイステーションの世界はプロプライエタリなOSの世界で作られていますし、XperiaならばオープンなAndroidです。それによってできることは多少異なってきますが、ユーザーインターフェースやルック&フィール、サービスなどの統一感が出るよう、ソニーの全部門で、平井さんの体制下で、できるだけできるよう、力を入れています。

 そこに関連して、本来SCEからソニーに提供できる武器として、AndroidとVitaの架け橋となるソフトウエア・プラットフォームである「PlayStation Mobile」(PSMobile)がある。だが、現状ではAndroid上できちんとした差別化要因になっておらず、「ソニー側への価値反映」は弱い。SCEの武器としても、まだまだ独り立ちできる状況ではない。

 そうした点の改善はどう見ているのだろうか?

ハウス:2つの要素があります。

 1つは、この1年力を入れた、インディ系デベロッパー系のパイプを強くする、という効果です。PSMobileは、VitaもしくはPS3やPS4ネイティブコンテンツにインディ系デベロッパーが入っていくための「入り口」としての機能を強くしないといけない、と思っています。

 もう一つは、PSNをハブとして考えた場合、もっと強くしないといけないのは、PSMobileについても、PSNのコミュニティとしての強さを生かせるようにすることです。これからチャレンジすべきところですが。

 とはいえ現状でも、Androidの世界とネイティブ(ゲームコンソール専用)の間くらいにあるプラットフォームとして、PSMobileはまだまだ強い、使える位置付けの広いツールだと思っています。モバイルの世界で一番経験があるソニーモバイルと強く連携し、PSMobileが、Xperiaでもマーケティングツールとして使えるものにしていきたいと思います。要は、「One Sony」の逆のパターンですね。

南米ビジネスは離陸、中国は未知数ながら「熱意は大きい」か

 ゲームビジネスは成長の余地が小さくなった、と言われる。しかし別の見方をすれば、それは「先進国でのビジネス」についてだ。南米や中国など、ゲーム専用機ビジネスがまだ開拓中であるエリアは広く、そこの開拓が進めば、ビジネス規模はまだまだ大きくなる。特に中国については、政府側の規制により、ゲーム専用機ビジネスが制限されている。だが、近いうちに市場が開放される可能性が高い、と言われており、ゲームメーカーには見逃せない場所になるだろう。

 こうした市場をどう見ているのだろうか? ハウス社長は私見を交えて、現状を以下のように説明した。

ハウス:答えは非常に複雑ですね。それぞれの地域をワンパターンにやってくというのは、考えにくいです。

 まず南米。もう南米は「未開拓な市場」ではなくなっていると思います。PS3の世代で開拓できてきました。特に、5月には、PS3のブラジル現地生産もスタートしました。その効果が見えてきて、より適切な価格で販売できるようになってきた。このことだけでも、かなり違います。

 私がアメリカにいた頃からそうだったのですが、PS2の時代から、南米については2つの障壁がありました。一つは残念ながら、海賊版が多い市場であったこと。正式な流通と販売が整うまでに時間がかかりましたが、PS3ではようやくそれができあがり、市場規模がかわりました。もうひとつは、そうしたことで起きたことでもあるのですが、ゲームが子供のものから、大人もプレイする、エンターテインメントのメインストリームとみられるようになってきた。これはPS2時代に欧米で起きたことですが、それがようやく、南米でも同じムーブメントが起こってきた。すなわち「Game is Cool」という認識が出来上がってきた、というこことです。

 中国については、まったく違う市場です。ご存じの通り、販売について、政府の規制という全然違う障壁がありました。

 しかし、チャイナジョイ(筆者注:毎年7月に上海で開催される、中国最大級のゲーム見本市)に行って感じたことなのですが、そもそも中国ユーザーのゲームに対するパッションと関心は、非常に高い。しかし、市場構造によって、他国とは違うもの、PCのMMO RPGやFree to Playのゲームが中心になりました。

 私からは、中国政府の判断についてはなんともコメントできませんが、市場開拓については期待しています。

 ただ、その際のコンテンツ配信の仕方も大事です。これはあくまで私見ですが、他国のようにパッケージのビジネスがすぐに成長するものではないでしょう。なるべくネット配信とPSNを組み合わせて、中国ユーザーにフィットするようなビジネスモデルでの導入を検討しなければなりません。

 ただし、中国のユーザーも、ゲームに対する興味と関心が高いのは間違いなく、これは我々にとって、非常にいいサインですしビジネスのチャンスだと思います。

西田 宗千佳

1971 年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「漂流するソニーのDNA プレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う?世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ!クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(徳間書店、神尾寿氏との共著)などがある。  個人メディアサービス「MAGon」では「西田宗千佳のRandom Analysis」を毎月第2・4週水曜日に配信中。 Twitterは@mnishi41

臼田勤哉