西田宗千佳のRandomTracking

ソニーが考える「ウェアラブル」「ビジュアル」の進化

wearはエンタメ連携。ソニーのUXが変えるもの

 ソニーが復活するためには「ヒットする製品」が必要だ。そのためになにを大切にしているかは、同社・平井一夫社長のインタビューから、ある程度読み取れたと思う。

 では、実際にどのような施策を考えているのだろうか? ソニーに求められているのは、シンプルな「進化的」製品だけではないはず。ビジネスのルールを変えてしまうような製品であり、欲しくてたまらない「体験」のある製品であるはずだ。

 そうした観点で彼らはなにを試みているのだろうか?  ソニーの中には、そうした部分を部門横断的に手がける「UX」という部隊が存在する。昨年に続き、ソニー UX・商品戦略本部 副本部長の古海英之氏のインタビューをお届けする。

 また今年は同時に、ソニーモバイル・商品企画部門・UX商品企画部 統括部長の黒住吉郎氏のインタビューも合わせてお届けしたい。黒住氏は古海氏の元で、モバイルの立場からUXを考える人物の一人でもある。そして、今回CESで発表された、ソニーのウェアラブル・ライフログプロダクトである「SmartWear Experience」も、ソニーの「UX」が深く関わる製品である。日本で20日に発表されたテニス用センサー「Smart Tennis Sensor SSE-TN1」もその流れの一環にある製品だ。

 二人のインタビューからは、1年間にUX部隊がやってきたこと、そして、平井社長の言う理念をどのように製品に変えようとしているかが見えてきた。

ソニー社内を横断する「UX」

 具体的な話の前に、「UX」と呼ばれる部隊がどのような存在なのかを説明しておこう。ご存じのようにソニーは事業部制を敷いており、製品はそれぞれの事業部が担当する。だが、過去10年間のソニーは、事業部の壁によって社内が分断され、製品の魅力が失われ、効率が下がる問題に悩まされていた。これが、同社・平井一夫社長がいうところの「サイロ状態」である。

「アップルのように一体で」といえば簡単だが、総合AV家電メーカーとして非常に広い商品ジャンルをカバーせねばならないソニーのような企業にとって、事業部によってカバーするジャンルを分割していかねば、社内を統率するのは難しい。

 そうした状況を改善するために、事業部を横断した社内組織を作るのは一般的な策であり、ソニーでも幾度となく似たような施策が採られてきたのも、また事実。「UX」はその平井ソニー版……といってもいい。

 だが、いままでのソニーの「事業部をまたぐ施策」とちょっと違うのは、外部から見ても、きちんと実績を生みつつある、ということだ。

 もっともわかりやすい例は、NFCを使った「ワンタッチ」機能の横展開だ。Wi-FiやBluetoothといった無線通信での連携のフックをNFCに担わせて操作を簡便化する、というアプローチは、すでにスマホを中心に定着しつつあるが、その先鞭をつけたのがソニーであるのは間違いない。「すでに132モデルに展開し、消費者に受け入れられつつある」と古海氏も話す。機能をバラバラに実装するのではなく、ユーザーから見える「使い方」「名称」に統一感を持たせる、という方向性は、まさに「ユーザーエクスペリエンスの向上」そのものであり、「UX」という部署名そのものといえる。

ソニー UX・商品戦略本部 副本部長の古海英之氏

古海氏(以下敬称略):2013年までのソニーでの「UX」の役割というのは、非常にハードウエア軸に寄った「商品カテゴリー別」の考え方から、「Watch」だ「Listen」だ「Play」だ、というような、いわゆる「コト軸」に置き換えて、商品をまとめていくとどうなるか、という試みでした。例えば「Listen」だったら、ハイレゾでの音質を追っていくという質の面と、ということでありつつ、どこでも気楽に聴ける簡便さの面。その両方を追っていき、混ざった時にどう見えるかが、ソニーにとっていちばん特徴が出せる部分だと思ってやってきました。

 そういう展開は、ここ数回の大きなイベントで順次「Listen」「Watch」「Create」というキーワードで推してきて、今年のCESでは「Play」という形です。一つのコンセプトを出す毎にUXを打ち出していく……という道筋を作ってきたつもりなんです。

ソニーの今年のCESのテーマは「Play」。次の戦略への布石としてつけられたものであるようだ。

 ただ、ListenだWatchだというのは、いまでにあった製品の「プレミアム」的なものというか……、すでにソニーにあったものを中心に、「いままでにあったものをもっとよくしましょう」というものですよね。それはある意味で既存の延長線上。若干受動的なところがありました。

 では次の展開はなんなのか? ご説明したようなものを展開しつつ、次世代の構想を内部でずっと続けてきました。実は、CESのキーワードが「Play」なのはそういう世界への、若干の「つなぎ」という意味があります。

「テレビ」の枠から抜け出すのが次の戦略か

 ソニーからユニークな製品が出るようになってきた……という人は多い。だがその一方で、「いままでにない、ビジネスを変えてしまうような製品が必要だ」と言われることも多い。筆者もそう考える。「UX」部隊が次にやっていたのは、そういう製品につながる次世代の構想……ということなのだろう。

古海:方向性としては3つあります。

 一つは、いままでやってきたことの正常進化。クオリティの追求であり、VAIOならクリエイティビティの追求です。

 もう一つは、まだ構想段階で形にしようとしている最中なのですが、「Life Space UX」に代表される、いままでの受動的な「フレームの中に収まってください」という形から、もっと自由にコンテンツを楽しんでもらったり、コンテンツとコミュニケーションを融合させたりとか、そういう形です。Life Space UXもそうですが、BRAVIAでデモしているソーシャルビューイングもそうですね。コンテンツを見ながら、他の場所にいる友だちともちゃんと盛り上がれる……という感じで、説明しづらいのですが、概念的に言えば、「画面と自分が1対1である」関係を打破しましょう……という話をしています。

基調講演の最後には、「life space UX」というコンセプトが発表された。

 この辺は、文字だけで読んでも、なんのことかわかりづらいはずだ。具体的にすべてを表現した製品が出てきていない以上、筆者にしても、完全に理解しているといえるか、少々不安なところがある。だが、古海氏の挙げたデモ例から、ある程度の方向性は見えてくる。

 Life Space UXは、CESの基調講演で平井一夫社長が最後に発表したもの。製品的には、中核となる「超短焦点プロジェクター」があり、そちらに注目が集まっているためわかりづらくなっているが、そのデモで狙っていることは、単に壁に画面を表示する、ということの外にある。

 Life Space UXの本質は、壁面・天井・机にそれぞれディスプレイを配置し、それぞれの内容が同期して動く、という点にある。街の風景を表示している場合、壁にはメインの風景が表示されているが、天井にはその場所から見た星空が表示され、机にはその場所の風景とともに、音楽再生をコントロールするためのUIが表示されている。Life space UXの開発担当者は「これらの映像は集中制御されており、同期して変化する」と説明している。

CESでのLife space UXのデモ。街の風景を正面だけでなく天井や机の上にも映して、生活空間を「別の風景に溶け込ませる」ことを目指したものだった

「超短焦点プロジェクター」をのぞけば、一見よくある「プロジェクター連動デモ」なのだが、その狙いは、部屋の中にある複数のディスプレイが連動して特別の空間を生み出す……という点にあった。プロジェクターを使っているのも、「壁と映像の間の枠がなくなる感じが大切だった」(Life Space UX開発担当)からだ。

 もちろん、この計画は「デモ」だ。家庭の中で実現するのは、コスト的にも環境的にも困難である。だが、ソニーはテレビなどのディスプレイの方向性として、既存の放送やコンテンツを「枠の中に表示する」ものから離れたい……と思っているようだ。BRAVIA事業を統括する、ソニー 業務執行役員SVP ホームエンタテインメント&サウンド事業本部長 今村昌志氏も、「これからのテレビは、最終的に『枠』がなくなる」と話している。今村氏が言う枠とは「放送」の枠が軸だが、同時に「より良いディスプレイになる」とも言う。

 もう一つのカギは、やはりCESブースでデモされたウェアラブル端末「SmartEyeglass」だ。

ソニーのスマートグラスである「SmartEyeglass」。単色だが、明瞭で外界の見やすさを阻害しないこと、非常に軽いことが特徴

 メガネの両脇に仕込まれたプロジェクターから情報を投射し、現実世界に重ね合わせて表示するものだが、デモではグリーンの表示で、SNSの投稿やチームの情報などをサッカーの試合に重ね合わせる……というデモを行なっていた。ARによる情報拡張、という点ではこちらも珍しいものではないが、メガネの軽さや表示の明るさなどを考えると、可能性は小さくない。

 ディスプレイ技術を軸に、中に表示されるものの自由度を変えることで、「黒い枠」の中をのぞき込むようなテレビの世界から脱出できないか……。

 それがどのような製品にまとまるのか、現状ではさっぱりわからない。しかし、おそらくそうした方向性の追求が、ソニーが考えている「次のゲームチェンジャー」の一つなのだろう。

ウェアラブルは「自分中心」「エンタメ軸」で

 では「3つめ」はなんなのだろう?

古海:3つめは「自分中心」に世の中を見た時、自分がどうなっているのか、「自分が」楽しいのか、ということをどう表現するか、ですね。モバイルデバイス、今で言えばスマートフォンですが、そこを起点にして、一日中・一年中その人のそばにいて、そこで行う色んな活動、例えばスポーツをしたりコンテンツを楽しんだりということを、ソニーとしてエンハンスしてあげる・サポートしてあげる、ということです。キーワードとして明確に出来上がっているわけではないのですが、ある種「自己発見」的な領域があるかな、と。

 この「3番目」とは、ソニーモバイルが開発中の「Lifewear」コンセプトだ。すでに報道もされているが、振動センサーを使った活動量計とスマートフォンを連携させた、いわゆるウェアラブルデバイスである。色々報道もあるが、ソニーモバイルが公開しているコンセプトビデオを見るのが一番手っ取り早い。歩行などを中心に移動を記録し、その最中に聞いた音楽を記録する。

Lifewearコンセプトに基づく「Smartband」。手前の白いものが、センサーを内蔵した「Core」
Coreはバンドに埋め込んで使うのが基本。バンドにはなんの機能もなく、Coreが機能の中心だ

 その機能の全容は、2月末に行なわれるモバイルワールドコングレスで発表される予定だが、「生活記録」という観点で見ると、さほど珍しいものではないようにも思える。だが、実際に開発を担当している、ソニーモバイル・黒住吉郎氏も、それを認める。だが実際に話を聞くと、ちょっとイメージも変わってくるのも事実なのだ。

ソニーモバイル・商品企画部門・UX商品企画部 統括部長の黒住吉郎氏。手に持っているのは、CESで発表されたウェアラブルセンサー「Core」

黒住:これはUXの古海の元でやっているプロジェクトです。多分皆さん、「これがFitbit(注:スマホ連携対応のリストバンド型活動量計)などとどこが違うの? 」と思われると思います。正直、目指しているところに似ている部分はあります。はなっから全然違います、とは言えない。それを否定してはいけないでしょう。でも、ソニーならではのところはあるんです。

 ログを集めるために、現在はどうしても用途が先に来ます。「スポーツ」ですか? 「ヘルス」ですか? 「よく眠れましたか? 」か、と。もちろん重要なことですが、それでは生活のごく一部しか「見ていない」。日々の生活のすべてがソーシャル・ネットワークの「ソース」になるんじゃないでしょうか。

 SmartBandには、ボタンを搭載しました。これは、生活のなかで自分が「いいね!」と思ったことをブックマークしておくボタンなんです。僕は「逆いいね!」って呼んでいるんですけれど。

 Facebookでは、私がアップしたものに対して、友人から「いいね!」が押されます。

 でも、私からすれば、その記事や写真は「自分の小さい感動」もあるわけです。例えば、道端の小さな花の写真を撮る時は、自分の中に「いいね!」という感動があるからです。夏に汗をかいている時、クーラーの効いた電車に乗った時も「いいね」って思ったりするでしょう。そういう瞬間も「いいね!」と憶えておきたい。

「Lifewear」コンセプトの中核となる「Core」と呼ばれるデバイスは、腕に巻くウェアラブルデバイスである「SmartBand」の中に埋め込まれている。これには加速度センサーとBluetooth LEの通信モジュール、情報を蓄えて処理する軽微なシステムに加え、3つのLEDと「ボタン」があるだけだ。このボタンを押すことが、その場所で自分が感じた「いいね!」を記録していく行為になる。こうした行為が「人から評価してもらう」のではなく、「自分で自分の行為を評価する」ことにつながっている……というのが、古海氏・黒住氏の言う、Lifewearのあり方でもある。

黒住:これまでのウェアラブル端末は、あまりエンターテイメントを意識していなかったと思います。ウェアラブル端末の本体だけではかなか実現しにくい。

 そこはスマートフォンとの関係で処理しよう、と考えると、Xperiaを手がけているソニーモバイルがこの製品を手がける必然性が出てくるわけです。Xperiaの持つエンターテインメント性を、スマートウェアでそれをもう少し延長することができるんじゃないかな、と考えたんです。

 ウェアラブル端末って「飽きる」じゃないですか。そこへの答えもエンターテインメントにあるんじゃないかな、と思ってるんですよ。

 あくまでアイデアですが……。ゲームのようにアチーブメントをつけてあげる。今でも「何キロ走りました」とか「何日連続で運動しました」という、前向きなものはありますね。でもエンターテインメントなんだから、後ろ向きでもいいですよね。「3日連続睡眠不足です!」とか、「全然歩いていません!」とかね(笑)。エンターテインメントなら、そのくらいやっても許されると思うんですよ。

「詰め込み」主義よさようなら、狙いは「人との距離」

Coreは親指ほどもない、コンパクトなもの。「つけ爪」を意識したためか、かなり薄い。「本当は注意書きなどの文字もなくしたかった」(黒住)のだとか

 黒住氏は、Coreを指して「つけ爪みたいにしたかった」と話す。今のCoreはつけ爪ほど小さいものではないが、イメージとして「つけてしまったら意識せず、常につけ続ける」くらいにしたかった

黒住:これまでスマートフォンをやっていた私が言うのもなんですが、この手のデバイスはまだ、人間との距離があると思っています。スマートフォンや携帯電話は、24時人間のそばにあるデバイスですが、それがどんどんスペックばかりを追い続けてしまい、人間との距離ができてしまうのではないかと感じています。

 その技術を、私たちは生活のちょっとした「延長」に使いたいんです。「ちょっとつけていれば、いろいろ変わる」というのがSmartwear。それがあることで生活も変わる、みたいなものですね。ここでは、ソフトウエア(ware)と着る(wear)をかけています。ちょっとした思いつきなんですけどね。

 技術はどんどん進化します。今の世代では(指でつまみながら)こういう形でしか成立していませんが、将来はこの形で通信できるようになるかも知れない。その時は、ここからダイレクトにクラウドにアクセスする機能を持たせればいいでしょう。

 ただ、そうした未来がくる前に端末だけで完結させようとしてしまうと、それは「常時装着しておくには難しい製品」になってしまう。

 ディスプレイをなんでつけなかったの? と言われますが、どうせスマートフォンが拠点になるなら、通信モジュールだけでいい。今はGPSも入っていません。設計からは「GPSも入れられるよ」と言われましたが、それで5mm長くなるならいらない。バッテリーも倍以上積まなければいけなくなりますし。これまでのスマホは「詰め込め詰め込め」でやってきましたが、今の世代ではそうじゃない視点で見ましょう、という話をしています。大きくなっちゃ意味はない。

 そんな中での「こだわり」の形を、ちょっと笑いながら次のようにも説明する。

黒住:人によって、つけてもらう時に快適な方法は違うと思うんですよ。バンド型がいい人もいれば、ネックレスがいい人もいるかも知れない。

 同僚の中に、非常に時計にこだわりがある人間がいるのですが、彼は「時計とこれと2個つけるのはいやだ」といって、バンド型に強固に反対したんですよ。

 でもですね……。憶えていらっしゃいますかね? 昔、時計のバンドにつける「カレンダー」ってあったじゃないですか。アルミの。あんな風にCoreを時計のバンドにつければ解決するんじゃないかな? とも思うんです。または、時計メーカーとコラボレーションして、Coreが入るバンドを作っていただくとか。

 できるかぎりシンプルかつ小型にして、脱着式を採用したのはそのためです。

すでに発売済みの「SmartWatch2 SW2」にCoreを当ててみて、「時計のバンドについたセンサー」をイメージ

 他方で、すでに述べたように、CESの段階では、Lifewearコンセプトはまだ完成していない。ソフトウエアを含めた方向性は開発中である。こうした方向性がどのように「ソニーらしいエンターテインメント」に結実するかは、もう少し状況を見てから判断したい。

 ソニーとしても、こうしたビジネスの取り組みははじめてのことである。ウェアラブルから生み出されるビジネスは、他にもまだある。CESで参考展示され、1月20日に日本で改めてビジネス展開が発表された「Smart Tennis Sensor」もこれにあたる。現状ではまだソニーモバイルのライフログと連携していないが、「生活の中での記録を楽しみに」という意味ではつながった製品であり、UX部隊が関わる商品群の一つでもある。

ソニーが発表した「Smart Tennis Sensor」。写真はCESでのもの。ヒットした位置などのログを取り、可視化する。日本では5月下旬の発売が決定している

「箱から出した時の体験」「フォント」「広告」を統一せよ

 古海氏は、UXを通じたソニーの変化を、また別の切り口でも説明する。

古海:いままでのソニーは、「一個の箱」をお客様にお届けしてなんぼ、その先は繋がりがない、というビジネスをしていました。しかし現在は、その商品を楽しんでいただきつつ、それを入り口に新しい世界、お客様との継続性のあるリレーションシップを築く、という点を重視しています。

 そのわかりやすい形が「Out of the box Experience」と社内で呼ばれる活動だ。箱から空けた時にマニュアルが積み重なっていたり、美しくない袋が見えたり、といった「良くない体験」を減らし、レジストレーションやソフトのインストール時の画面遷移が、どの製品でも同じように「快適」になるよう努力しているという。

 それと平行して、ソニー社内のデザインセンターで進められていたのが「SSTフォント」、社内で通称「ソニーフォント」と呼ばれる独自フォントの開発だ。SSTフォントの開発については、ソニーがウェブ上で詳しくレポートしたドキュメントを公開しているので、そちらをお読みいただくのが早いかもしれない。

・SSTフォント・レポート
http://www.sony.co.jp/SonyInfo/design/works/projects/sst-font/

古海:小さいスクリーンから大きなスクリーンまで色々な商品がありますが、現状ではフォントに翻弄されています。そこで世界観がばらばらにみえるのは良くない。また、フォントライセンス的な領域もあります。

 やるならば、UIの一環として投資に値する領域である、ということで、2年くらい前からですかね……、デザインセンター主導で開発がスタートしました。UXが担当しているわけではないですが、連動する形で進めています。

 現状、SSTフォントはPS4に搭載されているが、今後はスクリーン上からパッケージに至るまで、色々なところで使われていくという。ただし、筆者の目から見ると、一部の文字の字形を含め、日本語フォントのクオリティにはまだ難がある、と感じる。その点について古海氏は「フィードバックをうけて、時間をかけてやっている段階」と説明する。

古海:「UX」ができてよかったこととして、(広告・デザイン系の)クリエティブと商品企画系が近くなった、ということが挙げられます。まだ100%とは言えませんが、各部隊で連動性がはかれるようになっています。

 そうした部分で共通性を出すには、流れ作業ではダメなんです。企画とクリエイティブとが膝詰めで、高速に改善を回すプロセスを作ることが重要です。会社全体としても、クオリティのチェックポイントがいくつもできてきました。実際、平井も自ら口を出していますよ。そうした部分で、共通性を出そうと努力しています。

CES会場外にあったソニーの広告。今年はシンプルに徹しており、他社の広告と一線を画する印象だった

 ちょっとしたことだが、それはCESでの広告にも現れていた。CESでは「世界最大の」とか「世界最軽量の」というキャッチのついた製品が多く、広告でもそれが目立つ。だがソニーはそうしたキャッチを一切止め、商品+白バック+1フレーズに統一している。「こういったことが定着すれば、どの広告もソニーのものだ、ということがわかるようになってくるはず」という、デザインセンター側からの提案に基づくものだという。こうした手法は、ブランドものでは珍しくないものだが、家電ではアップルなどごく一部の企業だけが採っている手法だ。ソニーもそれに倣い、自分の軸を作ってアピールする作戦に切り換えた、ということなのだろう。

サードパーティの窓口を統一して「プラットフォーム」の価値を高める

 美観とは違う部分についてはどうだろう? 古海氏はキーワードとして「継続性」を挙げる。

古海:一回商品を出しても、その後継続して進化、見える形で展開していかなくてはいけません。それが「WOW」につながるはずです。

 そうしたことを実現するには、ソニーだけではだめでしょう。やはり自由度がなくてはいけません。全部をソニーではできない。ソニーが不得意であったり、てがけていない領域を全部を自分でやるかというと、そうではありません。

 そのために、サードパーティーとの連携の可能性も開拓しなければいけません。

 一番いい例は、Xperiaのカメラアプリでしょう。Xperiaでは、カメラのメニューからサードパーティーの画像処理アプリを追加できるようにしています。今後のウェアラブル機器でも、SDKを公開してプラグインを追加できるようにしていきます。

 ソニーにとっては、プレイステーションもある、ソニーモバイルもある、VAIOもある。オープンプラットフォームビジネスの領域がどんどん増えているのです。

 いままで、こうした部分での窓口は、カテゴリ毎にバラバラでした。ここも融合します。少なくともモバイル機器でいうと、VAIO・Xperiaでは一元化が進められており、デジタルイメージングの部隊にも展開しています。現在、デジタルイメージング向けのロードマップを作成中です。

 すなわち、ソフトウエアのデベロッパーがソニーをパートナーとしてビジネスをする際の窓口も一元化され、各製品内での「プラグイン」「追加アプリ」の可能性を加速する施策を準備中、ということだ。

 筆者は、この施策がもっとも重要なものだと感じる。

 ソニーは色々な製品を持っているが、それぞれがプラットフォームになり得る可能性を持っている。しかしこれまでは、「可能性」だけで、それを広げるノウハウが欠けていた。ゲームプラットフォームを運営するSCEは、その出自からなんとかうまくやってきたが、他は失敗続きだ。

 今後、自社の製品の価値をいかに広げるのか。そのカギは、「自社だけではできない」ところが、いかに育つかにある、と筆者は考える。UXが本当に「ソニーの社内横断組織」としての成功を収めるには、これまで難しかった「プラットフォームとしての価値開拓」に掛かっているのではないだろうか。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 個人メディアサービス「MAGon」では「西田宗千佳のRandom Analysis」を毎月第2・4週水曜日に配信中。 Twitterは@mnishi41