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Xbox Oneを支える「素晴らしい立ち上がり」と「顧客重視」

米マイクロソフト Xbox 担当者インタビュー

 今回のE3は、Xbox One・PlayStation 4(PS4)世代の元気さが目につく。数の上でPS4に比べ不利、と言われるXbox Oneだが、少なくともショーフロアで見る限り、勢いとして弱さは感じない。

 では、マイクロソフトはそのあたりをどう評価しているのだろうか? そして、発売以降の「変化」はどういった経緯でもたらされたものなのだろうか? そして、9月に控えた日本参入の準備はどうなっているのだろうか? 米・マイクロソフト Xbox PR担当のDavid Dennis氏に話を聞いた。

米マイクロソフト David Dennis氏

立ち上がり速度には満足、ゲーマーは「コンソール」を選んだ

-欧米で発売してから半年間での、Xbox Oneのビジネスの状況がどうか、マイクロソフトとしての分析を聞かせてください。

デニス氏(以下敬称略):現在までの結果にはとても満足しています。Xbox 360の発売から半年間の売り上げと比較すると、Xbox Oneの販売量はXbox 360のそれより、76%も多くなっています。ローンチからの勢いは、過去の2世代のXboxよりもずっと良いものです。

-ライバルとの競合状態についてはどうですか?

デニス:ソニーはとてもすばらしいローンチ(市場立ち上げ)をしたと思います。彼らを祝福します。そして、我々も素晴らしいローンチができたと考えていますよ。

 2年前のことを思い出してください。多くのメディアは「コンソールビジネスは死んだ」と書き立てました。しかし、ソニーとマイクロソフトはともに、そうした言説が間違いだった、と証明しました。

-その意見に私も賛成します。Xbox OneとPS4でコンソールゲーム市場が復活したのはなぜだと考えていますか?

デニス:ゲーマーが、やはりゲーム目的のコンソールを、テレビという、家庭で一番大きなスクリーンに向かって、ゆったりとプレイすることを好んでいたからではないでしょうか。

 モバイルやタブレットなどについて色々な言説がありました。これは私の考えですが……。家族は皆、それぞれのスマートフォンとタブレットを持っています。ですから「ゲーマー」という人々の数はずっと多くなっています。ちょっとしたゲームをやるなら、そうした機器が中心でしょう。しかし、ソファに寄りかかり、大きなスクリーンでゲームを楽しみたい、というニーズは結局衰えなかった、ということでしょう。

E3 2014のマイクロソフト プレスカンファレンス

-Xbox One世代は、Xbox 360世代からの移行が、これまでのコンソールにないほど素早く進んでいる印象を受けます。昨日のカンファレンスでも、Xbox 360向けゲームに関する言及はほとんどありませんでした。なぜこの世代は、こんなに早く移行が進んでいるのでしょうか。この移行スピードには満足していますか?

デニス:非常にローンチが好調で、移行速度が速いことには満足しています。Xbox Oneは、特別な体験を実現できるだけ、十分にパワフルなものです。ブースに展示されているゲームをご覧いただけば、ご納得いただけると思います。そして、クラウド技術を組み合わせることで、世界をより広く、AIをより賢くできます。クラウドは、クラウドストレージとしても、処理系にも使えます。コンソールだけでできることに留まらず、コンソール+サービスで、より新しい体験ができます。

 我々にとって最優先な仕事は、Xbox 360ユーザーに新しい価値・世界をご提供することです。そして、他のコンソールを持っている方々にも、同様の「アップグレード体験」を提供することです。以前の体験の話をするのでなく、これからの新しいエンターテインメントに目を向けていただくために、(Xbox Oneに)フォーカスを定めたのです。

「オールインワン」の価値は不変、地域の「違い」に着目

-他方、マイクロソフトは昨年、コアゲーマーとテレビを中心としたエンターテインメントの両方を訴求しました。しかし、今年は「ゲーム」に特化したメッセージングになっています。そうした理由はなぜですか?

デニス:我々は、いまだ「オールインワンシステム」の魅力と可能性を信じています。しかし、E3は「ゲーマー」のために、ゲームについて語るためのイベントです。ですから、今回はゲームの話だけに絞ったのです。

 しかし、我々のシステムの持つ独自の価値は、他のコンソール、PS4とは違うものです。テレビの上でよりバラエティ豊かなエンターテインメントを体験できます。そうしたシステムの可能性について、現在もグレードアップを続けています。

 とはいえ、E3はゲームについてより多くの投資を行ない、今年から来年にかけての素晴らしいラインナップを紹介することに時間を費やしました。ソニーのゲームと我々のラインナップを比較していただければ、より強力なラインナップであるとご理解いただけると思います。

-Kinectについてはどうですか? 今週は、Kinectをバンドルしない、より手に取りやすいモデルの発売週でもあります。Kinectに関する投資やゲームの開発も、変わらず継続されると考えていいのでしょうか。

デニス:Kinectについても、特別な体験を提供できるものだと、その可能性を確信しています。声でゲームを起動したり、アプリケーションを切り換えたりする機能、声でテレビのチャンネルやボリュームを変更する機能といったものも、十分な価値があります。子供でも「Xbox、ディズニーが見たい」と言えば使えてしまう簡単さは、一度慣れると元に戻れないと思うのです。メディアや消費者の皆さんには、「Kinectのないモデルで使えなくなる機能」についてもご説明しています。Skypeでのビデオチャット、声によるコマンドといった価値も重要です。

 そうした価値を、消費者が「オプションの一つ」として選べるようにした、とご理解ください。価値と価格に合わせて、Kinectありとなし、どちらが売れるかが決まってくるでしょう。

 もちろん、これからもKinect向けの投資は続けますし、ゲームも開発します。ショーフロアでは、Kinect向けに作られたいくつかのゲームもご覧いただけます。

-ゲームファンは、PS4とXbox Oneのどちらを買うか、迷っています。ゲームに割けるパフォーマンスの違いから、PS4を選ぶ人もいるようです。その点をどう考えていますか?

デニス:パフォーマンスの違いが売り上げに影響している、という意見には同意しません。デベロッパーはそういう見方はしていないようです。「Forza Motorsport 5」や「THE WITCHER III WILD HUNT」を見ていただければ十分パワフルであることをご理解いただけると思いますし、「Destiny」を作っているBangieも先ほど、Xbox One版が1080pになると公表したところです。

 私には、実際のパフォーマンスの差がどうかはわかりません。機器を横に並べ、実際に並べてみないとゲーマーにもわからないかもしれません。

 ですがなにより重要なのは、ゲーマーのみなさんに満足していただけるタイトルが用意できるかどうか、です。

 例えば「Halo The Master Chief Collection」のようなタイトルを用意するのは、15歳の子供たちの場合、初期のタイトルを遊んだことがない、ということからです。リマスターしたタイトルを用意することで、最新作の「Halo 5」へと自然につなげることができるようになります。

Only On Xbox Oneのゲームをアピール

-やはり「Only On Xbox One」(Xbox Oneだけに提供される)タイトルが重要ですか?

デニス:それはもちろんですが、オンラインコンテンツが先行で提供されることや、ベータ版の先行プレイ権も重要でしょう。マルチタイトルを多くプレイする人々にもそういったことは重要ですし、しかも、「Halo」や「SUNSET OVERDRIVE」のような、Microsoft Studioのオリジナルタイトルがあることで、魅力は高まります。

-現在のXbox Oneのタイトルは、アメリカ市場に特化したものが多いとも感じます。今後日本市場への参入が予定されているわけですが、日本市場ではより異なるテイストの作品が求められる可能性があります。そうした、市場の特性に合わせた作品の準備やプロモーションをどう考えていますか?

デニス:地域に合わせたマーケティングと、地域に合わせたコンテンツの準備は非常に重要です。ここで日本での施策について、今日現在アナウンスできる情報がないため、言及は避けますが、泉水さん(日本マイクロソフト・Xbox事業部門トップの泉水敬氏)をはじめ、日本のチームは全力で、日本市場にフォーカスした取り組みを進めています。

 ただし、日本は「ユニーク」なのではなく「違う」のだと考えます。結局、どの国もそれぞれの特質を持っています。アメリカでヒットするタイプのゲームを好む国もあれば、ヨーロッパではもっとスポーツゲームが売れます。例えば「FIFA」(注:EAのサッカーゲーム。最新作は「FIFA14」)のような。中国はもっと違います。先日我々も中国市場への取り組みを発表しましたが、中国独自の事情に対応するには、非常に多くの投資が必要になります。中国市場に向いたゲーム、中国市場に向いたSKU(商品構成)、中国市場向けのエンジニアが必要です。

 そうしたことを、投資のバランスをとりながら行なっていく必要があります。日本については、様々なパートナーとともに、日本市場に向けた施策を準備中です。日本向けタイトルの開発もその一貫ですね。昨日発表させていただいたように、日本向けには、プラチナゲームズの神谷英樹氏が開発する「SCALEBOUND」などを準備中です。

-中国市場の可能性についてどう考えていますか? 非常に大きな市場になる可能性がありますが。

デニス:非常に興味深い市場です。とはいえ、政府によって家庭用ゲーム機市場への参入がコントロールされているので、色々な配慮が必要になります。その中で適切な戦略とポートフォリオの設定を行なっている最中です。そうした成果については、ChinaJoy(注:7月31日から上海で開かれる、中国市場向けのゲームに関する国際展示会)で新しいニュースをお届けできるでしょう。

体勢変更で方針も変化、「ファンの声を聞く」姿勢を重視

-現在、Xbox One・PS4世代をゲーマーは強く支持しています。この勢いは、1年後・2年後もそのまま続くと思いますか? ユーザー数は、これまでのゲーム機と同様、順調に伸びていくとお考えでしょうか? ユーザー数を広げるために、どういった施策が重要だと考えていますか?

デニス:ローンチは好調でした。コンソールゲームは、時間が経つほどにゲームデベロッパーが中身に親しみ、より馬力とシステムの特徴を生かしたゲームが登場するようになるものです。こうしたパイプラインを維持することが、市場を活性化するためには重要です。

 Kinectのないセットを用意することで、よりコストに敏感な人々に対応することもできるようになっています。

 しかしなにより、我々の側として変わったのは、昨日のプレゼンテーションでフィル(注:フィル・スペンサー氏。Xbox事業部門トップ)がご説明したように、「信頼を大切にする」ということなんです。大きなビジネス的判断をし、コストも下げ、Kinectをバンドルしないモデルも用意し、様々なポリシーについても、他のコンソールに負けないものにしました。それらは、ファンのみなさんからのフィードバックをベースにしたものです。

 ブロックバスター・タイトルを用意し、信頼を大切にし、ファンのみなさんの声に耳を傾けることで、支持は広がっていくと思います。今回用意したタイトルの手触りは、どれも素晴らしいものですからね。

-「ファンの声にしっかり耳を傾ける」という方針は、マイクロソフトとしては大きな変化のように思います。そうした要素は、以前からあったのですか?

デニス:いえ、完全な変化だと思います。やはり、新しいトップであるフィル・スペンサーが、「ファンがなにを求めているのかに耳を傾けて」ビジネス判断をすることを徹底しているからです。

 先日我々は「Xbox Feedback」(http://xbox.uservoice.com)というサイトを立ち上げました。ここでは、ユーザーからのフィードバックを受け付けているのですが、すでに3,000ものミッションが登録されています。チームはそれを見ながら、「よし、これをtodoリストのトップにしよう」と判断します。新しいミッションが投稿されれば、スタッフのところにポップアップするようになっています。

 すべてを実現できるわけではないですが、そうした要望を見ながら開発を進めていくことで、ファンがなにを望んでいるかを知って、「なるほど。なら、こう変えよう」と判断することができるようになったのです。マイクロソフトのような会社であれば、判断を素早くし、解決に向かうことができるはずです。これはとても素晴らしいことだったと思います。顧客の声に合わせて今後も改善を続けていけるのですから。

 現在も、Xbox Oneには毎月のように機能が追加されています。外部ストレージが使えるようになったり、実名でプレイできるようになったり、新しいボイス・マーケットを追加したり……。そういったことは、顧客との現在進行形でのコミュニケーションの中で行なっていくことです。

 電話にしろあなたが使っているレコーダーにしろ、ハードですから、買ってしまえば進化はしない。でも、Xbox Oneの多くの部分はソフトウエアです。だから、容易により良いものへと進化させていけるはずです。

西田 宗千佳