レビュー

ニトリの“1万円を切るプロジェクタ”買ってみた。9990円でどこまで楽しめるか?

プロジェクター「NEP-K220MM」(9,990円/税込)

ニトリから発売されたプロジェクターが、話題を呼んでいる。スタンド一体型で、複雑な設定が不要など、いくつかの特徴があるが、何よりも税込9,990円という価格が目を引く。

果たして、この“1万円切りプロジェクター”はどの程度の実力を備えているのか。近所のニトリで購入し、試してみた。

エディオンと共同開発、意外なほど充実した基礎機能

ニトリのプロジェクター「NEP-K220MM」は、エディオンと共同開発されたモデルだ。

180度の角度調整に対応したスタンドが本体と一体化しており、上方向に向ければ天井投影も可能。垂直方向の自動台形補正を備え、ピントはフォーカスリングによる手動調整となるが、確かに手間なく投影できる設計だ。

スタンド一体型のため、設置位置に応じて投影角度を調整できる。90度上向きにすれば、天井投影も可能だ
本体に備えられたフォーカスリングからピント調整が行なえる

投影サイズは40~120インチで、投影距離は約1.1~3.3m。100インチ時で約2.7mが必要と、短焦点モデルではないが、本体がコンパクトなため設置場所の自由度は高い。

入力はHDMIのほか、iOSミラーリング、USB再生に対応。外部HDDなどに保存した動画ファイルも再生できる。

本体背面に端子類はすべて配置されている

調整機能も、価格を考えれば意外なほど充実している。画像モードは「標準/ダイナミック/マイルド/ユーザー」を用意。ユーザー設定ではコントラストや輝度、カラー、シャープネスの調整が可能。色温度は「寒色/標準/暖色」から選択できるが、これは標準以外にするとサイケな色になるので触らない方が良い。

画像およびサウンドモードでは、用意されたプリセットが選べるほか、カスタマイズもできる

本体には3Wのモノラルスピーカーを内蔵し、別途スピーカーを購入せずとも音声を再生可能。

サウンドモードは「標準/音楽/映画/スポーツ/ユーザー」を選べ、ユーザーモードでは高音と低音を±10段階で調整可能。さらに、32Hz~16kHzの10バンドEQを備え、「ロック/ポップス/クラシック/ボーカル」などからプリセットを選べる。

モードの設定はホーム画面の「設定」、もしくはリモコンの「M」ボタンから呼び出せる

3.5mm出力端子も備えており、外部オーディオ機器での再生にも対応する。

スペック面の弱点も。明るさと接続性には注意が必要

コンパクトでデザイン性も良く、低価格と申し分ないのだが、やはり価格を抑えている事で、スペック面で気になるところはある。

まず、明るさが110 ANSIルーメンとかなり控えめ。同クラスのコンパクトプロジェクターと比較しても低い部類に入る。そして解像度はHD対応(入力はフルHD)で、価格相応とはいえ、現代のホームシアター向けモデルとしてはフルHDまでサポートしてくれているとありがたかった。

そして、これも現代のモデルとしては残念ポイントなのだが、OS非搭載のため単体で動画配信サービスを利用できない。コンテンツを再生するには、ストリーミングデバイスやプレーヤー/レコーダー、スマートフォンなど接続する必要がある。

ならばとAmazon Fire TV Stickを接続してみると、接続できることはできる。だが、本機の特徴である角度調整時にデバイスが邪魔になってしまった。公式でも「ケーブルの種類によっては、別途市販のL型変換アダプタやL型コネクタケーブルが必要になる」と案内しているが、思ったよりも浅い角度で干渉してしまう。

ストリーミングデバイスが邪魔をして、角度調整に制限がかかってしまう

また、特に角度をつけて投影する予定がないからといって油断はできない。

音声出力の3.5mm端子にデバイスが被さって、イヤフォンなどを接続することができない問題が発生した。いずれもAmazon Fire TV Stick付属のHDMI延長ケーブルを用いることで事なきを得たが、使用するストリーミングデバイスや変換コネクタによっては注意が必要だろう。

接続するデバイスやケーブルによっては、3.5mm端子に干渉して接続ができない

実際の映像をチェック。明るさは控えめだが色再現は健闘

それでは、映像をチェックしていこう。電源を入れると、まずニトリのロゴが表示され、続いてホーム画面が登場。自動台形補正がすぐに作動し、フォーカスリングを回すだけで投影準備は整う。

ホーム画面のメニューとしては、設定、HDMI接続、iOSミラーリング、そしてUSB接続時に選択するアイコンが並ぶ。使用頻度が限られそうなUSB接続のアイコンが画面の大部分を占めているのは、UIデザインとしてやや不均衡さを感じた。

ホーム画面のイメージ。主に使用するのは、画面左側の「設定」と「HDMI」になりそう

まずは昼の明るい環境で視聴してみた。

率直に言って、映画鑑賞に用いるには厳しい。HD解像度ということで多少の粗さは許容範囲なのだが、明るさ不足が深刻だ。

暗がりのシーンで何が起きているのかがわからないだけでなく、人物の表情が見えず、群衆のシーンでは誰が誰だかわからない。例えばYouTubeでバラエティ作品などを流す分には、もちろん暗くはあるのだが、少なくとも鑑賞に耐えないというほどではない。

部屋にある程度の明るさが残る状態で視聴

一方で、夜に部屋の環境を落とした状態では大幅に改善され、視聴自体は問題ないレベルになる。先に悪いところを書いておくと、全体的にそれでも明るさは足りず、黒のグラデーション表現といったディテールを求めるのは酷だし、引きの画ではまだ人物の表情がはっきり読み取れない場面もある。色域は明らかにされていないが、おそらく狭いであろうことが感じられる。

ポジティブなポイントとして、色彩のバランスが崩れているようなことはなく、単にマシンスペックが足りないだけで調整はちゃんと行なわれている、といった印象を受けた。

元が明るく派手な映像であれば十分に楽しめるため、先述したようにYoutubeのコンテンツや、「推し活としてライブ映像を大画面で楽しむ」などの用途には良さそうだ。

完全な暗室ではないが、可能な限り暗い環境で視聴

ちなみに、映像モードで「ダイナミック」を選べば明るさをプラスできるが、代わりに空の描写などで白飛びを起こしてしまった。暗くて見えないのとどちらを取るか、という感じだが、個人的には「ダイナミック」の方が実用的に感じた。

サウンドについてだが、低音が弱く、軽い印象だ。人のセリフや高音のSEなどは聞き取れるが、アクションシーンでの爆発音には迫力がなく、スカスカしている。そして筐体が小さいので仕方ないが、ファン音がそれなりにする。

推し活でのライブ映像鑑賞でも、そのままだと音に満足できないかもしれない。解決策の提案だが、簡単な方法としてはサウンドモードで「音楽」を選ぶ、もしくはEQモードで「ロック」や「クラシック」あたりを選ぶことで、少しだけ迫力を出すことができた。とはいえボワつきも目立ってくるので諸刃の剣ではある。

それよりも、3.5mmステレオミニ端子にイヤフォンを接続してみたところ、かなりマシになったので、有線接続が可能なイヤフォン・ヘッドフォンや、アクティブスピーカーを活用するのをオススメしたい。

スピーカー内蔵のためプロジェクター単体で映像と音声の両方が再生できるが、音声を外部機器に託すと視聴体験が向上する

“大画面の入門モデル”として価値が見出だせる

今回、ニトリのプロジェクターを実際に視聴したが、正直なところ予算が許すのであれば3万円くらいのプロジェクターを選択した方が、使い勝手とクオリティの両面で満足度が高い。ホームシアターファンとしては、まだまだ“自宅で大画面”には上があるということをお伝えしたい。

とはいえ、1万円切りという価格設定を考えれば、大画面というエンターテインメントを身近にしてくれる存在として奮闘しているだろう。本格的な映像鑑賞には向かないものの、ライトユースには十分応えてくれるので、大画面入門として検討の余地はある。

ライトユースに応える1万円切りの入門プロジェクター
小岩井 博

カフェ店員、オーディオビジュアル・ガジェット関連媒体の編集・記者を経てライターとして活動。音楽とコーヒーと猫を傍らに、執筆に勤しんでいます。