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「日本のHulu」が目指す、日本一の映像配信サービス

船越社長に聞く、ビジネスの現状とNetflix/dTV対抗

 Netflixが日本進出を発表して以降、国内の定額制映像配信(SVOD)事業者の動きが活発だ。今週・来週とわけて、国内大手SVOD事業者へのインタビューをお届けする。

 今回はHuluだ。同社は2011年9月に日本参入し、今年で4年目。これまでは経営状況などの数字を公開することもなかったが、先日、3月23日に会員数が100万人を越えた、と発表した。2014年に日本テレビが買収、ハリウッド系サービスの日本進出、という形態から「日本のテレビ局傘下のサービス」になり1年が経過し、その成果が出てきた、というところだろうか。

 元・日本テレビ放送網 事業局コンテンツ事業部長で、現在はHulu(HJホールディングス合同会社)社長である船越雅史氏に、この1年の変化と、日本におけるSVODのあり方について聞いた。

HJホールディングス合同会社 船越雅史社長

日テレ傘下でコンテンツ増加、秘密は「人員の配分」にあり

 すでに述べたように、Huluは日本でのビジネス開始から3年半で、100万加入を達成した。日本のSVODでもっとも加入者が多いのはNTTドコモとエイベックスが合弁で運営するdTV(旧dビデオ)の約460万人で、それに比べ差があるようにも思える。しかし、月額利用料がdTVのおよそ倍であり、携帯電話事業者による強力な拡販力もないことを考えると、「健闘している」と筆者は考える。3月30日に開かれた記者説明会での情報によれば、日本テレビ買収前で61万人ということだから、1年で約39万人が加入した計算になる。

 どう変わったのか? ポイントはやはり「コンテンツ」にあった。

船越氏(以下敬称略):もちろん日本テレビの協力もありますが、これまで日本テレビが築き上げてきた会社同士の人脈みたいなものが非常に生きてきて、国内でうまくいった、と言えます。日本テレビ60年の歴史の中での、色々な方々とのおつきあいが活かせるわけです。そこには、これまでしのぎを削ってきた他のテレビ局も含まれます。

 象徴的だったのは、一番最初に話が成立した、バンダイチャンネルとの関係です。元々日本テレビとのおつきあいがあったわけですが、「Huluは日本テレビのみならず色々やっていきます」というお話をした結果、作品を供給していただけるようになってきました。その後「仮面ライダー」や「ウルトラシリーズ」などもはいってきました。まだまだ多いわけではありませんが、日本テレビのものを中心としたキャッチアップ番組も広がっています。

 あとは、テレビ東京さんからも、いろんな作品が出てきた。特にテレビ東京の高橋(雄一)社長には「ネットの世界で色々積極的にやっていきたい」とおっしゃっていただけています。

 だが船越氏は、こうした効果が「日本のコンテンツには限らない」と説明する。

船越:この会社はたった70人くらいの組織です。

 国内コンテンツの方は日本テレビの人脈なり関係を使って話し合いをしていくことで、社内の人的リソースを海外に集中することもできたんです。

 その結果、「アンダー・ザ・ドーム」であるとか「12モンキーズ」などの最速配信に注力できました。もちろん、メジャースタジオとはいつも話し合いをしています。しかし最速配信を独占で、となると、そこだけではなかなか回らない。様々なコンテンツ制作者・プロダクションと話し合いができた結果、「アンダー・ザ・ドーム」以外にも、「アウトランダー」や「マスケティアーズ/三銃士」、「ユートピア」といった、色々な作品が最速配信できました。

 海外ドラマが得意な担当者が、そこに集中できる。それがいいんです。「アンダー・ザ・ドーム」をもってきた人間に「『寄生獣』の交渉も担当しろ」といっても、それは無理ですよ。社としてのリソースはまだ足りない、と思いますが、足りないからこそ適切な配分ができている、とも思います。

 日本テレビ傘下に入るまえからのHuluユーザーの方々は「海外ドラマが大好き」という方々のはず。一部作品の欠落もあってご批判もいただきましたが、現在もそれなりのご満足はいただけているかな、と思います。

 実際、昨年後半になってから、Huluのコンテンツ量は急速に改善したと感じる。率直にいって、買収直後、国内のものを含め、色々と作品が引き上げられ、一時期は危惧感も抱いた。だが、今は減った分を補ってあまりある量のコンテンツが用意されている。

 特に、海外ドラマ好きかつ吹き替え好きの人間としては、「吹き替え版」の増加がうれしい。買収前は、海外ドラマはほとんどが字幕版しかなかったからだ。

船越:吹き替えを一部入れてみたところ、これがけっこうみていただける。そういうデータが出てきたので、「やはり吹き替えの需要があるぞ」ということで、吹き替えと字幕を可能な限り入れていこう、ということになりました。海外の権利者から「吹き替えは止めてくれ」という声があったとは、聞いていないです。ただ、基本的な話として、両方用意するとお金がかかりますのでね……(苦笑)なんでもかんでも、というわけにはいきません。需要がありそうなものについては、吹き替えを入れていこう、ということになっています。

 余談ですが、私は「スタートレック」が大好きで、それで生きてきたようなもんなんです。なぜHuluにはシーズン1しかないのか、疑問だったんですよ。聞いてみたら「あんまり人気ないからですよ」と言われて、ガックリしてしまったんです……(苦笑)。

 さらに余談ですが、私自身は字幕派なんですよ(笑)。そこまで吹き替えの意識はなかったんです。しかしデータで見ると、吹き替えへのニーズは本当にバカにならない。いま、映画がそうなんですよね。そこにもヒントもあったんですが、「海外ドラマ好きでも吹き替えには需要がある」とわかったので、きちんとサービスとしてやっていきます。

 スタートレックについては、好きな人はたくさんいると思うので(私もそうだ)、見たいと思う人は、リクエストや視聴を心がけると良さそうだ。

「見逃し配信」を巡り、テレビ局の姿勢が一変

 コンテンツ供給という意味では、「日テレが買収すると他のテレビ局がコンテンツを出しにくくなる」という予測もあった。しかし、その辺はどうも事情が違ってきている。在京キー局のうち、日本テレビ・TBS・テレビ東京は定期的にかなりの量のコンテンツを提供しているし、フジテレビも、深夜のアニメ枠「ノイタミナ」作品を、4月以降提供する予定だという。

船越:正直、日本テレビが資本参加した当初は、他局が参加するためのハードルが、上がったと思います。

 しかし時代の要請があり、変わってきたんです。

 (日テレ買収前の)外資傘下のHuluであっても、TV局の映像製作の事業部としては「コンテンツを出したい」んですよ。コンテンツを売る場所が増える、ということが一つ。そして、制作者の意識として「見ていただいてナンボ」という意識も強いので、そういう意味でも「出したい」んです。

 ところが局の方針として、「いつでもどこでも見れるようになると視聴率が落ちるのではないか」といった、警戒感がありました。

 警戒するのはわかります。しかし、私が日本テレビにいた頃、データを分析して「そこには影響がなく、むしろプラスである」ということが分かってきて、日本テレビだけ先に、一週間見られる「キャッチアップTV(見逃し配信)」をスタートしました。

 そして今、他局さんも同じようなことを始められている。配信は、テレビとの親和性でいえばプラスに働くのでは、というマインドが広がってきた。それがそもそも存在した「事業部としては出したい」「制作者としては見てもらいたい」という気持ちとうまく絡み合い、コンテンツをご提供いただけるようになってきたのでしょう。

 ここまで、じわじわと変わって来た感じですね。じわじわ、ですけれど……。

 最初は日本テレビがHuluを買収したことで「えっ」と思われ、中には「してやられた」と思った方もいたでしょう。

 しかし時間が経つたびにその辺の意識も変わるし、出してみれば事業部側にはけっこうなリターンがあることも、だんだん分かってくる。先にコンテンツを出していただいていたテレビ東京さんやTBSさんから、噂が広がっていったのでしょう。「妖怪ウオッチって、配信でけっこう儲かってますよ」なんてことは、すぐに伝わっていきます。たくさん見てもらえることは、映画ビジネスにもつながっていますからね。妖怪ウオッチの場合、レベルファイブ・日野(晃博)さんというカリスマがいた、ということもあるでしょうが、改めて「ああいう戦略はアリだ」と再認識されて、色々なところへコンテンツを出していくやり方が広がっています。

妖怪ウォッチ
(C)L5/YWP・TX

 船越氏の言う通り、「見逃し配信」は、途切れがちな視聴体験をつなぎ止める効果が認められつつある。現在はPCやスマートフォン向けが中心だが、メジャーなドラマやアニメであれば、なにがしかの形で見逃し配信が用意されるのが、あたりまえになりつつある。

船越:視聴習慣を「つなぐ」効果は、強くあると思います。

 先日、あるテレビ局の責任者に言われたのですが、「テレビは習慣のものだけれど、もしかするとHuluはその先の『中毒性』かもしれない。中毒性と習慣性は紙一重で、非常に親和性があるね」と。そんなものかなあ、とも思います。

 もちろん、中毒になるほど見ていただきたいわけですが、そればっかり見ているわけにはいかない。テレビの持つ影響力とか、常時接続性・大画面性・高画質とか、「無料である」とか、そういう要素に帰ってくる部分もあります。コンテンツとのタッチポイントは、我々も強く意識してもっておかないといけません。

「妖怪ウオッチ」で子供を、ガンダム・ウルトラ・ライダーで40代・50代を直撃

 コンテンツ拡充という意味では、「子供向けコンテンツ」が増えた点も、わかりやすい変化だ。

 特に人気は「妖怪ウォッチ」。子を持つ知り合いで、Huluの加入者数人に話を聞いてみたら、口を揃えたようにこういう答えが返ってきた。

「子供に見せておける番組が揃っているので、忙しい時などに、ものすごく助かる」

 これはどうやら、船越氏の作戦であったようだ。

船越:意識してそうしました。これはテレビの特質を生かしたものです。

 Huluには、私が入ってくる前に、すでに61万人のお客様がいらっしゃいました。海外ドラマのファンは、数にしてしまうと決して多数派ではないですが、そうした人々を引きつけて、1,000円という価格のサービスで61万人を達成したのは、とてもすごいことです。その段階で、30代〜50代のドラマ大好きだという方々が、お客様の中に、たくさんいたわけです。

 ところが、テレビは「オールターゲット」のメディアです。過去Huluは、オールターゲットという部分をあまり意識せずやってきたところがあります。

 そこから、じゃあ次は? と考えた時、これまで以上に拡充したのが「未就学児用コンテンツ」です。いままでも「しまじろう」「おさるのジョージ」などはあったんですが、さらに「アンパンマン」や「妖怪ウオッチ」を入れたんです。

 また、40代・50代でも、海外ドラマのファンではない方々がいるかもしれない。

 では彼ら・彼女らに刺さるものはなにか? ということで最初に浮かんだのが「ガンダム」です。次に浮かんだのが「ウルトラマン」「仮面ライダー」。あれらのコンテンツは、小さいお子さん向けだけでなく、40代・50代という我々の世代にひっかかるかもしれない……という狙いなんです。

 最終的には、やはりオールターゲットにすることが一つの目標です。日本テレビからも10人くらいこちら(Hulu)に来てもらっているんですが、彼らはそういう部分が得意なんですよ。

オリジナルコンテンツは準備中、「バラエティ」はSVODに向く

 コンテンツ調達の面で、注目されるのが「オリジナルコンテンツ」の準備だ。Netflixはそこで会員を伸ばし、dTV(4月22日からdTVブランド。現在のdビデオ)を運営するエイベックス通信放送も、同サービスの前身であるBeeTV時代より、オリジナルコンテンツ製作を積極的に行ってきた。

 ではHuluはどうするのか? 船越氏は「製作の準備をしている。そのための部署も発足している」と明かす。

船越:オリジナルコンテンツを製作する方針は、私が着任する前から予定されていました。

 ただ、この1年で日本テレビだけじゃなく、他の製作会社とも話が出来ました。「昔からのおつきあいもありますしね」ということで、ぐっと進んだのは事実です。

 dTVの発表における、エイベックス・村本さんのプレミアムコンテンツに関するプレゼンテーションには、いくつか共感できるところもありました。それは「最速配信」も含めて考える、ということです。別に我々が作るか、ハリウッドの一流スタジオが作るかは関係なくて、見ているお客様には面白ければいいわけで。「Huluでしか見られない」、「Huluでいち早く」という点をプレミアムコンテンツの条件とするならば、オリジナルはもちろんですが、買い付けの段階で「独占配信」や「最速配信」考えることが重要です。そこでベストミックスしていきます。

 オリジナルコンテンツについて、他社はドラマや映画に振っている印象がありますが、我々はそれだけじゃありません。おつきあいのある会社さんと、別のジャンルのものも考えます。しかるべき段階で発表させていただきます。

 SVODにおいて、アニメとドラマが二本柱であることは否定しないです。しかし、それだけではありません。

 TVOD(都度課金型の売り切り・レンタル形式)では売れなかったバラエティが、SVODになるとすごく視聴されます。ドラマを見ている人でも「エンタの神様」を見てみようか、とか、深夜番組のキャッチアップの「マツコとマツコ」を見てみようとか。

 その他のジャンルとして、我々に大きく欠けているのは「音楽」かと思いますし、スポーツもまだ全然です。ドキュメンタリーは徐々に入れていきます。音楽とスポーツは、SVODに向いているのかも含め、考えながらやっていきます。

市場は開拓段階、「日テレ」の名前をつけなかったから成功した?

 会員数は順調に伸びているが、今後のビジネスモデルはどうだろうか? 海外から強いライバルがやってくることもあるし、他社との価格差もある。そこで、今後のビジネス状況はどう分析しているのだろうか?

船越:中長期には、もちろん考えています。

 現状でいえば、ビジネスマーケットはまだまだ小さい。成長途上です。ですが、どんなビジネスでも必ず一回「踊り場」がやってきます。踊り場がやってきた時に慌てるのは愚の骨頂なので、どうなるのか・どうすべきなのか、検討を始めています。

 しかし、933円で見放題というのは、マーケティングしていく上でも、サービスを説明する上でも非常にわかりやすい。今のやり方が当分続くでしょう。

 ただし、もう少し成長した段階ではなにかある。

 踊り場に来るまでの時間は、一瞬にして過ぎてしまうこともあるわけですよ。スマホ市場はいま踊り場ですよね。わずか10年足らずで踊り場にきた。動画配信は、現在市場が6年目くらいですから、そうすると、4年後に踊り場がくる可能性だってあります。ビジネスの成長度合いによっては、さらに時間が短くなる可能性もある。いまみたいに年率130〜140%の成長ならしばらく続くでしょうが、一気にガン! と伸びると、踊り場は3年後・4年後にやってくる可能性もあります。

 となると気になるのが、日本全体での「SVODの市場規模」だ。現在、トップのdTVは460万加入だが、会員数は約2年に渡って一進一退を繰り返している。衛星放送の有料サービスもなかなか伸びず、こうしたサービスの市場規模が、日本では400万から500万程度なのでは……という疑念の元にもなっている。だが、船越氏はより前向きなビジョンをもっているようだ。

船越:TSUTAYAのレンタルビデオ会員としてのアクティブユーザーが、だいたい1,000万だと言われています。そこから考えると、500万が壁だとは思っていません。マーケットとしても、巨人が1人より2、3事業者がしのぎを削っていくのが、消費者の皆さんにとってもプラスですし、我々にとっても刺激をうけながらやっていけるのでありがたいです。そうして、NetflixやdTVとしのぎを削っていき、みんなで1,000万加入を目指してやっていきましょうよ、ということです。先日、エイベックス(通信放送)の村本さん(理恵子氏。dTV担当取締役)もそうおっしゃっていましたね。

 ライバルとの比較という意味で、会員数と同様に重要なのが「アクティブユーザー率」だ。熱心に視聴しているユーザーが多いということは、それだけサービス継続の意向が強い顧客が多い、ということにもなる。以前より同社は「アクティブユーザー率の高さ」を主張し、それがdビデオ(現dTV)との差別化点だとしてきた。

累計視聴時間は3億6,000万時間

船越:アクティブ率については、開示するとビジネス戦略上の問題があるので、出しません。しかし私個人としては、実際の利用者数では日本一のサービスだと自負しています。

 CDN業者さんなどからは、「この手の有料動画配信サービスの中では、Huluの流量は図抜けています」というお話をいただいています。アクティブユーザーや視聴時間、こちらは累計3億6,000万時間と公表させていただいていますが、そこから考えても、日本一のサービスではないか、と自負しています。

 もちろん使い方は、毎日見る方・週末だけ見る方・寝る前だけ見る方、と色々です。ですがほとんどの契約者に「使ってもらえている」サービスだと思っています。

 会員にだけなっていただいて、実際は「つかわない」のが、ビジネスとしては確かに効率がいいんです。でも、テレビ屋なので、「それではダメだよね」というのが、私の持論です。日テレオンデマンドをやっている時から「とにかく見てもらえるものにしよう」と主張していました。

 それは社員全員が思っていることです。古参の社員ほど、「Huluのサービスは世界に誇れるものだ」と思っているんですよ。だったら使ってもらわなきゃ、と。日本テレビが買収したからではなく、前からそういう方針でした。

 会員数を誇るのではなく、本当は「利用者数」を誇りたいところなんですが、数字を公開してしまうと軋轢もあり……。使っていただいている方々と、出していただけているコンテンツのおかげです。より使っていただける、見ていただけるサービスに、と考えています。

 日本においてのHuluは、まだまだブランド力があります。

 もちろん、知名度は全然です。しかし、知っている人にとっては「洗練」「なんかやってくれるんじゃないか」というイメージがあります。

 これには助けられましたね。ネット上での日本テレビのイメージは、正直悪かったですから(苦笑)。日テレ買収後に名称を「日テレオンデマンド」に変えたり、ブランド名に「テレビ」をつけたりしていたら、ここまで伸びてはいないです。どんなにがんばってテレビのコンテンツを入れても、こうはならなかったでしょう。「Huluというブランド」の力に助けられているんです。現状、ブランドとシステムはアメリカからライセンスを受けているものの、アメリカ法人とは親子関係というより「日米それぞれでがんばりましょう」という関係です。

 国内での立ち位置として、国内トップブランドだとは思っていませんが、トップグループにいたいと思っています。米国のHuluも、色々新戦略を練っているようですよ。がんばって欲しいと思っています。

Android TVに対応。4Kは前向きに検討

 Huluは、テレビ・PC・スマートフォン・タブレット・ゲーム機と、様々な機器に対応する「マルチデバイス戦略」が特徴だ。一方で、同じような戦略を採るNetflixは、よりテレビ重視だ。日本参入まで半年以上ある状態で、リモコンに「Netflixボタン」のついたテレビが、家電メーカーから発売されている。dTVは、専用セットトップボックス「dTVターミナル」を投入する。Huluの「ハードとしてのテレビへの対応」は、今後どうなるのだろうか?

PlayStation 4に対応。テレビドラマ「12 モンキーズ」は Hulu にて配信中
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船越:テレビについては、内部にアプリを実装するだけでない対応を検討しています。

 これからAndroid TVが出てきますから、「メーカーごとに対応」ということは、必要ないとは言わないが、そこまで重要ではなくなるでしょう。

Nexus Player

 ただし、我々はテレビでの視聴を非常に大切にしています。一番はテレビでみていただきたい、という思いがあります。マルチデバイスも大切ですが、サービス全体で見ると、テレビでの視聴時間が一番長いんです。ここはやはり重要です。

 しかし、繰り返しになりますが、「実装がどこまで必要か」となると、これからテレビとの向き合い方も含め、色々変わってくるとは思うんです。ChromecastだとかNexus Playerにも対応済みですし、Android TVもやります。個々のデバイスに……というのはそこまで重要ではないのかな、と思います。

 私自身は30年近くテレビ局にいて、そのあたり分かっているつもりなのですが……。いまの若い人達のリモコンに対する思いは。だんだん薄れてきていると思います。リモコンにボタンがつくことが、そこまで重要なことだとは思いません。

 我々の世代はチャンネルは「ひねる」ものでしたけど、今、ひねる仕草をしたら笑われますよね。今はボタンを押す仕草です。そして10代未満だと、「スワイプ」動作をするんですよね。チャンネルを変えようとして、テレビの前で平気でスワイプする。5年・10年経てば、チャンネルはそういう風に切り換えるのがあたりまえになっていますよ。リモコンの重要性というのは、今後増えていくことはない、と思います。

PlayStation 4でHuluを視聴

 一方、「テレビ重視」という点で気になるのが画質だ。Huluは720pでの配信が中心。また、他社のように4K配信のスタートを公言しているわけでもない。今後どうなっていくのだろうか。

船越:真剣に考えねば、と思っています。ただし、いますぐやる・しない、という話ではないのですが。

 肌感覚としてお伝えすると、3Dの時、テレビ局は3歩どころか10歩くらい下がってみていた感じがあります。それに比べると、局側の4Kについての姿勢は、けっこう前のめりです。製作会社さんも4K対応を考え始めていますし。

 また現在、テレビは大型化しています。家庭に2台目・3台目がなくなってきた分、リビングのテレビが大型化しているんです。画質への要求はその流れで高まっています。

 我々はIT企業でもあります。時代を見ながら「追いついていく」のが本当にIT企業なのか? 先取りでしょう! というところはありますよね。そこはまあ、色々なことを見ながら考えないと……。ただ経営者としてみると、4Kで見られる方がまだ多くないところでどこまで対応すべきか……、という点が悩ましいです。

「自分の人生にとって語りたくなる一本を探す喜び」を

 SVODを巡る話題の中で、一躍脚光を浴びているのが「レコメンド」だ。Netflixは、アメリカでレコメンドの精度の高さが評価されている。その背後にあるのは、コンテンツ別に大量の情報を蓄積して分析する、いわゆる「ビッグデータ解析」的手法だ。dTVでも、dビデオからの改善点として、レコメンドの精度を挙げている。こちらもビッグデータ解析的手法を使う。それに対し、Huluはどう対処するのだろうか。

船越:レコメンドに関しては、今のHuluのレコメンドが完璧だとは思っていないですし、現在、色んな話をしています。もうちょっと精度をあげなくてはいけません。すでにもう話を始めています。

 日本人はアメリカと違い、テレビチャンネルが少ない文化で生きてきました。ですから、レコメンドがないとなかなか自分で番組を探せない、というところはあります。

 全録型のレコーダを、テレビ局は非常に脅威に感じたのですが、思ったほどマーケットでは支持を得られませんでした。結局、全部録画しても、なにを見ていいかわからなかったわけです。ですから、今よりも精緻なレコメンドは作っていかなくては、と思います。

 だが、船越氏は「一方ですね……」と話を切り出した。

船越:「一本を探す喜び」というものはあると思うんです。レコメンド重視・ザッピング型を打ち出した、dTVさんとは違う意見になりますが。ザッピングでテレビ的な機能を打ち出していくのは、テレビ局出身者としては「あそこまでテレビ的な要素を採り入れていくんだ」という意味でうれしかったのですが、我々の考え方はちょっと違います。

dTVが提案する「ザッピングUI」。レコメンドを重視

 オンデマンドであるということは、いつでもどこでも探せるわけです。テレビの前にいないと見られない・探せないわけではない。「自分の人生にとって語りたくなる一本を探す喜び」という世界もあるんじゃないか、と思っているんです。大事な作品を探すための見放題、という考え方もあっていい。レコメンドで「次はこれです」という形だけではないな、と思います。

 そのために、楽に探せるであるとか、楽しく探せる要素は必要です。まったくレコメンドしない、という話でもありません。

 私は今、人に勧められて「ホームランド」という作品を見ているんです。会社の席でずっと見ていると、後ろを通りかかったコンテンツ調達担当の人間から、「面白いでしょう? だったら先に、元になったイスラエルのドラマ『プリズナーズ・オブ・ウォー』を見てくださいよ」と言われたんです。

 これが、本当に面白いんですね。よくよく見ると、ホームランドを視聴中にも、レコメンドされているんですが。でも、ホームランドは知っていても、プリズナーズ・オブ・ウォーはほとんどの方が知らないと思います。それを「見つける喜び」、そして「人に勧める喜び」を提供することも重要です。

 そこでソーシャルメディアを活用するという点については、日本テレビ時代、日テレオンデマンドをやっている時から考えていましたね。

 やっぱり今、SNSへの拡散やレコメンドは重要になっています。もはや、単にHuluがレコメンドするより大切かも知れません。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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