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Oculus Rift製品版とProject Morpheusを徹底比較

画質と可能性のCV1、ゲーム特化のMorpheus

 今年のE3の特徴は、2年間助走してきたVirtual Reality(VR)が製品へと近づいてきて、あらゆるところで活発な動きを見せていることだ。種々の問題はまだあれど、このジャンルがある種のゴールドラッシュ状態になっており、もはや後戻りはないように思える。

 その中でも、多くの人が注目しているのは、Oculus VRの「Oculus Rift」製品版(CV1)と、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の「Project Morpheus」だろう。どちらも2016年早期の市場投入を目指しており、開発者同士も、お互いに密接な協力関係を築きつつも良いライバルである、としている。会場の試遊ブースにも、双方長蛇の列ができていた。

Oculus Riftの市販版、通称「CV1」
SCEのProject Morpheus。まだ仮称であり、製品名は後日発表される

 双方を体験することができたので、その使い勝手・画質などを比べてみたいと思う。同じ方向を目指しており、似ている両者であるが、E3で試遊すると、そこには明確な「差」と「思想の違い」もあることが見えてきた。

 なお、Morpheusについては4月に体験記事を掲載している。そちらも併せてお読みいただけると幸いだ。

Oculus Rift・CV1は「軽さ」「美しさ」で大幅進化

 まずは、Oculus Rift・CV1の方から見ていこう。

 CV1は、E3開催の数日前、6月11日にサンフランシスコで行なわれた発表会にて、正式にプレス関係者にお披露目された。残念ながら筆者は発表会に参加することは叶わなかったが、E3への期待を盛り上げるに十分なものだった。

E3のOculusブース。デモの予約は早期に終了したが、キャンセル待ちで長蛇の列が。

 CV1はデザインと快適に使うために必要なPCのスペックは公開されているものの、デバイスとしての詳細は公開されていない。そのため、以下の記述は体験しての印象を軸にしたものであることをご了承いただきたい。

 見た目でいえば、CV1はこれまでの開発者向けのバージョン(広く手に入るものとしては、DK1とDK2がある)とは、かなり異なったものになった。ポジショントラッキング用のマーカーは目立ちにくくなり、マットな仕上がりになっている。頭に固定するためのバンドの仕組みは、この種のVR用HMDでは標準的なものを採用しているが、フィット感は非常によく、明確に改良されていることがわかった。頭部後方の支持部は、平たいベルトではなく、真ん中に穴が開いた三角形で、そこが頭の丸みに沿うようにつけるとしっくりくる印象だ。また、前部のディスプレイ部と顔までの距離も、下部のボタンで簡単に調節できた。メガネをつけたままでも問題ない。

CV1本体。マットな感触でより自然で高級感のあるデザインに変わった。
本体背面。バンドは形状が変更になり、頭にフィットしやすくなっている

 まず、HMDをかぶると見えるのは、Oculusが用意するホーム画面だ。これは、各コンテンツへのアクセスや追加購入に使われるもので、サムスンのGear VRでも採用されていた。コンテンツに快適にアクセスするには必須といえるものであり、同社にとってもエコシステムの軸になるものだ。

Oculus Riftのホーム画面。視線でコンテンツを選ぶ。Gear VRで採用されたメニューにかなり似ている

 試遊時間も限られており、今回プレイできるのは用意された10本のゲームのうち1つだけ。そこで、画質やトラッキング能力を確かめる目的から、シューティングゲーム「EVE: Valkyrie」を選んだ。このゲームはすでにMorpheusや過去の開発者版Oculusでも体験しており、新鮮なVR体験、という意味では筆者にはインパクトが薄いのだが、画質評価目的ならばピッタリだろう。CV1ではゲームコントローラーとして、Xbox Oneのワイヤレスコントローラーがバンドルされる。そのため、プレイにもこのコントローラーを使っている。

CV1を体験中。フィット感は良く、いままでのOculus Rift開発者版より、非常に快適になっている。なにより着け心地が軽い

 プレイを始めると、2つのことに驚く。

 第一に、視界がクリアーで、解像感も高いということだ。この辺は、市販された開発者版(DK1、DK2)から、その後の開発バージョン(Crescent Bay、CB)で改良された点である。筆者はCBについては本当に短時間しか体験していないため、あまり確かなことは言いかねるのだが、おそらくCBとCV1はかなり似たディスプレイデバイスを使っている、と思われる。だが、DK1・2やGear VRの体験と比較すると、明確にクリアーで美しい映像になっていることだけは断言できる。粒状感もジャギーも感じにくい。これはまず、没入する上でとても重要な要素に思える。視界は100度から110度の間くらいだと思うが、少なくとも「狭い」とは感じない。周辺視野より中央視野を重視する描画が行なわれていて、より自然な没入感が得られたからである。

 なにより変わったのは、第二のポイントだ。

 とにかく軽い。重量が数字として示されていないので、どのくらい、とは正確に言いかねる部分がある。バンドを使った把持が良好で「軽く感じた」可能性もあるだろう。だが、筆者の感覚でいえば、DK1・DK2とは比べものにならないし、Morpheusよりも軽い。このため、かなり快適さが向上したと思える。

 そして、軽さがプラスにつながるのが、トラッキングの正確さ・快適さだ。トラッキングには外部の赤外線センサーを組み合わせて利用しているが、遅延はほぼ感じられなかった。そのため、自然に「頭を動かす」動作で周囲を見渡すことができた。ここも、過去の開発者版とは異なるところだ。

 CV1では通常のコントローラーに加え、腕のコントロールを再現するための「Oculus Touch」が用意される。こちらについては、デモ時間の制約もあり、きちんと体験できなかったのが残念である。しかし、実際に使った人々の話を総合すると、「棒を持つよりも自然に腕だと感じられる」とのことで、VR世界に入り込むには、確実にプラスだ。

指や腕の動きをVRに持ち込むための、Oculusオリジナルのコントローラーである「Oculus Touch」

Morpheusは「ゲーム特化」で大量のコンテンツを用意

 話をMorpheusに移そう。一般には初お披露目となったCV1と異なり、Morpheusはハードウエア面では、すでにGDCで公表されている。4月に試遊したものと、基本的には同じである。それだけ練り込みが進んでいる、ということなのだろう。

E3のSCEブース。奥側の半分はMorpheus体験の専用ブース。こちらに会期中ずっと列が絶えなかった

 今回の試遊は、アメリカのプレスや関係者向けに用意された特別なブースでのもので、会場の試遊スペースとは異なる。特別体験ブースで6つ、会場の試遊スペースにはさらに15を越えるデモが用意されていた。筆者が取材した特別体験ブースには、残念ながら、日本のデベロッパーが作ったものがなかった。「SEGA feat. HATSUNE MIKU Project: VR Tech DEMO」(セガ)や、「KITCHEN」(仮題、カプコン)、「サマーレッスン」(バンダイナムコゲームス)は評判も高いのだが、筆者はプレイすることができなかった。アンドリュー・ハウス社長のにインタビューでお勧めされた「Headmaster」「Keep talking, Nobody Explose」もなかった。一方、二つの試遊スペースにあるタイトルには、どうやら重複が少なかったようだ。すべてがMorpheus独占ではなく、Oculus向けにも開発しているコンテンツもあるが、いきなりこの段階で大量の良質な「VRゲーム」を用意してきたところは、ゲーム特化でビジネスを組み立てるSCEらしいところ、と言えそうだ。

 画質面でCV1と比較してみよう。一見して異なるのは「解像感」だ。1,920×1,080ドットを左右2分割にするMorpheusは、ハイパワーなPCと高解像度パネルを組み合わせて使うCV1に比べ、どうしても劣る。映像によってはジャギーが目立ち、CV1に比べると没入感を削ぐ部分があったことは否定できない。だが、モーショントラッキングの精度や酔い防止を含めた「違和感のなさ」では、Morpheusの方が上だったか、とも思う。視界の自然さは同等、というところだろうか。「現在考え得る理想的な環境」の組み合わせで最適解を模索するOculusと、誰もが手軽に同じ体験ができることを狙う両社の思想の違いが現れた部分といえそうだ。Morpheusの方が若干重いと感じたが、装着感は同等。よりMorpheusの方がタイトな感じだ。どちらもメガネをつけたままでOKである。若干気になったのは、Morpheusの方が熱気・蒸気が籠もりやすく感じたことだ。体を動かしたり熱中してプレイしたりすると、メガネが曇ることがあった。CV1では問題なかった。

 では、体験できたゲームについても触れていこう。

 まずは「The PlayRoom VR (Monster Escape)」。こちらは、GDCで公開された「Bedroom Robots」の進化版といえるものだ。あのデモは建物の中を再現したものだったのだが、こちらで再現されていたのは「街」。自分が巨大な怪獣になり、頭や動きで街を破壊していく。その周囲にはARボットが動き回り、色々とちょっかいを出してくる……、というものだ。

「The PlayRoom VR (Monster Escape)」を体験中のムービー。へたくそな英語はご容赦を。2つの画面に別々の映像が表示されていること、片方はHMDの動きに合わせて動いていることに注目

 特筆すべきは、ARボット側は「人が操作できる」ということ。Morpheus側では怪獣の視点だが、ARボット側はまた別の視点で映像が描かれ、同時にゲームを楽しめる。Morpheusには「ソーシャルスクリーン」という名称で、HMD内の映像をテレビにも表示する仕組みがある、とされていたのだが、実はこの技術では、HMDとは別の画面・操作もできたわけだ。PS4側では実質、「右目用」「左目用」「外部プレイヤー用」の3画面を別々に描画していることになる。

左がHMD内の、右がHMDをつけずにプレイしている人の画面。これを1台のPS4で処理し、VRゲームを「周囲の人と一緒」に楽しめる

 GDCで公開された「The London Heist」もアップデートされていた。こちらでは、自動車でカーチェイスしながら敵を倒すシチュエーションが試せた。わかりやすく言えば、ゲームセンターにあるガンシューティング・ゲームをVRで再現したようなものであり、ゲーム性もほぼ同じであったが、自分で手を動かしてマガジン交換をしたり、周囲を見渡して敵を探したりする、といった様は、VRでなければあり得ない体験といえる。

「The London Heist」体験中。いわゆるガンシューティングに近く、実はシンプルなゲームなのだが、VRで一体になる感覚が新鮮だ
「VIRZOOM」。自転車を「乗り物のためのVRコントローラー」にしてしまう。後輪のダイナモと、前輪の角度センサーで操作する。

 外部機器を生かしたデモも2つあった。

 一つは「VIRZOOM」。自転車にダイナモとセンサーをつけ、「漕いだ量」「ハンドルを切った量」を取り込んで「乗って使うコントローラー」とし、VR体験をするものだ。デモでは、自転車を「馬」に変えてしまったが、実際には戦車などにもなれる。アイテムをとると馬がペガサスになって空に飛び上がるなど、現実にはありえない体験ができる。開発元のページに行くと、そのイメージがわかるはずだ。坂ではペダルが重くなるなど、映像以外の部分でも凝っている。スポーツジムにあったら夢中になるだろう。

「VIRZOOM」のHMD内の映像。実は馬に乗って走っている

 もうひとつは「UCOM」。いわゆるFPSなのだが、手に銃をもって戦う。写真に写っているのはさえないオッサンだが、HMDをかぶってコントローラーを握っている自分としてはアクションヒーローになったようなつもりになれる。「いかにも」なものだが、一体感は圧倒的。文字通りの「ファーストパーソンシューター」だ。

FPS「UCOM」をプレイ中。向いた方向に銃を撃つ。移動は銃にあるスティックで行うのだが、一体感ではデモ中トップだった

 個人的に、もっとも感銘を受けたのは「SUPERHYPERCUBE」というパズルゲームだ。デモ映像が公開されているので、そちらもご覧いただきたい。

 ブロックを迫ってくる壁の穴に入れる、というシンプルなパズルなのだが、キモはブロックが「VR空間の中にある」ということ。左右に動き、のぞき込んで奥行きと形を確認し、すばやく回して穴にフィットさせる。言葉だとシンプルなのだが、「のぞきこんで確認する」という動きとゲーム性がマッチしており、VRでしかできない楽しさだ。こういった要素の取り込みによる「ゲームの再発見」こそが、VRの良さだ。

「SUPERHYPERCUBE」。テトリス的なパズルゲームだが、これを「VR」でやると驚くほど新鮮で面白い

VRの「スタート基準」を示す2つの製品

 結論からいえば、CV1からは「画質と可能性」を、Morpheusからは「拡大とゲームの再評価」を感じた。これが、実際にスタートする「一般市場向けVR」の基準となるだろう。

 CV1の画質で、高解像度なカメラを使った「VRツアー」ができるとなれば、非常にワクワクする。自由に使える環境であるだけに、あらゆる可能性が飛び出しそうだ。Morpheusはいかにもゲームに特化しており、それが美点だ。PS4向けのゲームSDKがそのまま使えるし、環境も統一されているので、ゲームメーカーとしても、「ブラッシュアップとアイデアの詰め込み」に注力できる、という美点がある。

 問題点として、「熱中すると方向がわからなくなる」「なにかにぶつかりそうだ」「ケーブルが邪魔になる」といったことも感じた。だが今後、今年の秋から来年にかけては、さらに色々なコンテンツが出てくるだろう。その可能性を思うと、いくつかの問題点も些細なことに思えてしまう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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