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東芝が「みるコレ」で狙うテレビ番組再発見とVOD時代

 東芝ライフスタイルは、テレビ向けに展開してきたクラウドサービス「TimeOn」をリニューアル中だ。その中核となるのが、新サービスの「みるコレ」である。みるコレは、7月に「REGZA G20Xシリーズ」より対応を開始しているが、9月末には、TimeOn対応テレビとして出荷済みのモデルである、「REGZA Z10X/J10X/Z9X/J9X/G9/Z8X/Z8/J8/Z7/J7」の各シリーズにも、対応を拡大する。実質的に、「TimeOn出直し」と言っていいほど、大きな変化を遂げることになった。

 このリニューアルはなにを狙っているのだろうか? そして、「みるコレ」はどういったことができるサービスになったのだろうか? 開発を指揮する、東芝ライフスタイル ビジュアルソリューション事業本部 VSクラウド&サービス推進室 室長の片岡秀夫氏をはじめとした開発陣に聞いた。また、「みるコレ」では同時に、コンテンツパートナーとの協業モデルも検討している。そのパートナー第1号である「NewTypeパック」を担当する、KADOKAWA コミック&キャラクター局 第3編集部 Webニュータイプ編集長代理野口 昌保氏にもご同席いただいた。

左から、東芝・研究開発センター ライフスタイルソリューション開発センター クラウド技術開発部・辻雅史氏、KADOKAWA コミック&キャラクター局 第3編集部 Webニュータイプ編集長代理 野口昌保氏、東芝ライフスタイル株式会社・ビジュアルソリューション事業本部 VSクラウド&サービス推進室 室長の片岡秀夫氏、同・中村任志氏、石垣智氏、グッドセルケビン進一氏

動作速度改善のために完全リニューアル

 前提知識として、TimeOnがどんなものだったかおさらいしておこう。TimeOnは、東芝が同社のテレビで活用するクラウドサービスとして開発したものだ。通常、テレビ内の機能は組み込み的なソフトとして実現される場合が多いが、東芝は、録画など基本的な機能とその動作環境こそ作り込んだものの、番組検索を中心とした付加的な部分は、あえてネットワークと連携して動作する「クラウドモデル」を採用した。要は、REGZA内のHTML5対応ウェブブラウザーの上で動くHTML5ベースのウェブアプリを作り、それをテレビの付加機能「TimeOn」としたわけだ。その構造は、今年の新機種でも変わらない。他社はテレビを開発するためのOSを、スマートフォン由来のモダンOSに置き換えて高度化を実現するアプローチを採っているが、東芝はそうしていない。ハードウエアのパフォーマンスなど、いくらか変化した部分はあれど、画質以外の進化面はソフトウエアの書き換えで実現している。今回のリニューアルも、本体側のハードウエアに依存する部分は少なく、クラウド側と若干のアップデートの組み合わせで実現する。そのため、すでに発売済みの多くの製品でも、新しいTimeOnとみるコレが使えることになる。

 機能ももちろん重要だが、道具としてまず重要なのは動作が軽くなり、日常的にイライラせずに使えるよう改善されたことだ。このことは、利用者がTimeOnから逃げないために、まず必須のことである。

 開発を担当した石垣智氏は「以前のものは(動作が)重いと言われたのが悔しかったので、そうした部分を直した」と話す。

「みるコレ」設計担当の石垣智氏

石垣氏(以下敬称略):以前のコードは全て捨てました。通常、こういったものを作る際はJavaScriptの既存フレームワークを使いますが、それも一切使っていません。全部自前です。テレビのブラウザーはPCやスマホと違って癖があるので、テレビが得意なアニメーションだけを使うように見直しています。

 そうした完全リニューアルは、TimeOnの機能の狙いを、ツール路線から「みるコレ重視」に完全リニューアルしたことにある。この辺は、以前のものと画面を見比べていただければわかりやすい。

 以前は、「ホーム」にカレンダーやSNS連携が並び、さらにそこから番組連携やビデオ・オン・デマンドの呼び出しも並ぶ、という「ツール軸」の様相が強かった。そうした機能の一部はリニューアル後も残っているが、画面構成は「番組軸」に変わった。REGZAが搭載する全録機能「タイムシフトマシン」との連携から番組を呼び出すための機能が前面に出た結果、目に見えるのは「番組」になる。中核機能である「みるコレ」はその先にある。

過去のTimeOn。再生系の機能もあるのだが、より「ツール」的側面が表に出ていた

 みるコレは、その名の通り、見たい番組を簡単にコレクション化して自動的に並べる機能だ。放送される番組も録画される番組も膨大である現在、そこから目的のものを見つけるのは難しい。さらには、YouTubeなどもある。自分で見たい番組が明快になっているならともなく、多くの人はそうではない。テレビの前にいる時には、「なにか気になる番組を見つけたい」だけであり、強い意志を持って番組を探している人は多くないし、そこまで勢い込んでテレビを見たいわけでもない。サッと動いて、目の前に見たい番組が現れるような機能が必要となる。

 TimeOnは初期から、「多過ぎて見つからない、自分が見たいであろう番組との出会いを演出する」ことを目的にしていた。そこはなにも変わらない。しかし、発見までの動線が長かったこと、発見のための必要なキュレーションのための機能の見通しが悪かったことなどから、TimeOnはきちんと活用されていたとは言い難い部分がある。そこで、旧TimeOnの番組発見系機能の「おまかせ録画コミュニティ」や「タグリスト」は整理・統廃合され、ツール系機能であったカレンダーやメッセージ、SNS連携の機能は終了する。

旧TimeOnとの機能統廃合リスト。「見るための機能」に特化し、大鉈が振るわれる

「パック」でアクセスを簡便化

 では、新TimeOnの視聴系機能は、どういう観点で作られたのだろうか?

 まず目に見えるのは、最近見た番組の「次の回」や、視聴履歴から選んだよくみる番組を抽出した「すぐみる」「いつもの番組」だ。シンプルな考え方なので、使い方もすぐわかるだろう。自分がよく見る番組がベースになるので、そもそも自分がなにかを設定する必要すらない。

トップ画面には、視聴履歴ベースの「すぐみる」「いつもの番組」が。検索を意識することなく、素早く番組が見られる

 デザインも「黒」「白」をベースカラーに、番組を四角いタイルにした形になり、よりシンプルになった。ここにはちょっとした工夫がある、とデザイン担当の中村任志は説明する。

VSクラウド&サービス推進室 VSC第三担当参事 中村任志氏

中村:扱う番組の数が増えたので、どう扱うかに苦慮しました。番組名や説明は重要なのですが、文字だけだと飽きます。そこで、タイルの構成とし、文字と絵のバランスをとっています。タイルのサイズが複数あるのにお気づきですかね? 実は、このサイズ差には意味がありません。ランダムに2つのサイズから選んでいます。サイズが同じだと画一的で落ち着かない感じなのですが、ばらつくと見やすくなるんです。また、番組タイルの色についても、放送中・録画済みで見れるものは「白」、今後放送される未来のものは「黒」にして、見分けをつけやすくしています。

「すぐみる」の例。タイルサイズが複数あること、過去番組と未来番組では色が異なることに注目

 そして、TimeOnのコアな狙いと言える「みるコレ」はどうなっているのだろう? 片岡氏は次のように説明する。

片岡秀夫氏

片岡:基本はコンテンツドリブンです。「パック」という考え方から、いかにお客様がコンテンツと出会うか、という考え方をしています。

 現在のテレビは、大量のコンテンツを内包している。だがそこへのわかりやすい動線がない。番組表をたどったり、検索したりして見つけることはできるが、それをシンプル化する必要がある。

 そこでみるコレが導入するのが「パック」という考え方だ。これは、検索する内容を簡単にパック化して並べておくことで、常に自動的に「特定の観点で探したコンテンツがパックになって詰まっている状態」を作るもの、と言っていい。

 対象となるのは、録画番組と今後放送される番組、それにYouTubeにある映像だ。パックさえ登録しておけば、今後は自分で検索する必要はない。見たいものを選べば「見逃し」はなくなるし、頭を使わなくても見たいものが見つかる。

「みるコレ」。自分で登録したパックが並び、そこから見たい番組がすぐに見つけられる
人名でのパックの例。その人が出ている番組はもちろん、YouTubeの映像までが列挙される

 番組名や人名は「検索」ベースなので、理解しやすいだろう。といっても、それらはテレビとクラウドが連携する形で行われており、意外と高度だ。さらに、パックを登録する時にはキーワード入力に頼る必要はない。

 スタート時点で、パックは5万種類以上が用意されている。中には、単純なキーワード検索ではなく、「アニメトップ50」などのランキング系パックや、「刑事ドラマパック」のような、EPGにはそこまでの詳細なジャンル分けがなく、キーワードだけでは抽出が難しいものや、「おすすめの大人アニメ」などの強いキュレーション効果を持っているものもある。

 パック関連技術を担当する辻雅史氏は次のように説明する。

東芝 研究開発センター ライフスタイルソリューション開発センター クラウド技術開発部 辻雅史氏

辻:以前はタイムシフトマシンで、番組表を遡るように番組を探していました。しかしそこからは、どういう風に番組を見ているのか、ということが見えてくるんです。そこに入り口として「パック」を作り始めました。人物や番組名、ジャンルなど、自動で手に入るデータからは、自動でパックが生成されるので、それを選んで登録していただけばいい形です。

 経験的に、単にぴったりのキーワードで検索しても引っかからないものが出てくることはわかっています。ニックネームや略称でも引っかからないといけません。そこで、独自の「膨らまし辞書」を持っていて、これを裏で使うことで精度を高めています。この辺は、長年言語処理をやってきたチームのノウハウを組み合わせた部分です。

 さらに、別途タグやキーワードを設定して選べるようにしています。過去の「おまかせ録画コミュニティ」のデータも引き継いで作っていますし、人力で作成しているものもあります。

スタートから提供されるパックの内訳。大半が、人名を中心とした自動生成系だが、人力キュレーションによるものもある

 この「人力」キュレーションは、かなり手の込んだものだ。スポーツイベントや音楽番組で正確なヒットを狙うには、人力加工が欠かせない。そしてもちろん、アニメやドラマのように内容が関わるものは、番組の内容を理解した上でパックを作る必要がある。

 それをやっている人員の数は、意外なほど少ない。トータルでも数人だ。アニメについては、片岡氏が独自に分析用のワークシートを作って、キュレーション・パック用のデータを作成している。いかにも大変そうに見えるが、実際にキュレーションパック用のデータを作る際には、システム側での補佐によって、手作業の量は少なくなっており、きちんと回るようにはなっているのだという。

片岡:このくらい細かいデータをとって判断しないと、適切なデータはできません。見る方によって趣向も違いますし、番組の内容を適切に分析するにもプロの目が必要です。

片岡氏がアニメのキュレーションパックを作るために使っている資料。各番組のおすすめ点や方向性などが驚くほど詳細に分析されている。ジャンルやストーリー属性の分析は、タイトルに頼らず独自に、1作品に複数の属性が設定されている

ネット連携は「パートナー戦略」と「統計」を源泉に運営される

 みるコレでここまで凝った「おすすめサービス」が登用する理由には、今後さらに番組の量が増え、複雑化する可能性が高いからだ。現状は対応していないものの、「今後は見逃し配信やサブスクリプション・ビデオオンデマンドなどにも対応し、よりコンテンツを探しやすくする」(片岡)ことを考えているからだ。

片岡:VODが増えてくると、コンテンツはテレビ局やメーカのポータルで分断されます。本当に見て欲しいならば、そこで統一性をもたねばなりません。将来的には「みるコレ」からVODへのアクセスができるようにすることで、導線を作りたいと考えています。

片岡氏の考える「VOD・見逃しサービス時代の問題」。入り口は多様化するが、分断されて見つけづらい。それを解決することを想定している

 テレビの中の機能ではあるが、「放送をみる」ことを超えて、ある種の個人ポータル化を狙うのが、これからのTimeOnである。

 そこで切り口として考えられているのが、みるコレのパックを「パートナーとともに作る」ことだ。その第一弾が、KADOKAWAとともに展開する「Newtypeパック」である。担当する、Webニュータイプ編集長代理の野口昌保氏は次のように説明する。

KADOKAWA コミック&キャラクター局 第3編集部 Webニュータイプ編集長代理 野口 昌保氏

野口:一番ニーズがあるのは、我々のウェブでも、次の改編期にどのような作品があるのか、という一覧です。そこからPVがあるなら見たいですし、主題歌も聞きたい。そうしたものをWeb Newtypeの方で一覧化し、管理し、提供できれば、と思います。

 アニメは今、毎週末のようにイベントをやっていますが、その情報も取り込みたいです。放送後にはおまけコンテンツがウェブ限定で配信されることもありますがその取り込みもしたいです。

 そういうWeb Newtypeに掲載している情報をRSS化して提供し、パックから確認できるようにします。

 すなわち、メディアを持つ側がテレビと連携する接点を持つために「パック」を使う、という考え方だ。

Newtypeパック トップ画面イメージ

 こうした多様なビジネスを展開するには、当然原資が必要だ。クラウド側の負担も増えており、テレビの販売価格だけで賄うのは難しいが、有料化は難しい。そのため、一つの方策がパートナー戦略であり、さらに続いて考えられているが、視聴データをリサーチ用に外販することだ。

 東芝には、機器から収集された視聴履歴データが集まっている。世帯情報や個人を特定する情報は含まれていないが、「どの地域のテレビでどの番組がどのくらい視聴されているか」が、生・録画の両方で、しかも時系列単位で取得されているという。

片岡:番組と地域を複数クロスマッチすると、相当な母数がなければ有為なデータは得られません。最終的な結果の数が小さくなりやすいからです。一般的なサンプル式の視聴率調査では限界があります。関東で7万、全国で15万はないといけません。我々はそれだけのデータを持っています。

 データは完全に統計データ化していて、我々は個人を追いかけることはしませんし、できません。「この番組を見ている人はどんな番組を見ているのか」という傾向が知りたいのであって、個人をターゲットして広告に使いたいのではありません。Tポイント連携とは無関係で、情報が送られることもありません。

 どこかで費用を捻出せねばならないのは理解できるし、そこで、テレビにおける視聴データが統計的に活用されるのも理解はできる。性質としては、ウェブのアクセスログに近いもので、極度に怖がるものでもないと思う。だが、そこはテレビを使う人がきちんと理解している必要があるし、サービス提供者にもわかりやすい情報の提供を望みたい。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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