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SCE開発2トップに聞くPS4とPlayStation VR

SCE吉田修平氏、伊藤雅康氏インタビュー

 今年の東京ゲームショウでは、VRが本格的に注目された。その中核にいたのはOculusであり、SCEだ。会場でVR体験ができるブースは、どこも開場とともに長蛇の列ができる人気ぶりだ。

東京ゲームショウSCEブース。今年はハードウェアプラットフォーマーとしては1社のみの参加となった

 今回は、VRとプレイステーションに関する変化について、2人のキーパースンに話を聞いた。ソフトウエア的視点からは、SCE・ワールドワイドスタジオ プレジデントの吉田修平氏と、PSプロダクト事業部長・ソフトウェア設計部門長の伊藤雅康氏に話を聞いた。

大型化するプロジェクト、だがPS4世代では「やりやすく」なった

 まず、吉田氏の話から聞いていこう。

 PS4のソフト本数は順調に増えている。一方で、発表されるタイトルの多くは2016年発売予定であり、ゲームの規模が大きくなり、開発期間の長期化が進んでいる。その点は、吉田氏も認める。

SCE・ワールドワイドスタジオ プレジデントの吉田修平氏

吉田氏(以下敬称略):PS4の世代になって、皆、ゲーム作りには時間をかけていますね。それはゲームが作りやすいハードウェアか、ということとは別の話として、オープンワールドを作るとなれば、どうしてもそうなります。それは、ジャパンスタジオに限ったことではありません。

 最初PS4のローンチに近いところで……とスタートしたチームでも、「これはもうちょっと作りこまなきゃ」「エンジンの開発には時間がかかる」と思い始めた。ソフトの内容や企画的な部分で時間をかけています。プロフェッショナルな仕事としてローンチの時期に合わせたソフトを出した後、ゲーム的に「PS4・第二世代」ということになりますが、それらでは自分たちがやりたいところをガン! と目指す。それで時間がかかっています。それが一斉に市場に出始めるのが、2016年、ということではないかと思います。

 一方で、開発規模の拡大により、開発費は高騰し、そのリクープ(投資回収)は困難になってきているのも事実、と吉田氏は言う。

吉田:開発費はほとんどが人件費ですから、規模が拡大すればそのまま開発費に跳ね返ってきます。あくまで理論的には、日本市場むけは難しいはずなんです。それはPS3の時代から感じてきたことではあるのですが、PS4が欧米・アジアでとても売れているので、そういうところも含めて考えると、日本市場を軸足に置いたタイトルでも成功は収められる、と考えています。SCEワールドワイドスタジオの作品で言えば、「NEWみんなのゴルフ」や「Gravity Daze」シリーズはまさにそうです。

 数は少ないかもしれませんが、そう言った作品を海外のお客様もすごく喜んでいただけていますし。日本人が好きなもの、アジア向けに作ったタイトルであっても、むしろそうであるからこそ、欧米のお客様にも喜んでいただける。PS4がヒットしたことで、そういうコア層に届けられるようになって、計算しやすくなりました。

 そういう意味では、PS3世代よりもやりやすくなった、と言えます。

値下げ版PS4は現行モデル、UHD BD対応はまだ検討段階

 こういった部分は、もちろん、値下げとの相乗効果を狙った部分がある。

吉田:値下げの判断は、ビジネス側・SCEJAがSCEI(本社)側と相談の上決めたことですが、値段を決めるのは、開発と違って「決めればいい」ので、難しくはない。我々のこれまでの経験から言えば、タイトルがたくさん出るときに値下げをするのが最も効果的だとわかっています。日本は海外より立ち上がりがゆっくりだったのですが、お感じになっていただけているように、日本市場がようやく盛り上がりつつあり、背中をもうひと押しする、という意味での値下げだと思っています。

 SCEは、値下げに合わせてハードウェアを低コストなものに作り変えてきた。今回の値下げの前には、6月末に「CUH-1200シリーズ」へと製品を切り替えている。伊藤氏は、「今回値下げして提供するハードウェアはCUH-1200であり、同じもの」と話す。CUH-1200は、初代PS4であるCUH-1000とマイナーチェンジのCUH-1100に比べて内部設計が変更になっており、パーツ点数削減などの低コスト化が図られている。このハードウェアによって得られるマージンを圧縮した分を値下げ原資としている、と予想できる。ということは、逆に言えば、再値下げなどはまだまだ先であろうから、ハードウェアのさらなる改変もずっと先だろう。

10月1日より値下げされるPlayStation 4。モデルは「CUH-1200シリーズ」で、6月末以降出荷されているものと同じだ。ただし、別売のベイカバーでカラーリングのカスタマイズが容易になった

 一方で気になるのは、現在規格策定が進んでいる、Ultra HD Blu-rayへの対応だ。現時点でソニーはUHD BD対応製品の市場投入計画を発表していないが、SCEという視点ではどうだろうか?

SCE EVP兼PSプロダクト事業部長・ソフトウェア設計部門長の伊藤雅康氏

伊藤:もちろん、検討はしています。ただ、UHD BDに対応するには、3層タイプのディスクへ対応したドライブが必要になります。レコーダ向けにはBDXL対応ドライブとして出荷されていますが、ROMドライブにはない。仮にPS4に導入するとなれば、まるっきりドライブを変更しなくてはなりません。ですから、「やる」「やらない」を含めて内部で議論をしている最中です。仮にやるとすれば、全く別のモデルとして展開することになるでしょう。

VRで見直される「ポジショントラッキング」

 VRの話をする前に、ちょっとあるゲームの話をしたい。

 SCEは9月15日に開催したプレスカンファレンスで、自社制作タイトルとして「Gravity Daze」のPS4への移植と、続編である「Gravity Daze2」の制作を発表した。

 Gravity DazeはPlayStation Vita初期のヒット作で、Vitaのジャイロセンサーを生かした操作性が特徴だった。本体を持って動かし、画面の奥方向へ「落ちる」という動きは、画面を持って動かす携帯ゲーム機ならではのものだった。

 だが、それがPS4へ移植され、続編もPS4向けになるということは、画面と一体化した操作性が失われる、ということでもある。販売数量や性能など、PS4を選ぶ理由も予想はつくが、ある意味、アイデンティティを喪失してしまったのでは……と思える。

 だが吉田氏は、その裏に意外なテクノロジー面での事情があることを明かした。

吉田:Gravity Dazeは開発中、Vitaの可能性をチェックしている段階で、モーションセンサーの性能が良くて、画面を見ながら動かす、という形が新しい操作感になるだろう、ということでVitaで作ることになり、ユニークな操作性につながったものです。

 しかしその操作性は、PS3では実現できなかったんです。もっと詳しく言うと、(PS3の標準コントローラーである)DUALSHOCK3ではできなかった、ということです。センサーの世代として、PS3向けの方が古いんですね。そのため、精度が足りないんです。

 例えば、PlayStation Vita TVでGravity Dazeをやってみようとした時、コントローラーがDUALSHOCK3になるのでうまくいかなかったんです。(筆者注:Gravity DazeはVita専用ソフトではあるが、PlayStation Vita TVには対応していない)

 ところがPS4のDUALSHOCK4はセンサーが高性能化しているので、気持ち良く操作できるんです。大きなテレビ+DUALSHOCK4だと非常に快適です。そういう操作面での移植ができたことが、続編をPS4へ、とする大きな理由なんです。

 その上で、中身的にも野心的なことに取り組んでいます。だから、PS4で出すのです。

 一見このことは、1本のゲームの裏話のように思える。だがここで重要なのは、ゲームを作る上において、グラフィックなどに関わる部分以外、特に操作用のセンサーの高性能化が、ゲームに大きな影響を与えており、VRもその中の一つである、ということなのだ。

吉田:目立ちにくい部分ではあるんですが、新しい世代のプラットフォームを作るときには、ポータブルでもコンソールであっても、必ず「今新しく使える技術はないか」と検討するのですが、モーションセンサーがどんどん安定してくると、ゲームという、ユーザーがダイレクトで正確な反応を求めるアプリケーションにおいても、使いやすくなる、ということが言えます。

 ポジションが正確に取れるようになってきたがことがゲームに大きな影響を与える、というのはまさにおっしゃる通りなんです。PlayStation Moveを作ってプロモーションしている時も、ユーザーの方々にはそこがわかりづらかった。PS Moveがとっているのはモーションではなく、空間のどこにコントローラーがあるかという「ポジション」であり、それが正確にできる、ということが画期的だったんですが、それを平面のテレビの中で使うのは、とてもわかりにくかったんです。

 しかし、そこにバーチャルリアリティーがやってきて、「空間に存在する」ことができるようになったので、「じゃあ手がいるよね」ということで、PS Moveが再評価された、という部分があります。PS3世代に作り、我々としては技術的には自信を持っていたものなんですが、やっと評価されるようになった、というのは、面白い現象ですね。

PS VRのハードは完成、「酔わない」「PS4向き」の環境を整備中

 そして、VRブームの一翼を担っているのが、Project Morpheus改め「PlayStation VR」だ。今年3月にゲーム開発者イベント「GDC」で製品版に向けたデザインを発表し、その後、E3・東京ゲームショウと展示をしてきた。伊藤氏は「細かな変更はあるだろうが、ハードウェアとしてはほぼ完成しており、ソフトウエア的な調整を進めていく段階」と話す。

PlayStation VR

伊藤:PS VRの利点は、PS4の高い能力を均一に使える、という点にあります。他社はPCのスペックに依存します。PS4は高性能なPCに比べると安価ですから、その点も利点と言えます。

 PS VRはPS4の一部ですから、PS VRによってPS4の拡販になれば、という発想もありますし、PS4のインストールベースをもとにPS VRが売れてくれれば、という気持ちもあります。両面で考えています。

 ハードウェア的には完成に近づいているとのことだが、2013年のGDCで公開された試作機と、製品に近づいた今の試作機とでは、クオリティに大きな差がある。頭を振り回すように使っても追従がずれることはほぼないし、酔いを感じるシーンも減っている。そうした部分での改善は、どこが効いているのだろうか?

伊藤:一番違っているのは、ディスプレイパネルです。初期のものは液晶を使っていましたが、今はOLED(有機EL)に変え、応答性も良くなりました。今回はリフレッシュレートも120Hzまで対応しましたので、酔い対策という点では、それが一番効いていると思います。

 我々は、これをPS4のシステム、すなわちコンシューマ向けの機器として作っています。他社の戦略はわかりませんが、ある程度B2Bも想定していると思います。我々はまずB2Cをやりたいので、「酔い」のない快適なものを提供することは必須です。そこで評判を落とすと、PlayStationブランドにも傷がつくことになりますし。

 詳しくは申し上げられない部分もあるのですが、現在のものでは、レンダリング時に視野中央を厚くするようにしていますし、首の動きに合わせたリプロジェクションもやっています。VRを積極的にやられているデベロッパーさんと共同で、「どんな風な絵の作りにしたらいいのか」ということの議論を、かなり積極的にやりました。

 今考えているのは、「酔わない」「VRに最適な開発方法はなにか」ということについての解説書をまとめて、新しくVRに参入しようとしておられる方々にはお配りしよう、と考えているところです。

 これも我々だけでなく、VRを業界全体でどうするか、ということで考えていきたいです。

PlayStation VR

 これまで家庭用ゲーム機は、特にローンチ前については、プラットフォーマーが開発のための環境を自ら整備し、それをゲームメーカーに提供するという、一方方向に近い部分があった。しかし、PS VRではその部分が変わる。

伊藤:最初から、ワールドワイドスタジオの連中とも「どういうハードウェアを作るべきか」ということについて議論を重ねました。そして、今はサードパーティーさんにも一部入っていただき、「ハードをこうすべきだ」「ソフトはこうあるべきだ」という話をしながら進めていきました。

 ……言われてみれば、PS1の時にナムコさんと一緒にやっていた時と、少し似ているかもしれません。

 SCEにとって、PS VRはPS4の周辺機器なのだが、「周辺機器とはとらえずに開発している」と伊藤氏は言う。

伊藤:新しいプラットフォームというと言い過ぎかもしれませんが、準プラットフォームのような気持ちで開発しています。

 大きい点は2つあります。

 まずは試していただかないといけないので、発売までにできるだけ多くの方々にご体験いただき、どういうものか周知が進んでから発売、としたいのです。

 もう一つは「酔い」の問題です。どうやったら酔いのないものを作れるのか。ハードはできているんですが、ソフトの作り方は色々検討中です。日々改善中ですので、そこに時間をかけています。出してみてダメ、という形では、商品として良くない、と思います。今までのゲームプラットフォームは、人の健康を害する可能性はごく少なかったわけですが、今回はそうはいきません。

「酔い」について関与度が高い、と特に最近わかってきたのは、ポジショントラッキングを使いながら、別の方向を向けるようにすることです。スティックとポジショントラッキングの両方を使うとすごく酔うのです。だからそこをどう作るのかがポイントです。今までのゲーム機の感覚だと、「動きながら別の方向を向く」行為はやりたくなるものなのですが、HMDでやろうと思うと、うまくやらないと酔うんです。

 そういう部分も含め、ガイドライン製作に時間がかかってしまっている、というところはあります。

 サードパーティーとの協調体制を作る裏には、PS4ならではの事情もある。ゲーム機として、対価格性能比には極めて優れた存在であるものの、PCでトップオブトップの性能を実現した機器に比べれば劣る。VRで求められるパフォーマンスは従来に比べて高く、PS4といえど余裕があるわけではない。

伊藤:PS VRは、あくまでまずPS4ありきです。まずPS4に合わせた絵作りが重要になります。サードパーティーの方々と一緒に開発を進めていく理由としては、酔いの問題だけでなく、PS4の限られたパフォーマンスを最大限に生かせる作り方としてはどうするのがいいのか、という部分もあります。

 単純に言えば、Oculusに比べ、画質で劣るところはあります。しかし、PS4というエコシステムの中で最も良いVR体験をするにはどうしたらいいか、という観点で開発を進めています。

 すでにPS4向けのゲームでは開発が進み、GPGPUをうまく使うものも増えています。描画という意味ではゲームでもVRでも同じですから、そうしたノウハウは活用できます。

 酔いの問題も含め、ドキュメント通りに作ればある程度快適なものができるところまでは進めたいと思っています。今だと一つ作るたびにHMDを被って試行錯誤している状態ですが、そうしなくても開発が進むようにしなければいけない、と認識しています。

 その中では、ゲームエンジンメーカーとの協業も検討していきます。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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