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PC一体型HMDも登場。“VRに本気”のAMDが示す「スマホの次は没入感の時代」

 毎年3月にサンフランシスコでは、世界最大のゲーム開発者会議「Game Developers Conference(GDC)」が開催されている。今年で30回目の記念すべき回なのだが、イベントとしても、かなり特別な意味を持つものになったようだ。

GDC会場のサンフランシスコ・Moscone Center

 なにしろ、バーチャルリアリティ(VR)づくしなのだ。

 2014年からVRの話題が増え始め、今年はついに、会期の前半2日(イベントは3月14日から18日)を「Virtual Reality Developers Conference(VRDC)」と銘打ち、VRのセッションを固めてきたくらいだ。VRDC期間中以外にもVRのセッションはあるし、16日からスタートする展示会もVRづくしであるようだ。初日のVR関連セッションはすべて大入り満員で、2日からはより広いホールに移動してセッションを行なうことになる、と急遽発表されたほど、VRへの期待は加熱している。

今年でGDCは30回目の開催となる

 Gear VRはすでに多数が市場にあふれている。PC向けであるOculus RiftとHTC Viveの個人向け出荷も近づき、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の「PlayStaion VR」も、本記事を書いている翌日、3月15日(現地時間)に発表会を予定している。ここでは、発売に向けたなんらかのアクションがある、と期待されてもいる。

 そんなGDCのレポートとして、最初に、AMDのカンファレンスで発表された内容の一部をお伝えする。GPUトップベンダーの一角であるAMDが、VRに向けてどのようなビジョンを持っているのだろうか。

スマホ時代の次は「没入感の時代」、ますますGPUが重要に

 今回の発表は次の一言に集約される。

「AMDはVRに本気である」

「AMDはVRに真剣」と発表会で宣言

 AMDのシニア・バイスプレジデント兼リードアーキテクトであるRaja Koduri氏は、PC+Web、そしてその次に来たスマートフォン+アプリの時代の「次」、すなわちこれからのことを「Immersive ERA(没入感の時代)」と呼んだ。すなわち、VRやAugmented Reality(AR)の時代になる、というわけだ。そこで重要になるのが「GPUとゲームエンジン」である、という主張である。

AMDのシニア・バイスプレジデント兼リードアーキテクトであるRaja Koduri氏
PCの時代・スマホの時代の次は「没入感の時代」と予測

 VR=Immersive ERAでは、ディスプレイが大きく変わる。いままでは1920×1080から3840×2160程度がスイートスポットであるものが、さらに上の解像度を必要としていく。4Kから5K、さらには8Kに16K×16K(!)と、没入感・リアリティを高めていくには、いままで以上に高い解像度が必要になる、と説く。「完全なリアリティを持つ世界を描くには、シンプルな2Dグラフィックスに比べ100万倍能力のあるGPUが必要になるだろう」とKoduri氏は言う。HMDではディスプレイと目の距離が近く解像度が求められる上に、描写としても、現実に近ければ近いほど有利になる。だから、GPUパワーはもっともっと必要になるし、開発はスムーズに行なえなければいけない……というのが、AMDの基本的な主張である。

VRになり、ディスプレイ解像度はさらに上がっていく。2K4Kを超え、16K×16Kまでが視野に入る
解像度の増大や描写量の増加により、GPUにはさらに高い性能が求められる。完全な現実感を得るには、2D時代の100万倍の能力が必要になる

 世界的に見ると、一部コンテンツクリエーション向けを除くと、いわゆる「8K」の話は意外なほど少ない。それは、従来のテレビ、というやり方ではその価値と出費のバランスがとれないためである。8Kが活きる70型を超えるようなテレビが、多数の家庭に入る未来は、生活スタイル的にもコスト的にも難しい。しかしVRならば話は別、と海外の技術者も考えているわけだ。

 オープンソースベースの開発環境である「OpenGPU」の推進や、よりレイヤーが薄くて効率の良いグラフィック描画エンジンである「DirectX12」などへの言及は、ソフト面からVRに必要な要素をサポートしたものであり、GPUも今後より性能を高めるべく、大まかながら今後のロードマップも示された。16TFlospの処理能力を持ち、製作側・プレイ側両方が納得できる最上位GPUカード「RADEON Pro Duo」も発表された。

今後のGPUロードマップ。今回新たに、2017年以降向けとして「Vega」「Navi」が公開された
AMDのフラッグシップGPUカードとなる「Radeon Pro Duo」。FIJI GPUを2つ搭載、トータルでは16Tflopsもの性能となる

 とはいえ、現状、こうしたVRに対応できるGPUを持っているのは、世界の全人口でみれば1%以下に過ぎない。世界中にこうしたGPUを広げることも、AMDの使命、と彼らは考えている。

VRの性能を満たすシステムはまだ少数。全人口の1%以下しか持っていない。

PC内蔵の一体型HMD「Sulon Q」もお披露目

 細かな言及は省くが、これがAMDの基本戦略である。VRのために性能を上げることは一般的なゲームにもプラスだし、開発環境という面でも共通項が多い。発表会はパートナーを呼び込んでディスカッションを進める形で行なわれた。

 そんな中発表されたのが、ベンチャー企業・Sulon TechnologiesのHMD「Sulon Q」だ。

Sulon TechnologiesのCEO、Dhan Balachand氏が、壇上にあからさまに「隠して」持ち込み、「Sulon Q」をお披露目

 この製品はHMDでありながらスタンドアロンのコンピュータ。内部にAMD FX-8800P(4 CPUコア/8 GPUコア搭載)を内蔵、Windows 10で動作する。だから当然、HMDにつきもののケーブルがない。HMD用のディスプレイとしては2,560×1,440ドットのOLED(有機EL)を採用している。また、2眼のカメラも正面に備え、そこから得た実景に映像を重ねるAR的な使い方もできる。

PCとしての本体、HMD、カメラが一体になっている
壇上で公開されたSulon Qのデモ映像。Sulonのオフィス実景に、CGを合成して表示している

 壇上では実機で撮影された映像が流れたものの、会場に展示されていたのはモックアップだけで、実際に体験することはできなかった。「2016年春出荷」とされているので、もうあまり時間はないが、価格や重量などについても、今の時点では公表できないという。これだけの内容だと、どのくらいバッテリーで動くのか、重さはどうなるのか、といった点も気になるが、Sulon Qのような製品にもAMDは協力しており、需要を模索している。それほど同社はVRに賭けている、という見方もできそうだ。

デモ会場に展示されたSulon Q。実機ではなくモックアップだが、出荷されるものとデザイン・サイズは同じ。正面にAR用の2眼カメラがある
Sulon Qの背面。どうやらこちらにバッテリーなどを入れ、動作時間を長くしつつ、前後のバランスをとるようだ

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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