鳥居一豊の「良作×良品」

快適性と画質を向上したソニー新HMD「HMZ-T3W」で「華麗なるギャツビー」の豪華絢爛な映像に没入

HMZ-T3W

 今回取り上げるのは、ソニーの3D対応ヘッドマウントディスプレイ(HMD)の「HMZ-T3W」。初代機であるHMZ-T1を愛用している僕にとってもかなり気になっていた製品だ。ディスプレイに720p解像度の有機ELパネルを採用した点こそ同じだが、3世代目となりデザインは大幅に変更された。カラーもホワイトを基調としたものから、ブラック主体となり、見た目の印象は大きく異なっている。

 しかも、HMZ-T3Wではユーザーの要望の大きかったWireless HD方式によるワイヤレス伝送にも対応。装着したまま気軽に部屋の移動ができるようになっている。そのせいもあって、HMZ-T3Wは実売価格で約10万円と従来モデルよりも価格は高めになった。

 このため、ワイヤレス伝送を省略したHMZ-T3(実売価格約8万円)もラインナップされているが、ワイヤレス対応以外の機能はほぼ同様だ。このほか、ヘッドマウントディスプレイ部の仕上げが異なっており、HMZ-T3Wはミラー加工のブラック、HMZ-T3は光沢ブラックとなっている。

3つのユニットから構成される「HMZ-T3W」

 編集部から届いた製品をさっそく開梱してみると、製品の構成は従来のようなヘッドマウントディスプレイ部とプロセッサーユニット部の2ピースから、そこにワイヤレス受信およびバッテリーを内蔵したユニットを加えた3ピース構造となっていることがわかる。移動するときは、頭に装着したヘッドマウントディスプレイから1.2mのケーブルでつながったバッテリーユニットを持って動き回ることになる。もちろん、一体型の方が使いやすいのだが、約160gのバッテリーユニットを内蔵してしまうと重量が増し、装着感にも影響が出てしまうために別体型としたのだろう。

HMZ-T3WのHMD部。デザインは大きく変わり、頭部に固定するための3箇所のパッドが大型化されている
ヘッドマウントディスプレイ部の正面。額に当てる部分のヘッドパッドはかなり大型化され、圧着面積を分散し装着感を向上している
バッテリユニット部。大きめのスマートフォンとほぼ同様の大きさで多少重量はあるものの、服のポケットなどにも収納できるサイズだ
装着時のイメージ。写真の状態のまま部屋の中の好きな場所で楽しめるのは便利だ

 このバッテリーユニットは、有線接続用としてHDMI入力を備えているが、MHL規格にも対応する。このため、対応したスマートフォンを接続して動画や写真などをフルHD画質で再生することも可能だ。スマートフォンをプレーヤーとして、出先でもヘッドマウントディスプレイによる没入感の高いAV鑑賞が楽しめるというわけだ。飛行機や新幹線などでの長距離移動などで重宝しそうだし、年末年始の帰省などで暇な時間を過ごすのにも便利だろう。

 これに合わせて、プロセッサーユニット部も横幅15cmと大幅にコンパクト化されている。入出力端子はこれまでと同様にHDMI入力3系統と、HDMIスルー出力1系統を備えるほか、新たにヘッドホン出力(標準ジャック)が追加されている。ジッター・エリミネーション回路や32bitDACを備えたヘッドホンアンプを内蔵しており、ヘッドマウントディスプレイ側のヘッドホン出力(24bitDAC回路)よりも高音質な仕様となっている。

iPhoneとHDMI出力アダプターを組み合わせて接続した状態。家の中だけでなく、旅先などでも使えるようになったのは大きな進化だ
プロセッサーユニット部。前面にあるのはヘッドマウントディスプレイとの接続用のHDMI出力。標準プラグのヘッドホン出力もある

装着はかなり簡単になった。ただし、最初のうちはいろいろな調整位置を試したい

 さっそく装着してみよう。装着方式自体はHMZ-T1/T2と大きく変わってはおらず、額と後頭部の2箇所で固定するのは同様だ。しかし、パッド部分が大型化されているほか、後頭部のベルトが可動するようになっているなど、装着感を高めるための工夫がかなり加わっている。

歴代のHMZ-Tシリーズ。左からHMZ-T3W/T3、HMZ-T2、HMZ-T1

 装着自体もずいぶんと簡単に行なえるようになった。HMZ-T1は重量があり、固定用のベルトをぎゅうぎゅうに締め付けないとずれやすい。2時間程度の映画を見ると額が赤く腫れてしまうほどだ。HMZ-T2も軽量化とパッドの形状変更などでズレにくくはなったが、固定用ベルトはそれなりに締め付ける必要があった。

 HMZ-T3の場合は、とりあえずゴーグルのように被り、後からベルトの長さを調整できるので、実にスムーズに装着できる。パッドが大型化されたほか、上部のベルトが可動するため、頭の形状に合わせてぴたりとハメやすい。フィット感が大幅に向上したので、ベルトをそれほどキツく締め付ける必要がなくなり、ベルトを装着した後での付け外しも手軽に行なえるようになった。ヘッドマウント部の軽量化はHMZ-T2に比べるとわずかなものだが、フィット感の良さもあり装着時の軽快感は大幅に向上していると感じる。ずにれくいし、頭も軽い。従来は装着した途端にある種の拘束感というか、身体的な負担を感じたが、HMZ-T3Wはそういった感じがほとんどせず、実に快適だ。

 とはいえ、最初のうちは固定方法はいろいろと試してみた方が良い。額に当てるパッド部分は、高さと奥行き方向を調整できるので、装着後ズレにくく頭部への圧迫が少ない位置を探すことが重要だ。思ったよりも簡単に装着できてしまうので、案外いい加減な調整でもホールドがよく、そのまま視聴しはじめられるのだが、調整が甘いと目の疲れ具合に大きな差が出る。

 僕は視力矯正用のメガネも一緒に装着することもあるが、ヘッドパッドを奥行き方向に一番奥の位置まで動かし、目とレンズ面の距離が一番大きくなるようにした方が、目の負担が少なかった。この奥行き方向の調整は一度取り外してからロックを解除しないと調整できないので、最初のうちは何度も試してみるといいだろう。また、高さ方向の調整は額のずれにくい位置にパッドが当たるようにし、目の位置にレンズがくるように高さを合わせればいい。こちらは装着したまま動かせるので後から微調整すればいい。

 後頭部側のヘッドパッドも可動範囲が大きいので、頭の形状に合わせてピタリとハマる位置を色々と試すといいだろう。このあたりは多少慣れも必要になるが、きちんと調整すると装着感にも大きな違いが出てくる。

ヘッドマウントディスプレイ部の側面。額にあてるパッドは前後(奥行き方向)に可動する。個人的にはレンズ面と目の距離が近すぎると目の負担が大きいと感じた
レンズ面の写真。レンズ位置は左右独立で可動し、調整範囲も拡大している。レンズの中央上部にあるのがヘッドパッドの固定スイッチで、ここのロックを外すと前後の移動ができる
額に当たる角度もフレキシブルに変化する。どの調整位置でも額にフィットしてくれる
後頭部を固定するベルトは上部が大きく可動するようになった。下側と同じ位に下げた状態は収納用。付属のポーチにすっきりと収納できる
ベルトを上部まで可動したところ。後頭部の上側の固定位置を調整できる。この位置がうまく決まると、重量を頭の後ろ側で支えられるので、重さ感がずいぶんと変わる
裏面の操作ボタン電源ボタンと操作ボタンが右手側、音量ボタンが左手側にある。内側にあるツマミはレンズ位置の調整用。左右独立で位置調整が可能だ

 装着後の操作は、これまでとは基本的に同様で、ヘッドマウントディスプレイのひさしの部分にあたる面に配置された操作ボタンで行なう。右手側に電源ボタンと操作用の十字ボタン(中央が決定ボタン)、左手側にボリュームボタンがある。慣れてしまえば手探りでも問題なく使える。

画面全体にフォーカスが合う! 快適な見通しの良さ

 装着し、頭部の固定がある程度決まったら、電源を入れてレンズ位置の調整を行なう。電源オン時には自動で調整画面となるが、後からでも設定メニューの「レンズ間隔調整」から調整することも可能。レンズ位置はHMZ-T2以降で左右独立で調整ができるようになり、それぞれの目の正面にレンズ位置を決められる。これがずれているようだと、画面の端がぼやけてしまうことがあるので、目の負担が大きくなる。

 ひととおりの調整を済ませた後で、映像を映してみると、画面全体にフォーカスが合い、すっきりと鮮明な映像が得られた。特にHMZ-T1はレンズ間隔が左右連動でしか動かせないので、利き目の位置に合わせると反対側の目の端がぼやけがちになり、ストレスを感じることが少なくなかった。HMZ-T2でそれはほぼ解消されたのだが、HMZ-T3Wとなるとそれ以上に画面の全域でのフォーカス感が高く、極めて鮮明な映像という印象になる。

 実は使用する有機ELパネルこそ同じだが、レンズ部分などの光学系はすべて変更されており、フォーカス感については大きく改善されているのだ。映画などは画面の端に重要な情報が映ることは決して多くないので、あまり気にしなくてもいいのだが、ゲームをプレイするとなると、画面周辺にいろいろなテキスト情報が表示されることが多く、画面全体にフォーカスが合わないと、そういった情報を読みにくくなる。HMZ-T3を使ってゲームもプレイしたいという人にとってはありがたいポイントだ。

 また、外部の光を遮断するライトシールドもより大型化され、遮光性を一段と高めている。上部ライトシールドは室内の照明の影響がほとんど感じられないし、下部ライトシールドを付けてしまうと、下部もほとんど見えなくなる。明るい環境で装着しても、ほぼ全暗の部屋にいるのと同じくらい周囲のものが気にならない。まさに照明を落とした映画館にいるような感覚だ。

 まさに目隠しをされているのと同様な状態になるので、装着したまま動き回るのはほぼ無理だ。付け外しが容易になったので部屋を移動するときには外してしまった方がいい。テーブルなどに置いた飲み物を手探りで探すときなどは注意しないと、グラスを倒してしまうようなことも起こりうる。

 映像以外の何も見えないというのは、映像に没入するには欠かせないもので、ヘッドマウントディスプレイの魅力のひとつと言える。そこに仮想視聴距離約20mで750インチという巨大な映像が映し出される。これは大型の映画館のスクリーン視聴に相当するものだが、750インチといってもピンとこない人もいるだろう。体感的に言うと、50型の薄型テレビならおよそ1.5〜2m程度の近接視聴で見ている感覚だ。我が家の視聴室では120インチのスクリーンを3m強の距離で見ているが、それとほぼ同じサイズの大画面と言える。これが、専用の部屋を必要とせず、価格的にも10万円で手に入るのだから、パーソナル用とはいえホームシアターの大画面に憧れる人にはたまらない魅力だろう。

豪華絢爛な映像を3Dで描写した「華麗なるギャツビー」を存分に味わう

 これに組み合わせる良品はいろいろと候補となる作品を視聴した結果、「華麗なるギャツビー」とした。

 余談になるが強力な対立候補としてホラー映画の「フッテージ」について少し触れたい。この映画は想像以上に怖いので、苦手な人は注意してほしい。残酷な描写が多いわけではないが、ショッキングな場面は数多い。普通に映画館やテレビで見ているならば、目を背ければよいのだが、ヘッドマウントディスプレイの場合横を向いても映像は常に目の前にある。目をつぶればいいのだが、それはそれで怖い(音による演出も怖すぎるので)。というわけで、ヘッドマウントディスプレイで上等なホラー映画を見るのは、ホラー好きならば極上の体験になるが、苦手な人なら視聴を継続できないほどの恐怖体験になるので、このあたりはご注意を。ちなみに自分はホラーは得意な方だが、生まれてはじめてあまりの怖さに視聴を中断し、一度明るい場所で心を落ち着かせてから再挑戦してようやく最後まで見ることができたというトラウマ級の体験をした。

 「フッテージ」を選ばなかったのは、見る人を選ぶ点と、HMZ-T3Wには3D作品の方がふさわしいと思ったためだ。

華麗なるギャツビー 3D&2Dブルーレイセット

 「華麗なるギャツビー」は過去にも映画化されたアメリカ文学を代表するフィッツジェラルドの原作を元にしたもの。1920年代のニューヨークを舞台に繰り広げられる絢爛豪華な生活と、謎めいた青年ギャツビーの野心を描いていく物語。こちらは誰にでもおすすめできる作品だ。

 その映像は、近代とはいえ100年近い昔を舞台にした物語にしては、3D制作に加えてデジタルエフェクトも多用した最新のもので、事前に2Dで視聴した時には、合成写真のように強調された奥行き感が少々違和感を感じるほどで、時代と映像の質感にちぐはぐな感じもある。3Dになると強調された立体感はむしろスムーズに感じられ、映像的な違和感がなくなる。3D制作だから当たり前ではあるが、2Dで見るのはもったいないと感じる作品だ。

 では、HMZ-T3Wで3D版を上映しよう。物語は語り手となるニック・キャラウェイの回想という形を取り、ラストを予感させるような寂しげなムードが漂う。反面、その回想になると映像は一気に華やかになる。ニューヨークに上京してきたニックは、小説家を志しながらも今は証券会社に勤めている。HMZ-T3Wの映像は精細にして色合いが実に豊かだ。3世代目となるHMZシリーズだが、表示パネルは720pのままであり、フルHDパネルの採用を望む人も少なくないとは思うが、HMZ-T3Wとなると720p表示という感覚はまったくなくなる。ディテールの細やかさ、色の階調の豊かさはフルHDとなんの遜色もない。

 これについては、有機ELの高コントラストという地力の高さもあるが、新規に開発されたLSIを使った高画質回路「新エンハンスエンジン」の実力によるものが大きいだろう。バッテリ駆動のための省電力化を果たしながらも、ディテール再現や精細感が際立つ映像に仕上がっているのは見事だ。なお、豊かな色についてはソニーの広色域技術である「トリルミナスディスプレイ for mobile」の採用も見逃せないところだろう。

光学系を一新したレンズ部分。映像のフォーカス感、精細感の向上を果たしている
新開発のLSIを搭載した映像処理回路基板。コンパクトなサイズながら、ソニーの高画質技術がぜいたくに盛り込まれている

 大学時代の友人であるトム・ブキャナンに招かれ、大邸宅でヒロインであるデイジーと再会する場面も実に幻想的だが、ニューヨークの街で繰り広げられる乱痴気騒ぎもまた、ある意味ファンタジックな映像だ。建物やファッション、小道具などは当時の時代に忠実なのだが、最新のデジタル効果を多用した映像は華やかでちょっとチグハグな感じさえする。このチグハグ感がこの作品の妙で、言うなれば虚飾に彩られた狂乱の時代や、謎めいた青年実業家、ジェイ・ギャツビーの人物像を見事に象徴している。

 そんな映像を、HMZ-T3は華やかさな絵柄で再現する。画質モード「スタンダード」では色が鮮やかというか、やや派手すぎると感じたので、「シネマ」を選択。色乗りの良さは変わらないがやや落ち着いたトーンになり、暗部の階調などもしっかりと出てくる。色温度が高いと全体に青みが強い感じになるので、画質調整で色温度を「低1」とした。これは自分の好みもあるが、映画以外のテレビ番組などの視聴でも色温度は「ナチュラル」または「低1」あたりを選んだ方がバランスの良い色になると感じた。

 緑の豊かなニューヨーク郊外に住むニックだが、そのとなりには毎夜盛大なパーティーが繰り広げられているギャツビーの城がある。このパーティーが豪華絢爛で、作品の大きな魅力と言える場面だ。かつてのミュージカル映画を思い起こさせるゴージャスな演出に加え、艶やかな衣装で踊るダンサーや舞い散る金銀の紙吹雪が3Dで立体感豊かに描かれ、まさに「夢でも見ているかのような」上流階級の派手な暮らしが描かれる。このあたりの場面は、登場する人物も多いし、自在なカメラワークもあり、情報量が非常に多い。2Dではごちゃっとした印象もあるのだが、3Dになると奥行き感がしっかりと出ることもあり、情報が整理され見通しの良い印象になる。ここでも、そんな3Dの見通しの良い立体感や膨大な情報を細部まできちんと描き切るHMZ-T3Wの描写力の高さに感心させられた。

 突然の招待に戸惑いながらも城を訪れたニックは、招待主のギャツビーを探すが、彼の姿はない。そして、彼の人となりも、ドイツ皇帝の末裔、スパイ、人殺しと誰もがその正体を知らない。ようやく姿を見せたギャツビーは、人なつこい笑顔をニックを迎え、長年の友人のように親しい付き合いを求める。もちろん、そこには裏の目的があるわけだが、そんなギャツビーの隠された正体が見え隠れする部分も、彼の怪しさをさらに高めている。ギャツビーを演じるレオナルド・ディカプリオも端正な顔立ちなのに、相変わらずやんちゃな兄ちゃんのような人懐っこさたっぷりの演技で、彼の正体とよく一致していると思う。ころころと表情を変えるふるまいも謎めいた青年ぶりを強めている。彼自身が語る自分の半生もまた、わかりやすいほどに嘘くさい。

 ギャツビーと親しくなったニックは、旧知の関係であるらしいデイジーと再会するためのお膳立てを頼まれる。このあたりから、ギャツビーの秘めた野心が見えてくるわけだが、このあたりのシーンで、画質モードなどをじっくりと追い込んで行く。

 基本的な画質は「シネマ」を踏襲している。まず気になったのは、黒浮き。遮光カバーの出来がよく、「ほぼ暗室環境」が実現できているだけに、暗部というか、シネスコ映像での非表示の黒帯部分がグレーに光っているのが気になった。このあたりは画質調整の「明るさ」を落としていくのが王道だが、今回は別の手法を探ってみた。黒の締まりを向上する「クリアブラック」とコントラスト感を高める「コントラストリマスター」で黒浮きを解消してみた。

 「クリアブラック」は-6〜+6の調整幅があるがこれを+4とし、「コントラストリマスター」も「強」とした。かなり大胆な調整だが、暗部の黒潰れもなくぐっと締まった映像になる。明るさを落とさなかったのは有機ELの持つ眩しい光の輝きを抑えたくなかったからだが、しっかりと黒を締めることで、遠近感もよりよく出るし、かなり見応えのある映像になった。

 このほかの画質調整としては、表示サイズを70%〜100%で可変できる。これは画面サイズそのものを小さくするようなもので、目の前の広がる映像に圧迫感を感じた場合に使うといい。または、ゲームなどで画面を小さくすることで視点の移動幅を減らして画面全体を見やすくするときに有効だ。このほか、大型シアターにある湾曲スクリーンのように、映像の中央付近を奥まった見せ方にする「スクリーン」なども選択でき、より映画館的な視聴体験を高める機能もある。

ヘッドホンによるサラウンド再生も、包囲感豊かで聴き応え十分

 ギャツビーの秘めた野心は、かつては恋仲であったものの今は別の男の妻となっているデイジーを取り戻すことだ。ニックの協力による再会をきっかけに、密会を繰り広げる2人だが、夫であるトムも黙ってはいない。その衝突は悲劇的な結末へと怒濤のように展開していくことになる。

HMZ-T3の付属イヤフォン

 HMZ-T3Wの魅力は映像だけでなく、vptテクノロジー搭載のバーチャルサラウンド機能を持つヘッドホンによる音質もある。HMZ-T2以降、ヘッドホンは着脱式となり、自由に好きなヘッドホンを組み合わせられるようになっている。HMZ-T3Wには、同社のMDR-XB90EX(実売価格1万円前後)相当のものが付属する。視聴では基本的にこれを使って聴いているが、バーチャルながらもサラウンド感は良好で、パーティーの場面の包まれるような喧噪、街中でひびくジャズ・トランペットの勢いのある音色などもきちんと再現される。くっきりとした聴きやすい音になっており、そのまま使っても大きな不満はないだろう。

 とはいえ、せっかく交換できるのだから、より音質の優れたヘッドホンを使っている人ならば、そちらにつなぎ替えればさらなるクオリティーアップが期待できる。今回は手持ちのShure「SE846」に換えて聴いてみた。ヘッドホン交換の場合、長いケーブルの処理が面倒にはなるのが気になるものの、聴き慣れた音でサラウンドを楽しめるメリットは大きい。

 SE846の場合、大きく変わったと感じるのは、伸びのある低音域の再現。映画に低音は欠かせないものだし、低音がより力強く出ることでシーンの緊迫感も高まる。本作はパーティーの派手な音楽、パイプオルガンの堂々とした演奏など、音楽もかなり厚みのある豊かな鳴り方をするが、パイプオルガンでは空気を吹き込むためのふいごの発する暗騒音まで捉えるなど、足音や衣擦れといった実音も細かく収録している。これらがより明瞭に再現されることで、シーンの雰囲気がより高まる。デイジーを取り合うギャツビーとトムの会話の緊張感もさることながら、街から家のある郊外へと昔シーンでは、レースのように2台のスポーツカーが暴走行為を繰り広げるが、大型エンジンの野太い排気音や未舗装の砂利道を駆け抜ける走行音が緊張感を高め、その直後の悲劇を大いに盛り上げてくれる。

 音質調整を見てみると、音質調整は高音、低音(それぞれ-10〜+10)という程度だが、圧縮音源のダイナミックレンジや高域再現を補正する「ハーモニクスイコライザー」を備えるほか、「ヘッドホンタイプ」でオーバーイヤー/インナーイヤーの切換が可能。このほか、4つのサラウンドモードがあり、これとは別にドルビープロロジックIIx、DTS Neo:6の使用が選べるようになっている。

 サラウンドモードは、「スタンダード」、「シネマ」、「ゲーム」、「ミュージック」の4つで、色づけが少なくストレートな再現の「スタンダード」を基本とし、残響も適度に増えるが、それ以上に空間の広がりが大きく拡大する「シネマ」、残響付加は少なめでひとつひとつの音を明瞭に再現する「ゲーム」、中低音域の厚みを増しエネルギー感の豊かな再現となる「ミュージック」となっている。映画では「シネマ」の好ましいのはもちろんだが、部屋の広さが一気に数倍になったと感じるような空間感はなかなかのもので、本格的なサラウンド感を楽しめるものとなっている。

 そして、プロセッサーユニット側にあるヘッドホン出力にも注目だ。こちらは前述の通り専用のヘッドホンアンプを持ち、32bitDACを使ったより上質な出力で、こちらを使うと音の厚みが増し、聴き応えはさらに高まる。サラウンド効果もより包囲感や移動感がしっかりと出るし、細かい情報量も増えるなど、音質的には明らかにこちらの方が優秀だ。このヘッドホン出力を使うということは、接続は有線になってしまうし、一般的なケーブルの長さでは取り回しが不便になるので延長コードも必要になるだろう。だが、そうした不便を補ってあまりある音質とも言える。

 例えば、個室でのデスクトップ視聴なら、視聴時はそれほどワイヤレス接続にこだわる必要はなくなるので、そんな場合はプロセッサーユニット側のヘッドホンを使うといいだろう。入力がHDMI端子のみでアナログ音声入力や光デジタル入力端子などがないので、PCを組み合わせるには制限があるが、BDプレーヤーなどでディスク再生などをするときにも有効だと思える。

個人のための理想的なシアター環境が、ますます快適になり魅力を増した!

 虚飾に満ちたギャツビーの野心の行く末…… その最後はもの悲しい結末となる。ニューヨークの繁栄もまたその後の株暴落で暗黒の時代へと突入していき、「・…という夢だったのさ」とでも言いたくなるような話でさえある。しかし、嘘まみれでありながら、ギャツビーの実に人間くさい行動やその生涯には共感できるし、映画にぴったりの夢と憧れに満ちたものとも言える。

 HMZ-T3Wでの視聴は、見終わった後に目の痛みに耐えかねてヘッドマウントディスプレイを急いで取り外すようなものではなく、エンドロールをみながら余韻にひたっていられる快適なものだった。これはHMZーT1との大きな違いだし、より多くの人に安心してお勧めできる製品だと言える。大画面を感じさせる迫力の映像と聴き応えのある音を置き場所の問題不要で実現できるパーソナルシアターとしての完成度は大きく高まった。

 そして、ゲームのプレイについても魅力は格段に増している。HMZ-T1は視野の動きの大きなゲームでは、画面周辺のぼやけなどの問題もあり、プレイに支障が出るというよりも、目の負担が大きく長くプレイできなかったが、HMZ-T3Wならば多少長くプレイしても目が痛くなったりすることは少ないと思う(もちろん、長時間の連続使用は控えたい)。新開発の高画質回路では、表示遅延もより短縮されるなど、ゲームプレイも意識した進化が図られている。いくつかのゲームで試したところ、RPGなどのゲームではまったく問題なし。タイミングのシビアなシューティングもそれほど遅延が気になることはなかったので、プレイに支障が出ることは少ないだろう。

 映画はもちろんのこと、音楽ソフトの鑑賞やゲームなど、さまざまな用途での使いやすさも高まったHMZ-T3Wは、ある意味完成形と言える出来映えだ。もちろん、今後は待望のフルHD化など、進化して欲しいポイントはいくつもあるが、先進的なユーザーが注目するだけでなく、一般的なユーザーも気軽に使える製品として成熟している。なにより、映像と音に没入できる体験はかけがえのないものだ。年末年始の休暇には、HMZ-T3Wを使って、自分だけの趣味の世界に没入してみてほしい。

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鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40〜60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。