鳥居一豊の「良作×良品」

高音質BluetoothコーデックLDACの実力をソニーSRS-X55で検証

Kalafina/THE BEST “Blue”のハーモニーを堪能する

 先日発表となったソニーのウォークマンの最上位モデル「NW-ZX2」(直販価格119,980円)は、DSD音源を含むハイレゾ再生の高音質だけでなく、もうひとつの大きな新機能が盛り込まれている。それがBluetoothに採用された新開発コーデック「LDAC」への対応だ。LDACはソニーが開発した高音質コーデックで、ワイヤレス接続ながらも最大990kbpsの高ビットレートでの伝送が可能というもの。Bluetoothの標準的なコーデックであるSBC(328kbps、44.1kHz時)と比較して約3倍もの情報量を持つという。こちらの音質にも関心があったのだが、対応するBluetoothスピーカーの発売を待つ必要があった。

 NW-ZX2の発表に続き、LDACに対応したBluetoothスピーカーの新モデルが発表された。それがSRS-X55(直販価格24,880円)だ。同社のラインナップで見ると、既発売のハイレゾ対応モデルのSRS-X9やWi-Fi対応のSRS-X7の下位に位置するミドルクラスモデルとなる。とはいえ、その実力はなかなかのもので、コンパクトなサイズとは思えない力強い低音再生を可能にしている。このモデルで、LDACの音質の良さをじっくりと確認しようというのが今回の主なテーマだ。

NW-ZX2とSRS-X55

 試聴する楽曲には、Kalafinaのベスト盤である「THE BEST “Blue”」(96kHz/24bit版)を選んだ(moraの配信ページ)。ちなみに同時発売の「THE BEST “Red”」も同じくハイレゾ音源の配信も行なわれているが、“Blue”の方を選んでいるのは、個人的に好きな作品の曲が多いため。アニメ好きの方ならば改めて説明する必要はないが、Kalafinaは作曲家の梶浦由記のプロデュースによる3人の女性ボーカルユニット。劇場版アニメ「空の境界」の主題歌でデビューし、以来アニメ作品の主題歌を数多く担当している。その魅力は梶浦由記の独特なメロディーに乗せて歌う3人の声のハーモニー。それぞれの歌唱力はもちろんだが、美しく調和していく声の響きが大きな聴きどころと言える。

コンパクトなサイズだが、ずっしりと中身の詰まったボディ

 まずはSRS-X55の外観から見ていこう。シンプルな立方体フォルムで、面と面をつなぐ部分を丸みを帯びたラインで処理したデザインは、従来モデルの印象とほぼ同様。サイズ/質量も、横幅221×51×118mm(幅×奥行き×高さ)/約1.2kgとまったく同じで、旧モデルのSRS-X5と並べてしまうとほぼ見分けが付かない。

SRS-X55の正面図。前面がパンチングメタルで被われたシンプルなデザインだ。上部にあるボタン類などの突起もなく、直線的なフォルムになっている
正面斜めから見たところ、側面はヘアライン処理された金属パネル仕上げ
上部の操作ボタン。電源ボタンとハンズフリー通話ボタンだけ押し込み式のスイッチになっているが、ほかはすべてタッチセンサーとなっている
上部にあるソニーのロゴとNFCマーク。対応するスマホやウォークマンとのペアリングがワンタッチで行なえる
背面図。2個のパッシブラジエーターを備える部分はパンチングメタルで被われており、下部には充電用のACアダプタ端子やアナログオーディオ入力、給電用USB端子などがある

 手に持ってみると、約1.2kgの重量は決して重いものではなく片手で楽に持てるが、ボディの剛性の高さもあって、中身がぎっしりと詰まっているような手応えがある。搭載されたユニットは、38mmのフルレンジユニットが2つ、そこに58mmサブウーファーと、2個のパッシブラジエーターを内蔵する。これらの構成は基本的にはSRS-X5と同様だが、これらのユニットを駆動するアンプ出力が、旧モデルの20Wから30Wへと強化されている。同じくバッテリ動作時のアンプ出力も、8Wから20Wへと強化されている。これだけ、電力消費を増やしながらも、バッテリ寿命は約8時間から約10時間と長時間化しているのも立派だ。

付属するACアダプタ。ACアダプタのサイズは決して大きくはないが、本体がコンパクトなため相対的に大きめに見える

 これに加えて、音質調整などを行なうDSPの設定を最適化し、最大音量時のフルレンジユニットとサブウーファのバランスを改善するといった音質のチューニングを行なっている。もともと、コンパクトなサイズながら音質の良さで好評だったモデルだけに、さらなる高音質化への要望に応えた内容となっている。

 試しに音を出してみると、低音の充実したパワーがすぐにわかるエネルギッシュな音だ。そのぶん、ボディ全体の振動がやや目立つ。当初は厚手の一枚板のテーブルの上に置き、テーブル面の反射を避けるために周辺ギリギリに置いていたのだが、振動で動いてしまうため落下の危険があった。そのため、底面にソルボセインのインシュレーターを敷いて動かないように設置した。ボディの振動まで殺すようなことはなく、上面に手のひらを当てるとビリビリとした振動があるが、テーブル面の振動はほぼなくなりテーブルの端に置くような不安定な置き方でも置き場所が動いて落下するような心配はなくなった。

 インシュレータの素材は基本的には好みで良いが、スピーカーが勝手に動くのを防ぐならゴム系の振動吸収系のものがいいだろう。おそらくはテーブル台の振動が音を汚していたのか、特に低音がクリアになり、最低音域の伸びもわずかながら向上した。なお、ボディの振動を止めるために上面に重いウェイトを置くような工夫も思いついたが、音の広がりや響きが失われたつまらない音になってしまった。見た目も美しくないし、ボディの振動自体込みで音作りがされていると思われるので、足元さえ固めておくだけで十分だろう。以後の本格的な試聴でも、頑丈な台の上にソルボセインのインシュレーターを置いて使っている。

試聴場所を変えて、ガチでkalafinaを聴いてみる

 当初はテーブル置きで音を出してみたように、今回は実際の使い方に近い環境、つまり仕事用のPCを置いているテーブルで聴いてみるつもりだったが、すぐに視聴ルームに移動した。低音感ばかりでなく、かなり本格的な実力とわかったので、きちんと音量を出せる場所でしっかり聴くべきだと感じたからだ。そのため、試聴では基本的にACアダプタ接続とし、近隣への迷惑が心配になるレベルの音量で聴いている。

 ちょっと話はそれるが、こうした卓上に置いて使うコンパクトなスピーカーは、近接した距離での再生がメインということもあって、遠く離れるととたんに音が減衰して聴き取りにくくなるものがある。これはこれで使い勝手を考えると良いのだが、SRS-X55はちょっと席を離れてキッチンへ飲み物を取りに行ったとしても、音が痩せることなく明瞭な音が届く。いわゆる「よく通る音」になっている。

 遠くまで音が届いてしまうのは、近隣の迷惑を考えると使いにくいと感じる人もいそうだが、その心配はない。音量を絞ればよいだけだ。「よく通る音」だから小音量でも音が痩せないのだ。おそらくはアンプ出力が高まっているためだと思うが、小型スピーカーらしからぬ本格的な鳴り方だ。

NW-ZX2でNFCによるペアリングを行なっているところ。SRS-X55の上部左側にNW-ZX2を置くだけの簡単操作だ
ワイヤレス再生モードの選択画面。初期設定は「LDAC優先」。「SBC固定」を選択すると強制的にSBCのみでの接続となる

 視聴ルームで再度設置して、いよいよKalafinaの「THE BEST “Blue”」を聴いてみる。プレーヤーはNW-ZX2を使用。いきなり本題のLDACでは聴かずに、まずはSBCコーデックで聴いてみることにする。特に設定をせずにNFCでBluetoothでペアリングをすると自動的にLDACが選択される。本来であればこれで準備完了、であるが、今回はSBCとLDACの比較試聴のため、まずは一度選択を解除した。

 Bluetooth設定画面でワイヤレス再生モードを「SBC固定」とし、再度NFCで接続すると画面にも「SBCで接続しました」と表示される。

 SBCだからといって、あからさまに音が悪くなるようなことはなく、エネルギッシュな再生音はそのままだ。4曲目の「Magia」を聴いてみたが、イントロから鳴り響くドラムのずっしりとした低音もしっかりと出るし、3人の声も鮮明で張りのある声だ。この曲は「魔法少女まどかマギカ」のエンディング曲で、重厚な演奏は暗いムードに満ちていて、物語の展開を予見させるものだ。そんな不安感たっぷりの曲の中で、力強い声が重なり、過酷な運命に立ち向かう意志の強さを感じさせる。そのコントラストが出るかどうかがポイントとなるが、そのあたりは十分なレベルにある。強いて言うならば、ハイレゾらしい音の広がりがないこと、たくさんの音が重なる箇所や3人のコーラスで音がやや混濁しがちなことくらいだ。

 Bluetooth規格は、音楽鑑賞専用というよりもさまざまなデジタルデータをワイヤレスでやりとりするためのものなので、標準コーデックとして採用されたSBCも音質よりはむしろ接続安定性を重視する傾向があり、そのためBluetoothは音質が良くないと言われがちだ。

 しかし、受け取ったデジタル信号を音楽信号に戻るデジタルオーディオ処理回路やその後のアナログオーディオ部分の作り込みで、音質はかなり向上できる。そのあたりはここ最近のBluetoothスピーカーの音質向上でも明らかだ。情報量としては不足したSBCでしっかりとした音が出せるというのは、スピーカーの基礎体力が十分に優れているということを示す部分でもある。逆に言えば、基本的な音の実力が十分でなければ、これから聴くLDACの音質の良さもわからないということだ。

いよいよ、LDACコーデックの実力を確認!

NW-ZX2でのBluetooth接続画面。NFCでBluetooth接続を行なうと、画面に接続した機器の名称と、上部に「LDACで接続しました」という表示が出る
設定のBluetooth設定の画面。左下にある設定アイコンをタッチすると「ワイヤレス再生モード」の選択ができる

 改めてLDACコーデックに切り替えて、聴いてみよう。同じく「Magia」を聴いてすぐにわかるのは、S/Nが向上して音の雑味がなくなることだ。音の粒立ちの良さや音像がぼやけずにスピーカーの前に現れるような再現性はSBCコーデックで聴いていてもよくわかる部分だが、そのあたりもより質が向上する。また、2個のステレオスピーカーの距離が短い一体型のコンパクトなスピーカーでは仕方のない部分だが、左右の広がり感が乏しいという弱点はあるものの、LDACに切り替えるとS/Nやチャンネルセパレーションの向上のためか、ステレオ的な音場の広がりが増しスケール感も出てくる。

 ここで現在第2期が放送中の「アルドノア・ゼロ」の第1期のオープニング曲である「heavenly blue」を聴いてみる。ロボット・アニメにふさわしいロック調の勇ましい曲だが、雄壮な声と優しげな声が交差してよりダイナミックに曲を盛り上げていく。声や音がそれぞれに実体感を強めることで、メロディや歌声の変化がよくわかるようになる。3人のコーラスもそれぞれの声がしっかりと描き分けられ、そのうえで調和してひとつのメロディになっていく様子がよくわかる。

THE BEST “Blue”

 もうひとつ特筆したいのは、低音の解像感だ。もともとかなり低音感の強いバランスのため、曲自体に低音成分がたっぷり含まれていると、SBCコーデックではやや低音がダブつき気味になると感じていたが、LDACでは低音のダブつきがなくなりドラムの深い響きや弾むようなベースも歯切れ良く再現される。このあたりは転送レートが高く情報量が増えていることが理由だろう。SRS-X55の低音再現がダブつきやすいのではなく、SBCで情報を間引きされて低音感が不明瞭になっていることがはっきりわかってしまったというわけだ。

 ハイレゾ音源の空間の広さなどは、LDACでやや良好になったものの、もう少し左右のスピーカーの間隔を広げたくなる。だが、澄んだ声が空間に広がっていく様子や微妙な響きの余韻などはしっかりと出ており、ワイヤレス再生でありながらハイレゾらしさもかなり出ている音だ。

 最後は、「Fate/Zero」2ndシーズンのオープニング曲である「to the beginning」を聴きながら、音質的な機能などをいろいろと試してみよう。3人の声の美しさやハーモニーが存分に出ている曲で、個人的にはKalafinaらしさが一番感じられるお気に入りの曲だ。

SRS-X55でLDACの音をチェック

 まずは、先ほども苦言を呈したステレオ的な音の広がりを改善する「SOUND」機能を試す。上部のボタンをタッチするだけで切り替わるが、疑似ステレオやバーチャルサラウンド機能のような違和感はなく、左右の音の広がりが一回り大きくなる。ちょっと高域が強まった感じになるため、試聴テストのように大音量で近接した場所で聴いているとちょっとうるさく感じてしまう。音量を下げるか、視聴距離を1m以上離れれば高域のやかましさは収まるが、もともと情報量はかなり豊かなのに感触がしなやかであらっぽいところのない上質さな音だったので、SOUND機能はオフのままの方が聴きやすかった。

 続いてはフルボリュームでの音量。その音量は一般的な家屋で聴いていたら昼間でも周囲に迷惑をかけるレベルで、試聴でも約7割ほどで音量的には十分。そのためやや距離をとった位置から聴いているが、メインスピーカーとサブウーファーのレベル調整を最適化したこともあり、大音量でも低音感が不足することがなく、ただやかましいだけの大音量にはならない。連続的にボリュームを上げていくと、最大音量の少し手前で低音感がぐっと盛り上がる部分があるので、その前後で低音のバランスが切り替わるのだろう。逆に高音域の歪みが増えて、高い声が粗っぽくなるようなこともない。大音量の再生は室内で聴くときよりも、音が反射しない広い場所で音を出すときのものと言える。キャンプや登山といったアウトドアのシチュエーションでも、聴き応えのある音を楽しめるだろう。

 最後は、バッテリ駆動時の音質。ポータブルスピーカーでよく経験するのが、ACアダプタを外してバッテリ駆動とした途端に音量が大幅に下がったり、音が痩せて非力なものになったりすることだ。これは、バッテリ寿命を重視してバッテリ駆動時は大きくアンプの出力を制限しているためだろう。

 SRS-X55でも、最初に紹介した通り、バッテリ駆動時は最大出力が20Wまでとなる。とはいえ、一般的なBluetoothスピーカーで総合20Wといえばかなりの大出力だ。バッテリ駆動とすると、さすがに最大ボリューム付近では多少音量が下がったと感じるが、それなりに大音量である試聴時の音量ではバッテリ駆動でも音圧が下がったり、低音のパワー感が損なわれてバランスが崩れるようなことはなかった。一般的な使い方ではAC駆動とバッテリ駆動の差はあまり感じないだろう。

 音質的にはバッテリ駆動の方がわずかながらS/Nが向上し、音のみずみずしさが増したことも確認できたので、適度な音量で聴くときには積極的にバッテリ駆動で使う方が良いだろう。

LDAC対応機器が増えれば、手軽なワイヤレス音楽再生がより高音質になる

 SRS-X55をLDACで聴いた音は、音質的には決して有利ではないワイヤレス接続を意識しない音で楽しめた。それだけに、上位モデルとして左右がセパレートしたモデルが欲しいとさえ思った。同時に発表されたSRS-X11はLDAC非対応だが、モノラルスピーカーとして単独で使うほか、2台のSRS-X11を使ってステレオ再生を行なう機能もあるので、これを使えばワイヤレスの手軽さを犠牲にすることなく本格的なステレオ再生ができるだろう。

 LDACコーデックも、ソニーからも順次対応モデルが投入される予定だし、他社のBluetoothスピーカーでの採用もあるかもしれない。手軽なワイヤレス再生が高音質になるのは誰にとってもありがたいことで、より普及が進むことを期待したい。

 プレーヤーについても対応機は約12万円のNW-ZX2だけだが、実売で約2万円後半で手に入るハイレゾ対応ウォークマンの入門モデル「NW-A16/A17」のLDACに対応するソフトウェアアップデートが発表された(4月開始予定)。Bluetoothの手軽な再生に期待する人にとってはうれしいニュースだろう。もう少し先だが、ぜひともアップデートをしてLDACの音質の良さを体験してほしい。

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鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40〜60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。