小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第809回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

次世代情報ステーション? プロジェクタを搭載した「Xperia Touch」が実現する世界

あの「Xperia Projector」がついに製品化

 昨年のIFAでソニーは沢山の技術展示を行なったが、Xperiaチームもいくつかの製品を出展した。その中に、小型プロジェクタとセンサーを組み合わせたAndroid機、「Xperia Projector」があった。今年1月のCESでも同じ名前で紹介されたが、今年2月のMobile World Congress 2017では、「Xperia Touch」という名称になってお目見えした。

Xperia Touch(G1109)

 そしていよいよ今年の6月9日より、実際の商品として予約受付が開始された。ソニーストア価格で149,880円。商品発送は6月24日から順次という事だが、今回はいち早くお借りすることができたのでご紹介したい。

 そもそもソニーは昨年2月に、超短焦点プロジェクタ「LSPX-P1」を商品化しているが、「Xperia Touch」もその技術を取り入れていることは間違いない。ただ大きく違うのは、LSPX-P1が外部から映像を入力する純粋なプロジェクタであったのに対し、Xperia Touchは内部的にはAndroid端末だということだ。おおざっぱに言ってしまえば、Androidタブレットの画面の代わりにプロジェクタが付いているようなものである。

 この説明でカンのいい方はだいたいお分かりだと思うが、Androidアプリ画面を投影し、センサーによって指の位置をセンシングしてGUI操作をさせるわけである。

 プロジェクタに「頭脳」が付いたことで、アプリ体験も大きく変わる事だろう。今回はちょっと未来指向のXperia Touchで、色々遊んでみよう。

何の変哲もないボックスだが……

 まずはデザインから……と行きたいところだが、基本的にはただの四角い箱である。元々スマートフォンも基本的には四角い板にしか過ぎず、デザイン云々が言える要素と言えば質感ぐらいしかないのだが、本機もその路線で、「やらなきゃいけないことを最短距離でやったデザイン」と言えるだろう。

外付けHDDケースのようなシンプルなデザイン

 ただそうは言っても、内部機構的には基盤や光学部品をあっちやって、こっちやってと大変な苦労があるのだろうが、それを感じさせないデザインとなっている。スマートフォンと違い、常時触っているものではなく、そこにずっとあって飽きない姿、また画面以上に目立ってもいけないというところから、どちらかというと「ラジオ」っぽいたたずまいに感じる。

 まず正面にはプロジェクタ投影窓がある。ここから前方下向きにプロジェクションが行なわれる。表示素子は0.37型SXRDで、解像度は1,366×768ドット。光源はレーザーダイオードで、三原色液晶シャッター方式なので、視線を早く移動するとカラーブレーキングが起こる。フォーカスは自動で、投影サイズは約23インチ~80インチ。

SXRD搭載のプロジェクタ

 SONYロゴの下に赤外線センサーがあり、ここで投射面のUIを操作する指の動きをセンシングする。読み取るために、1,300万画素のイメージセンサーも搭載。赤外線は23型の映像をカバーする範囲に投写される。

 左右には2WAYステレオスピーカーを内蔵しているが、メッシュ状のカバーが外せるわけではない。

ロゴの下に赤外線センサーがある

 本体上部には黒いバーがあり、そこにボタン類が一列に並ぶ。手前から電源、その上はカメラだ。その上にある丸い部分はスイッチではなく、おそらく人感センサーではないかと思われる。そこに白色LEDが2つ続くが、ここはタッチセンサー式の音量ボタンになっている。さらに上にはNFCポート、一番上はおそらくマイク穴だろう。人感センサーを使い、約2m範囲に人間が近づくと自動的に壁に投写するといった機能も備えている。

電源ボタンやセンサーが一列に並ぶ

 背面にはmicroSDカードスロットがあるが、SIMスロットはない。底部には充電用USB Type-C端子とマイクロHDMI入力がある。外部入力ができるあたり、単純なプロジェクタとしても使えるという事である。底部中央にある穴は、投影のAF用センサーだ。

microSDカードスロットもある
底部にある電源(USB Type-C)とHDMI入力端子
底面の穴は投射AF用のセンサー

 Android端末としては、CPUが1.8GHzデュアルコアと1.4GHzクワッドコアの、合計6コアSnapdragon650となっている。内蔵メモリは3GBで、ストレージ容量は32GB。Wi-Fiは11acまで対応している。搭載OSはAndroid7.0だ。

 バッテリも内蔵しており、約1時間の利用ができる。ただしバッテリー駆動時は、プロジェクター輝度が半分になる。

若干コツがいるセンサー動作

 では早速使ってみよう。初期設定は、Androidタブレットとほぼ同じだ。Wi-Fiの設定をしてネットに繋いだあと、Googleアカウントを設定すると、使えるようになる。

 プロジェクタ光源を駆動させている関係か、動作音は意外に大きい。正面に向かって右側にファンがあるようだ。

 Xperia Touch向けの特別なUIやアプリが仕込まれているわけではなく、初期状態はごくごく標準的なタブレットと同様と考えていいだろう。画面はデフォルトで横長なので、アプリはスマホ用ではなくタブレット用のほうが使いやすい。

OSとしては標準的なAndroidと同じ

 基本的な設置方法は、本体をまっすぐに置いて、床面に投影するというスタイルだ。明るさは100ルーメンしかないが、この距離だとそこそこ明るく、照明を落とさなくても標準の光源環境で見える程度だ。床面はもちろん白が理想だが、動画や写真を鑑賞する以外なら、木目などでも操作は難しくない。ただUIに床の色が反映してしまうので、色によっては見えづらい事もある。

 まず最初に行なうべきは、タッチセンサーのキャリブレーションだ。これは画面上で指示される15箇所ほどを指でタッチすることで、スクリーン位置とタッチ位置を合致させる操作だ。

 これを怠ると、指でタッチしても画面操作として反応しなくなる。特にホームボタンを含めた3ボタンは、構造上一番センサーから遠い位置になる。ここが反応しないと、アプリを立ち上げたあとどこにもいけなくなるので、要注意である。

 タッチ操作の方法には、若干コツがあるようだ。わりと指を床面に対して垂直に立てて、上からスッと差し入れる感じである。手前方向から手を差し入れるような操作法だと、センサーが距離感を掴めないため、反応が悪くなる。前のほうから測定しているという意識を持って操作すると、反応しやすい。

 ホッケーゲームのような対戦型アプリは比較的うまく動くようだ。動かす方法がシンプルということもあるだろう。横向きの対戦型ではあるが、こうしたアクションゲームには向いているのかもしれない。

 一方で、タイミングが重要なものにはあまり向いていないようだ。例えばドラムアプリを使って、画面タップでうまく演奏する人がいるが、あれが実現できるのは、画面のタップから音が出るまでのタイムラグが少ないからである。

 一方本機の場合、タップした地点をセンシングして実際に音が出るまでに少しタイムラグがあるため、リズムに乗った演奏というのが難しい。子供が音を出して遊ぶ、いわゆる知育アプリなどではそれほど問題ないかもしれないが、大の大人がパフォーマンスとしてやるのは厳しいのではないか。

 ピアノアプリも同様だ。和音など複数ポイントのセンシングもできるようだが、ピアノの運指は、センサーがある前方から見るとほかの指に隠れてしまうパターンもある。こういうものがうまくセンシングできない。その鍵盤が押されてさえいればいいのではなく、押したアクションをセンシングしているので、ピアノ経験者ほどイライラするだろう。また大きく投影するため、指で弾くには鍵盤が大きすぎるという問題も出てくる。

いくつかのアプリをテストしてみた

 意外にも一番難易度が高いのが、キーボードによる文字入力だろう。キーボードそのものはかなり大きいので、押し間違える事はないのだが、誤入力が結構多い。メールアドレスやパスワードなど、1文字でも間違えるとログインできないわけだが、変な文字が入力されたりすることがあり、かなり慎重にやらないとうまく入力できない。

 NetflixといったSVODサービスに簡単にアクセスして、コンテンツを鑑賞できるのはポイントが高い。本機は縦置きにして壁に投影もできるので、ふすまや壁など白いところに大きく投影して、映画館っぽく楽しむというのは、なかなか楽しい。投写する壁との距離を測るセンサーも備えており、投写時のレンズはオートフォーカスで調整される。

動画コンテンツビューワーとしては秀逸

 さすがレーザー光源とSXRDだけあって、発色もいい。もちろん、ちゃんとした白い壁面に向かって投影した場合という条件は付くが、赤のピュアな表現は、本機ならではの特徴と言えるだろう。

 もちろんこの場合は、壁に向かってタッチすることで操作が可能になる。ただし壁から離して大きく映してしまうと、画面上部がぼやるほか、タッチセンサーがうまく動作しなくなる。これは、サポートされている赤外線の照射が最小投写の23型映像の範囲だからだ。UIをタッチで操作をしたい時は、なるべく壁に近づけた方がいいだろう。大画面表示する際は、音声操作をするか、スマホからMiracastで映像を転送して、スマホで操作するという使い方になるだろう。

総論

 現時点では、Android端末であることを強く意識せざるを得ない端末ではあるが、一方でこれを情報のステーションとするような使い方も想定される。

 先日LINEからスマートスピーカーが発表されたところだが、昨年あたりから米国ではAmazon、Googleのスマートスピーカーが流行の兆しを見せている。本機もボイスコントロール用のアプリがプリインストールされており、「Hey, Xperia」と声をかけることで、いくつかの音声コマンドを認識する。日時、天気などは当然として、目的地までのルート検索、ニュースタイトルの読み上げなどが可能だ。

 ただ、これらのことは、Androidを使っている以上、Googleアシスタントで実現できてしまう。

 音声認識アルゴリズムは双方違うのだろうが、現時点ではXperiaのアドバンテージが見えてこない。将来的にはAV機器メーカーらしい独自の機能を載せていくのだろうが、現時点では積極的に使うメリットが見えてこない。

 しかしそれでも、本機には可能性はある。AmazonやGoogle、LINEは現在のところ音声応答装置であるスピーカー止まりではあるが、ゆくゆくはなんらかのディスプレイを用いてビジュアル的に何かを応答するというところまで行くはずである。人類がラジオや電話だけでずっと満足したかということを考えれば、映像が必要とされるのは時間の問題であろう。

 そのときに、ディスプレイ装置はテレビなのか。たぶん違うだろう。現時点でボイスコマンド装置が小型スピーカーであるのは、使いたい場所に「適当に」置けるからだ。テレビのように、一度置いたら簡単に動かせないものでは、使いたい場所が限られすぎる。

 そこで本機のような、小型プロジェクタは可能性があるわけだ。床か壁があれば、どこでも表示場所にできる。超短焦点なので、レーザー出力が小さくてもそこそこ明るい。人感センサーを搭載し、壁面照射時には人が近づいただけでスクリーンがONになる。ホーム画面にGoogleカレンダーの「スケジュール」を貼り付けておけば、通りかかっただけで今日の予定が確認できるなど、いちいちスマホを持って家庭内をウロウロしなくていい生活が実現できる。

 今後、こうしたスマートコマンダーは、低価格はスピーカー、高価格は小型プロジェクタといった棲み分けになっていくのではないだろうか。今後Xperiaチームが本機の機能をどのように積み上げていくのか、そこまで見届けてから本製品の価値を評価すべきだろう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。