小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第810回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

EDMをズンドコ鳴らせ! ソニー、V-MODA、Skullcandyの重低音ヘッドフォン聴き比べ

永遠の低音ブーム?

 ヘッドフォン市場には基本的に、多種多様な製品が出回っている。その中でも時折、特定の切り口で“ブーム”が起こり、そのジャンルの製品群がガーッと伸びるという動きを見せる。

 近年ではノイズキャンセリング、ハイレゾ、Bluetoothという3つのキーワードを中心に製品が展開されているのはご承知の通りかと思う。ただそれとは別に“低音”という切り口は、古くから周期的にブームが到来している。やはり大型スピーカーでないと得られない体験をヘッドフォンに求めて行った結果、耳のすぐ近くで鳴るという構造を巧みに使用した低音表現というのは、魅力的なのだろう。

 そこで今回は、低音表現に定評のあるヘッドフォン数機種を集めてみた。本連載では定期的にヘッドフォン・イヤフォンの特集を行なっているが、低音という切り口は2002年にやったっきりで、かなり久しぶりである。前回の特集から15年が経過しており、技術的にもかなり進化したはずだ。

 低音を試すならEDMだろうということで、今回はEDMの名盤との誉れ高いJusticeの「†」(クロス)を試聴曲に使っている。最新技術による低域表現とは、どういうものだろうか。早速試してみよう。

ヘッドフォンの巨人、ソニー「MDR-XB950N1」

 国内・海外市場ともに、ヘッドフォン業界の巨人とも言えるのがソニーだ。様々なタイプの製品を幅広く展開するが、低音にフォーカスしたヘッドフォンとして、今となっては重低音モデルの代名詞的存在の「エクストラベース(XB)」シリーズを、2008年に登場させている。

 その後何度かのリニューアルを経験し、現時点での最新モデルが今回ご紹介する「MDR-XB950N1」である。Bluetooth、ノイズキャンセリングにプラスしてXBを冠するという、欲張りなモデルだ。3月から発売されており、実売は27,000円前後。通販サイトで安いところでは20,000円を切るショップもある。

今年3月に発売された「MDR-XB950N1」

 カラーはブラックとグリーンで、今回はグリーンをお借りしている。密閉型のエンクロージャは円柱形で、特徴的な肉厚のイヤーパッドは円柱の外にはみ出す事もなく、スッキリした印象だ。肉厚故にフィット感だけでなく密閉感も高い。ハードウェア的には、XB専用の振動板を開発、また低音振動による空気圧を調整するためのダクトを設けるなど、独特の設計となっている。

XBのポイント、肉厚イヤーパッド
空気圧調整のダクトも大型

 XB950N1のポイントは、専用アプリ「Headphones Connect」によって低音の出具合を様々に調整できる事である。ヘッドフォン内蔵DSPを外部アプリからコントロールするという機能は、Parrotの「Zik」で有名になったところであるが、今ではボーズ、ソニーなど大手メーカーも採用するようになってきている。

 Headphones Connectでできることは、エレクトロ・ベース・ブースターの量感、サラウンドエフェクト(VPT)の設定変更、ノイズキャンセリング機能のON/OFFの3つだ。本機はBluetoothとワイヤード接続の両方で使えるが、ソフトウェアによるコントロールはワイヤード接続では使えないところは注意だ。

専用アプリ「Headphones Connect」

 本体だけでも低音寄りのチューニングとなっているが、エレクトロ・ベース・ブースターは強烈だ。スライダーによって増減各10段階で設定できるが、+10にすると、どんな低音好きでも納得の押し出し感となる。+6ぐらいでも、普通のヘッドフォンではまず敵わない低音となる。

 さらにサラウンドエフェクトと組み合わせると、ヘッドフォン自体が振動するほどの低音に見舞われる。ただしサラウンドエフェクトを入れると、全体的に音が奧に引っ込む感じがある。また当然ながら音圧や音の分離感も下がってくる。雰囲気を楽しみたいなら別だが、音楽そのものを楽しみたいのであれば、OFFのほうがいいだろう。

 エレクトロ・ベース・ブースターとサラウンドエフェクトは、ヘッドフォン本体のBASS EFFECTで一括ON/OFFできる。ただし切り替わっている間は4秒ほど音楽が途切れるので、瞬間的に効果の入切が聴き比べられるわけではない。コーデックはAAC/aptXをサポートするが、LDACには対応しない。

効果は一括でON/OFF可能

DJ御用達、V-MODA 「Crossfade II WIRELESS」

 V-MODAはDJシーンを中心に2012年頃から頭角を現わしたアメリカのメーカーだ。独特のデザインセンスと低音がズカズカ出る作りで、日本では「Crossfade M100」というモデルが永らく人気となっている。

 2016年に同社初のワイヤレスヘッドフォン「Crossfade WIRELESS」をリリースしたが、今年の6月から早くもその後継となる「Crossfade II WIRELESS」が発売された。V-MODAは、楽器メーカーのローランドが子会社化しており、海外では先に発売されていたが、日本ではローランドが扱うようになって初めての新製品という事になる。

 カラーとしてはマット・ホワイトとマット・ブラック、ローズ・ゴールド・ブラックの3つ。ただしBluetoothでの対応コーデックが違っており、前者2つはSBCのみだが、ローズ・ゴールド・ブラックのみSBCとaptXに対応する。

 価格は前者2つが49,000円前後、ローズ・ゴールド・ブラックが51,000円前後となっている。通販サイトでは5万円弱といったところ。今回はこのローズ・ゴールド・ブラックをお借りしている。

唯一aptX対応の、Crossfade II WIRELESS ローズ・ゴールド・ブラック

 六角形を多用したデザインで、イヤーパッドまで六角形だ。またDJ使用を前提としており、金属部品を多く使用することで堅牢性を向上させている。

派手な金属アームが斬新
イヤーパッドも六角形

 エンクロージャは耳がギリギリ入るぐらいの小型だが、ここに50mmのドライバが内蔵されている。ドライバの設計も独特で、高域用と中低域用を同軸上にまとめたデュアルダイヤフラムとなっている。

 こちらもBluetoothとワイヤードの両対応だが、ワイヤード接続では、Crossfadeシリーズとしては初となるハイレゾ対応となる。

キャリングケースも独特のデザイン

 装着感は、エンクロージャが小型で、アームバンドの締め付けも強いため、かなりタイトだ。これだけタイトなら音漏れは少ないだろうが、長時間のリスニングは辛いだろう。

 低域の出は「ドゥーンボワーン」という感じではなく、スピード感があり、キレのいい押し出しが特徴だ。だが、低域の押し出しにほかの音域がクリップされることなく、サウンド全体がきらびやかに鳴るという、派手なサウンドである。音量の大小に関わらずサウンドイメージが変わらないという点では、確かにDJプレイのモニタリングとしてはいいだろう。

 またワイヤードで使うことが前提になるが、電子ドラムやベースなど、低音・打楽器系の楽器練習に使うと、かなり気持ちいいだろう。

本当にボディを振動させる、Skullcandy「CRUSHER WIRELESS」

 Skullcandyというメーカーは、どれぐらい日本に浸透しているのだろうか。日本では比較的新しいメーカーというイメージを持っている人が多いかもしれないが、米国ではもう10年以上前から量販店などでも大きく扱われており、ブランドロゴのドクロ柄と相まって、ティーンエイジャーから20代前半をターゲットとした、低価格でイカしたストリート系ブランドというイメージとなっている。

 音質的な面で特に注目されるメーカーではなかったため、これまで個人的にはスルーしてきたが、今回の「CRUSHER WIRELESS」は面白い。一見するとなんの装飾もないシンプルな低価格ヘッドフォンにしか見えないが、エンクロージャにフルレンジ40mmドライバと、34mmサブウーファを内蔵した2Way構造だ。標準価格は23,544円。今年4月の発売だが、ネットでの実売はほとんど下がっていないというのは珍しい。

シンプルな見た目の「CRUSHER WIRELESS」

 サブウーファは、低音の再生するだけではなく、45~75Hzの振動をあえてエンクロージャに伝えることで、エンクロージャ全体を振動させる構造となっている。同社はこれを「ステレオハプティックベース(Stereo Haptic Bass)」と呼んでいる。

内部は2Way構造

 ボタンはかなり大きめで、ストリートな印象はそのまま。ポイントは左側にあるスライダーだ。これを上に上げていくと、ステレオハプティックベースの効果が上がり、低音強調とともに、エンクロージャ全体の振動が加わっていく。振動は45~75Hzの信号にしか反応しないので、効果の出具合は楽曲に左右される部分はあるのだが、半分ぐらい上げても十分振動していると分かる。

でっかいボタンを採用
ステレオハプティックベースを調整するスライダー

 スライダーを最大まで上げると、耳の周りがくすぐったいほど振動する。ヘッドバンド部まで振動が伝わっているようだ。これだけ振動したら、中高域スピーカーの鳴りも当然無事では済まないわけで、低音出力によって中高音域もある程度クリップする。だがエフェクトとしてはかなり強力で、面白い効果が得られる。

 ボリュームを下げれば当然ながら振動も小さくなる。通常音量が下がれば、低域表現も痩せていくものだが、スライダーによってそれをカバーできるため、小音量でも振動が得られる。結果的に“大きい音で聴いてる感”が得られるのは面白い。

 実は、低域を振動によって体感させるという方法論は、かなり昔から存在した。2001年にオンキヨーリブのTR-1000という振動するAVチェアをレビューしたことがあるが、記事中にもあるように1980年代から製品としては存在する。つまり振動ワザは飛び道具ではなく、由緒正しい方法論なのである。

 BluetoothコーデックはSBCのみ対応なので、高音域の解像感はそれほど高くないが、製品意図は十分伝わる音質である。なおワイヤードでの使用時でも、バッテリーが充電されていれば、ステレオハプティックベースは動作する。音質と低音を両立させたければ、ワイヤードで使うのもアリだろう。

 ヘッドフォンの構造としては、アームや支持部の可動範囲が非常に小さいので、人によってはきちんとフィットしないこともあるかもしれないが、そこは比較的低価格な製品なのである程度は目をつぶるしかない。低音マニアなら、話の種+現物資料保存という意味でも「CRUSHER WIRELESS」は1台買っといていいだろう。

総論

 低音重視ヘッドフォンは、一般的に言うところの“いい音“とは別の軸に存在する製品だ。一種のエンタテイメント性を重視した、特別なヘッドフォン群を形成していると言えるだろう。

 その中でも、今回の3機種は抜群の個性を発揮する。ソニー「MDR-XB950N1」は、相当な暴れん坊的なサウンドを標榜するが、実際にはかなり繊細に音が破綻しないように調整された、「DJだけど委員長」的な優等生感がある。エフェクトも内蔵するため、サウンドの振り幅が非常に広く、同時に低域の出方も色々なパターンが楽しめるのが特徴と言えるだろう。また3種の中では唯一のノイキャン対応である。

 V-MODA「Crossfade II WIRELESS」は、3種の中では唯一低音の調整機能がなく、素の設計で勝負する製品である。音の出方としては好みが分かれるところだろうが、ワイヤード接続時には唯一ハイレゾ対応となる。見た目が派手なので年配者からは敬遠されるかもしれないが、割と玄人好みではないだろうか。

 Skullcandy「CRUSHER WIRELESS」は、音楽的に破綻することを恐れずにドッコンドッコン系を極めに来た点で、評価したい。ある意味日本企業では、企画としては上がってきても、製品化に至るまでにどこかで絶対「これはダメだろ」とストップがかかるタイプの商品だろう。コーデックがSBC止まりなのが残念だが、辛いことがあって今は何もかも忘れたい、そんな日のためにキープしておきたいヘッドフォンだ。

 今回は最近発売という縛りで筆者の知る範囲の3モデルでお届けしたが、おそらくもっと変わったモデルも存在する事だろう。もし読者お勧めのズンドコ系ヘッドフォンがあれば、ぜひ編集部までご紹介いただきたい。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。