小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第816回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

リビングの音楽革命!? パナソニックのワンボックススピーカー「SC-UA7」

ワンボックススピーカーが面白い!

 今年の本連載をざっと振り返ってみても、オーディオ系の製品がずいぶん増えた。ハイレゾブームが次第に落ち着いて来たところで、ノンハイレゾ製品が、逆に発想の自由度が高くなって、やたらと面白くなってきているのだ。

パナソニックのワイヤレススピーカーシステム「SC-UA7」

 これまでスピーカーシステムと言えば、当然ながら左右のスピーカーが離れた位置にある、いわゆる「ステレオスピーカー」が主流であった。これは小型Bluetoothスピーカーであっても例外ではなく、小さくても左右別々のスピーカーがある。モノラルスピーカーもあるが、それはどちらかというと1万円を切るエントリーモデルとしての役割だった。

 ところが最近はスピーカーを左右に離さず、点からサウンドを広げるといった商品が注目を集めている。以前もご紹介したBOSEの「SoundLink Revolve」などは、音のステレオイメージを構築して、その範囲内で音空間を表現するのではなく、音を周囲に撒くといった考え方で音を広げるアプローチを取った。

 こうした製品のなにがいいのかと言えば、設置場所を気にせずどこにでも置ける、置いたら新しい生活が見えてくるという、生活提案型の商品になっているところである。つまりそれだけ現代の生活空間は、ステレオスピーカーを正しくセットする為のスペースなど、残っていないのだ。そういう意味では、まずは考え方のリセットが必要になる分野なのである。

 今回ご紹介するパナソニックのワイヤレススピーカーシステム「SC-UA7」も、そのスケール感まで含めると、これまでになかった新しいタイプの製品である。サブウーファまで含めた2.1chスレテオスピーカーを、全部縦に積み上げたようなスタイルで、これも一種のワンボックススピーカーだ。9月8日発売で、価格はオープンプライス。店頭予想価格は8万円前後だ。

 音楽との接点を変える、SC-UA7をさっそく試してみよう。

部屋に溶け込むデザイン

 高さ744mm、幅260mm、奥行き295mmと、かなり大きな製品だ。重量は約14kgで、1人でも持てないことはないが、説明書には安全のため、2人以上で持つようにとされている。

昨今のオーディオ製品としてはかなり大型

 リビングに設置するというのがコンセプトなのだが、落ち着いたデザインのためか、設置すると意外に部屋に馴染む。モノとして「うるさい感じ」がしないのは、なかなか上手い。

 ボディは六角柱で、上部の奥の方がディスプレイ部として少し起き上がっている。上部手前の部分は、3つの円をあしらったタッチ式のコントローラだ。ただこの円は回すような操作を想定しておらず、あくまでもタッチを連打していくスタイルのUIである。

ボディは六角柱
タッチ式UIで操作する

 電源ボタンのみパーツが別れているが、ここはスイッチとして凹むわけではなく、タッチ式のセンサーである。

 ボディは上下2段で別れており、間にブルーのイルミネーションがある。この部分が少々自己主張しすぎだが、イルミネーションはリモコンでOFFにすることもできる。

上下の間にイルミネーション板がある
このように青く光る

 ボディの上段は、内部的にステレオスピーカーとなっている。片チャンネルが6cmのツイータ×2、8cmのミッドレンジウーファ×2という構成で、これが左右あるからそれぞれさらに×2という事になる。詳しい構造は下の写真を見ていただきたい。アンプはトータルで1,100W(上部220W×2ch、スーパーウーファ330W×2)となっているが、アンプ部もおそらく上部にあるものと思われる。

上部のエンクロージャには、ツイータを4基、ミッドレンジウーファを4基搭載
ほとんどの機能が集中する上部

 ボディの下段は、サブウーファ部だ。ここの容積を潤沢に取っていることから、本機は豊かな低音の出が特徴となっている。ユニットは16cmのスーパーウーファ×2で、前面向けと背面向けにシンメトリックに配置されている。このため、背面は壁から10cm以上離すことが推奨されている。

下部には16cmのスーパーウーファを2基搭載
背面にもサブウーファが

 さらに前方には4箇所のダクト付きバスレフポートを設けることにより、サブウーファによる空気振動を前方に向かって放出する作りとなっている。この構造を、「Airquake Bass」と呼んでいる。

 なおスピーカー表面はパンチンググリルで覆われているが、これはユーザーが取り外せない構造となっている。小さいお子さんがいる家庭でも安心だ。

 入力ソースとしては、Bluetoothは当然として、アナログAUX×2、USB×2、光デジタル×1、FMラジオがある。また内部に4GBのストレージメモリがあり、ここにラジオをファイルで録音したり、USBメモリから楽曲を本体メモリに保存する事もできる。

 背面を見てみよう。上部左にあるのは、マイク入力だ。ここにカラオケマイクを繋げば、カラオケも楽しめる。確かにサイズ的には、昔あったカラオケマシンのようなイメージもある。カラオケ用として、センターのボーカルを抑えて再生するモードも備えている。真ん中はUSB×2、右の外部入力は、ステレオミニジャックである。

マイク入力も装備し、カラオケもできる

 下段は、左にRCAの音声出力がある。本機を2台繋ぎたい場合や、別のスピーカーに接続するといった用途を想定しているようだ。光デジタル入力は、オーディオソースというより、テレビを繋ぐものと考えた方がいいだろう。もう一つの外部入力は、RCAタイプである。

背面にも入出力端子

 右端にあるのが、FMアンテナの接続端子だ。FM用のアンテナをわざわざ立てている家庭は少ないと思うが、簡易アンテナも付属している。

付属の簡易FMアンテナ

 “ワイヤレススピーカーシステム”という名前なのだが、本当にワイヤレスなのはBluetoothぐらいのもので、そのほかはケーブル直結である。Wi-Fiにも繋がらないので、ネットワークオーディオとしての機能はない。新しいコンセプト製品ではあるが、実態は意外にレガシーなところを攻めてきたのかもしれない。

 リモコンも見ておこう。数字キーのついた赤外線タイプのリモコンで、小型のテレビリモコンといった風情である。本体表示部でもある程度の操作はできるが、細かい設定操作はリモコンを使う事になる。

設定変更などはリモコンで行なう

豊かな低音と十分なパワー

 では早速再生してみよう。多くのユーザーが期待するのは、Bluetoothスピーカーとしての性能であろう。Bluetoothの対応コーデックは、SBCとAACだ。したがってaptX推しのAndroidよりも、AAC推しのiPhoneと接続した方が、パフォーマンスはいいだろう。

 ただBluetoothバージョンは2.1+EDRなので、長距離接続やボリューム連動、自動再接続といった機能は使えない。こうした部分も、やはり意外にレガシーといわざるを得ない。

 まずは工場出荷時の状態で鳴らしてみたが、さすがサブウーファを下に抱えているだけあって、低音のパンチ力は申し分ない。若干中高域が目立つ傾向はあるが、音像としては、左右両脇に向いたステレオスピーカーがあるので、やわらかな広がり感がある。音源の位置は感じるが、指向性があるわけでもなく、部屋のどこでもだいたい同じ音質と音量で聴こえるのは、この製品のポイントだ。

 サウンド関係の調整としては、EQとD.BASSがある。EQはプリセットとして「MUSIC」、「BGM」など7種類が選択できる。デフォルトはMUSICになっている。BASS、MID、TREBLEも±4段階で調整できるが、これをいじるとプリセットEQは自動的に解除される。

 加えてサラウンドもON・OFFで設定可能だ。いわゆる音を広げる効果だが、これを入れると分離感が上がるので、標準でONでもいいだろう。

 「D.BASS」は、サブウーファの挙動を決める。OFFだとかなりしょぼい音になるが、ONには「D.BASS LEVEL」と「D.BASS BEAT」がある。BEATのほうがアタック音を強調するということだが、楽曲によっては違いが分からないケースもある。キック音のはっきりした楽曲では、BEATのほうがいいだろう。

 気になるのは、これらの設定の操作方法である。リモコンの該当機能キーを押して、十字キーと決定ボタンで設定するスタイルだが、本体の表示部が昔懐かしのFL表示管で、しかも1行なので、表示可能な文字数が限られており、長いパラメータはスクロールして全部表示されるまで、今どの設定になっているのかがわからない。イマドキの機器であれば、現在の設定状況の俯瞰という意味でも、スマホアプリから設定をいじれる機能が欲しいところだ。

表示部の文字数が少ないため、階層化されたメニュー操作に難がある

 USBポートは、USBメモリなどのストレージを接続して、その中の音楽ファイルを再生できる。早速試してみたところ、exFATでフォーマットしたUSBメモリは認識できなかった。FAT32までの対応なのだろう。

 メモリ容量が大きければ、それだけフォルダによる分類が階層的になるわけだが、十字キーと1行FL管表示では、目的の曲までたどり着くのが大変だ。むしろメモリー内の曲をランダムに再生する「JUKEBOX」モードを使う方がいいだろう。

 このモードを使うと、楽曲がランダム再生されるのに加え、楽曲間をクロスフェードしたり、間にDJっぽいスクラッチ音などのSEを入れて楽曲を繋いでくれる。入れ物としてUSB A、B、内蔵メモリの3つが使える事になるので、それぞれに違う傾向や用途の曲をいれといて、ランダム再生させるという使い方もアリだろう。

意外にいい! FMラジオ

 背面にはRF端子があり、ラジオ受信用のアンテナを接続することで、FMラジオが聴ける。ラジオアンテナなんかないよという方は、とりあえずテレビアンテナを繋いでみて欲しい。アンテナがVHF帯域まで受信できていれば、あるいはローパスフィルターでカットされていなければ、FMラジオも受信できるはずだ。

 ただしテレビとラジオの電波塔の方向が一緒とは限らないので、ハードウェア的に受信可能でも、位置的に受信できないところもあるだろう。この場合は付属のアンテナを接続し、部屋内に伸ばすことで受信できる。今回は簡易アンテナを使用したが、筆者宅ではかなり良好にステレオ受信できた。チューナーの性能はなかなかいいようだ。

 今やラジオはスマホでも受信できるが、案外スピーカーに出して聴く機会がほとんど失われているのではないだろうか。リビングに設置してラジオを流しておくと、それだけで場が埋まる感じがある。特にFMはトークが延々と続くことは少ない。テレビよりもうるさくなく、大抵は音楽がかかる。今回SC-UA7がやってきて、もっとも長時間聴いたのがFMラジオであった。J-WAVEをほぼ1日中聞いたというのは、何十年ぶりの事だろうか。

 またラジオは、本体の内蔵メモリに録音することもできる。続きが聴きたいけど出かけちゃう、みたいなときは、リモコンの録音ボタンを押すだけで録音が開始される。

 内部の時計を合わせておくと、タイマーによる録音開始・停止もできる。ただしタイマーを動作させるためには本機の電源をOFFにしなければならないので、別のソースを聴きながら、時間になったら録音、といった使い方はできない。

 タイマー機能は、再生にも使える。すなわち目覚まし代わりにラジオを点けるという事もできる。

総論

 リモコンによる設定変更はまどろっこしいが、日々の用途であれば、本体の美しいタッチパネルでほとんどの操作ができることは評価したい。リモコンよりも反応が良く、何しろデカい本体がその場にあるので、そこに行って操作しないという手はない。外部入力で何らかのプレーヤーを使うのであれば、操作パネル部がプレーヤーの置き場にもなる。これは意外と便利だ。

 デザイン、サウンド面では満足度が高い製品ではあるが、若干想定しているユーザー層が高め、もしくはレガシータイプなのかなという気がする。

 例えばUSBメモリから音楽再生できるとはいえ、今どきパソコンに貯めた音楽をわざわざUSBメモリにコピーして再生するような面倒なことをする人がどれだけいるだろうか。ハイレゾ再生できるわけでもなく、MP3とAACしか再生できないというのも、なんだかもったいない話である。しかもパナソニックならそこはSDカードじゃないのか? とも思うのだが。

 また本機のUSBポートは、電源供給ができない。これができれば、スマートフォンを充電しつつヘッドホンジャックからAUXへ出力、といった具合に完結できたのだが。

 個人的には、新しいコンセプトならイマドキの機能が欲しいタチなので、色々惜しいなと思うところは多いのだが、実際購入するユーザーはお金に余裕がある中高年であるのかもしれない。あまり新しいことを覚えさせず、今ある知識でなんとかなる製品という意図があるのであれば、それはそれで大いに認めるところだ。

 本機がどういう市場評価になるのか、パナソニックのお手並み拝見である。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。