小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第615回:WindowsとAndroidが合体?! ASUS「TransAiO P1801」

“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第615回:WindowsとAndroidが合体?! ASUS「TransAiO P1801」

難しいところにチャレンジした大型タブレット+PC

チャレンジが求められるPC業界

 これまでパソコンの役割であった作業が細かく切り出され、アプリとしてスマホやタブレットでこなせるようになったことや、昨年10月に投入されたWindows 8が、期待したよりも売り上げに貢献しなかったことなどにより、パソコン販売は低迷している。BCNによれば、Windows 8リリース直後の3月商戦期でも、台数・金額共に前年割れになったそうだ。

 後者は今年リリースされるWindows 8.1次第では多少状況も変わってくるかもしれないが、前者の“今どうしてもPCが必要”という人が減ってきてしまっているという現状は、当分変わらないと思われる。そんな中、各PCメーカーはなんとか新しい付加価値を創造しようと、色々面白いPCを企画し、製品をリリースし始めている。いっそこのままPCが売れないほうがアグレッシブで面白いんじゃないかと思えるほどの勢いである。

 ASUSの「TransAiO P1801」(以下TransAiO)は、普通のWindows 8マシンとして使えるだけでなく、18インチの巨大Androidタブレットとしても使えるという、ユニークなマシンだ。既に発売が開始されており、価格はオープンプライス。店頭予想価格は159,800円前後だ。

 一体どういう仕組みなのかという事も含めて、興味のある読者も多い事だろう。今回はこのTransAiOをじっくり触ってみた。

確かにこれまでに無かったマシン

 まず、なにがどうなってるのかを整理しよう。実はTransAiOは、本体が2つあるようなものである。全体を見ると、いわゆるモニター一体型の、オールインワンPCのように見えるが、この液晶モニター部分が分離してAndroid端末となる。

全体を見れば、よくあるオールインワンPCのように見える
モニター部分が分離

 そしてもう一つの「本体」とも呼べるのが、「PCステーション」という、いわゆる台座部分である。これは単なる充電用のスタンドではなく、これ自身がWindows 8マシンなのだ。ドッキングしている時には、タブレットをモニターとして使うというわけである。

 これで、離せばAndroid、ドッキングすればWindows 8になるわけだ。さらに本機には、もう一つ動作モードがある。分離状態のタブレットでも、Windows 8を使う事ができるのだ。これは、Android上でリモートデスクトップアプリを動かし、PCステーション側のWindowsをリモート操作することで実現している。リモート用には「Splashtop Remote for AiO」というアプリが使われている。

台座部分が、実はPC本体
モニターが離れるPCとして使う事も可能

 つまり本機では、動作モードとして「Pad(Android)モード」、「PCモード」、「リモートデスクトップ(PC)モード」の3つがあるわけだ。モードの切り変えは、タブレット部分をズボッと抜くか、タブレット横の青いボタンを押すことで切り替わる。もっとも合体した状態で青いボタンを押せば、PCみたいなカタチをしたAndroidにもなるので、4モードあると言えないこともない。かなり“何でもアリ”なマシンである。

 マシンとしてのスペック解説は、PC Watchで石井英男氏のレビューがあるので、そちらをご覧になっていただいたほうがいいだろう。ここでは主な仕様を表組みとして掲載する。

PCステーション
OSWindows 8 64bit
CPUCore i7-3770(3.4GHz)
グラフィックGeForce GT 730M
外部ディスプレイ1,920×1,080ドット
メモリ8GB
ストレージ2TB HDD
ドライブDVDスーパーマルチ
スピーカー内蔵ステレオフルレンジ(3W×2ch)
重量約4.1kg
タブレット
OSAndroid 4.1
CPUTegra 3 1.7GHz
グラフィックGeForce Ultra Low Power GPU
ディスプレイ18.4型ワイドTFT液晶
1,920×1,080 ドット
(IPS方式、LEDバックライト)
メモリ2GB
ストレージ32GB(eMMC)
スピーカー内蔵ステレオフルレンジ(1.5W×2ch)
重量約2.4kg

 ではハードウェア周りをもう少し詳しく見ていくことにしよう。タブレット側だが、18インチのタブレットで重量2.4kgというのは、かなり大きいし重い。だが、背面に取っ手が付いているので、持って移動するときは片手でも持てる。

背面の取っ手を持って移動できる
背面のスタンドを起こせば、タブレットだけで自立する

 だが、実際のオペレーションは片手で持って使えるような感じでもなく、膝の上に置くとか、背面のスタンドを広げ、自立させて使うという事になるだろう。縦横の画面ローテーション機能はあるが、縦で自立させておく機構はない。

 端子類は右側に集中しており、電源、ボリュームボタン、OS切り換えボタンの下には、USBミニ、microSDカードスロット、ヘッドホン端子がある。一番下はACアダプタ用のコネクタで、タブレット単体でも充電できるよう、小型のACアダプタが付属している。

タブレット右側に端子類が集中
タブレット単体でも充電できる

 液晶画面の上部にはカメラがあり、PCステーションとドッキングしている時は、Windows側からも使う事ができる。スピーカーは左右対称の位置に付けられている。

 PCステーションとタブレットは、底部にある専用コネクタで接続される。スタンド状のところに置けば、タブレット側のバッテリも充電されるし、PCのディスプレイになる格好だ。

タブレット側のスピーカーはかなり小型
PCステーションとは専用コネクタで接続

 PCステーションの脚部にはチルト機構があり、PC本体部分ごとチルトすることができる。液晶面はかなり光沢のあるタイプなので、反射のない角度に調整する機能は必須である。

 PCステーション側には、端子類はかなり多い。右側にはDVDドライブのスロットとUSB端子が1つある。ここは付属のワイヤレスキーボードとマウスの受信部を挿すようになっている。

PCステーションの右側
キーボードはかなり剛性が高い作り

 左側にはUSBポートが4つあるほか、SDカードスロット、マイク、ヘッドホン端子がある。背面には電源と有線LAN端子、HDMI端子がある。

PCステーション左側にはかなり多くの端子が
背面に電源とLAN、HDMI端子
PCステーション側のACアダプタは巨大

 PC用のACアダプタはかなり大型で、出力が19.5V/9.23Aもある。普通にPCを駆動して、さらにタブレットの充電まで行なうため、これだけの出力が必要なのだろう。

Windows 8マシンとしてはかなり良好

 どっちかというとイロモノ的な見方をされてしまう本機だが、合体した状態では、Windows 8マシンとしてはなかなかデザインが綺麗で、スペックも高い。タブレットの他に、HDMI出力も備えているので、外部ディスプレイを繋いでデュアルディスプレイ運用もできる。

 光学ドライブがBlu-ray非対応というのが残念だが、昨今はVODも気軽に利用できるので、コンテンツ視聴としてはそれほど困らないかもしれない。再生ソフトはASUSDVDという名称のアプリケーションだが、実際にはCyberLinkのPowerDVDのOEMのようだ。

スロットイン型のDVDドライブ
再生ソフトはASUSDVD
リモートデスクトップでDVDも再生できた

 PC用のカスタマイズツールとして、ASUS Trans AIOというアプリケーションがある。ここで、再生コンテンツに合わせてディスプレイの色温度を変更したり、サウンドモードを変更したりできる。

カスタマイズツールに一括でアクセスできるASUS Trans AIO
ディスプレイの調整はプリセットを選択
サウンドもプリセットツールとカスタマイズツールが使える

 サウンド関係は「Waves MAXXAudio Master」というツールもあり、トーンコントロールやグラフィックEQなどが使える。PCステーション側のスピーカーは3Wのフルレンジだが、オーディオ的な特性はそれほどいいわけではない。自分でがんばってEQで補正するというのも一つの楽しみ方だが、できればDolbyなどが出している特性補正ツールも付いているとよかった。

 ストレージとしては2TBのHDDが搭載されているが、システムとしてCドライブで150GB、残りはデータ用としてパーテーションが分けられている。またドッキング時は、ディスプレイ側にあるAndroid用のストレージもポータブルデバイスとしてマウントされている。PC、Androidから共通でアクセスできるクラウドサービスも利用できるため、ファイルのやり取りは難しくないだろう。

タッチで楽器演奏ができるFingertapps Instruments

 お楽しみソフトとしては、楽器演奏ができる「Fingertapps Instruments」がある。タッチ操作だけで、簡単にギターやピアノ、ドラムなどの演奏が楽しめる。ただギターは、右手で弦をはじくスタイルでは1弦から6弦の張り方が逆なので、本当に弾ける人からすると勝手が悪い。左右反転すると今度は左手でストロークしないといけなくなるし、相変わらず弦の張り方が反対なので、どうにもならない。

 ドラムやキーボードは普通に使えるが、タップしてから音が出るまで若干のレイテンシーがあるので、リズムを刻むのは大変だ。手元で弾くためにモニタを外し、リモートデスクトップモードで使おうとすると、さらにレイテンシーが大きくなるので、演奏にならない。まあ、ちょっとしたお楽しみ程度に考えておくといいだろう。

 AVコンテンツを楽しめるソフトとしては、ASUS@vibeがある。音楽、ゲーム、電子書籍、ニュース、雑誌、ラジオ、コミックが共通プラットフォーム上で一括で楽しめる。

 音楽はフリーのリンクが数多く用意されているが、クリックするとインターネットラジオ「AUPEO!」へ飛ぶようになっている。元々ドイツの企業だが、今年4月に米パナソニックが車載オーディオでのサービス展開を目指して買収した。電子書籍はeBookJapanのサービスへ、ラジオは大半がコミュニティFMのようで、日本の大手FMはリストにない。

オンラインコンテンツが一括で楽しめるASUS@vibe
音楽は「AUPEO!」にリンクしている

前代未聞のAndroidタブレット

 では次に液晶部分を外して、Androidタブレットとして利用してみよう。これまでAndroidはいろんなサイズのものを触ってきたが、18インチのものは初めてである。

 画面サイズは大きいが、その分広い領域が使えるというわけではなく、ディスプレイ解像度、すなわち1,920×1,080なりの表示になるだけだ。すなわち、アイコンやボタン、メニューなどが相対的に大きく表示されるだけである。

画面では迫力が伝わらないかもしれないが、これが18インチいっぱいに表示されると圧巻
モニタを外してAndroidを表示させたところ

 これはこれで、指で操作するぶんには大変使いやすい。なにしろでっかいので、タップの間違いがほとんど起こらない。ただ文字を入力する際は、キーボードも相対的にでっかくなるので、リアルなキーボードサイズを超えてしまい、巨人の国に迷い込んだみたいな感覚になる。

 日本語入力は富士ソフトのFSKARENがプリインストールされている。デフォルトでの採用は比較的珍しいが、以前Eee Pad Transformerでも採用されていたこともあり、ASUSユーザーには馴染みやすいのかもしれない。

 DLNAアプリとしては「MyNet」というものがプリインストールされており、ホームネットワークのコンテンツにアクセスできる。試しに先日Canon XA25で撮影したファイルをNASから再生してみたところ、問題なく再生された。解像度もきちんと出ており、手元で使えるモニターとしてもなかなかいい。

 MyNetでは音楽の再生も可能だ。タブレット内蔵のスピーカーは、それほど出力が大きくないが、PCと同じAudioWizardという音質補正アプリがある。特に動画、ゲームモードは低域の補正が強く、音楽再生でもそこそこ聴かせる音になる。ジャンルにこだわらず、いろいろ試してみるといいだろう。

ホームネットワークのコンテンツにアクセスできるMyNet
Android側にもAudioWizardがある

 せっかくこれだけ大きなタブレットなので、huluでのコンテンツ再生も試してみたかったが、あいにくこの端末はhulu側で非対応となっていた。ニアフィールド'ディスプレイとしてはなかなかいいので、是非対応をお願いしたいところだ。

 タブレット分離状態でOSの切り換えボタンを押すと、Windows 8にリモートデスクトップで接続される。ただ、PCステーション側がスリープ状態になっていたら、Android側からは起こす手段がないようなので、ステーション側の電源ボタンを使って起こしてやる必要がある。

 リモートデスクトップによる文字の表示は、ドッキング時よりも若干にじんだ感じになるので、文字を扱う作業にはやや難が出る。一方で動画を見るといった機能ではそれほどの影響は出ないので、Windows 8上でhuluにアクセスして動画を鑑賞する事は可能だ。

 気になるのは、マウスとキーボードの扱いだ。リモートデスクトップ時でもマウスとキーボードは使えるが、それはPCステーションに挿してある受信部に電波が届く範囲に、マウスとキーボードがある場合に限られる。リモートデスクトップは無線LANで実現しているので、無線LANの電波が届く範囲なら使えるが、マウスとキーボードはBluetooth接続なので、電波の到達範囲が限られる。

 つまりPCステーションから離れた場所、例えば1階と2階などでも無線LANさえ届けばリモートデスクトップは使えるが、マウスとキーボードはモニター側に持ってきても使えないということが起こる。これがWindows 7ならどうにもならないところだが、Windows 8なら画面タッチとソフトウェアキーボードで操作できるという大どんでん返しが面白い。

 一方、Android動作時は、タブレットとしてステーションから離れている時にはマウスとキーボードは使えないが、ドッキングしているときは使えるという仕様になっている。

付属のBluetoothマウス
BluetoothレシーバをPCステーションに接続して利用する
マウス・キーボード利用の組み合わせ
利用モードタブレット側で表示するOSマウス/キーボードの利用
ドッキング時Windows 8
Android
分離時Windows 8
Android×

総論

 実際に使ってみるまでは、仕様からしてイロモノすぎるのではないかと思っていたのだが、いざ現物を使ってみるとなかなか質のいいマシンである。全体の作りもしっかりしており、マウスやキーボードの質も悪くない。

 18インチのオールインワンPCで15万円弱という価格をどう見るかにもよるが、モニタを分離してそのまま持って行っても使えるというのは、一つのメリットだ。さすがに屋外に持っていくようなものではないだろうが、家庭内ノマドとしてあちこちで使うような人には便利かもしれない。

 18インチのAndroid端末としては、そんなに大きな画面が必要かという話はあるだろう。ただ見方を変えてみると、モニターが離れた状態でもPCが使えるという機能を実現するためにはリモートデスクトップを使うのが近道、それを動かすためにディスプレイ側にAndroidがいるよね、だったら普通のAndroidとして使えるようになっていてもいいんじゃね? 的な三段論法であるという理解もできる。

 基本的にはディスプレイが取れるPCであり、いざとなったら単体でAndroidも使えるというスタンスで理解するのが、一番腑に落ちるように思う。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。