小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第625回:夏休み工作:雑誌付録とダイソーでスピーカーを作る
“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”
第625回:夏休み工作:雑誌付録とダイソーでスピーカーを作る
筐体材料費528円!? 5cmユニットで価格限界に挑戦
(2013/7/31 11:00)
そろそろ工作の季節
先週から子どもたちも夏休みに入り、家でゴロゴロしてる家庭も多いのではないだろうか。筆者が子どもの頃に比べると、小学校でも夏休みの宿題は少なくなっているような気がする。ただ自由研究の幅は拡がっており、習字や作文、絵や工作など、それぞれにテーマがあって、好きなモノを選べばいいらしい。
いきなり自作スピーカーの世界に巻き込むのはちょっと違うかもしれないが、今回は小学生ぐらいでも簡単に作れそうな付録を見つけたので、作ってみた。もちろん大人としては物足りないので、別途ダイソーやホームセンターで部品を買ってきて、違うタイプのものも作ってみた。
今回使用する付録は、音楽之友社刊・Stereo誌 2013年8月号(2,990円)についているScanSpeak製の5cmフルレンジユニットと、時期を同じくして発売されムック「Stereo編 スピーカー工作の基本&実例集」(3,990円)に付属のバックロードホーンエンクロージャキットだ。ムックの方は、前述の5cmユニットの搭載を想定したエンクロージャになっており、バックロードホーンとバスレフの2タイプがあるので、購入時は注意していただきたい。
どんな音になるのか、さっそく作ってみよう。
今年は一段小さい5cm
ではまず、スピーカーユニットの方から見ていこう。今回付属しているのは、デンマークのScanSpeak社の5cmフルレンジユニット。丁度1年前の付録は同社の10cmフルレンジユニットが付属しており、それを使って塩ビパイプで共鳴管型スピーカーを自作した。
このスピーカーは自分で言うのもなんだが本当に気持ちのいい音で、昨年自作して以来今日まで、他のスピーカーに浮気することなくこればかり聴いていた。机の両脇に配置すると、音が目の前いっぱいに拡がって、仕事中のBGM再生にはピッタリだったのだ。
今回はそれの半分の径の5cmである。ただマグネットにネオジウムが使われており、ボイスコイルの径が26mmと、寸法の割には強力な設計となっている。振動板は紙製で、周波数特性は100Hz~10kHz。インピーダンスは8Ωで、最大音圧レベル80dB、最大入力は50W。前回もなかなかいいユニットだったが、今回はさらに小回りの効く5cmということで、いろんなスタイルで楽しめそうだ。
バックロードホーンエンクロージャキットの中味を見てみよう。素材はすべてMDFで、部材はすでに寸法ごとに切られている。組み立て順に番号が振ってあり、本の組み立て手順を見ながらそれ通りに接着していく。ターミナルやケーブルも同梱されており、工具はネジ留めする時のドライバーと、木工用ボンドだけである。
若い人にはあまり馴染みがないかもしれないが、バックロードホーンは真空管アンプなど、出力が小さいアンプが多かった時代に多くの製品が作られた。ユニットの前面から出る音だけでなく、背面の音も活用しようという方式で、エンクロージャ内に長い音道を設け、ホーンを形成。そのホーンで増幅した低音を放出して、ユニット前面からの音を補強するというものだ。
では順に組み立ててみよう。接着前にいったん軽く借り組みして、だいたいの全体像を想像しながら作業する。MDFの厚みは6mmなので、それを接着するとなかなか直角にならないものだが、今回のバックロードホーンキットではあらゆる箇所に直角に板を当てていくので、作っていくうちに全体できちんと直角になっていくところがミソだ。MDFの工作精度も良く、隙間が空くこともなくピッタリである。
背面の板は、接着前に軽くターミナルをネジ留めしておく。この時、きっちり締めてしまうと、天板とピッタリ合わせられなくなるので、余裕を持たせて緩く止めておくのがポイントだ。ターミナルからの線は、まっすぐ前に向かってバッフル板の穴から出しておく。
最後に側面の板を張り付けて完成だが、その前に吸音材を貼り付けておくことを忘れないようにしたい。まあ忘れても穴から手を突っ込んで貼ればいいので、それほど大きな問題ではないが。あとはハタガネなどを使って固定し、接着材が乾くのを待つ。
乾いたら、スピーカーの取り付けである。今回のユニットは、端子が真横に長く張り出しており、それが左右対称の位置にあるので、ホール穴に入れにくい。少し端子に丸みを持たせて入れた方がいいだろう。
付録のバックロード、その実力は?
ではさっそく音出しだ。使用したアンプは、2年前の夏休みの工作シリーズで作成したデジットのフルデジタルオーディオパワーアンプキット「D_5709kit」である。
5cmのユニットは、手のひらに入ってしまうほどのサイズなので、もっとチャリチャリした音かと思っていたが、案外中域から上がしっかり出ている。低域が若干物足りないのは仕方ないが、バックロード構造がよく健闘しており、この容積に見合わぬ低音を聴かせてくれる。ただ中域に、独特の鼻にかかったようなクセがある。どうもこれがエンクロージャのクセのようだ。
フットプリントが7×14cmしかない細身のスピーカーなので、机の上に置いても邪魔にならないところがポイントだ。ただユニット自体が90gと軽く、エンクロージャ本体も530gしかないので、ある程度の音量を出すとボディがブレ始めてしまい、低音がぼんやりしている。
そこで、以前のスピーカー製作の経験を活かして、袋ナットで足を付けて、3点固定にすると共に、上に重りを置いてみた。重りはNikon FとNikomatである。金属の塊のようなカメラなので、レンズ込みで1kg弱の重量がある。
こうしてスピーカーのブレを押さえてやると、低音の輪郭がしっかりしてきた。さらに低域が欲しい人は、上下を逆にして、バックロードの出口を耳に近い上のほうに持っていくというのも手だろう。
音楽の傾向としては、ファンクやAORなど、ベースが硬いタイプの音楽に非常に向いている。歯切れがいい低音が楽しめるからだ。バラードやロック系は、ベースが甘いトーンになるので、全体的に明瞭度が下がって音が団子状になる印象がある。ジャズ系のようにシンプルな編成のもののほうが聞きやすい。
ダイソーで素材を集め、激安スピーカーにチャレンジ!
さてこれで、ユニットとエンクロージャで合計6,980円という、小さなバックロードホーンが完成したわけだが、大人の工作としては若干物足りない。そこでStereo本誌に掲載されていた、20×10cmのMDFを使ったスピーカーも作ってみることにした。
100円ショップでお馴染みのダイソーにて、工作用のMDFの板がセットで売られている。10×10cmと、20×10cmのものを組み合わせて、今度はバスレフ型のエンクロージャを作ってみたい。なお、MDF板は取り扱いのない店舗もあるので注意が必要だ。
1セット分の材料としては、20×10cmの4枚セット×2、10×10cmの6枚セット×1、あとは吸音材として、熱帯魚用の濾過フィルターを購入した。ここまでの材料費は420円である。
まずはバッフル板の加工だ。スピーカー用の穴開けは、自在錐という工具を使う。中心のドリルに左右対称の歯が付いているもので、電動ドリルに装着して使用する。
穴開けはそれほど難しくないが、片方向から突き通してしまうと、反対側の穴の淵に割れが発生するので、半分ぐらい彫ったらひっくり返して、裏側からも同じように彫って貫通させる。また自在錐の回転径は結構大きいので、シャツやタオルなどが巻き込まれないよう注意して作業していただきたい。
続いてバスレフポートの穴開けである。設計では直径15mmということで、こんなに小さい穴は自在錐では開けられないので、木工用のドリルを使用する。
バスレフのダクトだが、誌面の設計では余ったMDFを使って、それに穴を開けたものを6枚重ねて作るようになっている。左右合わせると12枚だ。
それだけのものを穴を空けて切り出すのは面倒なので、内径15mmの水道用のパイプを使うことにした。これの固定用として、一つだけMDFに穴を空けた部材を作り、それを使ってバッフル板に貼り付けることにした。
さて、基本的な部材加工は終わったので、あとは組み立てである。誌面の設計では、20×10cmの板を風車のように貼り合わせ、天板と底面に被せ、はみ出した部分を切り取る手順になっている。だがそうなると20cmの板を片方で4回、両方で8回切断しなければならない。
それは面倒なので、あまりがないように四方の板を重ね、天板を中にはめ込む方法にした。それなら切断する面が片側につき、10cmを4回切ればいいので、作業としては半分である。丸鋸やジグソーのような工具があれば別にどちらでも大した違いはないだろうが、そこは手作業なので、少しでも楽をしたい。
あとはなんと言うこともない、ただひたすら箱を作っていくだけである。天板と底板の自分で切った面の接着は、工作精度が悪く隙間が空く可能性があるので、充填性に優れたコニシの「SU」という接着材を使用した。昨年塩ビパイプのスピーカーを作ったときの残りである。
さて、そうして完成したバスレフスピーカーがこれである。材料費は左右合わせても528円! もっとも追加で穴開け工具を買ったので、それが4,500円ぐらいかかっているが……。
付録のバックロードと比べると、高さは同じだが、横幅がある。奥行きはバックロードのほうが4cmほど長い。
ではさっそくこれも聴いてみよう。
素直な音にびっくり!
このスピーカーも、重さ的にはバックロードとほぼ同じなので、同様に袋ナットで足を付けて、上にカメラで重しを載せて聴いてみた。ユニットが同じなので、だいたいバックロードと同じような音で、低域の出が変わるかな? ぐらいの気持ちだったのだが、全然違う音が出てきてびっくりした。
まずバックロードで耳についた中域の変なクセがない。音もバックロードが奥に向かって響く感じだったのが、前面に張り出すタイプの音に変わった。
低域も意外によく伸びており、輪郭もはっきりしている。どちらかというと、ロックからポップス向けの音になった。自分で作ったことのひいき目もあるだろうと思われるかもしれないが、むしろ、こんな自作の精度で「いい音が出るはずがない」と思っていたので、逆にびっくりした次第だ。
ポイントはやはり中域の艶やかさで、アルトサックスやボーカルの帯域の表現が綺麗だ。バックロードもその点では同じ特性だったのだが、“紙コーン臭さ”を感じる音だった。だがこのバスレフでは、そういったザラッとした部分が取れている。
なお、ロックっぽい解像度ではあるのだが、どうもグランジ系のグジャッとしたディストーションの表現が苦手のようだ。あるいは70年代のハモンドにディストーションをかけたようなサウンドが、妙にバリバリとして聞きづらい音になる。こういった倍音の出方は、このユニットの不得意なところなのだろう。
総論
付録だけで簡単に鳴らしてしまうなら、ムックのエンクロージャでも十分楽しめるだろう。5cmという小型ユニットのおかげで、工作するスケールもだいぶ小さくて済むのが、今回のポイントである。自作したエンクロージャも、ダイソーで買える材料をほとんど穴開け加工だけで作れてしまうのはらくちんだ。
ただ、さすがに5cmでフルレンジというのは珍しいようで、Stereo誌やムックに作例が少なく、掲載されている図面のほとんどが10cmユニットを使った設計になっている。これから5cmフルレンジを使った自作コンテストも行なわれるようなので、年末あたりには情報が充実するかもしれない。
手乗りのかわいいスピーカーがどのように変貌するのか、1年かけていろいろ楽しめるという意味では、この夏休みだけでなく、長く楽しめる大人の遊びと言えるかもしれない。
Stereo誌 2013年8月号 | Stereo編 スピーカー工作の基本 &実例集 2013年版 バックロードホーン型 | Stereo編 スピーカー工作の基本 &実例集 2013年版 ダブルバスレフ型 |
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