小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第954回
巣篭もりにスピーカー自作、6cmフルレンジでも低音は出るか!?
2020年9月24日 08:30
夏休みは終わったが……
今年度はコロナの影響もあって、子供たちの夏休みも普段より短かかった。不満げに2学期のスタートを迎えたようである。一方大人の夏休みはほとんど家族サービスに消えるだろうから、あってもないようなものだが、本連載では可能な限り、夏休みを利用してオーディオの工作企画をやってきた。いつも音楽の友社「月刊Stereo」編のムックに付属するスピーカーユニットを活用させていただいてきたところだ。
そう言えばここ数年やれてないなとバックナンバーを探してみたところ、最後にやったのは2015年だったようだ。とは言え、本連載で記事としてやってないだけで、実は結構スピーカーは作ってきた。この時のスピーカーも、あとでトールボーイ型のバックロードホーンを作って、西田宗千佳氏と共同で発行しているメルマガで披露している。
2017年には同じくメルマガにて、「これならできる特選スピーカーユニット パイオニア編」のユニットと同ユニット用エンクロージャを作った。
加えて、これはどこにも記事化していないが、昨年は2017年7月発売の「これならできる特選スピーカーユニット フォステクス編」のユニットが余っていたので、フォステクスが完成品エンクロージャとして発売している「P800-E」を使って、お手軽にスピーカーを作ってみたところだ。現在仕事用の机の上で鳴っているのは、このスピーカーである。
そして今年は、夏休みもとっくに過ぎてしまったところではあるが、巣篭もり対策として2020年版のスピーカーを組み立ててみる。例年ハードルが上がってきている同シリーズだが、今年はどんな音だろうか。早速試してみよう。
一見複雑そうだが…
今回組み立てるのは、音楽の友社がムックとして発売している、Stereo編「これならできる特選スピーカーユニット 2020年版マークオーディオ編」(5,450円)と、同ユニット向けの「これならできるスピーカー工作 2020 マークオーディオ製6㎝フルレンジ・スピーカーユニットOM-MF4対応エンクロージャー・キット」(5,400円)の組み合わせである。
時間が許せば独自設計のスピーカーも自作してみたいところだが、今回は評判が非常に高いユニットという事で、手っ取り早く音を聴くために専用エンクロージャキットを作ってみる。
ムック付属のパーツはご覧の通り。ムックはA4版の厚み55mm程度だが、これだけのパーツを書籍流通サイズに凝縮できるものだと毎回感心する。まずはこれらのパーツを仮組みしてみる。エンクロージャ側面には内部構造を示すガイドの溝が彫ってあるので、それに沿って並べていく。
今回のエンクロージャは、ラビリンス・バスレフ方式という設計である。一見するとバックロードホーンのように見えるが、バックロードがスピーカー背面からすぐに音導管構造につながるのに対し、本方式はスピーカー背面にエンクロージャの容積をそれなりに確保しているのが特徴だ。そして背面に長い音導管構造を押しやり、前面からバスレフとして放出するという方式である。
組み立ての当たりをつけたら、あとは木工用ボンドを塗ってくっつけるだけだ。コツとしては、はみ出すほどたっぷりつける必要はなく、大まかに塗ったところで指で接着面に均等に広げておく。こうする事で隙間ができにくくなる。隙間ができたりはみ出したボンドがバリのように固まってしまうと、余計な風切音の元になるので、はみ出したボンドは水に濡らしたキッチンペーパーなどで拭き取っておく。
組み立ての難易度はそれほど高くはない。一度仮組みして完成が想像できていれば、2つ作るのに30分もあれば十分だろう。もちろんその後は完全に乾燥するまで、ハタなどを使って圧着しておくとよい。
今回のキットは、側板が面取りしてあり、音の回折を軽減するように作られている。雑誌の付録でここまで細かくこだわったつくりは珍しい。塗装は時間がかかるので、音を聴いたあとでじっくり取り組むとして、まずは素のままで音出しである。
明るく張りのあるサウンド
ボンドの硬化を待って、10時間ほどエージングしたのち、試聴である。
今回の音源はウォークマンA100シリーズを使い、Amazon Music HDからハイレゾ音源を中心に試聴する。アンプは今年2月にレビューした、同じく音楽の友社ムックの「LXV-OT7 mkII」である。
正直エージング中は高域が立ったかなり硬い音で、やはり口径が小さいせいかと懸念したが、エージングしているうちにだんだん落ち着いて、バランスが良くなってきたように思う。
サイズ感からすれば、当然デスクトップに置くニアフィールドスピーカーとして使うのが妥当だろう。やはりフルレンジ一発勝負は、ステレオ感のまとまりが良い。センターはごちゃごちゃせずきちんと定位し、広がる高音は耳障りが良い。アカペラコーラスなどは、エコーも含めて、小口径と小型エンクロージャとは思えない大きなスケールで鳴ってくれる。
そして気になる低音だが、ラビリンス・バスレフ方式のエンクロージャの設計もうまくはまった事もあり、予想外にちゃんと出る印象だ。特に40Hzから70Hzあたりまでのベース音、つまり4弦開放から3弦5フレットぐらいまでのプレイが、意外にもよく出る。そこから上に上がると、少し奥へ引っ込み気味になる。1弦2弦のハイトーンは、元々のミックスでもかなり目立つわけだが、ここはきちんと出ている。
もっともバスレフいらずでズンドコ鳴るかと言うと、そう言うわけでもない。低音の量感はもう少し欲しいところだが、そこそこの音量を出せばきちんと成立する音だ。昨今は音楽の方が低音重視でミックスされているので、その点ではこのスピーカーとエンクロージャだけで過不足なく聴けるだろう。
音の傾向として、ライブ音源だとちょっとごちゃっとした感じがある。むしろスタジオ録音の方が、きちっと位相管理されたキレの良いサウンドを楽しめるように思う。
MDFのままではあまりにもアレなので、ラッカースプレーで塗装してみた。MDFは塗料を吸い込みやすいので、下地材を2回吹いてから3回重ね塗りしてみた。もう少しクリアな緑かと思ったら、思いのほか仕上がりがミリタリー風になってしまったが、スピーカーではあまりない色なので満足している。
しばらくはこのスピーカーがメインとなりそうだ。
総論
ムックという性質上、「これならできる」シリーズは比較的6cmフルレンジを多く出している。これまでは中高域特性の良さやステレオ感のまとまりを重視し、低音は別途チャンネルデバイダーを使って低域用スピーカーと組み合わせたりする例も多かったが、本ユニットとエンクロージャは、小型ブックシェルフでどうにか低音までカバーしようという意欲作である。
そもそも高域特性は文句なしだが、今回は小口径でもマグネットサイズを1サイズ上のモデルと同じにして、ストロークを深くとったという。この深いストロークが、独特の低音の張り出しに貢献していることは間違いない。
夜中に小音量で楽しむ際には、少し離れて涼やかな中高域を楽しむのが心地よい。ある程度音量が出せる昼間は、ニアフィールドで十分な立体感と低音を楽しめる。
単にサクッと組み上げただけでこれだけの音が出せる組み合わせは、そうそうないだろう。1万円前後の小型スピーカーはいくらでもあるが、フルレンジらしいシャッキリ感と低音の張り出しが楽しめるスピーカーはそう多くはない。作るのが面倒でなければ、この2つのムックの組み合わせは相当にコスパの良いスピーカーだと言える。
さらに腕に覚えのある人なら、塗装や別エンクロージャへの載せ換えで、さらに楽しめるだろう。