小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第624回:ソニー、高級コンパクト「RX1R/RX1」を動画で撮り比べ

“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第624回:ソニー、高級コンパクト「RX1R/RX1」を動画で撮り比べ

フルサイズの単焦点。ローパスの有無でどう違う?

ハイエンド・コンデジの世界

 デジカメの世界では、デジタル一眼は堅調に推移、そこにミラーレスが底上げし、全体的には継続的に成長を続けている。その一方で、コンパクトカメラ市場は徐々に縮小傾向にあり、従来ならコンパクト機を買っていたユーザーがミラーレスへ流れていっているようだ。ただコンパクト機の中でも、高級コンパクトだけは成長しており、デジタル一眼ユーザーが折り返してそこに流れているのかもしれない。

 昨年11月に発売された「DSC-RX1」は、35mmフルサイズの撮像素子を搭載したソニーのコンパクトデジカメ最上位モデルとして登場した。オープン価格で、店頭予想価格が25万円前後というのには、少なからず驚いたものである。

 そこからおよそ半年で、同仕様ながら光学ローパスフィルタを除いたモデル「DSC-RX1R」が発売された。価格はオープンで、想定価格はRX1と同じだ。

 RX1の時は、まさか動画用にこれを買う人もないだろうということでレビューしなかったが、RX1Rの登場で、ローパスフィルタの有り無し2モデルで比較してみるのも面白いかもと思い、今回は両方のモデルをお借りしてみた。

ローパスフィルタの模式図

 ローパスフィルタは、細かい規則的な模様を撮影した時に発生するモワレや偽色を軽減するために、高周波数帯域のみ光学フィルタで拡散させるというもので、特にローパスレスを謳ったカメラではない限り、標準的に入っているものだ。

 ローパスレスの火付け役となったのは、筆者が記憶する限り2012年発売の富士フイルム「X-Pro1」だったと思う。これは撮像素子のカラーフィルタ配列を工夫することで、ローパスなしでもモワレが出にくくするという方法を採用したものだ。その後、ニコン「D800E」やシグマ「DP2 Merrill」、ペンタックス「K-5 II s」といったカメラが続いた。

 果たしてローパスフィルタの有無で、どれぐらい違いが出るのだろうか。実際にテストしてみよう。

外観、主要スペックは全く同じ

ローパスフィルタを省いたRX1R

 RX1はすでに発売されて半年以上経過したモデルであり、レビューもかなり出ていることから、今さらあまりスペックを取り上げても仕方がないだろう。RX1Rは本当にローパスフィルタがないというところしか違わないので、ハードウェアスペックは同じである。

 概要をかいつまんでご紹介すると、外形寸法113.3×69.6×65.4mm(幅×奥行き×高さ)とコンパクトでありながら、35mmフルサイズのセンサー(有効約2,430万画素のExmor CMOS)を搭載。レンズは固定でカールツァイスの「ゾナーT* 35mm F2」の単焦点が付いている。撮影レンジはレンズ上で0.3m~無限遠と、0.2m~0.35mまでのマクロモードに切換ができる。

コンパクト機ながらフルサイズセンサー搭載
レンズ部でマクロモードに切り換える
上部には大きめの露出補正ダイヤルがある

 重量は本体のみで約453gと、一般的なミラーレスよりも重い。重さの大半はレンズだろうと思われるが、これが25万円分の重さか、と妙に納得する部分である。筐体はマグネシウム合金だ。

 RX1とRX1Rは、外見上は全く同じで、唯一違うのがモデル名のところである。Rの部分だけが赤くペイントされているほか、RX1Rのほうが若干文字が太い。

ずっしりとした重みもポイント?
RX1(左)とRX1R(右)。製品名以外は全く同じ外観
フラッシュも内蔵
レンズフード「LHP-1」や、外付けの電子ビューファインダー「FDA-EV1MK」、ジャケットケース「LCJ-RXB」など、周辺機器も充実している
ホールド性をアップさせるサムグリップ「TGA-1」も別売で用意されている

 おそらくRX1でも動画のレビューというのはほとんどなかったと思われるので、動画撮影時のスペックをまとめておく。

動画はAVCHDで60p、60i、24pをサポート

 録画モードはAVCHDとMP4の2つがある。AVCHDでは1,920×1,080ドットのフルHDをサポートしており、撮影フレームレートは60p、60i、24pの3モードだ。ビットレートは約28Mbpsの「PS」、約24Mbpsの「FX」、約17Mbpsの「FH」などを用意する。

 一方、MP4(MPEG-4 AVC/H.264)では最大が1,440×1,080ドットで、フレームレートは30pのみだ。他社ではAVCHDを超えるビットレートを実現するためにMP4に走る傾向があるが、ソニーとパナソニックがAVCHDを推進している事もあり、そちらをメインに据えている。

 今回の動画サンプルは、AVCHDの24pで撮影している。特に映画的な映像というわけではなく、単にこれが一番フレーム単位でのビットレートが高く撮れるからという理由だ。

動画を撮影してみる

 ではさっそく撮影である。本機の動画撮影機能は、上部のモードダイヤルに動画撮影用のモードもあるが、基本的にはどのモードでも、背面脇にある録画ボタンを押せば動画撮影がスタートするという作りだ。

 動画ボタンはあまり出っ張っておらず、意識的に押さないと録画されないようになっている。また設定で、動画モード以外では機能しないようセットする事もできる。

動画ボタンはあまり出っ張っていない
動画モード以外では記録しない設定も可能

 ここまでの配慮がなされているという事は、本機のようなクラスではそもそも動画撮影機能はあまりニーズがない、というよりも、むしろ邪魔に感じているユーザーも多いという事かもしれない。確かにうっかり録画ボタンが押されてしまっていて、気がついたらバッテリが空、という事態は避けたいところであろう。

 動画撮影ではフルオートに加え、絞りとシャッタースピードを設定しての撮影も可能だ。モードボタンを「動画」に合わせ、Fnボタンから「マニュアル露出」を選んで行なう。後は絞りリングとコントロールダイヤルで設定を行なう、絞り優先、シャッタースピード優先も可能。ISOを固定することも可能だが、最低でもISO 100からとなるようだ。上部にある露出補正ダイヤルは、動画でも機能するので、露出補正も可能だ。

 AFについては、静止画ではかなり自由度の高いAF設定が可能だが、動画撮影時には、撮影開始した瞬間に改めてAFを取り直す。中央測距か中央の追尾フォーカスしかできないので、パースのかかった構図では、最初からマニュアルでフォーカスを取っておく必要がある。

 さて、今回は2台のカメラを平行に並べて、ほぼ同じアングルで撮影している。なるべくモワレが出やすいシーンを探して動画撮影を行なったが、ローパスフィルタの有無による画質の違いはわからなかった。動画撮影した限りでは、どっちもそれなりにモワレや偽色が出るのである。以下は、動画から静止画を切り出したものだ。

モデル名静止画サンプル
(動画から切り出し)
RX1で撮影
RX1Rで撮影
同じカットを交互に並べてみた。先に出てくるのがRX1、次がRX1Rで撮影したもの
動画撮影サンプル
sample.mp4
(317MB)
※編集部注:動画は編集しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 動画におけるモワレや偽色の大半は、高解像度データを動画用に縮小する過程で発生しているので、光学的なフィルタの有無はあまり影響しないようだ。原理的にはRX1Rのほうが解像感は高いはずだが、高解像度からHDサイズにシュリンクする段階で画素が詰まって解像感が上がるため、光学的な差もそこでわからなくなってしまうようである。

 動画で使える画像処理としては、従来から他のモデルでも搭載している「クリエイティブスタイル」と「ピクチャーエフェクト」が使用できる。なおピクチャーエフェクトの効果のうち、撮影したあとプロセッサで後処理を行なうタイプのものは動画では動かない。

人工物の静止画では違いがわかる

 では静止画では違いがわかるのだろうか。今回は自然と人工物を両方撮ってみたが、自然画のほうではモワレの発生が認められなかった。解像感にしても、2つ並べてじっくり見比べれば多少RX1Rのほうが多少しゃっきりしてるかなと感じる程度である。

モデル名静止画サンプル
RX1で撮影
RX1Rで撮影

 絞って撮れば遠景まできちっと写るので、違いは出やすいだろうが、絞りを開け気味で撮ると遠景はぼけてしまうので、違いがわからなくなってしまう。

 一方、人工物のほうでは、橋のフェンスの編み目部分で大きく違うことがわかった。RX1のほうは、解像感を落として偽色の発生を抑えているのがわかる。RX1Rのほうは、解像感は高いが、より偽色ははっきり出ている。

モデル名静止画サンプル
RX1で撮影
RX1Rで撮影

 写真としてどちらがいいのかは、撮り手の好みの問題だろう。後処理で偽色を補正することもできるだろうし、逆に後処理で解像感を上げることもできる現状では、ハードウェアとしての違いで決定的な差というのは、なかなか判断が付かない。

 皆さんの目ではどのように見えるだろうか。

総論

 RX1の発売から半年あまりでローパスレスが出た事で、先にRX1を買ったユーザーとしては納得いかない思いもあるだろう。ネットの評判も、あまり好意的に受け止められていないように見える。値段が値段なだけに、最初に買うときから2つの選択肢が提供されていれば、市場の反応もまた違ったものになったかもしれない。

 ただそうは言っても、実際にものすごく違うかと言われれば、自然物に対しては静止画であってもほとんど違いが出ない。人工物の細かい模様では違いが出るので、どういう被写体を普段撮るのかで評価が変わってくるのかなと思う。

 一方動画としては、どちらも画質的な違いは認められなかった。動画撮影機能としては、マニュアル設定も可能なので、ボケ味を活かした動画撮影なども可能だ。ただ、ちょっとした動画撮影には使えるが、レンズが固定式の単焦点なので、これを使って本格的な作品云々という事にはならないだろう。

 その点ではよかった? のかもしれないが、気分的にスッキリしないという人の気持ちも理解できる。例えばフィルターを外すサービスや、買い換えサポートなど、先のモデルを買った人が納得できるような、メーカーから何らかのアクションに期待したいところである。

 このカメラのポイントは、コンパクト機にフルサイズセンサーを入れた、というところであろう。そこから逆算すると価格も含め全体でこうなる、という模範回答的なカメラである。

 もちろん、趣味性の高いカメラであるが故に、メカ的なこだわりも随所に見られる。ただファームウェア的には下位モデルと同じような機能を積んでいたりするところは、逆にガッカリポイントと言えるかもしれない。

フルサイズでもう一まわり小さくならないか

 ちょっとした旅行やスナップのお伴に、という話もあるが、お散歩カメラとしてはまだちょっと大きいし、重すぎるだろう。値段の事もあるし、どちらかというとハイアマでコダワリのある人か、プロのサブ機として、という立ち位置が一番しっくりくるように思う。

 個人的には、35mmフィルム時代のお散歩カメラの決定版は、「Rollei 35」ではないかと思っている。およそ50年前に、このコンパクトさでハーフではなく35mmフルサイズを実現したという高密度の世界に向けて、ハイエンドコンパクトは進んでいって欲しいと強く思うのだ。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。