“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第579回:夏休み工作:雑誌付録で作るUSBオーディオ

~塩ビパイプ+完成ユニットで簡単個性派スピーカー~


■毎年恒例の工作

 さて今年もまた夏休みの工作シリーズの季節となった。よくよく考えてみれば、大の大人が別に夏休みでもないのにどうして毎年汗水垂らして工作しなければならないのか理由がまったくわからないが、勢いでもう何年も続けてしまっているので、もはややめられなくなってきている。

 昨年は日本橋デジットのデジタルアンプキットと、オーディオ専門誌・Stereoの付録であったスピーカー自作キットでオーディオセットを作った。さて今年は、お忙しい諸氏でも簡単に、しかもリーズナブルにトライできるセットとして、“雑誌の付録”をメインにした自作オーディオシステムをお送りしたいと思う。

 雑誌の付録と言えば、オジサン世代には小学館の小学○年生から学研「科学」と「学習」に至るまで、散々お世話になってきたはずである。だがこれらの雑誌も少子化の波を受けて、次々と休刊になっているのをご存じだろうか。

 「小学三年生」と「小学四年生」は、今年3月号を持って休刊となった。小学五年生、六年生はすでに2010年3月号で休刊となっている。従って残っているのは、「小学一年生」と「小学二年生」のみだ。一方学研も、「学習」が2009年冬号を最後に、「科学」も2010年3月号をもって休刊となっている。ただ「科学」は今年の7月に「科学脳」と名前を変えて、限定的に復活した。

 オジサンにとっては、あの付録のワクワク感が今なおしっかりと根付いているだけに、この気持ちが子どもに伝えられないことに一抹の寂しさを覚えるわけだが、その一方で大人向け雑誌の付録は大変がんばっている。特にオーディオ誌の付録は最近とても充実している。

 今回使用する付録は、音楽之友社刊・Stereo誌2012年8月号(2,990円)についているScanSpeak製10cmフルレンジユニットと、それをドライブするアンプとして、ステレオサウンド刊の「DigiFi 第7号」(2,980円)に付属するUSBデジタルパワーアンプだ。なお、「DigiFi 第7号」の発売は8月下旬であるため、開発を担当した東和電子(Olasonic)さんから、AV Watch編集部経由で一足先にお借りしたものを使っている。

 どんな音が飛び出すのか、さっそく作ってみよう。


 



■本格10cmフルレンジがこの価格で!

Stereo誌2012年8月号を入手

 ではまず、スピーカーのほうから見ていこう。Stereo誌8月号に付属しているのは、デンマークのScanSpeakという会社の10cmフルレンジユニットだ。すでにStereo誌8月号はネット通販では品切れ状態だが、リアル書店ではまだ在庫があるお店もあるようだ。アキバあたりでも自作系ショップに置いてあったりする。

 ScanSpeak社は1970年に創業したスピーカーメーカーで、一時期オルトフォン傘下でスピーカー事業を担当したそうである。その後独立して、スピーカーのOEMメーカーとして事業を継続するとともに、自作用としてスピーカーユニットだけの販売も行なっているという。


付録のScanSpeak製10cmフルレンジ

 付属するユニットは、今回の付録用に新たに設計されたもので、口径10cmの紙コーン、インピーダンス8Ω、最低共振周波数100Hz、最大音圧レベル84dB、最大入力30Wとなっている。

 昨年の付録は、スピーカーユニット自体を自作するというキットだったが、今回のユニットは完成品がそのまま付いてくる。したがって今回の自作の醍醐味は、エンクロージャを作るということに集約される。

 Stereo誌の記事中でも、様々なタイプの自作エンクロージャが紹介されており、図面や音質評価もされているのだが、今回はできるだけ簡単・ローコスト、そしてユニークというところから、88ページに掲載されている、水道管を使った共鳴管タイプを作ってみることにした。

 昔から自作オーディオファンの間では、「塩ビ管を舐めるな」と言われており、個人的にも興味があった。以前取材させていただいたタイムドメインタイプのスピーカー「BauXar」のプロトタイプも、塩ビ管で作られていた。

 ボディは塩ビ管そのもので、台とスピーカー取り付け部を木材で制作する。材料は以下の通りである。

  • 塩ビ管 1m ×2
  • 9mm厚MDF 900mm×300mm ×1
  • 足になりそうな木片 ×6
  • 袋ナット ×6
  • スピーカーターミナル ×2
  • スピーカー端子金具 ×8個
  • 内部配線用ケーブル 1.2m ×2
  • 吸音材(ポリエステル綿) 100g
  • 竹串

 家にあったものもいくつかあるので値段ははっきりしないが、雑誌代は別にして、トータルで6千円強といったところだろう。ターミナルなどに高い物を買わなければ、もう少し安く済む。

ボディは1mの塩ビ管

 オーディオ専用パーツ以外の材料はDIYショップで揃う。塩ビ管はVU75という、内寸83mmΦのものである。近所のDIYショップではちょうど1mのものがバラで売られていた。

 難航したのが、木材加工である。近所のDIYショップではMDFを取り扱っていなかったので、15mm厚の貼り合わせの合板を購入した。普段は木材の切り出しは自分でやってしまうのだが、今回は時間もないことだし、円形に切り出す部分ばかりなので、初めてお店に切り出し加工をお願いした。


台になる部分。設計図では周囲も円形だが、四角に変更

 ところが貼り合わせの合板では、外側を円形に切るとおそらく接着面で割れてしまうので、できないと断わられてしまった。台座となる部分は径が大きいことから、くりぬきだけはやってくれるという事だったので、台座部分は周囲は四角のままで、真ん中を円形に切り抜くという格好にせざるを得なかった。

 台座はこれでいいが、困ったのがスピーカー取り付け部の木材加工である。これは塩ビ管を通すサイズで、リング状のものを2タイプ作らないといけないのだが、このショップではできそうにない。

 そこで車で20分ほど離れた別のDIYショップまで行き、同じように相談してみた。ここには9mm厚のMDFはあったのだが、やはり同じようにリング状に加工するのは無理、ということであった。

 そこで仕方なく、こちらも四角の板で、中央に円形のくりぬきをお願いすることにした。パイプの上がMDF、下が合板という変な格好になったが、致し方ない。


かなり適当な仕事で驚く

 しばらく待っていると、確かに丸くは切り抜かれているが、全然センターが出てないすっげえ適当なものが出てきた。筆者が自分で板に線引きして加工をお願いしたのだが、全然線通りに切ってない……。まあ確かに受け付け時間ギリギリに滑り込みでお願いしたのもまずかったかもしれないが、なんぼなんでもテキトー過ぎだろこれ。

 というわけで、加工技術はお店によって様々、ちゃんとやるなら自分で切るしかない、ということであろう。さりげなく電動丸鋸やジグソーの価格を横目でチェックして帰るのであった。


 



■組み立ては簡単

 さて材料が一通り揃ったところで、組み立て加工である。木の台座は、穴の径の異なる板を2枚貼り合わせて、バスレフにする。こちらを加工してくれたお店は上手くやってくれて、エッジを揃えただけでちゃんとセンターが出ている。

 貼り合わせが完了したら、スピーカーケーブルを通す穴と、ターミナル端子が入る穴を空ける。面倒だったら邪道と言われるかもしれないが、スピーカーケーブルはバスレフポートから出してもいいんじゃないかと思う。続いて足も接着、さらに足の先に袋ナットを接着し、三点で立つようにするわけだ。

 一方スピーカーの取り付け枠は、センターが出ていないので、貼り合わせると板の端が盛大に余る。しょうがないので、貼り付けた後余った部分を切り取り、さらにカドが尖って危ないところは斜めにカットすることにした。

2枚貼り合わせて台座を作る脚部のパーツを接着。三点支持にするスピーカー取り付け部材はかなりいびつに……

 丸抜き部分も形がいびつで、片方は塩ビパイプが通らなかったので、ヤスリで削る必要があった。貼り合わせる前にチェックして正解である。

 塩ビパイプは、そのままではいかにも塩ビパイプなので、アクリル系のラッカースプレーで黒く塗ることにした。乾いてみると、いかにも良さそうな雰囲気になってきた。

 そうなると、スピーカーの取り付け枠もMDF丸出しではなんとなく格好が付かないので、同じく黒で塗ってみた。スピーカーを取り付けてみると、なんとなく良さそうに見える。

クリアラッカーで黒に塗ってみたスピーカーの黒とあいまって、なんかイイ感じに
水槽用として売られているポリエステル綿

 塩ビ管は、先に内部配線用のケーブルを通しておく。さらに中に、吸音材を入れる必要がある。これは熱帯魚の水槽の濾過用として売られているポリエステル綿でいいそうだ。100gで258円と、お得である。

 これが中で落っこちないように、パイプの上から40cmのところに穴を空け、竹串を通す。本当は×状に2本入れた方が確実なのだが、面倒なので1本だけにした。竹串を刺すのは簡単なので、落っこちてきたらその時に追加すればいいだろう。


パイプの途中に竹串を刺しておく上から綿を詰め込む

 ケーブルの先端にスピーカー用の金具を取り付け、ターミナルも取り付ける。ちょっとターミナル用の穴が小さかったので、写真の状態より追加で広げる必要があった。

スピーカー用金具を取り付け下のほうは内部配線を穴に通しておく

 台座とスピーカー枠は接着剤で充填する。完全に硬化するまでは24時間かかるが、実用強度は1時間程度で得られるという。

マスキングしたのち、パイプと木材を接着台座下からケーブルを回してターミナルへ繋ぐ

 



■付録アンプもタダモノではない!

DigiFi No.7に付属のUSBパワーアンプ

 では接着剤が乾くまでの間、DigiFi付属のアンプをご紹介しておこう。手のひらに乗るサイズのUSBアンプで、バスパワーだけでスピーカーを直接ドライブできる。これを設計したのは、優秀な卵形USBアクティブスピーカー「TW-S7」で一躍有名になった、東和電子だ。回路的にもTW-S7をベースに、余計な機能を省いてシンプルにしたものだという。

 USBバスパワーは2.5Wしかないが、搭載されている大きなコンデンサーに電力を貯めておき、大音量のデータが来たときに一気に放出することで、チャンネルあたり10W相当の出力が確保できるという。

 DACはバーブラウンのPCM2704で、バスパワー駆動の低電力アンプでは、定番として古くから使われているものだ。ただ16bit/48kHzまでしか対応していないので、ハイレゾを楽しむような使い方はできない。ローパスフィルターとして使われているフィルムコンデンサも、かなり良質なものが使われている。

 実際に鳴らしてみると、これだけのサイズなのに、かなりの音量が出る。アンプ側にボリュームなどはないので、PC側の再生アプリのボリュームで調整するしかないが、ボリュームMAXでは、家族のみならず近所の人にまで相当迷惑なレベルの音量が出せる。しかもそれだけのボリュームなのに、歪みが感じられない。

 基板剥き出しなので置き場に困ると言えば困るが、たったこれだけのサイズでスピーカーが直接ドライブでき、音量的にも十分、音質も素直。これは何か小箱にでも入れて、手元に1台持っておきたいアンプだ。


 



■広がり感がすごいスピーカー

こんな感じで出来上がり

 では接着剤も乾いた頃合いを見計らって、さっそく音出しである。再生PCにはLenovo X201iを使用し、付録のUSBアンプに接続、AAC 320kbpsの音源でいろいろ聞いてみた。

 見た目が真っ黒でまっすぐなので、ルックス的にかなり異形だ。だが、音の広がり感が物凄く、まさに無指向性で音楽を“部屋中に撒く”という格好のサウンドである。かといって定位が感じられないわけでもなく、左右のステレオ感も十分にある。

 10cmフルレンジということで、低域はそれほど期待していなかったのだが、量感も十分だ。まさに、見た目同様面白い広がりをするスピーカーが出来上がった。

 重量も非常に軽く、見た目とサイズのわりに片手でひょいと持てる。ただ上が重たいので、倒れやすいのは事実だ。最近の地震を考えると、台座の底面積は設計よりも広めに取ったが安定するだろう。

 ただ、少し残念なことに、このユニットが持つ豊かな高域のスピード感は失われたような気がする。実はこのスピーカーに組み込む前に、以前この夏休み企画で組み立てた長谷弘工業のバックロードホーンにマウントして聞いていたのだが、その時に抜けのいい高音を確認していたのだ。

 今回のスピーカーはユニットが真上を向いており、高さも1m以上あるので、座った状態で聴くと、スピーカーを真横から聞いているような状況になる。指向性&直進性の強い高音は真上に抜けてしまい、耳には届きづらい。

 試しに真上から覗き込むようにして聴いてみると、高域まで良く出ている。試聴した仕事部屋は和室で、室内には紙本も多く、音響的にはかなりデッドだ。洋室で聞けば高域も反射でよく聞こえるのかもしれないが、この高域の充実度を失ってしまうのは勿体ない。

 というわけで、そんなこともあろうかと買っておいたのが、塩ビパイプをL字型に接続するジョイントである。これを使って、ユニットを前に向けるというアイデアがStereo誌にちょろっと書いてあったのを思いだしたのである。

 そんなわけでこのジョイントも黒く塗る。スピーカー部はもう枠を接着してしまったので、ジョイントに差し込む部分4cmをマージンとして、パイプごと切断。切った間にジョイントを差し込むというわけだ。この構造であれば、ストレート管に戻したいときは、ストレートのジョイントを買って繋げればいい、という理屈である。


こんなこともあろうかと購入しておいたL字ジョイント黒く塗ると、単なる型番のレリーフもすごく重厚な感じに!

 そこで作ってみたのが、こういう格好のものである。ルックス的にもなかなかイイ感じになっただけでなく、高域がしっかり耳に届き、はっきりした音の輪郭と、力強い定位感が産まれた。ある意味「普通になった」と言えないこともないが、十分な高域表現が堪能できるため、しっかり聴けるスピーカーに生まれ変わった。

ユニットを正面に向けると、なんかググッといけてる感じに横から見るとこんな感じ

 広がりを取るか、きちんとした鳴りを取るかで、ジョイントを差し替えればいいというアイデアは、なかなか面白い。ただ今回は、塗装してある上にジョイントをはめ込んだので、かなりキッチリはまって、簡単には抜けなくなってしまった。

 塗装の厚みは大したことないと思うが、おそらく塗装表面が艶消しなので、かなり摩擦が大きくなったからだろう。簡単に着脱するものを作るのであれば、先にジョイントを付けた状態で塗装した方が良かったかもしれない。まあ後から思いついたので、今回はこれで仕方があるまい。

 



■総論

 今回の工作で手間がかかるのは、木材加工の部分だけである。円形に切る部分が、DIYショップをもってしても難易度が高いということがわかった。Stereo誌に寄稿されたライターさんは、加工も自分で上手にされる方なので、一般人ではとても敵わない。

 今回はStereo誌に載っているものと見てくれがずいぶん違ったものになってしまったが、設計がちゃんとしているので、音質的にはかなり満足のいくものが出来上がった。

 付録付き2,990円が高いか安いかといった話ではなく、雑誌に付いてくる情報そのものがものすごい価値を持っている。それもトータルで考えると、たったこれだけの投資でこれだけの知見と実物が得られるのだから、素晴らしい体験である。

 大人の夏休みとはいっても、そうそう時間がとれるものでもなく、多くは家族サービスに費やされると思うが、今回の工作は土日数時間の作業だけで完了した。要は材料を切り揃えるのに時間がかかっただけである。

 子どもと一緒に作っても楽しい自作スピーカー。あなたもこの夏、付録の楽しさを子どもと一緒に分かち合ってはいかがだろうか。

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DigiFi No.7
別冊ステレオサウンド

(2012年 8月 8日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。

[Reported by 小寺信良]