小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第655回:使い勝手/画質/手ブレ、色々改善。ソニーの白いアクションカム「AS100V」
“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”
第655回:使い勝手/画質/手ブレ、色々改善。ソニーの白いアクションカム「AS100V」
(2014/3/19 10:00)
拡がる世界観
アクションカムの人気を牽引しているのは米国のGoProということで、皆さんも異論はないところだろう。彼らのビジネスモデルは、収益の多くをスポーツイベントの協賛やプロモーション費用に充てることで、GoProのブランドイメージアップとともに、顧客の忠誠心アップにも繋げている。単純に機能だけ、画質だけなら他社の方が上になったとしても、やっぱりGoProが一番好き、ということになるわけだ。
これは撮影のプロ、あるいはプロスポーツにも大きな影響を与えており、オフィシャルスポンサーがGoProなら、それ以外のアクションカムはまあ普通は使えない。従って凄い映像もますますGoProで撮られるようになる、それを無償公開してますますGoProの認知度が上がる、というサイクルが繰り返されていく。
一方日本でもアクションカムの人気は徐々に高まっているところだが、ソニーやJVC、パナソニックらがGoPro対抗モデルをいろいろ作っていることもあって、米国のようにGoPro一色という事でもないようだ。
個人的にはソニーの「HDR-AS15」を使っているのだが、これはもっぱらスポーツではなく、取材用のメモカメラとして使っている。本体だけならポケットに突っ込んでおけるので、展示会で話を聞きながらブースを回る、みたいな取材の時に大変便利なのだ。
一方で本当にスポーツで使おうと思ったら、付属の防水ハウジングに入れないといけない。いやそれは仕方がないことではあるのだが、JVCのスポーツカムADIXXIONシリーズのように本体のみで防水の製品と比べると、手軽さが違う。
その点がAS15/30Vの不満点だったのだが、先のCESで発表された新アクションカム「HDR-AS100V」は、本体だけでIPX4相当の防滴性能を持つ。3月14日から発売が開始され、店頭予想価格は33,000円前後。通販サイトでは29,000円を切り始めたぐらいの価格になっている。
従来のアクセサリをそのまま使えるようにと、サイズは同じ、見た目は色が白くなったぐらいの違いしかないが、実際には中身はかなり別物になっている。どんな機能が実装されたのか、早速テストしてみよう。
細かいところに多くの違い
あいにく筆者の手元には2世代目となるAS30がなく、初代のAS15との比較になってしまうのだが、本体のサイズは本当にまったく一緒だ。ただ底面が少し平たくなっており、机の上などで縦のままで置いておけるようになった。固定なしでそのまま撮るというケースはあまりないかもしれないが、逆になんで今まで底を丸く作ったのかの理由も定かではなかっただけに、ちょっと納得のいく変化である。
今回センサーサイズは変わらないが、画素数が少し増えて、総画素数が1,680万画素から1,890万画素となっている。動画・静止画ともに、有効画素数は1,190万画素から1,350万画素となった。読み出し速度も上がっており、従来よりもローリングシャッター歪みが改善されている。
レンズはZEISSテッサーなのは変わらないが、画角が多少狭くなっている。元々ASシリーズは画角が2タイプあり、手ぶれ補正なしだと170度、手ブレ補正ありだと120度だった。今回も角度表記としては変わらないが、35mm換算の焦点距離では、170度モードが従来の15.3mmから17.1mmに、120度モードが21.3mmから21.8mmに変更されている。
レンズのすぐ後ろにある凹みは、別売のレンズプロテクタを取り付けるための溝だ。これまではハウジングに入れておくのがデフォルトという考え方だったので、特にレンズプロテクタは用意されてこなかったが、今回は本体のみでも防滴のため、そのまま使う場合を考慮してのことである。このプロテクタはガラス製で、画質への影響を極力小さく設計されている。
上部にも録画ランプが付けられた。従来から背面にもあったが、2箇所で録画状態を把握できるようになった。
手ぶれ補正は電子式だが、補正力は従来比2.5倍になった。アクションカムの場合、振動は手持ちによるものではなく、ほとんどが自転車やバイクなどに装着した時の、路面コンディションなどによるガタつきである。アルゴリズムも、より細かい振動を吸収できるように改良されたと聞いている。これはあとでテストしてみよう。
背面の蓋は、従来はいったん横にスライドさせて開ける方式だったが、今回は横のロックを外してまっすぐ後ろに引き出すタイプに変更された。防滴のためにエッジがゴムパッキンでカバーされるため、蓋が横には滑らなくなったからだろう。
録画ボタンのホールドレバーが改良され、出っ張りがあるので手袋をしていても操作できるようになった。ただ録画ボタンが若干小さくなり、押し込みが硬くなった。
付属電池は従来と同じXタイプだが、電池スペーサーなしで直接入れられるようになっている。以前は電池スペーサーを変えれば、サイバーショットで採用が多かったGタイプの電池も使えたのだが、少しでも内部のスペースを稼ぎたかったという事かもしれない。
メモリーカードはmicroSDカード全タイプと、メモリースティックマイクロとの兼用。今回は記録モードにXAVC Sが使えるようになったが、その記録にはmicroSDXC Class 10が推奨されている。
動画記録モードは、従来のMP4とXAVC Sとの切り換えになっている。約50Mbpsのハイビットレートで撮影できるほか、24pに対応した点が新しい。
モード | 解像度 | fps | bps |
MP4 | |||
PS | 1,920×1,080 | 60p | 28Mbps |
HQ | 1,920×1,080 | 30p | 16Mbps |
STD | 1,280×720 | 30p | 6Mbps |
SSLOW | 1,280×720 | 120p | 6Mbps |
HS120 | 1,280×720 | 120p | 28Mbps |
HS240 | 800×480 | 240p | 28Mbps |
VGA | 640×480 | 30p | 3Mbps |
XAVC S | |||
60p | 1,920×1,080 | 60p | 50Mbps |
30p | 1,920×1,080 | 30p | 50Mbps |
24p | 1,920×1,080 | 24p | 50Mbps |
新しくHS120とHS240というモードが増えているが、これはハイスピード撮影の新モードだ。従来のハイスピードモードでは、撮影されたファイルを再生すると、最初からスロー再生になっていた。新HSモードは、ファイル再生すると通常スピードで、しかも音声付きで再生される。だが中身は120pや240pで撮影されているので、指定した一部分だけをスローにすることができる。
車のCMで使われる手法で、最初はノーマルスピードで途中からスローになるというシーンがあるが、ああいうものが簡単に作れるわけである。これもあとで試してみよう。
側面もデザイン的にほぼ同じだが、AS30からNFCに対応している。スマホとのペアリングもワンタッチだ。
また赤外線リモコンにも対応した。ただこれは用途が特殊で、別売の「RMT-845」を使って同じタイムコードをいっぺんに設定するためのものだ。本機は5台までのマルチカメラ収録に対応するので、それをうまいことやるための仕掛けである。なおタイムコードは、XAVC Sモードでしか記録できない。
ハードウェア的には、底部の作りが一番変わった部分だろう。やや平たくなったことは先にも述べたが、端子の蓋がMULTI(USB)端子とそれ以外に分かれた。これはUSB給電しながらの撮影にも対応するために分離したのだろう。
また底部にはアクセサリ固定用の小さいねじ穴が付いた。これに付属の三脚アクセサリを取り付けると、通常の三脚にそのまま固定できる。これまで本体だけを直に三脚に取り付ける方法がなかったが、これも大きなポイントだろう。
ウォータープルーフケースは、AS15では水深60mまで対応する「SPK-AS1」が付属していたが、新モデルにはコンパクトで水深5mまで対応の「SPK-AS2」が付属する。AS1と違って横のボタンも操作できるよう改良されているので、ケースに入れたままでフル操作が可能だ。
ライブビューリモコンの「RM-LVR1」は従来から販売されているものだが、新しいファームウェアにより、AS100Vを5台まで制御できるようになった。同時レコーディングスタートや、5台のモニター切り換えなどができるようになっている。まあこれも、今回はAS100が1台しかないので試せないのだが。
全然違う画質
では早速いろいろテストしてみよう。今回の撮影は、一部のケースを除きXAVC S/60pで撮影している。一方比較対象のAS15は、MP4/60pだ。どちらもウォータープルーフケースに入れず、本体を直接固定している(AS15はスケルトンフレームを使用)。なお比較映像はは同一ファイル内に収めるため、MP4の50Mbpsでまとめている。
まず光学部の変更による画角の違いだが、数字上は少し違うものの、実際には狭くなったという感じはない。まあよく見れば多少狭くなってはいるが、最初からこれだけ広角だと、大差ない範囲である。この点はあまり気にしなくてもいいだろう。
ビットレートが倍近く取れることもあるだろうが、センサーや画像処理エンジンの世代も新しくなったことで、画質的には全然違う。AS15は全体的に輪郭補正が強めで、ゴワゴワしている。一方AS100Vは、一般的なビデオカメラで撮ったんじゃないかと思わせるほど細かいところにも解像感があり、色収差も少ない。まさに隔世の感とはこういうことだろう。
手ぶれ補正は、高架下の砂利道でテストしてみた。AS100でも細かい振動全部を補正しているわけではないが、センサーの読み出し速度が速くなったことで、振動による形の歪みが少なくなっている。
撮影モードとしては、カラーの設定ができるようになっている。デフォルトは「ビビッド」だが、カラーグレーディングしやすいように、「ナチュラル」も選択できる。色の濃い花を撮影してみると、ビビッドでは赤の色味は飽和しているように見える。ただ、スポーツシーンではあまりここまでの色の濃いものが写ることは少なく、多少濃いめにしておかないと絵がしょぼいと思われるのも事実だ。このあたりは、実際に現場で撮り比べてみて、選んだ方がいいだろう。
またAS15はインターバル撮影用としての静止画機能しか持たなかったが、AS100Vでは専用の静止画撮影モードも持っている。ものすごく広角なので普通のデジカメのような写真にはならないが、なかなか画質もいい。
機能が上がったPlayMemories Home
面白いシーンを撮影したら、あとはそれをどう見せるか、というところがポイントになってくる。無償配布されているPlayMemories Home(以下PMH)は、以前は画像取り込みとライブラリ管理ソフトみたいな位置づけだったが、動画の編集機能も次第に充実し、面白い事が色々できるようになっている。
しばらくアップデートをサボっていて気がつかなかったが、最新のVer3.1.01では動画の回転もできるようになっていた。ただ、XAVC Sは再生できるものの、編集機能は対応していない。
AS30からはGPS機能が付き、移動の軌跡をログデータとして残せるようになっているが、そのデータを使ってスピードメーターや地図情報を付けてレンダリングできる、「マルチビューを作成」機能が搭載された。
名前のように、そもそもは同じタイミングで撮影したマルチカメラの映像を1まとめにするための機能なのだと思うが、カメラ1台で使うユーザーにとっては、機能名が今ひとつマッチしていない。
使い方は、PMHでツールを表示させ、「画像の編集」へ進んで「マルチビューを作成」を選ぶという、ややこしいことになっている。この機能では、複数のクリップをドラッグして、ウィザード形式で設定を進めていく。
ただしこの機能は、XAVC Sで撮影した動画には対応していないので、今回は作成そのものができなかった。元々AS30時代に実装された機能とはいえ、リアルタイム処理でもないので、XAVC Sだから難しいというわけでもないだろう。早急に対応をお願いしたいところだ。
新しく追加されたハイスピードモードで撮影した動画は、やはり「マルチビューを作成」画面でスロー範囲を指定し、再レンダリングすることで、途中からスローになる動画を作る事ができる。これってもはや機能的には“マルチビュー”でもなんでもない。普通に探してたら絶対にこの機能は見つけられないだろう。
スローは2倍、4倍、8倍に設定が可能だ。基本フレームレートは60p、HS120の場合は2倍が全コマ記録されており、それ以上のスローはフレーム補間となる。HS240では4倍が全コマ記録で、8倍が補間ということである。今回はHS120で撮影し、2倍、4倍、8倍でレンダリングしてみた。
光源が白色と電球色のミックスなので、カラーバランスが悪いのはご容赦いただくとして、スロー時も音声が引き延ばしてレンダリングされるのは面白い。
総論
一見すると色が白になっただけ的な見方もされてしまうAS100Vだが、中身的にはかなり機能が上がっている事がわかった。AS15ユーザーとしては、AS30Vの時は買い換えるほどではないかなと思ったものだが、AS100Vは買い換えを検討してもいい。
あいにく今回は1台しかお借りできなかったので、マルチカメラ収録はテストできなかったが、これも面白そうだ。特にタイムコードは、ノンリニア編集になってから正直あまり使い道がなかったが、マルチカメラの同期に使えるのであれば復権する技術であろう。AS100V以外のカメラとも同期できるようになると、さらにいいだろう。
なお現在発表されているものの、まだ実装されていない機能は以下のようになっている。
- 静止画の高速連写モード 2014年夏
- スマートフォン経由でライブ配信 2014年夏
- マルチカメラの3・4画面レンダリング 2014年春
なお個人的にはネット放送用のライブカメラとして使ったりするので、USBよりもHDMI端子を後ろにして欲しかったのだが、さすがにこの使い方はマイナー過ぎるだろうか。
この手のカメラは予想外のところに付けてナンボなところがあるので、本体のみで三脚に固定できるようになり、設置のバリエーションが増えたことは大きい。夏にはまた機能が増えていくこともあって、長く遊べるカメラになりそうだ。
ソニー HDR-AS100V | ソニー HDR-AS100VR ライブビューリモコン付き |
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