小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第718回:1インチセンサーで光学25倍、キヤノン気合いの「PowerShot G3 X」
第718回:1インチセンサーで光学25倍、キヤノン気合いの「PowerShot G3 X」
(2015/7/22 09:30)
中型センサーブーム?
昨年後半あたりから、コンパクトデジカメではセンサーの大型化がトレンドになっている。大型と言っても一眼の35mmやAPS-Cまでは届かないが、少なくとも4/3インチから1インチぐらいまでのモデルが多い感じだ。
そしてそれにつられる格好で、ネオ一眼のハイパフォーマンスさにも改めて注目が集まっている。きっかけは昨年7月に登場した、パナソニック「DMC-FZ1000」だろう。昨年4月に発売されたDMC-GH4は、4K動画カメラとしても文句なしの傑作だが、いかんせんボディだけでも発売時は17万円コースであった。一方そこから10万円近く安かったFZ1000は、多少スペックは落ちるができることはほぼ一緒ということで、「GH4は無理」なユーザーが飛びついた。
ネオ一眼は、一眼と同程度のサイズながらレンズ固定のデジカメを指す。レンズとセンサーの特性をギリギリまで追い込めるので、カメラメーカーとしても存分に腕が発揮できるジャンルなのだ。ソニーからもスロー撮影に強い「DSC-RX10M2」の発売が控えているところだ。
今回取り上げるキヤノンの「PowerShot G3 X」は、型番に「G」とあるように高級コンパクトの「プレミアムシリーズ」に位置づけられているが、ネオ一眼のような高倍率ズームを搭載したモデルだ。キヤノンオンラインショップでは115,344円だが、ネットでは税込み10万を切るところも多い。
過去キヤノンのネオ一眼タイプは、あまり注目を集める機会は少なかった。というのも、ものすごく何かに尖ったスペックというより、バランス重視で設計されてきたからである。だが今回のG3 Xは、トレンドの1インチセンサーを搭載し、光学25倍ズームレンズを搭載してきた。ビデオカメラなら光学25倍はありうるスペックだが、1インチセンサー搭載のデジカメとしてはかなり珍しい。
静止画を撮る人からはまた違った評価もあるかもしれないが、今回も相変わらず動画機能にフォーカスしたレビューをお送りする。
ガッシリしたボディ
キヤノンのネオ一眼は、SXというシリーズが続いている。フォルムとしては一眼レフに近く、曲線を多用したデザインだ。一方今回のG3 Xは高級コンパクトデジカメのGシリーズのラインナップであるため、デザイン的にはスッキリした直線的な印象となっている。古くからのカメラファンからみれば、なんだかフィルム時代を彷彿とさせて懐かしく、新しいファンからすればシンプルで馴染みやすく見える事だろう。
ホールドしてみると、重量感はそれなりに感じるが、バランスがいいので軽く感じる。グリップは浅めだが、手の小さい筆者にはちょうどいいサイズだ。また鏡筒部も長さがあるので、左手のホールドにも窮屈さはない。
さて注目のレンズは、35mm換算で24~600mm/F2.8~5.6の光学25倍。構造は沈胴式で、テレ端だと鏡筒部の倍以上の長さになる。また鏡筒部の半分以上がマニュアルリングとなっており、マニュアルフォーカス時に威力を発揮する。AFの時は別の機能をアサインすることもできる。
マニュアルフォーカス切り替えの上のボタンは、新機能「フレーミングアシスト」へのアクセスボタンだ。これはあとで試してみよう。
ズーム操作は、シャッターボタン周囲にあるレバーで操作する。駆動は独自の「マイクロUSM II」を採用し、動画撮影時にはうれしい静粛性の高い動作を実現する。絞りも9枚羽根と、深度表現にも十分なスペックだ。ただ標準では、レンズフードが付属しない。
センサーは1型の裏面照射型CMOSで、総画素数は約2,090万画素。カメラとしての有効画素数は約2,020万画素となっている。スペック的にはPowerShot G7 Xと同じだ。
軍艦部はモードダイヤルと露出補正ダイヤルが大きくマウントされている。赤の差し色を入れているあたりも、G7 Xと同様だ。電源ボタン、動画ボタンは小さく、マニュアル操作用ダイヤルが1つある。
動画撮影機能では、4K撮影はできず、フルHD/59.94pが最高だ。以下に画質モードをまとめておく。
モード | 解像度 | フレームレート | ビットレート |
FHD59.94p | 1,920×1,080 | 59.94p | 35Mbps |
FHD29.97p | 29.97p | 24Mbps | |
FHD23.97p | 23.97p | 24Mbps | |
HD29.97p | 1,280×720 | 29.97p | 8Mbps |
VGA29.97p | 640×480 | 3Mbps |
背面は意外にボタン類が多く、メニュー操作用の十字キー兼用ダイヤルのほか、液晶近くにショートカットボタン、右肩のほうにAEロック、フォーカスモード切り換えボタンがある。液晶の上にはWi-Fi接続用のボタンもある。
液晶モニタは3.2型タッチディスプレイで、画素数は約162万ドット。アスペクト比は3:2で、視野率100%となっている。ヒンジは上下にチルト可能で、自撮り用に上向きに180度跳ね上げることもできる。
端子類は、左側にイヤホンとマイク端子、右側にはリモコン、mini USB、ミニHDMI端子がある。最近カメラではmini USBもミニHDMIも採用が減っており、micro端子のほうが主流になっている。特にミニHDMIはキヤノン以外に採用しているメーカーは最近見たことがないという、ほとんど絶滅危惧種状態にある。何かパテントの関係なのかもしれないが、キヤノンのカメラのためだけにミニHDMIケーブルに差し替えるのは、ユーザーとしては面倒だ。底部にはバッテリーとSDカードスロットがある。
なおアクセサリーシューには、別売の電子ビューファインダ「EVF-DC1」が装着できる。元々は昨年3月発売のコンパクトフラッグシップ、「PowerShot G1 X Mark II」用に開発されたものだが、今回のG3 Xもそのクラスという事だろう。
25倍ズームは伊達じゃない
ではさっそく撮影してみよう。撮影日は台風一過で天気はよかったが、いかんせん風が強く、マイクもかなりフカレている。特殊な状況ということでご了承願いたい。
光学が25倍あるということで、今回はテレ側を中心に撮影してみた。夏は野鳥などの動物や昆虫などを撮影する機会も増えると思うが、光学で600mm、デジタルズームを併用すれば1,200mmまで寄れるというのは、重宝するはずだ。
テレ端でのボケ味もよく、立体感のある描写が可能だ。コントラスト感も良好で、日の当たる場所と影の場所、それぞれに雰囲気のある表現となっている。
ズーム動作はかなり静かだ。無音というわけではなく、多少カメラマイクに音は入るが、何か現場音があるなら気にならない程度だ。デジカメで動画撮影時にズームさせようという思想は、これまであまりなかったように思う。その点では、ビデオカメラに近いデジカメと言えるかもしれない。
また撮影のガイドとなるグリッドラインには、井の字型だけでなく、映画フォーマットに合わせたアスペクト比をラインで示す機能もある。このカメラで映画を撮るということは正直考えられないが、マニアックではある。
設定にはアスペクト比しか書かれてないので何が何だかさっぱりわからないと思うので、以下にまとめておく。各フォーマットのアスペクト比をx:1の形で暗記している人はそうそういないと思うので、カメラ内の設定にもフォーマット名を示すべきだろう。
アスペクト比 | フォーマット名 |
2.35:1 | シネマスコープ |
1.85:1 | アメリカンビスタ(アカデミー) |
1.75:1 | 英国標準 |
1.66:1 | ヨーロッパビスタ(EU標準) |
4:3 | SD |
本機には、電源を入れると前回のズーム位置を記憶する機能がある。だが残念ながらこの機能、モードダイヤルを動画モードにセットすると使えない。そこまで動画に気を配りながら、なぜそこは機能を外すのか謎である。
テレ端だと被写界深度が浅くなるわけだが、そこで気になるのが動画撮影時のAF動作だ。AF方式としては、顔認識+追尾優先AFと1点AFの2つから選択する。画面タッチによる追尾も可能で、まさに今どきのAFではあるのだが、テレ端ではフォーカスを見失うことが多い。
おそらく基本はコントラストAFなのだろうと思うが、木漏れ日の花のように被写体の輝度がコロコロ変わると、フォーカスが迷う。また水面のカメなど、形としてははっきりしているにもかかわらずコントラストは低いような被写体も苦手だ。実際には動画のサンプルで見ていただきたいが、本連載史上最高にイライラするサンプルだと思うので、覚悟してご覧いただきたい。
動画撮影時の手ぶれ補正が強化され、5軸補正となった。とは言っても他社は結構早いうちから5軸補正になっており、その点では標準に追いついたという部分である。動画サンプルは手ぶれ補正OFFとダイナミックIS標準での比較だが、補正力は自然だ。ところどころに限界点も見られるが、歩行の感じも残しつつ余計なブレを補正している。
誰でも構図の達人に? フレーミングアシスト
G3 Xの目玉機能に「フレーミングアシスト」がある。これは顔認識技術を使い、人物撮影においてベストな構図を自動で作ってくれる機能だ。静止画にも動画にも使える機能だが、モードダイヤルの動画モードでは動作しない。静止画モードにして動画を撮影すれば機能する。
フレーミングは、オート、顔、上半身、全身、マニュアルの4タイプから選択できる。今回は「顔」でテストしてみた。録画を開始して後ろに下がっていくと、カメラが自動的にズームインして、顔が収まるように調整する。近づけば逆にズームアウトする。画角の端のほうに移動すると、なんとか顔が切れないようにズームアウトして顔を入れようとしているのがわかる。
この動作スピードからすると、あまり早い動きの場合は追従できないだろう。また後ろを向くなど顔の認識ができていない間は動作しないため、自由に動く被写体の撮影は難しいかもしれない。子供の音楽会など、顔が正面で位置も固定されているようなシーンなら使えるだろう。
ソニーのカメラでは、撮影したあと顔認識して自動でトリミングする機能を備えたものもある。一方ライブで画角を決めてしまうというのは技術的にはなかなか面白いと思うので、ぜひうまく育てていって欲しい。
もう一つ動画関係の機能としては、星空インターバル動画撮影機能が付いている。シーンモードで「星空」を選ぶと、静止画の夜景撮影設定2つと、動画設定1つが選択できる。
動画での設定では、軌跡の長さ、撮影間隔、フレームレート、撮影時間がセットできる。軌跡の長さは結構バリエーションがあるが、撮影間隔は15秒と30秒しかない。また撮影時間も60分、90分、120分、制限なしの4タイプから選択するのみ。
最近のカメラにはよくこの手の機能が付いているが、実際には何度もやってみて失敗してみないと、撮影間隔や撮影時間の関係がわからないものだ。最終的に何秒の動画にするかという、フィニッシュの状態から逆算できたり、残像の感じをサンプルで見せてくれるようなインターフェースがあるとよかっただろう。
さらに言えば、今これだけタイムラプスが定着していながら、撮影できるのが星空だけというのは寂しい。せっかく多彩なオートモードを備えているわけだから、もう少しいろんなタイムラプスが撮影できる機能にして欲しかったところだ。
総論
久々に“レンズのキヤノン”を体現するG3 X。他社1インチセンサー搭載機がズーム倍率控えめな高解像度レンズを積んでいるのに対し、高解像度ながら光学25倍と、ビデオカメラ不要と言わんばかりのスペックにシフトさせたのは、新しい方向性だ。
だがこれだけのスペックを備えながら、4Kが撮影できないのは惜しい。HDとしては解像度も発色も悪くないのだが、やはり4Kが大型テレビの主流になりつつあるだけに、「こんだけお金出しても4K撮れないのか」的な不満も出てくるのではないだろうか。実際パナソニックもソニーも、高級コンパクトやネオ一眼で4K撮影機能を全面に打ち出しており、テレビ事業を抱えるメーカーとそうでないメーカーの、4Kに対する温度差が如実に表われた格好だ。
これまでキヤノンではあまりなかった高倍率ズームモデルなだけに、テレ側でのAFの安定性にも不安が残るところだ。静止画ならその瞬間だけフォーカスが合ってれば問題ないのだが、動画となればあまりふらふらフォーカスが迷うのは考え物だ。動作アルゴリズムの改良は必須だろう。
ただ珍胴式レンズには珍しく、短時間の小雨や砂塵にも耐える防塵・防滴構造を備えているのはメリットがある。海や山へのレジャーのお伴には、心強い1台となるだろう。
HDMIからのライブ出力も可能だが、シャッタースピードや絞りなどのパラメータ画面を消す方法が見当たらなかった。HD/60pの高倍率ライブカメラとしてスペック的にはいいところなのだが、そういう使い方は想定されていないようである。
先月キヤノンは、業務用4Kカメラ「XC10」をリリースしたところだ。価格は実売24万円弱といったところで、いわゆるプロシューマー領域のカメラだと言える。このカメラがある限り、今期コンシューマでの4Kカメラ投入はないと睨んでいたのだが、実際その通りになった。おそらくコンシューマ向け4Kカメラは半年から1年後ぐらいになるのだろうが、その隙にパナソニック、ソニーがどういう攻勢をかけていくのか。
4Kを睨んで、コンシューマデジカメの勢力地図も、書き換えられる可能性が出てきた。