小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第741回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ドリーズームまで可能!? 4Kで撮って後から活用。パナソニック「HC-WXF990M」

久々のビデオカメラ

 昨今“4K動画撮影対応”といえばすっかりデジタルカメラのグレードを表す一種のパラメータのような扱いになってしまっているが、本来はビデオカメラの領域である。だがそうは言ってもビデオカメラの出荷台数は年々減少しており、ネットでは動画需要が右肩上がりなのに、動画撮影専用機の需要は右肩下がりということになっている。

HC-WXF990M

 デジカメなら写真も4K動画も撮れるようになった今、ビデオカメラは一体どうなれば正解なのか。各社ともその答えを模索している最中であろう。今回ご紹介するパナソニック「HC-WXF990M」は、4K動画ならではの機能を満載した、楽しいカメラとなっている。

 この1月から発売が開始された新製品は、3タイプ。最上位モデル「HC-WXF990M」が4K+ワイプ撮り+ビューファインダ付きモデルで、店頭予想価格145,000円前後。次が同仕様でビューファインダなしの「HC-WX990M」で125,000円前後。一番下がワイプ撮り、ビューファインダなしの「HC-VX980M」で10万円前後となっている。

 現在4Kテレビが好調と伝えられてはいるものの、実際に自分で4Kコンテンツを作る環境は十分とは言えない。今年のパナソニックは、4Kの編集も大変だし、保存メディア環境も整っていない現状で“4K技術をどう使っていくか”に注力するようだ。

 ビデオカメラがすっかり年1回だけの季節商品みたいなことになってしまって寂しい限りではあるが、パナソニック今年の最上位モデル「WXF990M」の実力を、早速テストしてみよう。

デザインは変わらず

 まずデザイン面だが、基本的にはいつもと同じというか、2014年の「HC-W850M」から最上位モデルはデザインがほとんど変わっていない。もうそろそろ違ったデザインも見てみたいところだ。カラーは前作「WX970M」がブラックとブラウンの2色だったが、WXF990MとWX990Mはブラックのみとなっている。

デザインテイストは2年前から変わらず
カラーはブラックのみ

 デザインは変わらずというものの、細かいところに違いがある。まずWXF990Mのポイントはビューファインダが付いたことである。このデザインになってからは初めてなので、コンシューマ機でビューファインダが付いたのは、2013年のX920M以来、3年ぶりということになる。

ビューファインダの搭載は3年ぶり

 その関係で、以前はアクセサリーシューはアダプタを背面から差し込んで拡張するようになっていたが、今回は天面にアクセサリーシューがある。

天面のカバーを開けるとアクセサリーシューがある

 では順にスペックを見ていこう。レンズは4K動画撮影時で30.8mm〜626mm(35mm換算)/F1.8〜F3.6の光学20倍ズームレンズ。iAズーム使用時には25倍ズームとなる。この辺りは前モデルと同じだ。

レンズスペックは変わらず

 センサーは総画素数1,891万画素、1/2.3型MOSで、動画撮影時の有効画素数は829万画素(4K/16:9時)。センサースペックも前作と全く同じ。ワイプ撮り用のサブカメラも付いているが、レンズは37.2mm(35mm換算)の単焦点で、F2.2。撮像素子は1/4型MOSで、総画素数527万画素と、これも同じだ。

サブカメラも健在

 したがってレンズ及びセンサーは、前作から変わってない可能性が高い。1年ごとに進化が求められるカメラ製品にしては珍しいが、各デバイスの新規開発が止まってしまっているとしたら残念なことである。

 液晶モニタは3型/約46万ドットのタッチスクリーン式。新搭載のビューファインダは、0.24型/155万ドットとなっている。ビューファインダは引き出してONになるパターンだが、デジカメのようにアイセンサーを搭載していないので、液晶を閉じないとビューファインダの表示がでない。

ビューファインダは角度も変えられる

 液晶の内側はボタンや端子類が集まっている。電源ボタンほか、撮影・再生切り替え、HDRモード、Wi-Fi接続がある。SDカードスロットもここにある。以前は底部から挿入するスタイルだったが、内部的にはかなり設計が変わっているということだろう。内蔵メモリも64GBあるので、撮影にはSDカードがなくても困らない。この辺りがデジカメにはない、ビデオカメラ独特の作りである。

SDカードスロットが底部から側面に移動

 またボディ側面には、動画/4K PHOTO/静止画の切り替えボタンも付けられている。4K PHOTOを大きくフィーチャーした結果、3モードになったということだろう。ただし本機の4K PHOTOは、昨年から搭載されて話題になった後からフォーカスが決められる機能「フォーカスセレクト」は搭載しておらず、4K動画の中からいいタイミングの静止画が切り出せる機能のみとなっている。

 以前ヘッドフォン端子があったグリップベルトの前部は、マイク端子になった。以前は液晶モニタを広げた内側にあり、外部マイクを使っていると液晶が閉じられないという事態になったが、今回はビューファインダも搭載し、撮影中にも液晶を閉じる可能性があるということで、この場所に移動したのだろう。

 グリップ部にはヘッドフォンとDC端子がある。こんなところにヘッドフォン端子があったら、手持ち撮影の時にヘッドフォンでモニターすると、ヘッドフォンジャックが邪魔になってカメラが握れない。マイク端子に押し出されてここにきた格好だが、機能として搭載しつつも物理的には使えないのだから、これはさすがに設計としてダメだろう。

グリップ側にヘッドホン端子が移動したが……

 DC入力は同軸型だが、ACアダプタはいわゆるUSB用のものだ。そのため、USB-DCケーブルのUSB側をパソコンなどと繋いで、ACアダプタを使わずに充電する事もできる。ただ、その場合にも、この専用USB-DCケーブルを持ち歩く必要がある。どうせなら、ビデオカメラ本体のUSB端子を使って充電できた方が、出先にわざわざ専用ケーブルを持ち出さなくて済む。電源はあるのにケーブルを忘れて充電できないといったことにならないよう、できるだけ専用ケーブルを減らしてくれる方がユーザーにとってはありがたかった。

ACアダプタはいわゆるUSB充電器。それならUSB端子で充電できた方が良かった

画質的には変わらないが……

 では早速撮影してみよう。撮影モードとしては、4Kでは3,840×2,160/30p/mp4の1モードしかない。一方HDRのような特殊撮影はHDでしか使えないのは、前モデルと同じだ。

モード 解像度 フレームレート 最大ビットレート
2160/30p 3,840×2,160 30p 72Mbps
1080/60p 1,920×1,080 60p 28Mbps
PH 1,920×1,080 60i 24Mbps
HA 17Mbps
HG 13Mbps
HE 5Mbps
MP4 1,920×1,080 60p 28Mbps
1,280×720 30p 9Mbps
iFrame 960×540 30p 28Mbps

 レンズやセンサーは同スペックなので、画質的にも前モデルと同様のように見える。前モデルは衝撃的な解像感でデビューしたが、1年経って改めて見直してみると、こちらも目が肥えてきて、エンコードに起因する荒れが気になるようになってきた。ワイド端だと被写界深度が深くなって、画面上のあらゆる場所にフォーカスが合うので、ビットレートが大量に食われるのだろう。この点では、深度が浅いデジカメの方が、エンコードに起因する荒れには有利である。

ワイド端で深度が深い描写では、エンコード的に厳しい部分も
4K撮影サンプル
sample-Zooma 4K.mov(196MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 注目のファインダは、液晶表示よりも解像度は高いが、黒浮きする傾向がある。また時分割方式なので、素早く視線を動かすとカラーブレイキングが起こるのが残念だ。

手振れ補正は、光学と電子補正を組み合わせたハイブリッドO.I.S.が使える。ただし4Kでは傾き補正が「標準」までしか使えない。静止した状態で手持ちでカメラを構えた場合は、テレ端でもかなり安定する。ただし撮影者が歩くと補正力が足りず、テレ側ではかなり苦労する。

発色や露出は、さすがにビデオカメラだけあって、撮影中に状況が変わっても滑らかに追従する。この辺りのアルゴリスムは、デジカメにはないセンスだ。ただ逆光補正は自動でONにはならないので、つい使うのを忘れがちである。

発色は強く、色味も安定している
特に美肌モードではないが、肌の発色も明るく好感が持てる

 パナソニックの特徴であるワイプ撮りは、サブカメラ、同社ウェアラブルカメラ、スマートフォンの映像を小画面に入れ込める機能だ。サブカメラの映像は4Kのままでも入れ込めるが、ウェアラブルカメラやスマートフォンの画像は“ワイヤレスワイプ撮り”という機能になり、HD解像度でなければ使えない。

 今回はスマートフォン2台を使ってマルチワイプ撮りをやってみた。スマートフォンで使用するアプリは、以前と同じ「Image App」である。事前にカメラに対してスマートフォンを登録しておくと、撮影時にはすぐに利用できる。スマートフォンは3台まで登録可能だが、実際にワイプに入れられるのは2台までだ。

 今回モデルさんにはAndroid端末で自分撮り、筆者は本機のほか、iPhone 6で撮影している。前回1台でテストした際には、通信状況が悪く、映像も途切れがちで実用性に疑問があった。だが今回は同じ位置にも関わらず、安定した映像が送られてくる。ワイヤレス機能に関しては、何らかの改善が加えられたようだ。

スマホ2台を使ったワイプ撮りに挑戦
Wipe-Zooma HD.mov(20MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 特殊撮影機能の「シネマライク効果」として、WXF990Mには4つの機能が加えられた。「スロー&クイック」は、スロー撮影中に画面上のボタンを押すと、押している間だけクイックモーションになる。「スローモーション」は、通常速度で撮影中、ボタンを押すとその間だけスローになるというものだ。この機能は以前からあったが、シネマライク機能の一つとしてリニューアルされた。

下段のカチンコとメガホンのアイコンが「シネマライク効果」
4つのモードを備える
スローモーションも健在
Slow-Zooma HD.mov(14MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 「スローズーム」は、ズームレバーではできないゆっくりしたオートズームを行なう機能。「ドリーズーム」は、被写体のサイズを変えずに背景のパース感を変える撮影方法をサポートする。

 これは少し説明が必要だろう。センターに人物を配置してズームすれば、ワイド時には人物が小さく映り、テレ側では大きくアップになっていく。一方人物の背景は、レンズがワイド側のときは、広い範囲が映る。レンズがテレ側になると、背景は狭い範囲しか映らなくなる。

 では人物のサイズが一定になるように、カメラの位置を動かしたらどうなるか。つまりワイド時にはカメラを近づけておき、テレ側にズームしながらカメラを人物から離していく。すると、人物は同じ場所で同じサイズなのに、背景の広さだけが変わるという不思議な映像が撮れる。これはホラー映画などで、人物の心情にフォーカスしていく際などによく使われる手法で、ドリーズームと呼ばれている。

ドリーズーム機能のイメージ

 普通これを撮影するためには、カメラをレールに乗せておき、それを動かす係、フォーカスを調整する係、ズームを動かす係と、少なくとも3人が必要になるため、簡単には撮影できない。本機のドリーズームは、これを1人で撮影できるようガイダンスしてくれる機能だ。

ドリーズームのガイダンス画面

 このモードでは、中央部に四角い枠が表示される。この枠の中に人物の顔が入るようにカメラ位置を調整、録画をスタートしてオートズームボタンを押す。すると、カメラが被写体から離れろとか近づけと指示を出すので、それに従って動かせば、ドリーズームが撮影できるという仕組みだ。

ドリーズーム撮影画面。中央の赤い枠に人の顔が入るように設定するのだが……

 1mのドリーは持っているのだが、ドリーズームを表現するためには短すぎる。仕方がないので、手持ちで撮影することにした。

 中央の四角い枠は顔認識エリアになっており、ここに顔が来るようにカメラ位置を調整すると、枠がグリーンになる。常にグリーンになるよう撮影できればいいのだが、手持ちの移動では手ぶれもするので、なかなか枠の中にうまく収まらない。これはかなり難しい。

ドリーズーム撮影。手持ちではなかなか難しいが、長いレールを用意するのはもっと難しい
Zoom-Zooma HD.mov(21MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 本機はズーム倍率が光学20倍もあるので、テレ端では15mぐらい離れないと、顔が収まらない。アマチュアが15mのレールを手配するなど不可能なので、手持ち撮影しかありえないことになる。それでは手ぶれが大きくなるので、四角い枠の中に顔を入れるなど不可能だ。何度もトライしたが、手持ちでは全域でうまく撮影することはできなかった。手持ちではだいたい5倍ぐらいのズーム領域でしか上手くいかない。確かに面白い効果ではあるが、もう少しカメラ側でアシストしないと、一般の人にはとても使えないだろう。

4Kで撮ってHDで活用

 4K PHOTOを始め、最近パナソニックは4Kで撮った後になんとかするという機能を強化している。本機も動画専用機として、強力な後処理機能を搭載している。4K動画は、当然のことながら4Kテレビがなければそのままの状態を見ることができない。HDテレビに映して見ても、それはダウンコンバートされてしまっている。どうせHDにダウンコンバートするなら、画像処理で役に立つことをしようというのが、本機の狙いだ。

再生時の左上の4Kマークが、後処理機能へのアクセスボタン
3つの機能を備える

 「あとからズーム」は、4Kで撮影された動画のあるポイントからあるポイントへ、ゆっくりズームする機能だ。撮影時にも「スローズーム」を使えばゆっくりしたズームはできるが、撮影時にはタイミングが微妙だったりと、うまくいかないことも多い。しかし4Kで広い絵で撮影しておいて、あとでズームすれば、構図も含めてゆっくり検討できるというわけだ。

「あとからズーム」で切り出した映像。手持ち撮影だが、スタビライズ効果は併用できない
M1110001.MP4(36MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 「あとから追っかけ」は、追従するターゲットを指定することで、それを中心にトリミングしてくれる機能。動き回る被写体を追いかけつつ、安定した映像を切り出すことができる。

前半はオリジナル、後半は「あとから追っかけ」で切り出した映像
follow-Zooma HD.mov(58MB)
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 「あとから手ブレ補正」は、撮影時に手ブレした映像を補正する機能。画面の中央部付近を自動的に切り出すことになる。本気はあまり歩きながらの手振れ補正は強くないが、この機能があればかなり強力に補正できる。ただし切り出し範囲は当然狭くなるので、それを見越してやや広めの構図で撮影しておく必要がある。

前半がオリジナル、後半が「あとから手ブレ補正」で切り出した映像
stab-Zooma HD.mov(41MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 どの機能も、高機能な編集ソフトでは実現できるが、リアルタイムのプレビューや最終レンダリングにそれなりの時間が喰われる。一方こちらはカメラの画像処理エンジンでそれを肩代わりしてくれるわけで、わざわざPCで作業をする必要がない。処理時間は、約30秒のカットを手振れ補正するのに、1分40秒程度であった。

総論

 4Kのビデオカメラなんて本当にいるのかという疑問に対する、パナソニックの答えがWXF990Mである。今は4Kまで必要ないと思えるかもしれないが、4Kで撮影するという機能が無駄にならないよう、さまざまな機能を搭載した。

 特に4Kの後処理機能は、他社でもあまりやっていない挑戦で、なかなか面白い。一般家庭でPCの新規購入率が下がっている昨今、パソコンに取り込んで処理させるのは現実的ではない。それなら後処理も含め、カメラ内の強力な画像処理プロセッサでやってしまうという方向性は、未来を切り開くかもしれない。

 小さい液晶モニタを使うインターフェースは操作に十分かという問題はあるにしても、少なくともテレビやレコーダとはダイレクトにつながるわけだから、それを利用した操作方法を考えれば、案外ビデオカメラの将来性はあるんじゃないかと思う。カメラとしてのスペックはあまり向上しなかったのが残念ではあるが、そこを見送っても後処理機能を強化する意義は大きい。なぜならば、これらの後処理機能がテレビやレコーダ側に搭載されれば、他社の4Kカメラユーザーも、パナソニックのテレビやレコーダを選ぶ理由になるからである。

 現時点で4K動画は、撮影しても保存しておくメディアにも困る状況だ。動画保存に「Ultra HD Blu-ray」の記録型が望まれるのか、それとも違う方法があるのか。いずれにしても4K動画は、まだ撮影するだけで手いっぱいで、保存まで手が回っていないのが現実である。4Kで撮ってHDで活用というスタイルは、贅沢ではあるものの、今の段階では現実的な解なのかもしれない。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。