小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第700回:驚愕の4K解像感、ウェアラブル連携も可能なパナソニック「HC-WX970M」
第700回:驚愕の4K解像感、ウェアラブル連携も可能なパナソニック「HC-WX970M」
(2015/2/25 10:00)
パナの4Kビデオカメラ登場
これまで最も4Kカメラを精力的にリリースしてきたのは、パナソニックである。ウェアラブルカメラの「HX-A500」からコンパクトカメラの「DMC-LX100」、ネオ一眼「DMC-FZ1000」、ミラーレス「DMC-GH4」、ハンドヘルド「HC-X1000」と、昨年だけで5つのモデルを発売したが、唯一欠けていたのが、ハンディタイプのビデオカメラだった。
ビデオカメラ市場は確かにシュリンクしている。市場の冷え込みからすれば、正直もう撤退するメーカーが出てもおかしくない事態だ。経営判断が早いパナソニックがそこを思い切るのは時間の問題ではと感じていたのだが、その予想を覆す格好で今年のCESでハンディタイプの4Kカメラ「HC-WX970M」が発表された。これでパナソニックは、カメラのすべてのカテゴリで4Kカメラをラインナップしたことになる。
昨年のハイエンドモデル「HC-W850M」では、モニタの端にもう1つのカメラを搭載した“ツインカメラ”という新機軸を打ち出したが、そこを残しつつ4K化したものと見て良さそうだ。正直ツインカメラも、同時期にキヤノンの「PowerShot N100」がリリースされたっきりで、あまり流行ってきた気配が感じられないが、パナソニック的にはもう少し時間をかけて育てていくという事なのかもしれない。
1月23日から発売が開始、既に通販サイトでは10万円を切り始めており、消費者にとってなかなかの好スタートではないだろうか。ビデオカメラは機能的にすでに完成の域に達しているが、それが4Kになることでどう揺らぐかといったところがポイントになる。注目のWX970Mを、早速試してみよう。
ボディは同じ、中身は別物
前作はホワイトも含めた3色展開だが、やはりホワイトはあまり人気が無かったのだろうか、WX970Mはブラックとブラウンの2色展開となった。今回はブラウンをお借りしている。近年白で成功したビデオカメラはほとんどなく、例外的にソニーのアクションカムがあるぐらいである。
ボディデザインとしては、サブカメラの構造が違う以外、前モデルW850Mと全く同じと言っていい。今回は花形のレンズフードが付属しているが、ブラウンモデルにも黒が付属するため、装着すると見た目に若干違和感がある。かといって色つきのレンズフードというのもあまり前例がないため、仕方がないところだろう。
レンズはお馴染みライカ・ディコマーで、4K動画で30.8mm ~ 626mm(35mm換算)、F1.8~3.6の光学20倍ズームレンズ。画質劣化を抑えたiAズームを併用すれば25倍となる。HD解像度では、iAズーム併用で40倍まで行くのだが、さすがに4Kとなると解像度の劣化が気になるのか、倍率は控えめとなっている。
撮像素子は1/2.3型MOSの単板式。総画素数は、静止画で2,590万画素、動画で1,891万画素。記録モードは以下の通り。4Kは専用動画モードと、デジカメでお馴染みの4Kフォトモードがある。HDはAVCHD、MP4/iFrameモードがある。
モード | 解像度 | フレームレート | ビットレート |
2160/30p | 3,840×2,160 | 30p | 60Mbps |
1080/60p | 1,920×1,080 | 60p | 28Mbps |
PH | 1,920×1,080 | 60i | 24Mbps |
HA | 17Mbps | ||
HG | 13Mbps | ||
HE | 5Mbps | ||
MP4 | 1,920×1,080 | 60p | 28Mbps |
1,280×720 | 30p | 9Mbps | |
iFrame | 960×540 | 30p | 28Mbps |
一方のサブカメラだが、レンズは37.2mm(35mm換算)の単焦点で、F2.2。撮像素子は1/4型MOSで、総画素数527万画素となっている。前作との大きな違いは、カメラの実装方法だ。前作はY軸中心に回転するだけで、上下角は液晶パネルごと回さないといけなかった。だがこれでは、液晶モニターが見にくい角度になっても、我慢しなければならない。
今回はサブカメラ後部のレバーで、独立して上下角が変えられるようになっている。前回の反省を生かして、次モデルで着実に進化してくるのが、近年のパナソニック流だ。
液晶モニタは3型/約46万ドットのタッチスクリーン式。液晶の内側にはボタン類と端子が集まっているが、このあたりの作りも前モデルと同じだ。ただHDMI端子はminiからMicroに変更されている。内蔵メモリは64GBで、これも前作同様だ。なるべく作りを変えずにスルッと4K化を目指したというのが良くわかる。
驚愕の解像感
ではさっそく撮影してみよう。まずは4K撮影による画質だが、絵のキレも良く、十分な解像感が楽しめる。逆光では周辺部に若干のパープルフリンジを感じるシーンもあるが、順光なら破綻はない。4Kのビデオカメラはレンズが巨大になると言われていたものだが、光学系だけでがんばるのではなく、プロセッシングでの補正もかなり技術が上がってきて、2年足らずでHDのカメラと同サイズで4Kが実現できるのは驚異的な進歩である。
テレ端では、地面で温められた空気の揺らぎまで撮影できる。これまで同じ場所で多くのカメラで撮影してきたが、明確にこういったシーンが撮影できたのは初めてである。エンコードしたサンプルでは確認できないが、オリジナル素材ではモデルさんのストッキングの編み目まで確認できる。大変な解像感だ。
今回は4KになってもPinPが撮影できるというところがポイントである。なおメーカーでは“ワイプ撮り”と称しているが、ワイプとは元々拡大縮小や映像の動きがない図形トランジションのことなので、縮小してはめ込まれるのはPinPである。だが今ではテレビ放送に出るタレントがワイプと言い始めてしまったため、なんとなくあれはワイプということになってしまっているようだ。
PinPの子画面は、サイズが3段階に変更でき、挿入場所も4隅が選択できる。ただ4KとHD撮影で機能が若干違っており、4KでのPinPでは子画面にボーダー(枠)が付かない。
これまでPinPは、完全にはめ込まれた状態で記録されてしまうため、あとで「やっぱりいらない」となったときが困る。これを解消するために、PinPした映像と、PinPされていない映像をデュアルで録画する機能がついた。ただしこれができるのは、画質モードがAVCHDで1080/60iのときだけに限られる。制限があるのは残念だが、さすがに4Kのデュアル記録は厳しいというのは想像できる。
AFは4Kに特化した「4KハイプレシジョンAF」を搭載。AFのスピードも速く、追従性も十分満足できる。中央の被写体が小さかったり、明るいところから急に暗いところに入るとAFが迷うこともあるが、フォーカスに関する不安はほぼなくなったと言っていいだろう。
手ぶれ補正は、ソニーの空間光学手ぶれ補正のように、まるでレールを曳いたようなドリーができるほどには効かない。また4Kでは水平補正もHDモードほどには強力に効かず、その点では制限があると言えるだろう。だが気をつけるポイントは従来のHDカメラと大して変わらないので、撮り慣れている人なら普通に撮影して不満はないはずだ。
区間スロー機能も引き続き搭載しているが、画質モードはMP4の1080/60pに限定される。ここぞというときに画面上のボタンを押せば、その間だけスローで撮影できるため、通常スピードからスローへといった効果が編集なしで得られるのがミソだ。
新機軸、HDRとワイヤレスワイプ撮り
4K以外の新機能として、「HDR」と「ワイヤレスワイプ撮り」に注目してみた。まずはHDRからである。
HDRと言えば、すでにスマートフォンのカメラにも内蔵されており、実際に活用している方も多いことだろう。これは通常であればコントラスト比が高すぎて、1枚の画像内に収まりきれないようなシーンを、うまいこと収めるための技術だ。
一般的なHDRでは、高露出、露出ノーマル、低露出の3枚を瞬時に撮影し、露出ノーマルをベースに明るくて飛んでしまっている部分は低露出の該当箇所をはめ込み、逆に暗くて潰れている部分は高露出の該当箇所をはめ込む事で、全体的に露出の破綻がないよう合成する。
写真では瞬間的に何枚も撮影できるのでこのような手法が可能だが、動画ではどうするか。WX970Mでは、60フレームのうち、奇数フレームで高露出、偶数フレームで低露出を撮影(実際には逆かもしれないがそれは問題ではない)し、それぞれの30pの映像を60pに変換する。そして両方の絵を1フレームずつリアルタイム合成することで、結果的に60pの映像を作り出している。
では実際に効果を試してみよう。まず最初はiAによる普通の撮影、次に逆光補正を入れて撮影、次がHDRだ。逆光補正は露出をプラス方向にしかシフトしないが、HDRは明暗を合成しているのがわかる。ただ今回のようなシーンでは、単に低コントラストになっただけという印象が強い。うまくピタリとはまるシチュエーションじゃないと、十分な効果が発揮できないようだ。
ただこれはまだ動画HDRが搭載された1号機であり、アルゴリズムなども改善の余地はあるだろう。今後の発展に期待したいところだ。
PinPは内蔵のサブカメラ以外にも、Wi-Fiによる映像伝送機能を使って、他のカメラからの映像をはめ込む事もできる。これをワイヤレスワイプ撮りと呼んでいる。
対応するカメラとしては、ウェアラブル4Kカメラの「HX-A500」がある。1月のファームアップデートで、ワイヤレスワイプ撮りに対応した。今回はモデルさんに装着してもらい、いつものウォーキングでテストしてもらった。これまで何度も同じシーンを撮ってきたが、筆者もモデルさんが何を見ているのかを初めて知ることになる。
双方もっとも離れたところで、直線距離で15mぐらいだが、映像は問題なく飛んでくる。時々引っかかるのは、やはり2.4GHz帯ではなんらかの電波干渉を受けるからだろう。A500側には多少のディレイはあるものの、アクションしている方と撮影している方の両方の視点が同じ画面内に入るというのは、なかなか面白い。
もう一つ、スマートフォンのカメラを子画面に入れ込む事もできる。これはリモートアプリとしてお馴染みの「Image App」を使う。今回はモデルさんにiPhone 6で撮影してもらい、その様子を後ろから撮影してみた。
A500を使って撮影した場所からは少し離れているため同条件ではないが、今回撮影した限りではかなりの電波干渉を受けてしまい、普通に撮影できなかった。スマートフォンとの距離は、わずか1m程度しか離れていないにも関わらず、Wi-Fiによる接続が途切れたり、映像が止まったりといった現象が頻発した。Wi-Fiのアクセスポイントは他には見当たらないのだが、2.4GHz帯を使った監視カメラのようなものが多数公園内にあるのかもしれない。コンセプトとしては面白いが、やはり安定した映像伝送のためには、早く5GHz帯へ移行するしかないようだ。
総論
新機能のワイヤレスワイプ撮りは、今回の撮影ではあまり芳しい結果にはならなかったが、アイデアとしては本体内にもう1台カメラがあるよりも使い出があるように感じた。もう少し映像が安定すれば、スマートフォンとの組み合わせでこのワイプ撮りも強い意味が出せるように思う。
HDR機能も注目ポイントだが、一つのセールスポイントと呼ぶには、環境やモードを選びすぎる。写真で得られているような効果を期待すると、ガッカリするかもしれない。
一方で普通の4Kカメラとしては、この価格でこの性能なら、かなり満足できるだろう。解像感も高く、ズームも25倍あれば、大抵の用途では困る事はないはずだ。ワイプ撮りに興味が無い人向け、あるいはワイヤレスワイプ撮りだけで十分という人も居るだろうが、日本では残念ながらサブカメラ付きモデルしか発売されないようだ。米国向けには4K撮影できてサブカメラなし、ワイヤレスワイプ撮りには対応した「HC-VX870」というモデルがある。
今、4K動画撮影にニーズがあるのかと疑問の声もあるだろうが、やはり子供の記録は早いうちから次のフォーマットで撮っておく事をお勧めしたい。あと数年で4Kが主流になれば、HDの映像は見劣りしてしまう。子供が小さいうちは、ずっとこの時代が続くと思ってしまうものだが、今がもう二度と撮り直しの効かない瞬間なのである。
4Kビデオカメラというとハイエンド商品という見え方になってしまうが、この実売価格なら買いやすい。4Kテレビは過渡期で色々揺れ動いているところなのでもう少し様子見にしても、撮るものだけは先に4Kで、というのは十分アリな作戦である。まだソニーの新作4Kカメラをチェックしていない段階ではあるのだが、WX970Mは十分購入候補に挙げていいモデルだ。
パナソニック HC-WX970M-K |
---|