“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

 

第448回:限りなくプロ機のコンシューマ機、ソニー「HDR-AX2000」

~ 商品企画担当者に聞く、その正体 ~



■ 完全ノンリニア機のハイエンドモデル登場 

HDR-AX2000
 昨年のInter BEEで突然発表された、業務用カムコーダの新ラインナップ、NXCAM「HXR-NX5J」。ただ製品の発売が2010年初頭ということで、この時は詳しい話は聞かせて貰えなかった。

 そして先日の2010 International CESでは、HXR-NX5Jのコンシューマ向けモデル、「HDR-AX2000」(以下AX2000)が発表された。実はCESの会場でも詳しい話を聞こうとインタビューを試みたのだが、詳しい人が現地に来ていないということで、これまた詳しい話はお預けになってしまった。

 そこであらためて帰国後に再度お願いし、ようやく企画担当者に詳しいお話を聞けることになった。実機のレビューはまたいずれやるとして、これまではなんとなーく、モノはあるんだけど詳しい話は聞かないでくれ的なオーラを漂わせていたAX2000のコンセプトが、ようやく明らかになった。


■ 市場から見れば必然だったAX2000

デジタルイメージング事業本部 B&Iビジネス部商品企画課の宮本昌幸氏

 今回お話を伺ったのは、AX2000の商品企画を担当した、ソニー デジタルイメージング事業本部 B&Iビジネス部商品企画課の宮本昌幸氏だ。(以下敬称略)

――今回AXという新ラインナップ登場となったわけですが、今後ハイエンドはこのAXシリーズで行く、ということなんでしょうか。

宮本:AX2000以降のモデルはまだ未定で、お客様のご要望をお伺いしながらということになりますが、ご要望がある限り新しいモデルは検討していきたいと考えています。AXの意味は、AVCのAに絡めて(笑)。この前のモデルがHDVで「HDR-FX1000」といいましたので、その高級感を継承するということでAXにしました。

――AX2000ではコンシューマ機ながら、音声入力にXLR端子を搭載しましたよね。意外にもコンシューマ機では初めての搭載ということだそうですが。

宮本:ええ、今まではXLRで接続する機器が高くて、そのため「XLRを搭載しているものは業務用」という流れがあったんですが、近年XLRのガンマイクなども相当安くなってきたので使いたいという、ハイアマチュアのお客様も多くなってきましたので、それにお応えする形で搭載しました。

コンシューマ機ながらXLR端子を装備オーディオチャンネルの振り分けも、コンシューマ機としては複雑

――このAX2000は、’08年に発売したFX1000と光学系などスペック的にはかなり近いんですよね。言ってしまえば、FX1000のメモリ版、といった感じなんでしょうか。

宮本:そうなります。ただAX2000では、昨年2月のモデルに搭載して好評だった「アクティブ手ぶれ補正」を搭載しています。この点が進化したところですね。

――実は僕の連載で、どういうわけかFX1000をレビューしてなかったんですけど、たぶん当時はAVCHDがぐーっと伸してきた時代で、コンシューマと言えども今さらテープ式のはもういいか、ということでスルーしたんじゃないかと思うんですよ。今思えばやっておけば良かった(笑)。

宮本:まさにそのような方に対して、AX2000をお勧めしたいですね(笑)。日本市場でいいますと、ハイアマチュアといわれる層はちょっと年齢が高めで、今までテープに慣れ親しんだ延長線上でという方が多くて、'08年のFX1000の時はまだテープかなという形だったんです。ですが、ここ1~2年で急速にメモリーカードやフラッシュメモリーの値段が下がってきて、完全なノンリニアでマニュアル操作できるカムコーダが欲しいというご要望があって、企画しました。


■ 技術的な見所が多いカムコーダ

――AX2000の撮像素子はCMOSの3板式ですが、画素配列が斜めのクリアビッド配列なんですよね? 3板式でこの配列をやるメリットは何なんでしょう。

宮本:撮像素子としては、感度と解像度のバランスをどうとるかということで、いくつか選択肢があると思うんです。仮にフル解像度で正方配列の3板を実現すると、一つのセルあたりの面積が小さくなってしまって、感度が悪化してしまいます。特に1/3インチというイメージャーのサイズだと、この方法は実用的ではない。他社で行なっている画素ずらしという方法があるんですけど、それと比較検討した結果、我々はクリアビッド配列で画素ずらしを行なわないほうが勝っていると判断しました。

 画素ずらしは、RGBそれぞれを十分に含む被写体ではかなり解像度が出るんですが、例えば木々の緑だけを撮った場合や単色のものを撮った場合に、解像度が劣化してしまうことがあります。ですから我々は、クリアビッド配列で画素をずらさないというほうがベターだと思っています。

デュアルメモリーカードスロットは、メディア混在のリレー記録にも対応

――今回デュアルメモリーカードスロットの特徴的な機能として、リレー記録がありますよね。またSDカードも今回から使えるようになってますけど、これはMSからSDカードのようにメディアの種類が変わっても大丈夫なんですか。

宮本:大丈夫です。

――リレーした間は1フレームも欠けないんですか?

宮本:カムコーダ自体ではシームレスで連続再生はできないんですけど、付属のWindows用のアプリを使って取り込んでいただくと、結合されます。結合されたあとは1フレームの欠けもないです。

――これ資料によると、リレー記録は連続13時間という制限があるようですが、これはどういう理由からなんでしょう。

宮本:これはシステムの都合ですね。AVCHDの規格で、管理情報を覚えておく制限があって、どうしても上限があります。13時間というのはその上限よりは短いんですけど、まあ13時間あればだいたいの用途は収まるかなということで、そこで切らせていただきました。

――ということはAVCHDを使う限り、どのメーカーもだいたいそのぐらいで壁が来ると。

宮本:そうですね、十数時間で壁が来て、止まるはずです。

――この春のハンディカムは、ビットレートの上限を24Mbpsにしたことが一つのトピックですが、従来の最高画質モードだったFHモードを17Mbpsにしたのは?

宮本:これは実際は中味に大きな変更はなくて、今回からビットレートの表記のしかたを変えたんです。以前はビデオのみのビットレートを表記していたんですが、今回からオーディオなども含めたシステムビットレートで表記させていただいている関係上、1M増えたような表現になっているわけです。


■ 自社製品と競合する?

側面はかなりボタンだらけ

――若干ナイーブな質問かもしれませんが。サイバーショットなど、デジカメでも最近はハイビジョン動画が撮れるようになってきました。そんな中でも、ビデオカメラだからいいんだというポイントは何でしょう?

宮本:AX2000で言うと、やっぱりマニュアル操作じゃないでしょうか。カメラでも一眼レフをお客様が求めるというのは、画質もさることながら、マニュアル操作で思った通りの絵が撮れるというところだと思うんです。今回のAX2000も、オートが主流でマニュアル操作できないカメラに対して、一眼レフのような位置づけかなと思っています。

――そういうロジックでいうと、これより下のハンディカムの立場が(笑)。

宮本:ソニーのトータルなラインナップの中では、競合するところというのはどこかで必ず発生していくとは思うんです。今後お客様の声を聴いていく中で、今のハンディカムの上位機種のところとAXのラインナップというのは、今後近づいていく可能性もあったりするのかなと思いますね。

――この春のハンディカムでは、「おまかせオート」が搭載されて、自動でシーンを見分けてモードを変えていくという方向になっていますが、AX2000にはこの機能はない?

宮本:ええ、ハンディカムの最新モデルのような機能がそのまま載っているわけではないです。ただそこも考え方次第だと思うんですけど、もっと上のプロのカメラというのは、オートのモードというのが全然載ってない状況ですから、それに比べるとこのカメラは、かなりオートが載っている方じゃないかと思います。

――2007年ぐらいから、HDVカムコーダ用にメモリーユニットを出してましたよね。AX2000が出るまで、それで繋いでた時期が結構長かったと思うんですが。

宮本:当時からメモリ化のご要望というのはお客様からいただいておりましたが、ただやっぱりテープの便利さ、撮ったあと、編集したあとにテープをただ棚に並べておくだけでバックアップになるというメリットもあります。そのいいとこどりということで、テープとCFで同時記録できるというソリューションを提案させていただいたんです。

 その後のお客様の声で、テープとメモリのハイブリッドというのもそれはそれでいいんだけど、やっぱりテープはもう使わないという声も増えてきました。ただ2系統を同時に撮りたいという声はそのまま残っておりましたので、業務用のNXCAMに関してはメモリーカードとオプションのフラッシュメモリーユニットという、メモリー×メモリーでのバックアップを実装しております。

――ただどっちもメモリだと、どこかにバックアップが必要になりますよね。そのメディアは何を想定すればいいんでしょう。

宮本:まだまだ手探りなところはあるんですけど、今一番多いのはHDDにそのままとっておくことなんじゃないかと思います。当初はHDVなりのテープに戻すお客様も相当数いらっしゃるのかなと想定していたんですが、最終的にはPC上のHDDだったり、大容量のメモリだったり、ノンリニアのメディアにそのまま残しておくというのが主流になるんじゃないでしょうか。

 他にはBlu-rayという選択肢もあると思います。メディアの売価が下がってきますと、DVD-R並みにもっと気軽に焼けるようになりますし。AVCHDってBlu-rayと同じフォルダ構造をしてますので、非常に相性がいいんです。ちょっと裏技的になっちゃいますけど、ドラッグ&ドロップするだけでもBlu-rayプレーヤーで再生できるディスクが焼けちゃいます。そこはお客様のワークフローとして、どっちがいいのかでお選びいただければと思います。


■ 総論

 光学部分、マニュアル操作系はFX1000と同じとは言いながらも、HDVはMPEG-2、AVCHDはMPEG-4 AVC/H.264である。また横方向の解像度も1,440と1,920で、規格としての違いがある。レンズ、撮像素子のスペックとしては変わらず、FX1000も引き続き併売されるわけだが、単に記録がメモリに変わったという以上に、内容としてはいろいろ違うところがありそうだ。

 ターゲットとしてはハイアマチュア層だが、XLR端子が付いたことで業務用途にも耐えられるようになった。本来の業務用はNXCAMのHXR-NX5Jだが、デュアル記録、HD-SDI出力、多彩なカスタムプリセット項目という差に目をつぶるならば、約20万円安いAX2000は魅力的である。

 実際に撮影してみないとその実力はわからないが、コーデックとしてAVCHDで十分であれば、既存の業務用モデルにとってもかなりの脅威となり得るだろう。発売は明後日の1月29日からである。


(2010年 1月 27日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]