“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語” |
■ 放送設備は完了。次は何だ?
11月18日から20日までの3日間、千葉幕張メッセにて恒例の放送機材展「Inter BEE」が開催されている。地デジもハイビジョン放送がだいぶ軌道に乗り、放送局の設備投資は一通り完了しつつある状況だ。
そんな中、安価に2K/4Kの映像が撮れるRED ONE、35mm撮像素子でハイビジョン撮影可能なCanon 5D markIIの登場で、放送品質以上の映像制作が可能になってきている。これまでは、ハイビジョン放送こそがテッペン、それ以上はハリウッド、という図式があったが、その構図も少し線を引き直さなければならなくなってきているように思える。
今回はInter BEE 2009で見つけた新しい映像産業の息吹とも言えるムーブメントをピックアップして、お伝えしていこう。
■ 上と下に伸ばしてきたソニー
放送機材展で外せないのが、ソニーの製品である。特に3Dに関しては、撮影から編集、アーカイブ、上映に至るまで、一社で全分野に製品投入しているのは、世界でもソニーだけである。メインブースは相変わらず大きな面積を取っているが、3D関連のハイエンド製品は国際会議場内の別室にすべて集められている。
HDC-P1を縦に二機組み合わせた3Dカメラシステム |
マルチパーパスカメラ「HDC-P1」は、監視カメラ並みの小型でありながら、スタジオカメラに匹敵する2/3型 220万画素3CCD搭載の、高画質カメラである。これにNHKメディアテクノロジーとフジノンが共同開発した3D用シンクロズームレンズを組み合わせて、ライブ中継にも対応できる3D撮影システムを展示していた。
実は同型のカメラをビルドアップして3D撮影できるようにしたシステムは多い。ここで問題になるのは、ズームイン・アウトを繰り返したり、カメラをパンさせたりした場合に、機械的な合わせ込みによる固定ではどうしても左右の光軸がズレてしまうことである。
参考出品された「3Dイメージプロセッサー」は、左右の映像の差分などを分析し、機械的なガタによる光軸のズレなどを、高速な映像処理でリアルタイムで補正する。内部処理はCELLプロセッサで動いているそうである。そのほか映像の立体感の補正、簡単なカラーコレクション、どこをスクリーン面(立体視した場合の0ポイント)に設定するかといった処理も平行して行なうことができる。
参考出品された3Dイメージプロセッサ | 映像処理で細かい光軸補正などを行なう |
価格などは未定だが、ハードな撮影となるスポーツ中継など、セッティングや調整の時間が十分に取れない現場では威力を発揮するだろう。
3D映像の録画、送出として使われていたのは、Abekas社のビデオプロダクションサーバ「Mira」である。実態はラックマウント型のWindows PCに高速ストレージとHD-SDIの入出力を付けたようなものだが、4in/4outをバラバラに動かせるほか、2系統をペアリングして動作させることもできる。今回の3D映像デモンストレーションは、このペアリング機能を利用して行なわれていた。
Abekasのビデオプロダクションサーバ「Mira」 | MiraのGUI画面。ここではA+B、C+Dチャンネルをペアで使っている |
同じく別室で参考出品されていたのが、マルチフォーマット・トランスコーダ。これはHD-SDIなどの非圧縮映像信号や映像ファイルを、様々なフォーマットに変換するためのエンコーダである。本体内にIntelのCPU2基と、拡張スロットにCELLプロセッサ・ボードを指すことで、処理に最適なプロセッサを自動で選択して最速のエンコードを行なう。
参考出品されていた、マルチフォーマット・トランスコーダ | 奥がHD-SDIのI/Oボード、手前がCELLプロセッサボード | 映像のインジェストだけでなく、ファイル変換のバッチ処理などにも対応 |
4K対応液晶モニタ「SRM-L560」 |
新製品として展示されていたのが、56型 QFHDというサイズの、プロ用液晶モニタである「SRM-L560」。パネル解像度は3,840×2,160で、丁度フルHDが縦横4枚入るサイズだ。同社の液晶マスターモニタで使われているLEDバックライト「TRIMASTER」を使用した、高色域モデルである。
従来デジカメの写真などは、ピクセルを等倍で全体を見ることができなかったが、このモニタはプロジェクタを使用せず近くでコンパクトに(それでも56インチもあるが)確認することができる。またフルHDの映像を4系統同時に表示させることも可能。色の比較、複数バージョンの比較なども、1枚のパネル上で可能。
PCの入力にも対応し、DVI-D(HDCP対応)4系統、HDMI 4系統を備える。価格は682万5,000円。重量約73kg。
■ ソニーブースで見つけた新製品
今年も大盛況のソニーブース |
本会場のソニーブースでは、撮影コーナーに発表済みのXDCAM EXの新モデル、PMW-350、PMW-EX1Rが展示されていた。また18日に発表されたばかりの業務用AVCHDの新ラインナップ「NXCAM」の実機も展示され、すでに実働状態で試撮できるようになっていた。
詳細は発表の通りだが、これ以外の情報としては専用のフラッシュメモリユニットを見ることができた。128GBの容量を持つフラッシュメモリで、カメラの後ろ、右側に埋め込むというスタイルだ。
実写も可能な仕上がりのNXCAM | 別売のフラッシュメモリユニット |
手前右の四角い部分がフラッシュメモリユニット |
記録メディアは本体にメモリースティックDuoスロットを2つ持っており、フラッシュメモリユニットとパラレルで収録できるほか、メモリースティックDuoにはHDモードの映像を、フラッシュメモリにはSDモードの映像を同時収録できるという。現在も業務ユースではHDVカムコーダが現役で使われているのは、メモリ記録に対する不安感からである。しかしバックアップ収録も可能なNXCAMの登場で、業務用では一気に乗り換えが進むかもしれない。
NXCAM専用というわけではないが、このぐらいの小型カメラ用をショルダータイプとして利用するためのアクセサリ「VCT-SP2BP」も興味深い。カメラの底部に取り付けることで、肩を挟み込むようなアーム部、手前には胸のあたりに当てる支え部が使えるようになる。両方を折りたためば、そのままで大型三脚にマウントできる。
実際に担いでみたが、確かに腕の負担が軽減される。前にも支持部があるため、瞬間的に両手を離しても、カメラが肩の上に乗ったままである。ただ、胸に当てるアーム部は、男性には単に肋骨のあたりに当たるだけだが、女性カメラマンはこの部分の当たり具合が「微妙」と話していた。ハンディでのショルダーサポートが必要なのは、女性のほうに需要が多いと思うので、前方の支持方法はもう少し改良が必要だろう。
製品化はすでに決まっており、NXCAMとほぼ同時の来年1月ぐらいには発売されるそうである。
カムコーダのショルダーサポート「VCT-SP2BP」。先端部が伸びて肩を挟み込む | 女性カメラマンにとっては前のアーム設計が「微妙」との評価 |
■ 神戸カノープスの技術が世界に、トムソン・カノープス
grass valleyブランドで出展のトムソン・カノープス |
トムソン・カノープスは、放送機器ブランドであるgrass valleyを前面に押し出したブースを展開している。会社名には未だにトムソンが付いているが、今はトムソン傘下ではなく、さらに会社名にgrass valleyの名前が全然ないという、いきさつを知らない人にはなにがどうなってるのかさっぱりわからないことになっている。
展示は米国主導で開発しているスイッチャー、ルータ、エンコーダなどの旧grass valley製品と、旧カノープスとも言えるチームが開発しているEDIUSやMedia Edgeといった製品のハイブリッドだ。その中でも、grass valleyブランドで販売する旧カノープス開発製品というのが出てきており、開発も次第に融合してきているようだ。
T2はハイビジョン収録可能なディスクレコーダ。HD-SDIの入力を1系統備え、出力は2系統。内部記録コーデックはCanopus HDコーデックとなっている。以前SDの時代のTurboというgrass valley製ディスクレコーダと仕様はそっくりだが、開発は神戸の旧カノープスチームが行なった。大型タッチパネルを備え、日本語表示も可能だ。
VTRに対するコントロールも2系統あり、回線録画などをしている途中で、録画を止めずにリニア編集機を使って2台分のVTRとして利用できる。また内部コーデックがCanopus HQなので、FTP経由で録画したファイルを吸い出してEDIUSなどで編集したり、編集結果をT2に戻したりすることもできる。
今年のNABでお目見えした大型プロダクションスイッチャ、KAYENNE(カイエン) | ディスクレコーダ「T2」のSSDモデル |
「K2 Solo」は、以前から製品化されていたHD対応のスポーツ・リプレイコントローラ「K2 Dyno」用の小型ユニット。以前は「K2 Summit」というやや大型のユニットを使っていたが、K2 SoloはストレージをHDDではなくSSDにしたことで、より小型かつ過酷な現場に対応できるようになった。常時2チャンネルを連動して記録、再生を行なうことができ、コントローラで2つのカメラ映像をスローにしながらディゾルブ、といった操作が簡単にできる。
こちらのソフトウェアも、神戸カノープスチームの開発である。スポーツ選手の名前を日本語で入れられる、表示できるなどのメリットがあり、海外製品にはない使い勝手で、日本のスポーツ中継のリプレイ市場を席巻している。コントローラの「K2 Dyno」は、将来的に6チャンネルのソースを同時に動かせるよう、開発を進めているという。
従来機の半分サイズ、「K2 Solo」 | 史上最強のリプレイコントローラとの異名を取る「K2 Dyno」 |
■ 4Kを非圧縮で撮るレコーダ、計測技術研究所
ハイエンド収録ではすっかりお馴染み、計測技術研究所 |
ハイビジョンを越える解像度の映像収録は、非圧縮でHDDに撮るというのが主流である。以前は小型ラックまるごと転がして移動しなければならなかったのだが、計測技術研究所がカメラに載せられる程度にまで小型化したユニットをリリースし、撮影の利便性も大幅に向上した。
今回ももちろん、2Kのユニットを出展しているが、試作モデルとして4Kが撮れるレコーダを参考出品していた。3GのHD-SDI映像ラインをさらにデュアル入力するという力業だが、4Kの4:2:2/8bitの映像収録、再生が可能。ただしデータ量の問題から、ストレージはHDDではなく、SSDのみになる。また10bitは内部バスの速度が追いつかず、やむなく断念したという。
4K、4:2:2/8bitの映像が収録可能なレコーダ「UDRD100-4k」 | 3G HD-SDIをデュアル入力 |
特に製品化の予定はないが、すでに実働レベルの展示を行なっており、要望があれば受注生産可能だという。ちなみにボディが金色なのは、誤って湖に落としたところ女神様がこれを持って「あなたが落としたのはこの金色の……」と現われたわけではなく、「目立つように塗ってみた」ということだけで、製品版はさすがに金色にはしないそうである。
■ その手があったか……の「mt foto」
撮影現場では、ちょっとモノを固定したり、足下の目印にしたりといった用途で、弱粘着性のマスキングテープをよく利用する。岡山にあるカモ井加工紙が開発した、和紙を使ったマスキングテープ「mt foto」は、3つ並べると黒が0%、グレーが18%、白100%のグレーチャートとして使えるという優れもの。
マスキングテープならば使うたびに常に新しい面が表に出るため、汚れて使えなくなることもない。また何かに貼り付けて即席のグレーチャートも作れる。これはぜひ世界に飛び出して欲しい製品だ。
アイデアと品質で魅せるカモ井加工紙(株)ブース | 三色揃えばグレーチャートに |
■ 総論
Inter BEEの展示は、年々出展社が減少しつつある。単にパブリシティだけならWEBでも十分かもしれないが、やはりプロ機材は実物を触って、面白いモノを見つけて、面白い話を聞いて、というノウハウの蓄積と情報交換を行なわないと、業界人自身も成長のチャンスがない。
今回は会場を回りながら特にテーマを決めず、個人的に「なんか越えちゃってるな」という製品を中心にレポートした。パナソニック製品は今回扱っていないが、試作機などはメインブースで一般公開されず、特設スイートで限定された人間のみに公開されているからである。こういうモノが見られるのも、やはり現場に足繁く通って顔を覚えて貰った人間だけ、ということである。
都内近郊で映像のプロフェッショナルならば、なんとか時間を作って今週金曜日まで開催のInter BEEに足を運んでみてはどうだろうか。