“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

 

第498回:撮る、見るの楽しみを加えまくったキヤノンHF M41

~ さらに大型セルサイズCMOS搭載の大転換 ~



■ 成熟期を迎えるカムコーダ

 今年もまたCESで沢山のカムコーダが出展され、1月から3月にかけて怒濤のような新製品ラッシュとなる。やはりなんだかんだいっても卒入学シーズンにはやはり売れるわけで、各社ともそのタイミングを重視していることは今も変わりがないようだ。

 今季は、なんといっても本格的な3D撮影カムコーダのリリースが目玉ではあるが、本格的な市場の成熟期を迎え、2Dのカムコーダも各社方向性がいろいろ分かれてきたように思う。本年レビュー第一弾として、本日発表されたキヤノンの「HF M41」を取り上げる。

 以前のキヤノンは、HF Sシリーズが最上位、HF Mシリーズが小型ミドルレンジ、HF Sシリーズがエントリーと3段階に分かれていたが、今年からはそれぞれ階段が1段ずつ上に上った格好で、業務用機と同水準の「HF Gシリーズ」が最上位モデルとして登場した。それにつれて従来のSシリーズのポジションにMシリーズが昇格した格好だ。

 今年のMシリーズは、43と41の2モデル。内蔵メモリ容量が異なる以外は、同仕様である。新しくなったMシリーズの進化点を、早速チェックしてみよう。なお、43と41ともに2月上旬発売で、店頭予想価格は41が85,000円前後、43が10万円前後の見込みだ。



■ ほとんど別物となった設計

 以前のMシリーズをご存じない方にはあまり違いがわからないかもしれないが、比較してみるとまったく別のカメラとなっていることがわかる。まずサイズからして親子ほどの違いがあるわけだが、光学設計もかなり違っており、どちらかというと以前のSシリーズのほうに近い。


大幅リニューアルを果たしたHF M41旧Mシリーズとの比較。左が新モデル昨年のSシリーズ(右)との比較


レンズを大型化、虹彩絞りも搭載

 まずレンズは43.6mm~436mmの光学10倍ズームレンズ。旧Mシリーズのフィルタ系が37mmだったのに対し、今回は43mmと大型化している。絞りは6枚羽根の虹彩絞りを搭載。

 今回の撮像素子は、業務用モデルXFシリーズ用に開発した1/3インチセンサー「HD CMOS PRO」をそのまま単板で搭載している。従来のセンサーと比較すると、次のようになる。


 従来センサーHD CMOS PRO
センサーサイズ1/2.6インチ1/3インチ
セルサイズ1.7μm2.75μm
総画素数約859万画素約237万画素
動画有効画素数約601万画素約207万画素

 一見すると総画素数や有効画素数で、HD CMOS PROのほうが劣っているように見えるかもしれない。だが実際にはその逆で、注目はセルサイズである。従来のセルサイズに比べて、面積比で2.6倍になっている。一つ一つの画素が大きいので、より明るいセンサーとなっているわけだ。

 従来カムコーダのセンサーが800万画素クラスの多画素だったのは、静止画撮影時の解像度を稼ぐためで、動画には必要なかった。元々ハイビジョンを撮影するには1920×1080の約207万画素あれば十分だったのだ。多画素センサーを使えば結果的にリサイズしなければならないために余計な信号処理がかかり、解像感の低下に繋がるケースもある。

 デメリットと言えば、高解像度の静止画が撮れなくなるというところだが、そこはもうケータイやデジカメが相当普及し、わざわざカムコーダで写真を撮らなくても良くなったはず、という判断もあるだろう。元々カムコーダの撮像素子が多画素化していったのは、キヤノンがDV時代に「写真DV」を謳ってビデオカメラなのに写真もキレイ、とやったからなのだが、その看板を自分で下ろすわけだ。かなり勇気のいる判断だったと思われるが、ビデオ画質を上げるという本質に戻ったことは、大転換と言えるだろう。

 さて動画主導のセンサーを積んだことにより、これまでのように静止画モードに切り換えたり、Photoボタンを半押ししてモードを切り換えたりといった機能がなくなった。画面上には常に左下に「PHOTO」ボタンが表示され、ここをタッチすれば1,920×1,080ピクセルの静止画が撮影できる。

Photoボタンはソフトウェアとして画面の中に

 またセンサー表面にあるマイクロレンズの曲率をあげたほか、マイクロレンズとフォトダイオードの間にあるセンサー基板部分を薄膜化することで、さらに感度を上げている。基板の薄膜化は裏面照射に対抗する技術だと考えられるが、画素を大型化しての薄膜化というのは、かなりの直球勝負である。

 またフォトダイオードそのものも、ダイオード容量をアップさせて、ダイナミックレンジを拡張したという。CMOSの初期には白飛びが気になる絵が多かったが、そういった現象も抜本的に改善される。

 また今回は外測センサーの設計も変えて、より小型化した。以前はグリップ部に着けられていたが、今回は液晶のヒンジの厚み部分を利用して埋め込まれている。


外測センサーも新設計鏡筒部上にホットシューグリップベルト脇にマイク端子とスピーカー

 液晶モニタは3インチのタッチスクリーンで、100%視野率の230万画素。従来はガラス面がヒンジとピッタリ高さが合っていたので、汚れが拭き取りやすかったが、今回は保護ガラスをやめて、液晶面が凹んでいる。このあたりがコストダウンの部分かもしれない。液晶内側のボタン類は、新たに「シナリオモード」というのが増えている。これはあとで試してみよう。

液晶パネルは一般的な実装に

 今回のMシリーズは、背面にビューファインダも備えた。100%視野率の26万画素となっている。それに合わせて背面には、ビューファインダの点灯ボタンが付いた。液晶の開閉とは関係なく、ボタンを押せばビューファインダが使える。

 モード切り換えは、AUTOとManualのほか、CINEMAモードを備える。内蔵メモリは32GBで、SDカードスロットはデュアルとなり、グリップ部の下から挿入するスタイルとなった。もう実質的なスペックは、以前のSシリーズを凌駕する作りとなっている。


ビューファインダの左下に点灯スイッチスライドスイッチは3モードにグリップ部にSDカードのデュアルスロット


■ どこに向けても問題なく撮れる

テレマクロ撮影も自動でモードチェンジ

 では早速撮影である。今回は一般的な用途を想定して、60iで撮影している。レンジ的には中堅機だが、実質的にはハイエンド機を持っているようなサイズ感と重量がある。ただ従来のSシリーズのようなゴツさはなく、握りやすいカーブとなっている。

 Autoモードでは、シーンをカメラが見分けてモードチェンジする「こだわりオート」のおかげで、どのようなショットも無調整でちゃんと撮れる。今回はさらにテレマクロ状態も認識して、自動で切り替わるようになった。これでシーンモードは合計38シーンとなった。

 絵作りとしては、遠景の木の枝や髪の毛、ネコの毛並みなど細い線を潰さずにきっかり出しており、かなり解像感は高い。レンズは43.6mmスタートと、昨今のトレンドからするとワイドが足りないところが残念ではあるが、レンズは色収差もほとんど感じられず、上質な設計となっている。

 あいにくこの寒さとあって発色の強い被写体がないのが残念だが、コントラストが高く、紫の色味も青く転ぶことなく、正確に出ている。このクラスで虹彩絞りの搭載は強力で、撮像素子は1/3インチながらも幅の広いボケ足となっている。もともと写真から動画に入った人はあまり気づかないかもしれない部分ではあるが、被写体に対して背景が綺麗に撮れるかどうかというところも、ぜひカメラ選びの評価ポイントとして欲しい。


細い髪の毛などもきっちり描画しっかりした発色でコントラスト感も上々背景のボケもなかなか綺麗だ


顔認識はしているが、これぐらいセンターを外すとフォーカスが後ろに合ってしまうケースも

 新しくなった測距センサーは、感度とアルゴリズムのバランスが若干チューニング不足かもしれない。モニター上はちゃんと顔を認識しているのだが、なぜかそこにフォーカスが合わないケースがあった。ブツ撮りのときは画面をタッチすればそこにフォーカスを合わせられるのだが、なまじ顔認識しているとタッチフォーカス機能が効かなくなる。このあたりは、プライオリティを変えた方が使いやすいかもしれない。

 ビューファインダは、液晶モニターでは光が入って見づらい時に便利である。また昨今、カムコーダ利用者の年齢層が上がってきて、老眼のために液晶モニタだと近すぎて見えないというケースもあると聞く。この場合は視度調節の付いたビューファインダのほうが便利だ。上向きの角度は付いておらず、光軸に対してまっすぐである。


新たに「ピクチャ設定」が追加された

 メニュー上の変更点と言えば、「ピクチャ設定」が新たに追加されている。色の濃さ、シャープネス、コントラスト、明るさの4項目がここから変更できるようになっている。タッチパネル以前のHFシリーズにはカラーなどいろいろいじれる項目があったのだが、それが少し復活してきたというところだろう。


【動画サンプル】

sample.mpg(358MB)

room.mpg(129MB)
1080/60iで撮影の動画サンプル室内サンプル。AGCはオートで撮影
編集部注:EDIUS Pro5で編集/出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい



■ 撮ったら見たくなる機能「PLAY!ドラマティック」

 キヤノンは以前から、撮影しっぱなしの状況をなんとかしようということで、カムコーダにさまざまな機能を搭載してきた。4秒間だけ録画できるVIDEO SNAPといった機能である。その試行錯誤の最終形とも言えるのが、「PLAY! ドラマティック」である。

 機能的には3つ。カメラの指示する通りに撮影すれば完成度の高いコンテンツが作れる「シナリオモード」、画面上に手書きで文字などが書き込める「タッチデコレーション」、画像にエフェクトをかけてシネマっぽい映像が撮影できる「シネマルックフィルター」だ。

 まずシナリオモードだが、液晶内側に専用のボタンがある。これを押すと、シナリオモードのスタートだ。旅行、キッズ、学校行事といったジャンルを選ぶと、何を撮ればいいのかのリストが出る。基本的にこれ通りに撮影して行けば、そのテーマに合わせた作品が出来るというわけだ。

シチュエーションごとにシナリオを選ぶ撮影リストを埋めていく形で撮影していく

 各項目ごとに何テイクかを撮影して、あとで見直しながらレーティングを付けていく。再生時にレーティングを指定することで、ある一定以上のレートのクリップが連続で再生されるというわけである。作品には音楽も付けることができるし、音楽と生音のバランスも設定することができる。機能的には以前紹介した、iMovie ’11の、映画の予告編が作れる機能と方向的には同じだと言える。ただこちらのほうはより汎用的な作品に方向付けしてある感じだ。

撮影カットごとにレーティングしていく再生時のレーティングを設定。ここでは★3つのクリップだけが再生される

 

【動画サンプル】

ezsm1101.mpg
(56MB)
出来上がった作品はSDにダウンコンバートしながら書き出し
編集部注:EDIUS Pro5で編集/出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 今回は、「プロモーション」で撮影してみた。しかし、実際に使ってみると、各項目のしゃべる内容はわかるのだが、どういうショットをどういうサイズで撮ればいいのかがわからないので、最終的にどういうものになるのかがリストだけでは想像しにくいところがある。

 なにかお手本になるようなアイコン的な絵でもあると、撮影するほうもイメージしやすいだろう。

 

 出来上がった作品は、SDカードにコピーできるが、全体を1本の完成品としてコピーするのではなく、パーツのままでのコピーである。逆に言えばSDカードに保存することで、あとでBGMを差し替えたり追撮したりといったこともできるわけだ。いわゆる完パケとして書き出したいときには、HD-SDダウンコンバート機能を使って書き出すことになる。


【動画サンプル】

eff.mpg(406MB)
タッチデコレーションを順に試してみた
編集部注:EDIUS Pro5で編集/出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 タッチデコレーションは、どちらかというとプリクラ的機能だと言えるかもしれない。フリーハンドで書き込みできる機能があり、それ用のペンも付属している。ただ液晶画面が左側に開くので、ハンディでカメラを持っていると、左利きの人じゃないと文字は書けないだろう。書き込んでいくなら三脚は必須である。

 それ以外にも画面にパーティクルを乗せたり、日時を入れたり、フレームをオーバーレイしたりできる。このような映像が27種類揃っている。


画面にフレームを入れたりタイトルを入れるためのベースなどが揃っている

 

【動画サンプル】

cinema.mpg
(487MB)
大胆なフィルタリングを行なうシネマルックフィルター
編集部注:EDIUS Pro5で編集/出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
 シネマルックフィルターは、大胆に絵のトーンを変える機能だ。過去ちょっとセピアになるといったお遊び機能が搭載されたことはあったが、ちょっとトーンが変わるだけというようなものではなく、かなり意図的に絵を作り込んである。遊びで使うというよりも、ある程度の世界観を持って撮影するといった使い方をしたほうが、より生きるだろう。

■ 総論

 今回のキヤノンのラインナップ最大のトピックは、業務用に開発したデバイスを民生機に降ろしてきたという点であろう。ただキヤノン的には以前から、上位モデルで載せたプロセッサやソフトウェアは下位モデルにもみんな同じように載せるという方針でカムコーダを作っていることから、その路線を業務用機枠まで拡大したと考えられるかもしれない。このような方策は、大量に出るコンシューマ機で量産することで業務用機にかかる製造コスト負担を減らすという目的もある。

 そういう意味では、ミドルレンジでありながら業務用機の恩恵が受けられる新Mシリーズが、一番おいしいところと言えるだろう。レンズのワイド端が足りないところは難としても、光学部分の質は業務用機並みである。

 また撮影そのものを楽しくする機能も大量に実装し、ファミリーユースでも楽しいカメラに仕上がっている。価格的にこなれているのも、M43ではなくM41のほうだ。内蔵メモリは32GBあれば殆どの用途には足りるし、足りなければSDカードを突っ込めばいい。

 ちょっと大きくなったサイズが女性にどういう評価となるかという心配はあるが、機能的にはグッと漢っぽい内容となった新モデルがどういう層にうけるのか、注目していきたい。

(2011年 1月 19日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]