小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第647回:スマホやPCでも“4K Ready”、QualcommとRoviの戦略

“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第647回:スマホやPCでも“4K Ready”、QualcommとRoviの戦略

LTEで4K視聴。着信をTV/スマートウォッチで通知

アメリカにおける4Kとは

Qualcommのブース

 昨年のCEATEC以来、日本でも4K熱が盛り上がっている。今回のCESでは、もはや4Kテレビが出ましたというレベルではなく、中国メーカーも多くが4Kテレビを出展、同時に有機ELの曲がったテレビもあちこちで見かけるような状況になっている。

 日本の場合、4K放送も始まってないのに4Kテレビなんてどーすんだ、というところで話が止まっている感じがするが、米国の4Kとはもう単にディスプレイ技術の話であって、サイズがでっかくなったらドットが見えるから細かく刻みましょう、という理解で話が進んでいる。ソースは4Kがあればあったでいいが、アップコンでもいいじゃないの、というゆるーい感じである。

 そんな中、4Kのエンコーダやデコーダの技術も、日本とはまた違った目線でだいぶ進んで来ている。今回は日本でもパナソニックシステムLSI事業部がテレビ/BD向け次世代ICに採用すると発表したDivXと、スマートデバイス向けCPUで勢いに乗るQualcommの最新チップのパフォーマンスを取材することができた。

スマホから4K表示、Snapdragon 805

 以前のQualcommブースは、通信やワイヤレス充電といったモバイル技術の展示がメインで、サウスホールのモバイル関係の場所に展開していたが、今回はテレビメーカーらがひしめく大型家電の展示が中心のセントラルホールに場所を移して、新Snapdragonによる4Kソリューションを数多く展示していた。

Snapdragon 805搭載タブレットのリファレンスモデルで4K出力

 同社のCPU Snapdragon 800はすでに日本でも、昨年のスマートフォン/タブレット秋冬モデルに採用されているが、今年の後半に投入される「Snapdragon 805」ではGPU性能は40%アップするという。さらに805では、HEVC(High Efficiency Video Coding/H.265)をハードウェアデコード処理ができるようになり、4K解像度の再生出力まで可能になる。

 ブース内では805を搭載したリファレンスモデルのタブレットを使い、4Kコンテンツを再生、HDMI出力から4Kテレビに表示するというデモを行なっていた。ただ、米国で言うところの4Kは、24pか30pである。元々コンテンツでは映画産業が強い国なので、プレミアムコンテンツは24pに対応できれば当面は間に合う。スマホ、タブレットは4Kの配信を受けて再生する装置、という位置づけはできたと言える。

 ただいくらHEVCがデコードできるからといって、そんなのモバイル通信で撒けるのか、という話になる。HEVCでも4Kで十分な画質ともなれば、15Mbpsぐらいがターゲットになってくるだろう。

 LTEの場合、論理的な最大速度は約325Mbpsではあるのだが、これは複数の条件が全部うまく合わさっての話で、逆に条件が揃わなければ半分、また半分と減っていく。条件の中で技術的努力ではどうにもならないのが周波数割り当てだ。LTEは上りと下りに別々の周波数を使用するが、片側だけでまとまった周波数帯域が確保できるキャリアは、世界でもそう多くはない。

LTE キャリアアグリゲーション

 Qualcommでは、異なる周波数帯域2つを1つにまとめて使える「LTE キャリアアグリゲーション」のデモも行なっていた。左のモニターが7.5MHz、右が倍の15MHzでストリーミングしている。やはり帯域が2倍違うと、画質の安定性がかなり違ってくることがわかる。

 この技術は韓国ですでに商用化しており、10MHz帯を2つ束ねて20MHz帯として運用している。日本のキャリアも割り当て周波数が結構別れているため、将来的にはこの技術に頼ることになるだろう。

 一方その先にあるものとして、CATVやIPTVのSTB、あるいはテレビにプロセッサとして805を導入して貰えないか、という動きも積極的に行なっている。なぜならば、すべてのスマホ・タブレットで4K再生のパフォーマンスが必要とされるわけではないからである。

 ブースの中央部では、800や805をSTBに組み込むことで、様々な可能性があることをアピールしていた。例えば4Kの再生能力があれば、HDのコンテンツを4つ同時に表示できる。ユーザーにレコメンドする放送中の番組を4つ同時に動かしながら、4Kテレビの中で見せてしまうという事も可能だ。

 元々スマホ用ということでAndroidも動くわけだから、STBを使ってテレビでAndroidのゲームを楽しむこともできる。1月7日にパナソニックが、「Firefox OS」を採用した次世代スマートテレビの商品化を目指すと発表されたが、SnapdragonはFirefox OSも動かせるなど、メリットは多い。

HDコンテンツ4ストリームを同時再生
AndroidのゲームをSTBで動かす

 一方で、AllSeen Allianceの話もしておく必要がある。これはあらゆる家電に通信機能をもたせて繋いでいくという構想を実現するためのアライアンスで、Qualcommほか、パナソニックやシャープ、ハイアール、LG Electronicsなど23社が加盟し、相互運用性のあるフレームワークを作ろうとしている。昔の言葉でいうところの「ユビキタス」である。昔は絵に描いた餅、と言っちゃうとひどいが、それで一体どうなるんすかの具体的なビジョンが描けなかった。だが今はだいぶ事情が違ってきている。

ゲーム中にどこかの部屋に置いてあるスマホに着信があることをお知らせ

 メールが来たのをテレビのSTBが関知して知らせるなんていうのはもう古くて、防犯カメラと連動して誰か来たらカメラの映像がポップアップするとか、離れたところにスマホを置いといても電話着信があったことをテレビが知らせてくれるとか、洗濯機が洗濯が終わったのを教えてくれるとか、子供がスマホでエロサイトにアクセスしたのでブロックしますか? Yesみたいなことをするとか、やることが山のようにできた。

 こういうのをテレビ画面に集約できますよ、というデモだ。だがオマエそんなにテレビの前から動かないのかよ、という突っ込みもあるだろう。当然である。

米国のみでテスト的に販売されているスマートウォッチ「Qualcomm Toq」

 そこで登場するのが、Qualcommが昨年から米国のみで発売を開始した、スマートウォッチ「Qualcomm Toq」である。すべてのインフォームを腕時計で受ければいいじゃないか、という流れになるわけだ。なぜならばそれらのインフォームは、返事を書くとかそういうことではなく、人のアクションを求めているものだから、返事などする必要はないし、してもYes/Noで答えられる範囲で十分なのである。

 Qualcommはこれを量産するつもりは全くなく、リファレンスとして市場に出してみて実際にフィールドテストし、参入事業者や関連サービスの開発を促す目的で販売されているものだ。同社が開発し、当時は電子ペーパーの対抗になると言われていたmirasolディスプレイを搭載するといった技術的な見所もあるのだが、これでQualcommが描くシナリオがぐるっと一回転して繋がることになる。

もうHEVCリアルタイムエンコードまで来たDivX

毎年Roviがプライベート展示を行っているシーザーズパレスホテル

 市内中心部にあるシーザーズパレスホテルのボウルルームでは、毎年Roviがプライベートブースを開設している。

 MP4のエンコーダとして以前は日本でもよく使われていたDivXは、現在Roviの傘下にある。今年はHEVC関係でDivXに注目が集まっているということで、Roviの技術とは別にスイートを設けて展示されていた。

 DivXと同じくRoviの傘下であるMain Conceptでは、同社のプロ向けソフトウェアエンコーダ「TotalCode」で4KのDivX HEVCをサポートした。

Main ConceptのソフトウェアエンコーダTotalCode
4KまでのDivX HEVCをサポート
複数の解像度、ビットレートを同時にエンコード

 なお、右上写真の選択肢に「DivX DPS 720p」とか「DivX DPS 1080p」とか表示されているが、この「DPS」はDivix Plus Streamの略で、マルチプルビットレートでのエンコードを行なう。その際、一つ一つを順番にエンコードするのではなく、映像の圧縮情報を共有しながら、通常の30%以上高速にエンコードできるという。これをSmart Adaptive Bitrate Encode Technologyとして特許出願中だという。

 さらにプロ用ソリューションとして、仏KalrayのHD HEVCエンコーディングエンジンを搭載した拡張ボード「EMB01」を4枚使用して、4K/30pをDivX HEVCにリアルタイムエンコードするシステムを展示していた。

 論理的にはボード8枚で4K/60pがリアルタイムエンコードできるはずである。

エンコーダボード4枚を使用したリアルタイムエンコードシステム
11Mbpsでおよそ30fpsのリアルタイムエンコードを実現
コンシューマ向けにはDivXプラットフォームでHEVCプラグインを無償提供

 一方コンシューマ向けエンコーダとしては、昨年12月にリリースされたDivXのバージョン10.1で4K HEVCのプラグインを提供しており、これまでで4Kのファイルが5万本以上作られたという。デフォルトのプリセットには4,096×2,160のいわゆるDCI解像度しかないが、実際にファイルをエンコードする時のフォーマット設定で、3,840×2,160のユーザープリセットを作る事ができる。

 HEVCプラグインを無償提供する背景には、同社のHEVCフォーマットの映像ソースをユーザーに沢山作らせることで、再生ハードウェアメーカーにフォーマットのサポートを迫るという目的もある。

 DivXはエンコーダも含め無料で利用できるが、MPEG-2のプラグインだけは15日間の無料体験版で、それ以降利用するには9.99ドルで購入する必要がある。

 実際に同じソースをHEVCとH.264でエンコードした比較映像を拝見したが、HEVCのほうが低いビットレートにもかかわらず、高画質だ。HD解像度でもその違いは十分にわかる。

 コンシューマの映像においては、4Kのターゲットビットレートは7Mbps~8Mbpsぐらいになるだろう。一方映画等のプレミアムコンテンツでは、10~15Mbpsぐらいで十分な画質が得られるという。

 もちろん現実的なパフォーマンスを発揮するためには相当のCPUパワーが必要になるだろうが、家庭で4K HEVCが体験できる時代がもう来てしまった。これはH.264に比べると相当早いペースで技術革新が進んできていることを表している。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。