小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第682回:レンズスタイルカメラからレンズも取った!? ソニーILCE-QX1。APS-C最小? iPhone 6と撮り比べ

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第682回:レンズスタイルカメラからレンズも取った!? ソニーILCE-QX1。APS-C最小? iPhone 6と撮り比べ

あのQXシリーズにミラーレスが合流

 先々週、レンズスタイルカメラの最新モデルとなるDSC-QX30のレビューをお届けしたばかりだが、同時期に発売されるもう1台、「ILCE-QX1」(以下QX1)もようやくお借りすることができた。

Xperia Z1、18-105mm/F4のGレンズと組み合わせたところ

 QXシリーズと言えばご存じのとおり、モニターを持たない“レンズスタイルカメラ”だ。今回取り上げるQX1は、従来のサイバーショットの流れを汲むDSC型番ではなく、α系列のILCE型番となっている。それもそのはず、QX1はレンズスタイルカメラといいつつも、レンズ交換ができるミラーレス機なのだ。

 レンズがないのにレンズスタイルカメラと呼んでいいのか微妙なところではあるが、とにかく面白いカメラには違いない。筆者の知る限り、APC-Sサイズのセンサーを搭載したミラーレス機としては、これ以上小さいカメラはないんじゃないだろうか。

 スマホと組み合わせてのフレキシブルな運用がポイントのQXシリーズに、Eマウントレンズの組み合わせはどんな使い勝手なのだろうか。早速試してみよう。

こ、これは小さい

 QX1の商品構成だが、レンズなし本体のみの「ILCE-QX1」が店頭予想価格36,000円前後。一方パワーズームレンズの「SELP1650」(E PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSS)をセットにした「ILCE-QX1L」もあり、こちらは店頭予想価格51,000円前後となっている。

 QX1のボディは、鏡筒部の太さがレンズスタイルカメラシリーズ共通なので、ミラーレスカメラとしては破格に小さい。レンズマウントアダプタぐらいのサイズ感だが、中を覗けばAPS-Cサイズのセンサーが見える。横にαのロゴがあるのもユニークだ。

このサイズがミラーレスカメラのボディ

 センサーは、有効画素数約2,010万画素の"Exmor" CMOSセンサー。裏面照射ではないのが残念。記録画素数は静止画で最高5,456×3,632(20M)ドット。動画は撮影モードがなく、MPEG-4 AVC/H.264のMP4で撮影できるのみ。ビットレートは約16MbpsのVBRで、フルHD/30pの撮影に対応する。

APS-Cサイズの"Exmor" CMOSセンサー

 構造としては、他のQXシリーズのカメラと共通部分は多い。シャッターやマルチコネクタの位置、反対側の小型ディスプレイの位置もほぼ同じだ。背面を開けると、Wタイプのバッテリスロットがある。小さいとは言え、旧NEXシリーズ、現α4桁シリーズ並みの消費電力ということなのだろう。

左側にシャッターとマルチコネクタ
液晶位置も他のシリーズと同じ
背面を開けるとバッテリースロット
バッテリはαで採用のWタイプ

 メモリーカードスロットはバッテリ脇にある。垂直に入れるのではなく、多少ハの字に差し込まなければならないので、最初からそれを承知していないと差し込みづらいだろう。このあたりはギリギリまで基板などが迫っているのか、あるいはユーザーの使い勝手からそうしているのかは不明である。反対側には目立たないが、Wi-Fiモードの切り換えスイッチがある。

ポップアップフラッシュも装備

 また本機はQXシリーズとしては珍しく、ポップアップフラッシュを備えている。かなり高くまでポップアップするが、レンズやフードの長さによっては光がケラレる可能性もあるので、その点は承知で使う必要がある。

 背面の構造は従来のQXシリーズと互換で、スマホへの装着方法やアクセサリーなどは共通だ。QX30のレビューでお伝えしたチルトアダプタもそのまま使える。また操作アプリのPlayMemories Mobileも同じなので、操作感もほぼ同じである。

後部の構造は同じなので、従来のアクセサリーがそのまま使用できる
グリップも装着可能
アプリ「PlayMemories Mobile」の撮影中のインターフェイス

 本体は小さくても、レンズを付けると印象はかなり変わる。今回はキットレンズである「E PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSS」のほか、ツアイスの「Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZA」、同じく「Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA」、Gレンズ「E PZ 18-105mm F4 G OSS」、そして「E 50mm F1.8 OSS」の5本を揃えた。

今回使用したレンズ5本
キットレンズのE PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSS
コンパクトな単焦点、Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZA
明るい単焦点、Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA
ポートレート用として人気が高いE 50mm F1.8 OSS
今回の中では一番長いE PZ 18-105mm F4 G OSS
レンズを付けるとちゃんとした? 一眼に見える

 一番長いレンズは、電動ズームレバーが付いた「E PZ 18-105mm F4 G OSS」だが、これを付けるとちゃんとした一眼カメラに見える。その代わりコンパクトさは著しく減少する。キットレンズの「E PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSS」はコンパクトで、機能とサイズのバランスは一番いい。

“スマホのカメラを超える”の意味

 ではさっそく撮影である。元々QXシリーズは、スマホのカメラじゃ物足りないでしょ、というところから始まったわけだが、今回は私物のiPhone 6もあるので、本当に物足りないかどうか試してみたい。iPhone 6のカメラは撮像素子がソニー製なので、比較としても面白いだろう。ただ今回は台風18号接近の中大急ぎで撮影したので、あまり作例が多く撮れなかったのが残念である。

 iPhone 6は広角気味の単焦点レンズなので、表現というよりは失敗なく記録するという用途のために作られている。静止画を撮影して比較してみた限り、iPhone 6は曇天では寒色にふれる傾向があるように見える。

 一方QX1のほうは、当然レンズが色々選べるので、画角にしてもスナップというより、作品撮りというか、表現の傾向が強くなる。発色に関しては、QX1は正確さ重視だが、iPhone 6はビビッドに見えるようチューニングされているように見える。

機種名静止画サンプル
iPhone 6
QX1

 静止画であれば、QX1はスマホ画面のタッチ操作でAFポイントが選べる。スマホのカメラよりも被写界深度が浅い分、どこにピントを置くかという作業の重要度が違ってくる。当然それによって、撮影の面白さも変わってくるわけだ。そこへの気づきがあるかどうかが、“スマホでは物足りない”のポイントだろう。つまり今となっては、物足りなさは画質ではなく、「撮り味」のようなものに変化している。

 続いて動画撮影だ。色味やコントラストなど基本的なトーンは静止画と変わりないが、動画カメラとしてはフォーカスモードがフルオートかマニュアルしかないこと、絞りやシャッタースピード、ISO感度もフルオートになってしまうという難点は、QX30と同じである。したがって撮れる絵は、いくらレンズが良くても成り行き任せになってしまう。

iPhone 6とZEISSレンズ比較
rens.mp4(85MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 もう一つ、ディスプレイがスマートフォンである難点は、撮影中の映像が飛び飛びになってしまう事である。例えばパンしても、絵が飛び飛びでやってくるので、なめらかにパンできているのか、スピードは狙った速度か、といった確認ができない。かといって三脚を持ち出して撮るようなスタイルでもないので、どういうシーンにフィットするのかが難しいところである。

 また気になるところでは、静止画に比べると動画では精細感、解像感がガクッと落ちる。エンコードによる破綻はないのだが、せっかくのレンズのキレが動画ではあまり活かされないのは残念だ。同じ画角でiPhone 6と比べても、動画では解像感で負けてしまうというのはいただけない。

静止画で撮影。解像感はかなり高い
同アングルの動画から切り出したもの。精細感は静止画と比べるとかなり落ちる
iPhone 6とE PZ 18-105mm F4 G OSSをほぼ同じ画角にして、交互に表示
vs ip.mp4(42MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

いろんなレンズが使える強み

 次に、手ぶれ補正の性能を比較してみた。iPhone 6は電子手ぶれ補正しか搭載していない。一方QX1は、光学手ぶれ補正付きの「E PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSS」で、ほぼ同じ画角で撮影してみた。

iPhone 6とE PZ 18-105mm F4 G OSSで手ブレ比較
stab.mp4(32MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 どちらも昨今のデジタルカメラのように、派手に補正を効かせるようなタイプではないため、歩行による揺れはそれなりに出ている。QX1のほうが部分的な補正力は高いが、光学補正エリアが限界にくるのか、急にガクッと動きが戻る箇所が見られる。iPhone 6は補正力は弱めだが、全体的に同じレベルの補正が続く。トータルでの安定感、不自然さがないという意味では、iPhone 6のほうが印象よく見えるだろう。

LA-EA2を介してミノルタレンズも動作

 さて、せっかくのレンズ交換式なので、マウントアダプタを介して他のレンズが使えるのか試してみた。まずは旧NEX時代に発売されたマウントアダプタ「LA-EA2」を使ってミノルタのズームレンズを付けてみた。

 これはEマウントのα同様、動作は可能だ。タッチAFは、液晶画面をタッチした時には動作せず、ロックオンエリアのみが表示される。そのあと本体のシャッターボタンを半押しすれば、そのポイントにフォーカスが移動する。LA-EA2はトランスルーセントテクノロジーにより、高速AFを実現するマウントアダプタだが、動作に2ステップ必要になることで、あまり良さが活かされないようだ。

ミノルタAF24-85mm/F3.5で撮影

 絞り優先での撮影では、コントローラのPlayMemories Mobile上での操作でリアルタイムに絞りは動かないが、撮影の瞬間に指定した絞りになる。絞った時の被写界深度は撮ってみないとわからないという不便さはあるが、動かないわけではなさそうだ。

 一方電子接点のない単純なマウントアダプタ経由を使って、他メーカーのレンズを試してみたが、これも問題なく撮影できた。通常のミラーレスでは、「レンズなしレリーズを許可」しないと、電子接点のないマウントアダプタではシャッターが切れない。QX1にはそんな設定はないが、標準でレンズなしレリーズが許可されているようだ。

 ただ撮影モードにマニュアルモードがないので、完全に手動での露出を行なうにはシャッタースピード優先モードを代用するしかない。もっと簡単に撮影したければ、おまかせオートやプレミアムおまかせオートで、それなりにうまく撮ってくれる。いろんなレンズを試す、気軽な実験カメラとしての使い方も可能だ。

総論

 液晶を取っちゃっただけでも相当チャレンジングな商品なのに、今度はレンズも取っちゃって、とうとう撮像・記録部分だけになったのがQX1である。そもそもミラーレスの大半の機能をよくこん中に入れたな、と思う。バッテリの容積をマイナスして考えると、本当に中身のスペースはちょっとしかない。スマホ並みのイージーさでデジタルカメラを使わせる手段としては、ついにここに着地したかという点で感慨深い。

 その一方で、商品の位置付けをどう考えるかはちょっと複雑な商品である。レンズスタイルカメラのコンセプトである、“スマホのカメラではイマイチと思っている若者層”には、まず意味がわからないだろう。ミラーレスカメラではレンズ付きでもっと低価格のものもあるし、写真撮影のレスポンスや利便性は、普通のカメラのほうが上だ。

 その一方で、すでにEマウントレンズをいくつか持っている人にとっては、サブ機としてカメラバッグに放り込んでおくと、そこそこ役に立つカメラだ。旧NEX、α4桁台のバックアップ機としてもいいだろう。昔買ったNEXが古くなって使わなくなっちゃったという人も、またEマウントのレンズが活躍できるチャンスである。

 個人的にはどこかへ固定しておいて、遠隔リモートで撮影できるビデオカメラとして使いたいところだが、動画になると極端に絵が眠いのが残念だ。またモニター表示に若干ディレイがあるので、瞬間を狙う写真も難しい。連写も可能だが、最速でも秒間約3.5コマと、いまどきのカメラとしてはそれほど速くない。

 ただ連続撮影時間が150分もあり、モニターがないぶん待機時間も結構長くとれる。そのあたりにうまい使い方のヒントがありそうだ。

 今回はiPhone 6と比較してみたが、実はiPhoneは構造上QXシリーズと相性がいい。なぜならば長辺の真ん中あたりにちょうどボタン類がないので、挟み込むときにほぼセンターに取り付けられるからである。

Xperiaではセンターに取り付けられない

 この点、Xperiaは真ん中に電源ボタンがあるため、センターから微妙にずれた位置しか挟めない。ただでさえ見た目デリケートなことになりそうな製品なのに、真ん中に取り付けられないことで見栄えも悪いし水平も取りにくい。

 QX1のポイントは、シリーズの中からどれを選ぶ? という悩みがなく、レンズさえ変えればどうにでもなるというところ。これが今後ミラーレスに代わるとは思わないが、面白い使い方を思いついた人の勝ち、という商品であろう。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。