特集

スピーカーを「自作」してみよう。「かんすぴ」入門編

約1万円で手に入る新たなオーディオの“楽しさ”

 筆者(奥川浩彦)は、長年の自作スピーカー派。先日、“デジタルクロスオーバー”だけに注目してAVアンプを買い替えた記事も書いたが、お金を掛けずにそこそこの音を求めるプアオーディオ派でもある。

 一方で、世間ではヘッドフォンがブーム。数万円〜10万円超の製品もかなり売れているという。オーディオに興味が集まるのは、50代の筆者にとっても素晴らしいことと思うのだが、と同時に歳をとるとおせっかいになるもの。オーディオ好きな筆者は、多くの方にイヤフォンだけでなくスピーカーでも音楽を聞いて欲しいと思っていた。

 少し前の話しだが、左右のスピーカーが分離しているBluetoothスピーカーを30代の方に聞いてもらった感想は「凄い、音が離れて(ステレオで)聞こえる」だった。それほどスピーカーで音楽を聴く機会が減っているのだと思った。

「スピーカーで音楽を聴くほうが疲れにくいしステレオ感もある。イヤフォンにないメリットが……」とか、「自作で色々出来るのが楽しい」などと、編集部員に思いの丈を話しているうちに、「じゃあ、スピーカー自作の入門記事をやりましょう」という提案をいただいた。

 スピーカーの自作と言えばフォステクス。編集部からは「YK103-Sol」+「FE103-Sol」なども提案されたが、筆者が選んだのは、10,260円ともっとも安価で作りやすい「かんすぴセット(KANSPI-10)」だ。

 この、かんすぴセット。とにかく簡単に出来てしまうので、「自作」というにはやや物足りないかもしれないが、まずは入門編ということで、スピーカー自作の魅力を紹介していきたい。

イヤフォンもいいけどスピーカーで音楽も

 いきなり昔話で申し訳ないが、1960年代、50代の筆者が小学生の頃は裕福な家庭に家具調ステレオが置かれていた。レコードプレーヤーとラジオ、スピーカーが一体になったもので、後のCDラジカセの巨大版といった感じだ。ベートーベンの5番のレコードと熊の木彫りの置物もよく目にした記憶がある。ステレオがリビング(当時は応接間)のステータスだった時代だ。

 世はオーディオブーム。家具調ステレオからコンポーネントステレオに主流が移り、普通の家電店ではオーディオ製品が大きな売り場を占めていた。名古屋在住だった高校生の筆者の回りでは「栄電社(後のエディオン)の星ヶ丘店にJBLがあった」「黒川店にはパラゴンが入ったぞ」と会話されるほどオーディオは身近のものだった。学生時代にはウォークマン、社会人になるとCDが世の中を席巻。ステレオはミニコンポが主流となり、リビングのステータスだったステレオは小さく、パーソナルなものに変わっていった。テレビの画面が大きくなり、リビングでの存在感を増す一方、多くの家庭ではリビングからステレオはいなくなった。

 その傾向は加速を続け、いまでは、音楽を聴く方法はステレオからイヤフォンに主流が移った。イヤフォンは音がよく、大きな音で聴くことができる。しかも安い。高級オーディオと高級イヤフォンの価格を比べればまさに桁違いだ。スピーカーからイヤフォン並みの音を出すには少々コストが掛かる。イヤフォン並みの大きな音で聞こうとすると住宅環境の影響を受ける。特に電車で移動し集合住宅に住む人が多い都会では、車で移動し大きな家に住む地方に比べイヤフォンが主流になるのは当然だろう。

 ではスピーカーで音楽を聴くメリットは何だろう。それは音楽がステレオで立体的に聞こえることだ。まるでモノラルからステレオへ移行した1960年代のような話しだが、離れたスピーカーから聞こえる音楽はイヤフォンで聴く音楽とは別格だ。

 ステレオで左側のトラックの録音された音は左側から聞こえる。右側の音は右から聞こえる。左右のトラックに録音された音は真ん中から聞こえる。このようにそれぞれの音がどこかに位置して聞こえることを定位という。イヤフォンの場合、左右の耳の間に音が定位する。これを頭内定位と呼ぶ。スピーカーで聴く場合は左右のスピーカーの間に定位する。なのでボーカルは頭の中ではなく、目の前に立って歌っているように聞こえる。

 さらにスピーカーで音楽を聴くと疲労感が少ない。若い方は気にならないのだろうが、筆者のように歳をとると長時間イヤフォンで音楽を聴くと疲れを感じる。電車の中ではイヤフォンを使用するが、家に帰りスピーカーから出る音を聴くと開放感を感じる。このようにスピーカーにはイヤフォンにないメリットが存在している。

 単にスピーカーで音を聴くだけなら完成したスピーカーやステレオを買えば済む。だがその場合、もし音をよくしたいと思ってもポンポン買い替えるのは難しいだろう。「かんすぴセット」はスピーカーキットなのでパーツ交換が可能だ。スピーカーユニットだけ交換したり、スピーカーの箱だけ交換したりすることができる。さらにツイータを追加するなど発展させることも容易だ。

 フォステクスのカタログを見るとスピーカーユニットだけでも何十種類も売られており、スピーカーボックスも十種類以上がラインアップされている。自作スピーカーの販売で有名なコイズミ無線のホームページを見ると数え切れないほどのユニットやボックスが市販されていることに驚かされる。

 量販店などでイヤフォンを聞き比べて、よい音を探すほど簡単ではない。しかし、様々なユニットの中からよい音を探す楽しみはイヤフォン選びと共通するところがあるのではないだろうか? そんなところもヘッドフォンブームの今、あえてスピーカー自作を紹介したい理由だ。

スピーカー自作に必要なもの

 スピーカーを自作する場合、以前はスピーカーユニットを購入して箱(エンクロージャ)を木材を切って自作するのが一般的だった。現在は組み立て済みのエンクロージャが数多く用意されているので、初めての方はそれを利用したい。自作パソコンがパーツを購入して組み上げているのと近いイメージだ。

 スピーカーに必要なものはスピーカーユニットとエンクロージャ。エンクロージャに入れる吸音材は最初からエンクロージャの中に貼ってあれば必要ない。組み立て済みのエンクロージャを使用すれば、工具はドライバーだけで済む場合が多い。スピーカーユニットに配線をつなぐ際、半田ごてが必要なこともある。

 今回の「かんすぴセット」は、スピーカーユニットとエンクロージャ、さらにアンプまでセットになっているので、この点で悩むようなことはない。

 スピーカーユニットは1つのスピーカーで低音も高音もカバーするタイプをフルレンジスピーカーという。実際には大きなスピーカーは低音に強いが高音が苦手、小さなスピーカーはその逆となる。なので低音の再生に特化したウーファ、高音の再生に特化したツイータなども存在している。

 ウーファとツイータを組み合わせて使用するスピーカーを2ウェイスピーカーという。2ウェイスピーカーの場合、ウーファには低音、ツイータには高音を入力する必要がある。そのための回路をネットワークという。ネットワークは低音を通しやすいコイル(Lと表記)と高音を通しやすいコンデンサー(Cと表記)で構成するのが一般的でLCネットワークなどとも呼ばれている。さらに2ウェイスピーカーはウーファとツイータの音の大きさを調整するためにアッテネーターというボリュームのようなパーツも必要となる。

 このように2ウェイスピーカーになるとパーツが増え少々複雑になってくるので、初心者はフルレンジスピーカーを選択するのが無難だ。仮に高音を伸ばしたいと思ったときは、フルレンジスピーカーにツイータを追加することは可能なので、スピーカーユニットが無駄になることはない。

かんすぴセットとは

 今回紹介する「かんすぴセット」は、フルレンジスピーカーのシンプルなキットだ。単体販売されている、スピーカーユニット、スピーカーボックス(エンクロージャ)、小型アンプをセットにしたもの。単体で購入するより割安になっていてスピーカーケーブルも付いているので、セットを購入するだけで自作スピーカーが楽しめる。

 「かんすぴセット」は8cm径のフルレンジスピーカーを使用する「KANSPI-8」と10cm径のフルレンジスピーカーを使用する「KANSPI-10」がラインアップされている。今回使用するのは「KANSPI-10」で、実勢価格は1万円チョットと手軽にスピーカー制作が楽しめるキットだ。

KANSPI-10
KANSPI-8

 筆者が初めてフォステクスのスピーカーユニットを使ってスピーカーを自作したのは1986年頃だった。当時は電動工具が安く買えない時代で親戚の工場で木をカットしてもらった。木は正確に切ってもらったが筆者の組み立て精度が極めて低く、つなぎ目の段差がひどかった。加えて塗装もレベルが低く筆者の中では黒歴史だ。

 その点では「かんすぴ」を初めとする組み立て済みのエンクロージャは精度も高く、仕上げもバッチリ。部屋のインテリアとしても充分なクオリティだ。種類も豊富なので入門用としては最適だ。そこから発展しオリジナルのエンクロージャを制作し、塗装や仕上げの腕が上がるとそれはそれで楽しい世界が待っている。

各パーツを確認してみた

 「かんすぴセット」のパーツを見てみよう。まずはフルレンジスピーカーユニット。P1000Kの型番で単体製品として販売されているもので標準価格は1,600円(1台)。中学生でも買える価格だ。再生周波数帯域は82Hzから16kHz。出力音圧レベルは88dB/W(1m)となっている。

フルレンジのスピーカーユニット「P1000K」

 エンクロージャもP1000-Eの型番で1,900円(1台)で単体発売されている。バスレフ型で外観寸法は幅121mm、奥行き179mm、高さ243mm。厚さ9mm(実測すると9.5mm)のパーティクルボードが使われている。バスレフポートは直径が約35mm、長さ85mm、紙素材が使用されている。

エンクロージャ
バスレフポート

 背面にスピーカーケーブルをつなぐ端子が用意され内部配線の先には接続端子が付けられているのでスピーカーユニットとの接続に半田付けは必要ない。吸音材は背面、底面、左側の側面の3面に貼り付けられていて、残りの3面は吸音材なし。メーカーが作り込みを行なう中でこれが最適ということだろう。

背面にスピーカー端子
内部配線の先には接続端子。吸音材は3面に貼られている

 小型アンプもAP05として4,800円で単体発売されている。出力は5W+5W。幅86mm、奥行き67mm、高さ26mmと名刺くらいのコンパクトサイズだ。前面にステレオミニジャックの入力端子とスイッチ兼ボリューム。後面はACアダプターの電源端子とスピーカー端子が用意されている。両ステレオミニプラグのケーブル、スピーカーケーブル、ACアダプタが付属しているので、スマートフォンをつないで鳴らす場合は追加購入するものはない。

前面は入力端子とボリューム

 便利機能としてこのアンプは無信号入力状態が約15分間続くと自動的にスタンバイモードに切り換わる。これにより消費電力がフルパワー時の22Wから0.4Wに下がる。電気料金を26円/kWhとするとスタンバイモードの電気代は1カ月で約7.5円。パソコン用、テレビ用として使う場合、個別にアンプの電源を切らなくても電気代の負担は小さい。スタンバイモードで再び入力信号が入ると自動的に電源がオンになる。すぐに音が出るのでスタンバイモードになっていたことに気付かないほど瞬時だ。

 単体で購入するより「かんすぴセット」として購入した方が価格的にお得だが、セットで買うとさらにスピーカーケーブルが「おまけ」的に付いてくる。小型アンプの付属品としてスピーカーケーブルは付いているが、このケーブルはそれより少し太めでチョットだけ高級なタイプとなっている。長さは1.5mでアンプに付属しているものと同じ長さだ。

後面は電源端子とスピーカー端子
かんすぴセットにはスピーカーケーブルが追加されている

組み立てはあっと言う間に完了する

 では実際に「かんすぴセット」を組み立ててみよう。組み立てに必要な道具はドライバーとカッター。ノコギリやドリルなどの木工道具は必要ない。作業をしやすくするための作業台として雑誌などがあった方がよい。エンクロージャの背面のスピーカー端子が出っ張っているので雑誌などで浮かしてやると安定して置くことができる。

 最初の作業はスピーカーを取り付けるネジの位置をマーキングすることだ。スピーカーユニットを仮置きして鉛筆やボールペンで印を付ける。次に付属の取り付けネジを半分ほどねじ込む。そうするとエンクロージャの表面が盛り上がるので、それをカッターで切り取る。1ユニット4箇所に同じ作業をすることで下穴が用意される。

ネジ位置にマーキング
ネジを半分ほどねじ込む
表面が盛り上がる
カッターで切り取る

 エンクロージャ内部からスピーカーケーブルを引っ張り出しスピーカーユニットの端子に差し込む。このときスピーカーユニットに付属しているパッキンを間に挟むことを忘れないようにしよう。先ほど作業した下穴、パッキン、スピーカーユニットの位置を合わせたら付属のネジを締める。これで完成だ。

パッキンを忘れずエンクロージャ内からケーブルを引き出す
ケーブルをスピーカーの端子につなぐ
あっと言う間に完成する

 組み立て作業は1ユニット10分〜20分で終了する。あっと言う間だ。注意点というほど難しいところはないが、スピーカーユニットがむき出しなのでドライバーを落としたりして傷つけないようにしたい。夏は汗が落ちることもあるのでその点も注意しよう。

 正直言って達成感は少なめ。あっけないくらい簡単に完成するが、それでも完成品を買ってくるのとは一味違う感じがするはずだ。

予想以上の音に驚く

 完成したらすぐに鳴らしたくなる。ってことでスピーカーを普段使用しているスピーカーの上に仮設置して、最初は付属のステレオミニプラグのケーブルをiPhoneにつないで聞くと、予想以上によい音で鳴ることに驚いた。このときiPhoneと小型アンプはレコードプレーヤーの上に置いたのでソファーに座ると操作ができない。長時間聴くには不便なのでiTunes PCと名付けた音楽専用PCにつないでいるDACと小型アンプを接続。エージングも兼ねてNASに保存している音源を毎日10時間以上、2日間鳴らしまくってみた。

かんすぴセットは、簡単に完成。写真は寝室の出窓にiPhoneと組み合わせて置いたもの。聴くときは左右のスピーカーもっと離したい

 「かんすぴセット」の音量は充分だ。フルボリュームにすると同居人がいたら確実に「うるさい」と言われるレベル。住宅によっては隣の住人から苦情が出るかもしれない。騒音計で測ってみると曲によっては瞬間値で90dBを超えていた。ちなみに騒音の目安は80dBで地下鉄の車内、90dBでカラオケの店内、100dBで電車が通るガード下などとなっている。

 ただし、フルボリュームにすると曲によっては音が割れてしまう。Perfumeの「ナチュラルに恋して」、宇多田ヒカルの「Prisoner Of Love」、Herbie Hancockの「Chameleon」、Marcus Millerの「Tales」など大きな低音の入った曲に弱そうだ。だがこれらの曲もボリュームを2時、3時あたりにすれば割れることなく充分苦情の来そうな音量で鳴っている。大半の曲はフルボリュームでも問題はなく、普通に部屋で音楽を聴くには充分な音量だ。

フルボリュームにすると「恋するフォーチュンクッキー」はときおり90dBを超えた。写真は演出で、実際の測定は視聴位置で行った

 音質はかなり好印象。フルレンジスピーカーなので当たり前だが定位がよい。筆者の耳の能力が高くないという前提はあるがJAZZ、J-Pop、歌謡曲、フォークソング、Rockなどのジャンルを20時間以上聞いて予想以上の音に驚かされた。メーカーから公表されている周波数特性のグラフを見ると100Hz以下、10kHz以上が降下しているのでそれなりの音かなと先入観を持っていたが、低音も高音もかなり頑張っている印象だ。さすがに重低音は無理で曲によってはアレッと思うものもある。

 とはいえ、「かんすぴセット」はPC用のスピーカーの域ではなく、充分オーディオ用のスピーカーと言える音を出しているし、少し手を加えるだけで、さらに音が良くなりそうな素質が感じられる。

“自作”だから体感できるオーディオの楽しさ

 「かんすぴセット」はスマートフォンやiPodなどをつなぐなら、ほかに何も買い足す必要はなく、手軽にステレオによる音楽を楽しむことができる。パソコンをUSB DAC経由でつなげば、音はさらによくなるはずだ。いろいろなオーディオの楽しみ方に触れられるという点で、「かんすぴセット」のような製品で、ぜひオーディオの世界に半歩踏み込んでいただきたい。

 実は、このあたりから筆者は「かんすぴセット」にのめり込んだ。先日、AVアンプの記事にも書いたが筆者はお金を掛けずにそこそこの音を求めるプアオーディオ派だ。スピーカーユニットの単体価格が2,000円以下、セットで1万円程度という「かんすぴセット」でさらによい音を出せないかと試行錯誤を開始したのだ……。業務用の測定器まで使い始めてしまったので、入門記事はここまで。次回はプロの協力を得ながら、かんすぴセットの音質改善に取り組んでみたい。

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(奥川浩彦)