初代「ゴジラ」など、東宝特撮がBlu-rayで続々復活

-レストア担当者が語る“映画人の熱意”とは


ゴジラ

9月18日発売

標準価格:各5,985円

 洋画大作やアニメのBlu-ray化が一般化する中、東宝がいよいよ邦画名作のBD化を本格化させる。9月18日に「東宝特撮Blu-rayセレクション」の第1弾として、「ゴジラ」や「モスラ」などの特撮5作品を各5,985円で発売。10月23日には「黒澤明THE MASTERWORKS Blu-ray Disc Collection」の第1弾として、「七人の侍」など黒澤監督の7作品をまとめたBD-BOXと、単品版をリリース。特撮/黒澤作品とも、第2弾以降の情報も既に発表されている。

10月23日に発売される「黒澤明THE MASTERWORKS Blu-ray Disc Collection I」
 過去の名画がBDで楽しめるのはAVファンにとって嬉しい事だが、気になるのはクオリティ。BD版の発売にあたっては、新たに作成したハイビジョン・マスターを使用しているという。しかし、初代「ゴジラ」('54年)など、50年以上前に作られた作品も含まれており、BDでどこまでの画質が楽しめるのか疑問に思っている人も多いだろう。

 そこで、テレシネやレストア処理を担当した東京現像所に赴き、テレシネ作業や、ゴミ・傷修復などのレストア作業を担当したスタッフの方にインタビューを実施。さらに、発売前にBDのサンプル版を視聴することができたので、そのクオリティをチェックしてみた。



■ 状態が思いのほかよかった「ゴジラ」のマスターフィルム

東京・調布にある東京現像所
 お邪魔したのは東京・調布にある東京現像所。東宝グループの会社で、映画フィルムの現像やプリントから、テレシネ作業、映像の特殊効果まで、様々な処理を行なっている。今回の「東宝特撮Blu-rayセレクション」では、現存するフィルムからビデオ素材へと変換するテレシネ作業、そしてビデオ素材をワークステーション上に読み込み、映像のキズやゴミをデジタル的に修復していく作業を担当。その後、オーサリングやエンコードを担当するソニーPCLに送られ、BD化という流れになっている。

 東京現像所でテレシネ作業を担当した、映像本部 映像部 デジタルプロセス課テレシネグループの佐藤健氏、レストア担当の映像本部 ビジュアルイメージ部 映像プロセス課 テレシネグループの村田繁技術主任にお話を伺った。

編集部:初代ゴジラは50年以上前の作品ですが、オリジナルのネガは残っていたのでしょうか?

佐藤健氏(以下敬称略):ゴジラの時代は可燃性のフィルムで撮影していた時代なので、オリジナルのネガは残っていませんが、後に永久保管用として不燃素材で作ったフィルムがオリジナルとして残っており、それを今回マスターフィルムとして使っています。

 マスターフィルムからビデオ素材にする作業をテレシネと言いますが、「ゴジラ」のような古い作品の場合、フィルムのネガ状態をチェックする事から始まります。テレシネ機にかけられる状態かどうかを判断し、クリーニングなどを行なった後でテレシネ作業に移るんです。幸い「ゴジラ」のマスターフィルムの保管状態は良かったです。

編集部:テレシネ時の解像度はどのくらいで行なうのでしょうか。

映像本部 映像部 デジタルプロセス課テレシネグループの佐藤健氏
佐藤:1,920×1,080ドットのフルHD、フォーマットはHDCAM-SRです。4Kや2Kといったより高解像度のフォーマットもありますが、今回は最終的なアウトプットがBDであることを考え、解像度変換を必要としないフルHDにしています。

編集部:今回のように古い作品をテレシネする際に、注意するポイントはありますか?

佐藤:映画の映像の完成型は“プリントしたものを映画館で観る事”なのですが、テレシネ機にかけると“見えすぎ”てしまう部分もあります。特に初代ゴジラの場合はモノクロなのでコントラストが重要です。ただ、暗く雰囲気のある映像でもゴジラが見えなきゃ意味がないですし、逆に明るすぎると雰囲気が壊れてしまう。その見極めが難しいですね。

 また、マスターポジの豊富なダイナミックレンジの情報は、ビデオレンジには収まりません。それをいかにビデオレンジに収めつつ、かつコントラストも保つかというのが重要なポイントです。後処理することを前提に、あえて黒を浮かせぎみ、ハイライトを落としぎみで、画がつぶれるところのないようにテレシネしていきます。また、古い作品では画面の“揺れ”も問題になるのですが、初代ゴジラの場合は状態が良く、揺れ止め処理は行なってません。

編集部:なるほど。そうして出来上がった映像を、村田さんの方で修復していくわけですね。

村田繁氏(以下敬称略):テレシネして出来上がったビデオテープからキャプチャしてファイル化したものを、レストア専用ソフトで処理していきます。まず、作品ごとに処理のパラメータを決め、ソフトのオート機能で消していきます。しかし、消してはいけない所まで消えてしまったりと、オートには限界があります。そういう部分をチェックしてオリジナルに戻した上で、最初から今度は手作業で消していくんです。

編集部:オート機能ではどのくらいの精度で綺麗にできるのでしょう?

村田:基本的にはバックが動いていないシーン。そして、前後のコマに渡らない、そのコマにだけ付いているゴミなどはソフトが反応して埋め込みで消してくれます。しかし、バックが動いていたり、点滅していると無理で、例えば戦闘シーンの爆発では、爆発の破片も全部消えてしまいます(笑)。そうした場面ですと、カット全てをオリジナルに戻して手作業で処理しなければならない事もあります。

編集部:爆発や破片の多いゴジラのような特撮は、一番難しそうですね(笑)。

レストア担当の映像本部 ビジュアルイメージ部 映像プロセス課 テレシネグループの村田繁技術主任
村田:そうですね(笑)。それと、ゴジラの場合は、ゴジラの肌が完全にアウトです。映像が白黒なのでコントラストにソフトが反応すると、肌の質感を消してしまう事があるんです。また、当時は光学合成でフィルムを重ねて特撮映像を作る事が多く、そういったシーンではキズなどのダメージが大きいですね。

編集部:手動でのレストア作業で、特に消しにくいゴミはどんなものですか。

村田:実は、そのコマにしか出てこない糸くずなどの“パラゴミ”が一番消しやすいんです。やっかいなのが広範囲に渡る染みのようなもの。フィルムのスプライス(つなぎ目)から、接着剤が絵の方まで染み出してしまっている事があるんです。修復の基本は前後のコマから持ってくる事なのですが、それができないシーンもあり、より細かく作業で修復する必要があり、作業スピードが急激に落ちたりします。

 また、“綺麗にすれば良い”というだけでなく、重要なのは“不自然さが出ない”事なんです。そのコマだけ見て綺麗にしても、通して再生すると“そのコマだけ綺麗”だと、逆に違和感を感じてしまいます。なので、前後と見比べながら、フィルムの粒子感も残しながら綺麗にしていく事が重要です。

編集部:カラー作品とモノクロ作品のレストアの場合、モノクロの方が作業は楽なのですか?

村田:いや、そうとは言えないんです。古い作品ではシーンごとに輝度差があることもあり、修復した部分だけ明るくなったりしますので、輝度調整をかけつつレストアしなければなりません。色情報があると(輝度差があっても)修正点が馴染みやすいのですが、輝度情報しかないと修正箇所が特に目立つわけです。モノクロにはモノクロの難しさがありますね。


■ オリジナルのジレンマ

編集部:デジタル技術で修正すると、当時の映像より綺麗にしてしまう事もできると思うのですが。

村田:“オリジナルのジレンマ”ですね。実は“何がオリジナルなのか”という問題は、我々オペレーターをいつも悩ませています。例えば本来の映像よりもエッジを立たせて高精細に見せる超解像技術などもありますが、気をつけないと当時の監督やカメラマンが見ていた映像じゃないものを作り上げてしまう……、レストアではなく“リメイク”になってしまう可能性もあります。

 どんな映像が正解か聞きたくても、もう監督もカメラマンもいない。特撮の場合、BDの解像度ではミニチュアを吊る糸や、バックのホリゾント(背景用の幕)のつなぎ目も見えてしまう。見えないものとして作っているので見えないほうがいいのか、そのまま見えたほうがいいのか、難しい問題ですね。

 BDでは特撮の失敗も見えてしまいますが、そういった部分も含めて楽しむファンの方々もいますので、そうしたものをこだわりを持って残すこともあります。映画好きが多いレストアメンバーには、その作品が好きな人も多いので、そういうファンの気持ちも含めて作業し、結果的に良い仕事ができます。「ゴジラ」なんかの場合、逆にこだわってやり過ぎることもあるんですが(笑)。

編集部:作業体制はどのくらいの規模なのですか?

村田:今回の担当人数は全部で7人。メインマシンが2台で、それを24時間体制、3チェーンでまわしています。基本は1作品1人が担当するのですが、納期が厳しいものはチームで担当します。その場合はメンバー間で“修正の仕方”を統一させるためのコミュニケーションも重要です。この体制で、初代ゴジラに関しては約700時間かかっています。新しい作品ではそんなに時間がからないんですけども。

編集部:ちなみに、東京現像所さんで、古い作品のBD化は今回が初めてになるのでしょうか?

村田:旧作のBD化は初めてなのですが、2年ほど前から放送用には何百本と手掛けています。そういう意味ではハイビジョン用のレストアのノウハウは蓄積されていました。今回はパッケージ用ということで、レストアも最高レベルを適用しています。

 そのため、メンバーの中にはDVD用、放送用、BD用と、同じ作品のレストアが3回目だという人もいます。経験があるので修正の仕方も心得ており、逆に経験があるので「次のカットは慣れてるからお前がやれ」と振られることもあります(笑)。

 実は以前、放送用のレストアを担当したのが東京現像所だと知っているファンの方が、BD化が発表された後に、こちらに電話をかけてきて「BD用のレストアも東京現像所さんが担当されるんですか?」と確認されたことがあります。メンバーに話すと、“ファンの方々に自分の仕事を見られている”という緊張感に、皆が身が引き締めていました。

編集部:最後に、BDを観賞する上で、“ここに注目してほしい”というポイントはありますか?

村田:古い特撮を多数レストアで見ていますが、どの作品も“映画にかける熱意の凄さ”が伝わってきます。BDの解像度ではセットの作り込みの“凄さ”が確認できますが、まさに“命張ってる”という感じです。今では映らないから手を抜くことができるシーンも、やり過ぎなぐらい作り込まれています。でも、その膨大なディティールの積み重ねが空気感となってフィルムに残っていますし、その空気感は“ゴジラを演じている人”の気持ちにも響き、演技にも良い影響を与えているんだと思います。そういった映画にかける“熱意”を観て欲しいですね。

 BD化にあたっては、本当に手をかけて作っているので、とにかく“買って欲しい”、“観て欲しい”と思います。昔の作品をそのままBDにしただけと誤解されやすいのですが、もともとHDで処理されている新作と違い、旧作のパッケージ化こそ、アナログ的に手をかける必要があります。それがわかってもらえれば値段も高くないと思っていただけると思います。“旧作のBD化”という流れを作るためにも、ぜひ手にとって、楽しんでいただきたいと思います。


 こうしてレストアされた映像はソニーPCLに送られ、エンコードやメニュー作成などが行なわれる。初代ゴジラではまず、ハイビジョンになると目立つグレインノイズを低減する処理をほどこし、液晶ディスプレイでも観やすい映像にしている。さらに、テレシネの際にレベルの変動で起きるフリッカー(チカチカ感)も低減。レストレーションツールを使って、再度、傷やゴミの消去も行なうなど、映像により磨きがかけられる。

 「モスラ」などのカラー作品に関しては、DVDで色が濁り気味に見えていたところをクリアにしたのが特徴だという。ディティールもクリアになり、「モスラ」ではモスラの柔らかさ、体毛のふわふわ感を重視した映像になっているとのことだ。

 全ての作品で、映像のエンコードにはMPEG-4 AVC/H.264を採用。初代ゴジラに関しては、音声は非圧縮のリニアPCM(モノラル)を採用。その他の作品のサラウンド音声ではドルビーTrueHDが使われている。

 メニューにはBD-Jが使われており、インタラクティブな機能を備えているのが特徴。本編再生に重ねるようにPinP(子画面表示)で「繪(絵)コンテ」が表示できるほか、お気に入りのシーンをユーザーがブックマークできる機能も備えている。詳細は後述する。


■ 「ゴジラ」を視聴

 発売前だが、BDのサンプル版をお借りできたので早速初代の「ゴジラ」を観賞してみよう。視聴には約100インチのプロジェクタや液晶テレビ、AVアンプ(SC-LX81)などを使っている。

 冒頭、東宝のマークやスタッフロールではかなり“揺れ”が出ているので大画面で観賞していると一瞬不安になるが、本編が始まると揺れは収まり、安定した映像になった。

「ゴジラ」のチャプタメニュー
 まず驚かされるのが、冒頭に登場する水夫達の服の、陰になった部分のシワや、日焼けした肌の滑らかな階調など、55年前の映像とは思えないほど情報量が多いことだ。シャワー上がりの宝田明の肌に流れる水滴、肌着の質感などもキッチリと描写されている。

 観賞中、ゴミや傷、フィルムの染みなどが気になる所は無い。古い作品なのでもちろん傷が完全に無いわけではなく、暗い夜のシーンや、光学合成シーンでは、上下方向にうっすらと雨のように白い筋が無数に走る。一見すると雨のようなノイズだが、本当に薄くかかっているだけなので、ノイズ自体に意識をとられる事はない。むしろ“時代を感じさせる味わい”レベルであえて残されているように感じられた。ビットレートは全編を通じ、30Mbpsの前半を中心に推移している。

 モノクロでも非常に情報量が多く、画調が多彩。ゴジラの登場シーンで比べても、日中の大戸島では森の木の葉が細かく描写され、陰の部分も解像度が保たれている。夜の銀座では街並みが大胆に黒く沈み込み、闇夜から浮かび上がるように現れるゴジラの体の、ヌラヌラとしたテカリが強調される。一口にモノクロと言ってもシーンによって絵作りや雰囲気が異なる。じっくり観ていると、街を包む火や、ゴジラの皮膚に色が見える気すらしてくる。ゴジラが迫る中、勇敢にもテレビ塔に残り、実況を続けるアナウンサーの「さようなら、みなさん、さようなら!」の名シーンも、汗に濡れた、上気した濃い肌色がモノクロでも確かに伝わってくる。

 ゴジラが夜の東京に襲来するシーン。飲み屋や寿司屋の看板が並ぶ銀座の街並みでは、看板の文字がきちんと解像されており、読み取れる。新宿の街では、高野フルーツパーラーのネオンや街灯に照らされた街並みが描写されるが、現在の新宿と比べるとかなり薄暗い。しかし、そこを歩く人々の服装などが、暗い階調の中でもしっかり描写されているのには驚いた。

 最大の注目はやはり、特撮シーンのミニチュアで再現された街並みの“精巧さ”だ。BDの情報量の多さは、ゴジラが着ぐるみであることや、街並みや消防車、戦車などがミニチュアであることをクッキリと描写してしまう。だが、ゴジラがそれらを破壊するたび、商店街のシャッター、装飾が施された街灯、道路の縁石、電線の1本1本、鉄骨の骨組みのボルトなど、本当に細かい所まで作り込まれている事が確認でき、驚きの連続だ。

 “作り物だとわかって興醒めする”と思いがちだが、実際は真逆。「うわっ! こんな所まで作ってある」、「すげっ!! この街全部作ったの!?」という驚きの連続で、純粋にその“凄さ”が映像の力となり、スクリーンに引きつけられる。当時のスタッフの特撮にかける“熱意”がそのまま伝わってくるようだ。

 ゴジラを戦闘機がミサイルで攻撃するシーンも、飛行機を滑らせるガイドの“糸”がしっかり視認でき、ミサイル用の糸との違いまで見える。ミサイルが一発もゴジラに当たらないのはご愛敬だが、闇夜を悠然と進むゴジラと、イナズマのように画面を横切るミサイル、それが生み出す白いスモークのコントラストが、実に格好良いショットを生んでいる。ミサイルの軌道を制御する工夫がわかることは、その映像をより味わい深いものにしている。

 また、模型ならではの生々しい壊れ方は、最新のCG映画には無い“リアリティ”や“空気感”を伴っている。さらに、暗部の情報量を保持しつつも、モノクロならではのコントラストの強い映像は、描かれていない暗い部分への“想像”を促す。ホラー作品では、映画よりも情報量の少ない、小説やラジオドラマの方が想像力を喚起され、“より怖い”事があるが、ゴジラもそれと同じ。“人知を越えた生き物の圧倒的な存在感”は、カラーになったその後のゴジラより、初代の方が強いと感じた。


■ 豊富な特典

PinP(子画面表示)で「繪(絵)コンテ」を収録。簡単に表示/非表示が切り換えられる
TM&©1954 TOHO CO.,LTD.
 BDの機能を活用した特典として、PinP(子画面表示)で「繪(絵)コンテ」を収録している。当時、本編撮影班と特殊撮影班のイメージ共有のために作られたもので、撮影コンテではない。現代の映画の絵コンテと異なり、完成映像と違う部分も多いが、そこが逆に面白い。繪コンテ画面はリモコンの黄色ボタンを押せばいつでも表示/非表示が切り替えられる。

 メニューデザインは、トップメニューやポップアップメニューとも、赤い太めの文字で構成されており、シンプルだが東宝の特撮らしい、“空想未来化学的な雰囲気”が出ている。チャプタやマイ・ブックマークといった機能名もカタカナで表示されており世界観を崩さない。幅広い年齢層にファンがいる特撮シリーズならではの配慮も含まれていそうだ。


特典メニューの一覧
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 機能面で面白いのは「マイ・ブックマーク」機能。選択すると画面下にプログレスバーが表示され、その状態でリモコンの青ボタンを押すと、ブックマークポイントを追加。赤ボタンで削除することができる。ユーザーが好きなポイントで自由にチャプタを打てる機能で、一度記録すると、ディスクを抜いてもブックマーク情報は維持される。チャプタ選択はリモコンの左右ボタンで可能だ。

 BDならではの便利な機能だが、PS3での再生で1点気になったのは、PS3のコントローラーに青、赤、緑、黄色のカラーボタンが備わっていないこと。そのため、チャプタを打つ/消すためには、PS3のオーバーレイメニューから、ソフトウェアの青、赤ボタンを押さねばならない。ただ、別売のPS3用BDリモコンにはハードウェア的にカラーボタンが備わっているので、これを使うと快適に操作できた。


マイ・ブックマーク機能を使っているところ
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 特典映像や写真も豊富だ。「スナップで観る撮影現場の風景」には、マル秘マークが入った検討用台本や、円谷英二特技監督が使った製作準備稿など、貴重な資料が収められているほか、撮影の舞台裏の写真はもちろん、ゴジラのデザインを打ち合わせしている会議の風景までも収録されている。

 「ゴジラはティラノサウルスの顔にイグアノドンの体型を組み合わせて作られた」、「ミニチュアは基本的に25分の1スケール」、「スタジオが広くないので画面に奥行きを出すために手前の建造物は大きめに作られた」などなど、各資料に丁寧な解説テロップが付いており、マニア以外も勉強になって面白い。また、検討中のデザイン画の1枚1枚や、台本裏に円谷氏が書き込んだメモ書きや図などが、フルHD解像度でしっかりと読み取れる。BDならではの特典と言えるだろう。

 「復刻 ゴジラのテーマ」は、誰もが知ってるゴジラのテーマのオリジナルスコアを、映画音楽収録時とほぼ同じ編成で、忠実に再演奏したもので、2008年「伊福部昭音楽祭第二回」の演目の1つとして演奏された音源。本編はモノラルだが、特典ではステレオ(リニアPCM)で楽しめる。当然ホールの奥行き、音場の広がりともに現代的な録音だが、楽曲の雰囲気そのものはオリジナルの“重厚さ”を維持しており、思わずAVアンプのボリュームを上げてしまう熱いサウンドだ。

 オーディオコメンタリーには宝田明が登場。ゴジラは彼の初主演作であり「“お前に主役をやらせてやる”と言われて胸が張り裂けんばかりに喜んだけれど、台本に“ゴジラ”と書いてあって何だろう?と思った」など、当時の思い出話を沢山語ってくれる。



■ まだまだある「東宝特撮Blu-rayセレクション」

空の大怪獣 ラドン
 駆け足になるが、同時発売されるその他の作品についてもレポートしよう。ゴジラに次いで古い作品の「空の大怪獣 ラドン」('56年)は、東宝特撮初のカラー作品だ。グレインノイズは多めだが、赤味の強い、鮮やかな発色の懐かしい映像だ。時代が時代なのでコントラストは低めでラチチュードも狭く、平面的な表示になりがちだが、暗部の情報量は豊富だ。テレビやプロジェクタなどの表示機器側のコントラスト調整で追い込むと立体感のある映像になるだろう。

 圧巻はやはり、ラドンの超音速による衝撃波で破壊される福岡の街や橋など。ゴジラと異なり、カラーかつ昼間のシーンなので、東宝のお家芸とも言える精巧なミニチュアが、芸術的に粉々になっていく様がBDの解像度で克明に描かれ、あまりの凄さに絶句する。特典の「ミニチュアワークの世界」では、ロケハン写真とミニチュアとの比較が収録されているので必見。看板の1つ1つ、窓の形状に至まで、その再現度に驚くだろう。HD収録の特典なのも嬉しいポイントだ。


モスラ
 「モスラ」('61年)の時代になると、カラー映像のクオリティが格段にアップ。適度なコントラストと階調が豊かな映像が楽しめる。こちらの作品も傷やゴミはほとんど見あたらず、モスラ(幼生体)が東京に侵攻するシーンは、逃げまどう市民や、上空からの爆撃、ヘリからの東京全体の俯瞰など、様々なアングルで、夕暮れのミニチュアの街並みが美しく表示される。

 「ゴジラ VS ビオランテ」('89年)では、初代と比べるとより精悍な顔つきになったゴジラが活躍。バイオ怪獣ビオランテとの死闘を繰り広げる。グレインが多めで、防衛庁司令室の白い机や壁、夕暮れの遠景など、薄暗い部分ではチラチラとノイズが目につく。全編を通じて暗部は若干浮き気味だ。


ゴジラ VS ビオランテ
 大阪で繰り広げられる「スーパーX2」との激闘は、ミサイルとバルカン砲が飛び交い、爆発に次ぐ爆発で大迫力だ。しかし、暗部が浮きぎみなので高層ビルの模型が若干安っぽく見えてしまう。むろん、こうした映像は元々がそういう“画調”であるためで、BD化にともなうブロックノイズやモスキートノイズなどは皆無。ビットレートも30Mbps後半を中心におごられている。プロジェクタの設定でコントラストを上げ、若干輝度を落とすと画面に迫力が出た。破綻のない洗練されたストーリーもこの作品の魅力の1つだ。

 「ゴジラ ファイナル ウォーズ」(2004年)は、ゴジラシリーズ50年目の作品であり、最終作。初代と最終作が同じ日にBDで入手できるのは感慨深い。ゴジラだけでなく、モスラ、ラドン、アンギラスなど、歴代の人気怪獣が総登場する大作で、冒頭のテンポの早いバトルシーンから、歴代のゴジラを振り返るオープニングと、北村龍平監督によるスタイリッシュな映像が続く。特撮やCGの進化だけでなく、演出の面でも映画は大きく変わったと感じさせる。


ゴジラ ファイナル ウォーズ
 再生して何より違うと感じるのはサウンドだ。初代ゴジラやモスラはオリジナルがモノラル、ビオランテもドルビーサラウンド(BDには2002年の5.1chリミックス音声も収録)だが、ファイナル ウォーズはオリジナルがドルビーデジタルEX(6.1ch)で、BDにはドルビーTrueHD 6.1chで収録されている。リアサウンドの分離、低域の量感、包囲感は段違いで、映画の迫力にいかに“音”が寄与しているかを再認識させられる。

 映像はコントラストが強く、メリハリが効いた画調。グレインは多めで、遠景の解像感は若干甘い。怪獣が現れる都市によって赤や青などのカラーフィルタで色調が統一されており、怪獣とミニチュアの都市、CGの戦闘機など、構成要素の質感が統一されている。“素材の質感を活かした高画質”とは異なり、アニメや洋画「マトリックス」など、CG多用映画を思わせる画質で、好みが分かれるところだろう。それにしても他の怪獣をことごとく秒殺していくゴジラが強すぎる。ジャンプキックから投げ技まで、アグレッシブに戦うゴジラは、銀座の街を慎重に破壊していた初代からの進化を強く感じさせてくれた。



■ 往年の名画をBDで味わう

  「ゴジラ」や「ラドン」、「モスラ」など、古い作品であればあるほど、BDであらためて観賞すると、豊富な階調、ミニチュアの細部まで描かれる解像度の高さに驚くだろう。フィルムの持つ情報量の多さを、改めて見せつけられた思いだ。同時に、キズやゴミ、揺れといった、集中の妨げとなる要素がクリアに取り除かれ、映像に集中できるのが嬉しい。光学合成などで映像のエッジが甘めなシーンはそのまま残されており、デジタル修復がオリジナルの復元を念頭に、バランス良く行なわれている事を伺わせる。

 ボロボロの映像であれば、ファン以外にお勧めするのは厳しいが、BD版の映像であれば多くの人が純粋に楽しめるのは間違いない。映画の名前は知っているけれど、観た事がないという人にこそ、往年の名画を改めて体験する機会にして欲しい。CGを使わず、創意工夫でこれだけの映像を作り出した映画人達の熱意は時を経ても色褪せない。それを証明するBlu-rayと言えるだろう。


(2009年 9月 17日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]