「ALWAYS 三丁目の夕日 '64」山崎貴監督インタビュー

-懐かしい三丁目と3Dの融合秘話。BD/DVD7月20日発売


「ALWAYS 三丁目の夕日 '64」Blu-ray豪華版
(C)2012「ALWAYS 三丁目の夕日’64」製作委員会

 7月20日にBlu-ray/DVD化される映画「ALWAYS 三丁目の夕日 '64」。人気シリーズの3作目であると共に、シリーズで初めて、3D上映された事も大きな話題となった作品だが、BDの豪華版には3D映像を収録し、豊富な特典も収録するなど、AVファンにとっても注目のソフトとなっている。

 価格はBD豪華版が8,190円、DVD豪華版が7,140円、BD通常版が5,040円、DVD通常版が3,990円。また、シリーズ3作品のBDをセットにしたBOXも15,120円で発売される。各バージョンの詳細は既報の通り。なお、レンタルもセルと同日に開始される。

 このBD/DVD発売を前に、東宝の映画スタジオにお邪魔し、山崎貴監督にお話を伺った。


 インタビューの前に、作品のおさらいをしたい。発行部数1,800万部を超える、西岸良平のコミックが原作。昭和'30年代の東京の下町を舞台に、小説家の茶川竜之介と、彼に引き取られた少年・淳之介をメインに、夕日町の住人達の騒がしくも人情味あふれる毎日を、暖かい目線でとらえている。

 3作目で描かれるのは昭和39年('64年)。アジア初となる東京オリンピックが開催されるこの年、東京はビルや高速道路の建築ラッシュとなり、熱気に満ちあふれていた。そんな中、東京の夕日町三丁目の住民たちは、5年前と変わらず元気に暮らしている。茶川(吉岡秀隆)はヒロミ(小雪)と結婚し、高校生になった淳之介(須賀健太)と3人暮らし。ヒロミは身重で、もうすぐ家族が増える様子。茶川は「冒険少年ブック」の看板作家として活躍しているが、スランプ気味。

 一方、則文(堤真一)、トモエ(薬師丸ひろ子)、一平(小清水一輝)、六子(堀北真希)が暮らす鈴木オートは順調に事業を拡大。新たな従業員・ケンジ(染谷将太)も加わった。後輩を厳しく指導する六子は、一方で医者・菊池孝太郎(森山未來)に密かな想いを寄せており、その恋心が思わぬ騒動へと発展していく……。



■5年後の夕日町を覗いてみる

――「三丁目の夕日」シリーズも今回で3作目。今作では、子供たちが成長した姿が描かれていますね。

山崎貴監督。現在は2013年公開予定の「永遠の0」に取り組んでいるそうだ

山崎監督:成長した事への不安は特に無かったのですが、1作目と2作目を観返してみたら、改めて“子供達の可愛らしさ”に凄く助けられているなと思いましたね。それが今作では成長して、“あんちゃん”になって……。子供だと生意気な事を言っても可愛いですけど、生意気な事を言って、ムカツかれるんじゃないかという不安は少々ありました(笑)。

――子役の皆さん以外も、お馴染みの豪華な面々が再集結しましたね。

山崎監督:もう勝手知ったる人達が、勝手知ったる格好して来るので(笑)。あの格好をして登場すると、吉岡さんじゃなくて、もう茶川さんですね。

――監督の感覚としては、5年後の物語を作るというよりも、「三丁目」の世界がもうシッカリ存在していて、5年後を覗いてみる……という感じなのでしょうか?


山崎監督:そうですね、ドキュメンタリーを撮っている感じは、今回の撮影でも凄くありました。前の2作と比べると、比較的長いスパンが空いたので大丈夫かなと思っていたんですが、全然大丈夫。役者の皆さんも、むしろ濃くなっていましたね(笑)。

――今回の作品は、成長した子供達が、夢を抱いて自立したり、その事で親と対立する構図が印象的でした。監督の子供時代とも重なるものがあるのでしょうか? 

山崎監督:いえ、「お父さんは厳しかったのですか?」とよく聞かれるんですが、両親共に理解があり、この道に進むとなった時も、「好きな事を仕事にできて良かったね」と喜んでくれて、何の反対もありませんでした。逆に、ちょっとぐらい反対された方が良かったんじゃないかと思うくらいで(笑)。それゆえ、映画のような展開にちょっと憧れはありましたね。反対されても、「ボクはこれがやりたいんだ」と貫いて、家を飛び出してしまうような感じ……実はやってみたかったんです。




■“三丁目の夕日”と3D

――映像面の特徴は、なんといっても3Dです。3Dで撮影するというのは、3作目を作ると決まった時点で、最初からあったお話だったのでしょうか?

山崎監督:そうですね。プロデューサーが「アバター」を見て、イケると思ったんだと思います。IMAXシアターに連れて行かれまして、上映が終わって「どうだった?」と聞かれて、「凄かったです」と答えたら、「そうだろう」と胸を張っていて(笑)。

――「3Dで三丁目」と言われて、最初はどう思われました?

山崎監督:いや、最初は反対しました。実は3D映像は博展映像(博覧会や展示会などで使われる映像)でやった事があるので、作る時の大変さは良くわかっていたんです。10分程度の作品でも大変なのに、2時間の映画となると、とんでもない事になる。お金も時間もかかるので、それが全部予算に跳ね返ってくる。どうせやるならば、2Dで撮影して後処理で3D化するような事はしたくなかったので、現場に3Dカメラを入れて撮影する事になる。「それでも3Dやるんですか?」と聞いたら、プロデューサーが「やる」と答えて……「じゃあしょうがないなと」(笑)。

――それまでの3D映画の一般的なイメージは、SFやアクションなどですよね。

山崎監督:ええ。しかし、「3Dにするから、三丁目にアクションシーンを入れよう」というのは違う気がしたので、3Dだからストーリーを変えるという事はしていません。ただ、自分の中で三丁目という作品は、あの世界に入り込む……博物館に行くような側面があるんです。その没入感を高めるために、3Dを活用してみればいいんじゃないかと考えました。




■3D演出の豊富なアイデア

――長編映画では初の3D挑戦となったわけですが、作品の中ではスローモーションを使ったり、吹き出したご飯粒が3Dで飛び出るというような、遊び心溢れる、チャレンジングな3Dシーンが沢山ありました。ああいったアイデアは、最初から考えられていたものなんですか?

山崎監督:3D映画は1つのジャンルになっていきますので、3Dとは向きあっていかなければならない、邦画では、僕とかがやっていかなければいけないだろうと思ってはいたので、実際に3Dの映画を撮ると決まる前から、3Dでの演出を考えたり、3D効果の勉強などはしていました。まさか最初に「三丁目」でやるとは思いませんでしたけど。

――ハリウッド映画の3Dでは、昔の3D映像と違って、飛び出す事よりも、奥行き感を出す演出が多くなっていて、飛び出す立体感という意味では“無難な映像”が多いですよね。しかし、三丁目では気持よく飛び出すシーンも沢山ありました。

山崎監督:キャメロン監督の影響で、「飛び出す時代は終わったんだ」というような風潮がありますね。確かに奥行きを出すのは良いと思うのですが、それでも3D映像ってやっぱり、飛び出すのが楽しいじゃないですか(笑)。もちろん、いつも飛び出していたらウザったいですけど。奥行きも出しつつ、たまには沢山飛び出るのも良いじゃないかと思って作りました。

――作品のファン層を考えると、この三丁目で、3D映画を初体験するという人も多かったと思われます。

山崎監督:不安はありましたね。「いらない事やってるんじゃない」と言われそうで(笑)。でも、今の3D映像はこうなっているんですと知ってもらう、新しい映像を楽しんでもらうキッカケになってくれれば良いなと思って作りました。「3Dなんていらないよ」という人を、何人連れてこれるかという気持ちでしたね。

――やはり、堤真一さん演じる則文が、お米を吹き出すシーンが印象的でした(笑)。

山崎監督:実はあのシーン、最初は横からのアングルで撮影していたんですよ。でも、お米が飛び出すのを見て、「3Dじゃんこれ!!」と思って、正面からの撮影に切り替えました(笑)。でも、いざ撮影してみると、演技はまったく問題ないんですが、“お米の飛び方”が悪くて、何度もNGになっちゃって……。途中でもう、CGで米粒を描いてしまおうかとも思ったんですが、堤さんに何度もご飯を食べてもらい、頑張ってもらいました(笑)。

――3Dでのスローモーションシーンも凄かったです。

山崎監督:あのシーン、実は役者さんがカメラの前で、ゆっくり動いてスローに見せているんですよ(笑)。Phantomというハイスピードカメラを2台使えば、3Dのスローモーション映像も撮影はできるのですが、調整やコントロールに時間がかかるので、それだけで撮影が1日潰れてしまうんです。どうしようかなと考えた時に、“ゆっくり動いてもらえばできるんじゃないか?”と思い、個人で、スローモーションで撮影できるデジカメを買いまして、スローで撮影するのと、リアルにゆっくり動いもらうのを比較して研究したんです。その結果、なんちゃってスローモーションでも、なんとかなるとわかったんです。

――そんな検証まで(驚)。

山崎監督:綿密な準備をした上で実現したローテクなんです。人間って、2点間を繋ぐようにして、リニアに動いている時は、ゆっくり動いても不自然に見えないとわかったんです。ですので、そういう動きをしてもらいました。でも、最新3D撮影システムの前で、皆がゆっくり動いているというのは、不思議な風景でした(笑)。




■セットとミニチュアとCGを駆使

――「三丁目」と言えば、ミニチュアを効果的に使っている事も特徴です。ミニチュアと3D映像の相性というのは、どうなんでしょうか?

山崎監督:それが、凄い大変でした。3Dで撮影するというだけで、厄介な事がいろいろ起きるんですよ。CGも使いますので、ミニチュアとCGを合成するのですが、3Dになると、それらを空間レベルで馴染ませないとうまく合成できないんです。ミニチュアをそのまま撮影するだけではダメで、撮影したミニチュアを、一度CGの中に入れ込んで、ミニチュアもCGとして処理したりとか、いろいろ難しいこともやりました。

 それでもやはり、“ミニチュアならではの強み”というのがあるんですね。ミニチュアは基本的に、1/24サイズのものを使っているのですが、あるシーンの背景の街並は、そこに何も無くて、後からミニチュアの街並みを重ねて背景にしています。すると、ミニチュアの前に、登場人物達が立つ事になるので、サイズを合わせるために、ミニチュアに凄く近寄って、それこそ5cm四方くらいをアップで撮影する事になるんです。そうした映像を背景にして、劇場の大スクリーンで投写するのですが、ミニチュアは情報量が多いので、しっかり耐えられるんです。

 CGで一から作るよりも、情報量が多いですね。また、光の回り込み方なども、最近のCGは凄く進歩しているのでリアルにシミュレートはできるのですが、ミニチュアはなにせ本物ですから(笑)、光の回り方も手っ取り早くわかるんです。CGでライティングを工夫して、存在感を出すにはえらい時間がかかります。そういった場所にミニチュアを使い、CGはCGに適した場所でと、適材適所で使い分けています。

――今回の作品を撮影した事で、3D映画に関するノウハウはかなり蓄積された感じでしょうか?

山崎監督:ノウハウはたまりましたね。3Dは大変なので、これから作るどの作品も全て3Dというわけにはいかず、どんな作品を3Dにするかという判断も大切です。同時に、蓄積したノウハウを無駄にしたくないという気持ちもあります。スタッフも同じだと思います。カメラの幅がこうだと、これだけ飛び出るというような数字も、今回試行錯誤で見つけていったので。

――BDの豪華版には、そんな3D映像が入っていますね。

山崎監督:冒頭で東京タワーが飛び出します。3Dテレビを買ったはいいけれど、観るべきものがないという人は、お家で、ぜひ東京タワーを飛び出させていただければ。2Dテレビ買った人の半分くらいは、きっと友達を招いて、「ほら飛び出すでしょ!!」って言いたいと思うんですよ。そういう時は東京タワーがいいと思いますよ。大概の人は喜んでくれますいので、ご自身のAV機器をアピールするディスクにぜひ(笑)。

――豪華版は特典も充実していますね。特典映像のDVDに加え、パンフレットや「新・昭和玉手箱」を同梱。玉手箱には「冒険少年ブック」シール集、ポスター原画レプリカの3D版、さらにダイハツ ミゼットのペーパークラフトや、赤青3Dメガネと立体写真の4枚セットも入ってますね。

Blu-ray豪華版の展開図
(C)2012「ALWAYS 三丁目の夕日’64」製作委員会
Blu-ray豪華版に付属する「新・昭和玉手箱」(C)2012「ALWAYS 三丁目の夕日’64」製作委員会「新・昭和玉手箱」に入っているダイハツ ミゼットのペーパークラフト完成写真(C)2012「ALWAYS 三丁目の夕日’64」製作委員会v

山崎監督:映像特典は本当に凄いんですよ。こんなセットなど、こんなに細かいところまで作っていたのかと、私も驚きの連続でした。付録の立体写真は、赤青の3Dメガネをかけて、立体写真を見るというのが、「三丁目的な体験」として面白いかなと思っています。

――BDの3D映像と、赤青メガネ用の3D写真で“新旧3Dセット”みたいになっていますね(笑)。



■今の日本人に感じて欲しいエネルギー

――子供たちの自立も描かれるなど、「三丁目」の人達に、ひとつの区切りをつけるような作品にも感じられます。

山崎監督:正直、そこまで大きな事は考えていません。六ちゃんに恋人ができたら鈴木オートがどうなるのかとか、淳之介を独り立ちさせる時は、どうなるんだろう? そんなシーンが観たいというのが純粋な動機ですね。また、今回“巣立ち”というのをテーマにしたというのもあります。「北の国から」のスペシャルで「 北の国から'92巣立ち」っていう作品があるのですが、「巣立ちっていいな」と素直に思いまして……。吉岡さんが、「子役の頃に大人の役者さんにしてもらった事を、今、自分が淳之介に対してしているような気分だ」と言っていたのが印象的でしたね。

――先ほど、本当にある「三丁目」の世界を、ドキュメンタリーのように撮影している感覚というお話がありましたが、監督にとって「三丁目」は、“いつでも戻れる場所”のような感じなんですね。

山崎監督:シナリオ書かないと、皆集まってくれないので大変ですけれど(笑)。でも、準備万端整えると、皆が集まってくれて戻る事ができる。不思議な世界ですね。さすがに、同じ(夕日町の)セットを三回作っているのを見たときは、どうかと思いましたが(笑)。だって、新品の木材などを使って、ボロボロの家を何度も作るわけですよ。

――テーマパークのように、どこかに作って置けると良いいですよね(笑)。

――終戦から復興しつつある日本の雰囲気、そして東京オリンピックを控えたタイミングの物語。一方で、現在の日本では暗い話題が多く、同時にロンドン五輪を控えていると……、リンクする要素が多い作品となりました。

山崎監督:「時代は繰り返されるんだな」ということを凄く感じましたね。撮影中に震災が起こり、あまりにもリンクして、ゾッとしたのも事実です。けれど、戦災をくぐり抜けた人達が、あそこまで来れたというエネルギーを感じることは、今の時期に大事な事かなと思います。ぜひ手元に置いていただき、3D映像と共に、何度も楽しんでいただければと思います。




■BD/DVD発売記念で衣裳・小物展示も決定

 なお、「ALWAYS 三丁目の夕日’64」Blu-ray/DVD発売記念として、衣裳・小物展示も決定した。日時は7月19日(木)~7月30日(月)までで、場所は銀座山野楽器本店 1F、B1F。六ちゃん(堀北真希さん)着用のウェディングドレスや、鈴木オート(堤真一さん)使用の軍手や手拭い、淳之介(須賀健太さん)使用の万年筆、燃えたアイディアノート、直筆原稿用紙などが展示予定。さらに夕日町三丁目 都電ジオラマ、模型飛行機なども見る事ができる展示になっている。

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(2012年 7月 13日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]