Apple Lossless/DSDもOK! ネットワークオーディオ再々入門

-スマホ操作でハイレゾ音楽鑑賞。最新小型コンポで実践


今回使用したバッファローのNAS「LS-V2.0TLJ」(左)と、オンキヨーのネットワーク対応コンポ「CR-N755」(右/スピーカーは別売)

 DLNAネットワークオーディオ“再入門”と題した特集記事を掲載したのが、2010年。それから2年が経過し、ネットワークオーディオを取り巻く環境も大きく変化。対応製品の増加や低価格化、そして対応フォーマットの増加もスピーディーに進んでいる。

 ここでは、そうした最新事情も取り入れながら、まだネットワークオーディオを環境を構築していない人に向けて、実際の製品のセットアップを交えながら、“再々入門”として、意外に簡単に導入できるネットワークオーディオの世界を紹介する。なお、DLNAについての詳細を解説した2010年の記事も合わせてご覧いただければ幸いだ。




■ネットワークオーディオ環境を構築すべきタイミング

 具体的な話の前に、“なぜ今、ネットワークオーディオ再々入門なのか”という話をしたい。その理由は、2年前から大きく進化した3つのポイントにある。

 1.【対応機器の増加と多様化】

 これまでのネットワークオーディオは、どちからというとオーディオマニアやPCマニアが、音質や利便性の高さ、LAN HDD(NAS)の活用方法の1つとして実践する事が多く、どちらかというと“マニア向け”な存在だった。

 しかし、最近では小型の一体型コンポにもネットワーク機能が入り、AVアンプでも大半の機種でネットワーク再生機能を装備。さらに、単体のネットワークオーディオプレーヤーも、従来より低価格なものが増えるなど、小型・低価格化が進んでいる。“ネットワークオーディオに挑戦しやすくなった”土壌が整ったと言えるだろう。

 2.【スマートフォン/タブレットの普及】

 近年の爆発的な普及は説明の必要も無いが、ネットワークオーディオではスマートフォン/タブレットのアプリで制御できるものが多く、これが実に便利。音質だけでなく、利便性の面でもネットワークオーディオを魅力的なものにしてくれる、外せない要素だ。

 同時に、これら音楽ソースとして使い、“スマホ/タブレット内の音楽を高音質で楽しむ”というスタイルもある。スマホ/タブレット普及する事で、ネットワークオーディオに特に興味が無かった人も、いつのまにか“ちょっとの追加投資でネットワークオーディオの環境が整う下地”ができている事になる。

 3.【ハイレゾ配信本格化と対応フォーマットの増加】

 3つ目はソースの変化だ。24bit/96kHzや24bit/192kHzなど、ハイビット/ハイサンプリングなハイレゾ音楽ファイルでの音楽配信サービスが本格展開し、高音質なソースが入手しやすくなった。これらのハイレゾ音源はFLACでの配信がメインで、FLAC再生対応の機器が増加した事も大きな変化だ。

 さらに、アップルのiTunesで作成できるロスレスフォーマット「Apple Lossless」がオープンソース化され、これを再生できるプレーヤー機器が増えた。さらに新たな動きとして、SACDで採用されている「DSD方式」で演奏を収録し、DSDで音楽配信も行なうサービスもスタート。DSDを再生できるプレーヤーも少量だが登場しつつある。

 こうした対応フォーマットの増加は、これまで非対応のフォーマットで音楽ライブラリを構築していて、「ネットワークオーディオをやりたいけど、再生できる機器が無かった」という人に朗報であり、もう一度トライするタイミングと言えるだろう。



■他ジャンルで増加するネットワークオーディオ対応機器

 3つ目に挙げた対応フォーマットの増加について、もう少し詳しく紹介しよう。注目はApple losslessとDSDの再生だ。一例として、以下に各社AVアンプの代表的なモデルについて、対応フォーマットの違いを示した表を掲載する。

メーカーモデル名対応フォーマット
パイオニアSC-LX86
SC-LX76
FLAC/WAV/MP3/AAC/WMA
DSD(USBメモリ使用)
※FLAC/WAVは192kHz/24bit対応
※冬にApple Lossless対応ファーム
SC-LX56FLAC/WAV/MP3/AAC/WMA
※FLAC/WAVは192kHz/24bit対応
※冬にApple Lossless対応ファーム
SC-2022
VSA-922
VSA-822
FLAC/WAV/MP3/AAC/WMA
※FLAC/WAVは24bit/192kHz対応
オンキヨーTX-NR5010
TX-NR1010
TX-NR818
TX-NR717
TX-NR616
TX-NR515
FLAC/WAV/MP3/AAC/WMA
Ogg/DSD/Apple Lossless
※FLAC/WAVは24bit/192kHz対応
ヤマハRX-A3020
RX-A3020
RX-A2020
RX-A2010
RX-A1020
RX-V773
RX-V573
RX-V473
FLAC/WAV/MP3/AAC/WMA
※24bit/96kHzまで
デノンAVR-4520FLAC/WAV/MP3/AAC/WMA
Apple Lossless
※FLAC/WAVは24bit/192kHz対応
AVR-3313
AVR-2113
FLAC/WAV/MP3/AAC/WMA
※夏にWAV/FLACの24bit/192kHz
  Apple Lossless対応ファーム
AVR-1713FLAC/WAV/MP3/AAC/WMA
※秋までにWAV/FLACの24bit/192kHz
  Apple Lossless対応ファーム
マランツNR1603FLAC/WAV/MP3/AAC/WMA
※夏にWAV/FLACの24bit/192kHz
  Apple Lossless対応ファーム
SR6007
NR1403
FLAC/WAV/MP3/AAC/WMA
※9月下旬にWAV/FLACの24bit/192kHz
  Apple Lossless対応ファーム
ソニーTA-DA5800ES
STR-DN2030
FLAC/WAV/MP3/AAC/WMA
※FLAC/WAVの5.1ch 24bit/192kHz対応

 こうして見ると、非常に多くのAVアンプが、豊富なフォーマットのファイルを再生できる事がわかる。つまり、ホームシアターをやろうと最新のAVアンプを導入すれば、ついでにネットワークオーディオプレーヤーも導入できてしまうというわけだ。

 さらに言えば、近年の薄型テレビもDLNAに対応しているモデルが大半。AVアンプが無くても、最近買ったテレビであれば、意識せずにDLNAクライアントを導入済みという家庭もあるだろう。こうしたテレビでも当然、音楽や静止画などをネットワーク経由で再生できる。これも1つのネットワークオーディオと言えるだろう。

 コンポスタイルの製品でも、デノンのDLNA/AirPlay対応「DRA-N5」、JVCブランドのDLNA/AirPlay対応のCDコンポ「NX-NT70」、パイオニアのAirPlay/DLNA対応「X-HM81-S」など、小型でも多機能な製品が増加している。

デノンの「DRA-N5」とスピーカーの「SC-N5」を組み合わせ、iPod touchを乗せたところJVCブランドのDLNA/AirPlay対応のCDコンポ「NX-NT70」パイオニアのDLNA/AirPlay対応CDコンポ「X-HM81-S」

 これらの機器を使って、後はLAN環境や音楽ファイルを蓄積する場所(NASやPCなど)があれば、ネットワークオーディオ環境は構築できる。

 さらに、NASの中には、DTCP-IPダビングに対応したモデルもある。そうした製品であれば、地デジやBSなど、著作権保護された録画番組を、ネットワーク経由で保存する事も可能。音楽ファイルだけでなく、録画番組、写真など、家の中にある様々なデータを保存しておく“保管庫”としても、NASが1台あると、便利な場面は多いだろう。



■実践してみる

オンキヨーのネットワーク対応コンポ「CR-N755」(スピーカーは別売)

 ネットワークオーディオの基本は、「LAN内に保存してある音楽ファイルを、同じLAN内にある機器で再生する」というもの。そのため、必要なのは“蓄積する機器”と“再生する機器”、それらを繋ぐ“LAN”となる。既に家庭内LANを導入している場合は、対応機器を追加するだけでOKだ。

 今回は筆者宅の無線LANルータに、音楽を蓄積する「NAS」を追加。音楽を再生する機器として、オンキヨーのネットワーク対応コンポ「CR-N755」(9月末発売/59,850円)を用意してみた。




■NASを導入する

 NASとして用意したのは、バッファローの「LS-V2.0TLJ」というモデル。容量は2TBだ。音楽ファイルを保存するHDDとしては大容量過ぎる気もしたが、1曲で200MBを超える事もあるハイレゾ/ロスレスファイルをどんどん保存していくなら、多いに越したことはない。また、この製品はDTCP-IPのダビング機能にも対応しているため、テレビ番組の録画先として使う場合はこのくらい容量があった方がいいだろう。

 また、保存した静止画を写真共有サイトFlickrに自動でアップロードしたり、カメラ内に挿入されている無線LAN機能内蔵SDカードの「Eye-Fi」から、自動的に画像を取得し、HDDに保存するなど、音楽以外のファイルを手軽に保存するための様々な機能も備えている。

バッファローのNAS「LS-V2.0TLJ」。高速CPU搭載で転送性能を高めた上位モデルだ

 さっそくセットアップしてみよう。まず、無線LANルータ「WR8370」と「LS-V2.0TLJ」をLANケーブルで繋ぎ、「LS-V2.0TLJ」の電源ON。次に、付属のCDに入っているソフト「NAS Navigator2」をPCにインストールして起動すると、「LS-V2.0TLJ」が見える。このソフトから、Webブラウザベースの設定画面にアクセス可能だ。

 パソコンとNASが参加しているワークグループ名(WORKGROUPなど)が同じであれば、ここまで特に何かを設定しなくても、エクスプローラーなどから「LS-V2.0TLJ」が見つかるはずだ。

 次に音楽ファイルを入れるフォルダとして、「AVWatch_TEST」を作成。前述の設定ページから、共有フォルダの設定画面で、Windows/Macからアクセスできるようにチェックをつけておく。

「NAS Navigator2」から「LS-V2.0TLJ」が見える設定画面はブラウザベース。共有フォルダの設定画面共有フォルダを作っているところ。PCからアクセスできるように指定する

 パソコンから共有する場合は、これだけでOKだが、DLNA機器からアクセスできるようにするためには、もう1手間必要。つまり、音楽を保存したフォルダを、DLNAサーバーとしてLAN内に公開する設定が必要なのだ。

 「LS-V2.0TLJ」の設定メニュー、「その他」から「メディアサーバー」をクリックすると、DLNAサーバーと、iTunesサーバーの設定項目が現れる。後はここで、先ほどの「AVWatch_TEST」フォルダを“DLNAサーバーとして使用する”という部分にチェックをつけ、設定を保存するだけだ。

 これで準備は完了。後はPCに保存してある音楽ファイルや、音楽配信サービスで購入したハイレゾファイルなどを「AVWatch_TEST」にゴッソリ書き込むだけだ。

DLNAサーバー設定も忘れずにやっておく音楽用フォルダに音楽ファイルを転送
もちろんエクスプローラーからも「LS-V2.0TLJ」が見える転送が完了したところ



■DLNA対応機器で再生してみる

 次はコンポ「CR-N755」の出番。この製品は、CDプレーヤーとFM/AMチューナ、アンプ、ネットワークプレーヤー機能を1台に凝縮したもの。CDのライブラリも、ラジオも、PCの音楽ファイルも全部再生でき、さらには直接スピーカーもドライブできるという“全部入り”モデルだ。

コンポ「CR-N755」上からみたところ。奥行きはかなりある背面
Ethernet端子も備えているボリュームノブやスピーカーターミナルは本格的なもの
付属のリモコン。上部に「NET」や「USB」ボタンを備えている

 セットアップと言っても、特にやることはない。背面にEthernet端子があるので、ここにLANケーブルを接続。後はスピーカーを繋いで電源を入れるだけで、ほぼ準備完了だ。

 リモコンの「NET」ボタンを押すとインターネットラジオのサービスや、radiko.jpなどのメニューが表示され、それをリモコンの矢印ボタンで送っていくと、「DLNA」というメニューが登場。

 これを選択し、LS-V2.0TLJにアクセス。後はDLNAの「アーティスト」や「アルバム」、「フォルダ」などのメニューから音楽を探し、再生開始。1時間とかからずに、NAS内の音楽を、「CR-N755」のスピーカーから流す事ができた。

radiko.jpも聴けるDLNAメニューNASを発見

 これで終了……ではつまらない。「CR-N755」はハイレゾ/非圧縮音楽ファイルの再生に対応しているので、それを試してみよう。


 再生用ファイルだが、同じオンキヨー繋がりで、高音質音楽配信「e-onkyo music」をチェックしてみる。ここでは、7月からワーナーミュージック・ジャパンの洋楽カタログ楽曲のハイレゾ配信がスタート。9月からはビクターエンタテインメントのレーベル「VICTOR STUDIO HD-Sound.」の楽曲も販売されている。

 この中から、定番の「イーグルス/Hotel California」(24bit/192kHz:アルバム3,000円)、「リンダ・ロンシュタット/What's New」(24bit/96kHz:アルバム2,500円)、「イエス/Fragile/こわれもの」(24bit/96kHz:アルバム2,500円)、「ドナルド・フェイゲン/The Nightfly」(44.1kHz/24bit:アルバム2,500円)など、有名どころをチョイス。いずれもFLACファイルで、これを「AVWatch_TEST」に入れてみる。

イーグルス/Hotel Californiaドナルド・フェイゲン/The Nightflyリンダ・ロンシュタット/What's New

 先ほどと同じようにDLNAメニューからアクセスすると、きちんと楽曲が見え、再生も可能。再生中に詳細情報を表示させてみると、「イーグルス/Hotel California」ではFLAC 5184kbps、24bit/192kHzなどの表示が出てくる。ALAC(Applelossless)のファイルも再生可能だ。

ハイレゾファイルを再生中のディスプレイ表示

 では次に、DSDファイルにも挑戦しよう。DSDで音源を販売しているototoyで「横田寛之ETHNIC MINORITY Introducing ETHNIC MINORITY live at Yoyogi (DSD+mp3 ver.)」を購入。同じフォルダに保存したが、DLNAからアクセスすると……ファイルが見当たらない。

 これは、DLNAの規格的に、DSDが、MP3やFLACなどの配信用音楽ファイルのリストアップ対象に含まれていないためだ。しかし、「CR-N755」はハードウェアのスペックとしてDSDのファイル再生に対応しており、例えばUSBメモリに保存したDSDファイルはWAVに変換しながら再生できる。

 では、DLNA以外の方法で、ネットワーク再生してみよう。「CR-N755」のNETメニューの中には「Home Media」という機能もある。これはつまり、PCなどと同じ、共有フォルダとしてアクセスするモード。ここから「LS-V2.0TLJ」を覗いてみると、DSDファイルを発見。再生できた。詳細表示をしてみると、「DSD 1bit……」などの表示が流れ、キッチリとDSDファイルが再生できているのがわかる。DSDでの音楽配信は、まだ一部のサービスでスタートしたばかりなので、DLNAに組み込まれるにはしばらく時間がかかりそうだ。

「Home Media」メニューから共有フォルダにアクセス無事にDSDが再生できた



■スマホ/タブレット併用で操作性アップ

 ここまでは、本体のリモコン&ディスプレイを使って操作していたが、情報量が少ないのであまり使い勝手は良くない。N755は、スマートフォンやタブレット向けアプリ「Onkyo Remote」にも対応している。そこで、AndroidタブレットのICONIA TAB A500にアプリを入れて、操作してみた。

 ディスプレイが大きい事もあり、コンポ本体をリモコンで操作するより遥かに快適。多数の音楽ファイルをブラウズしたり、ネットラジオの放送局を選ぶのも便利だ。ボリューム調整や、バーチャルリモコン機能も備えている。

ソース切り替えメニューネットラジオの選局も可能だNASにもアクセスできる

 アルバムのジャケットデータが含まれている音楽であれば、再生中にジャケットもシッカリ表示される。本体の小さなディスプレイを見ながら、身を乗り出してリモコン操作するより遥かに快適で、ネットワークオーディオを導入してよかったと思える瞬間だ。

ハイレゾファイルが入ったフォルダにアクセスしているところ音楽再生中の画面。アルバムジャケットも表示可能だ

 このように、LANに接続さえすれば、簡単に利用できるネットワークオーディオ。だが、ネットワークプレーヤーと無線LANルータが離れていた場合はどうすれば良いだろうか? 有線LANを無線LANに変換するEthernetコンバータという解決策もあるが、最近ではプレーヤー機器のオプションとして無線LANアダプタが用意されている事も多い。

左がワイヤレスLANアダプタ「UWF-1(B)」。右はBluetoothアダプタの「UBT-1」。これを繋げばBluetoothスピーカーにもなる

 「CR-N755」の場合、ワイヤレスLANアダプタ「UWF-1(B)」(IEEE 802.11b/g/n対応/オープンプライス/実売3,000円前後)が用意されている。USB接続の無線LANアダプタで、CR-N755の背面にあるUSB端子に接続し、設定すればワイヤレス接続が可能になる。

 無線LANの設定は難易度が高そうだが、セットアップを簡単に行なう方法が用意されている。それがWPS(ワイファイ・プロテクテッド・セットアップ)だ。ルータ側でも対応機種は多く。今回使用したルータ(NEC/WR8370)にも、「らくらくスタート」という名前でWPS機能が備わっている。

 UWF-1を接続後、「USB」メニューの中からWPSを使ったセットアップに進むと、「ルータ側でWPS用ボタンを押せ」と指示される。あとはルータの「らくらくスタート」ボタンを押せば、しばらくして設定完了だ。


WPSを使って簡単セットアップ指示に従い、ルータ側のWPSボタンを押せば設計完了だルータに無線接続できた

 先ほどのDLNAメニューから、ハイレゾのFLACファイルも問題なく再生できる。しかし、Home Mediaメニューから再生してみると、1曲250MB近くある24bit/192kHzのファイルやDSDファイルでは音飛びが発生した。数MBの圧縮ファイルや、数十MBのApple losslessは問題なく再生できる。ファイルサイズが大きいハイレゾ/非圧縮音楽再生が多い場合は、有線接続の方が安定するだろう。



■音質をチェック

 利便性の高くても音質が悪ければ意味がないが、ネットワークオーディオは音質面でも優れている。CDプレーヤー部を使わない事で、振動の影響が低減されるという利点と共に、前述のようにCDを超える情報量を持ったハイレゾ音源が再生できるのが理由だ。

 ここで重要なのは、そうした情報量の多さを、キッチリ聴かせてくれるアンプ/スピーカーが求められるという事。せっかくハイレゾファイルを再生しても、プラスチック筺体で反響したボワボワな音を出すPCスピーカーだったり、ノイズの多いアンプでドライブしては、細かな表現を楽しむどころではない。

 今回使った「CR-N755」は、CD/アンプ/ネットワークプレーヤーの全部入りで59,850円と、内容を見ると安く感じるくらいだが、再生音はピュアオーディオライクなニュートラル仕様。3段インバーテッドダーリントン回路を使ったディスクリートアンプのドライブ力も高く、SNも良好。ハイレゾ再生で重要となる“静粛とした音場の表現”も、なかなかのものだ。

 ハイビット/ハイサンプリングと聞くと、カリカリにエッジが立った音を連想しがちだが、実際に聴いてみると、ハイレゾの方がアナログっぽい音になる。「イーグルス/Hotel California」のアコースティックギターの響きも、よりしなやかで、余韻が消える様子も細かい。音が広がるステージが広く、奥行きも深く感じられ、音楽を立体的に楽しめるという違いもある。

 また、今まで意識していなかった低域の中でうねるベースのラインに耳を奪われたり、ヴォーカルが歌の合間に、「スッ」と息を吸い込む音が鮮明に聞こえたりと、聞き慣れた曲でもハッとする違いを感じる事がある。生々しく、きめ細やかな音が味わえるのが、ハイレゾ&ネットワークオーディオの醍醐味と言ってもいいだろう。

 「CR-N755」には組み合わせが提案されているスピーカーとして、「D-55EX」(ペア27,720円)、「D-055」(ペア27,720円)、「D-112EXT」(ペア48,300円)という3機種が用意されている。いずれも2ウェイのブックシェルフで、「D-55EX」がスタンダードモデル。「D-055」は、ソフトドーム型ツイータや、背面バスレフダクトを採用した個性派。「D-112EXT」は、アコースティックギターの響きをコントロールする時に使われる「力木(ちからぎ)」を使ったエンクロージャが特徴の上位モデルだ。


左から、個性派の「D-055」、スタンダードな「D-55EX」、上位モデル「D-112EXT」

 聴き比べると、スタンダードな「D-55EX」は、低域の歯切れが良く、ワイドレンジで高域の抜けも優秀。見通しの良い音場が持ち味だ。「D-112EXT」は、その傾向と似ているが、さらに低域の沈み込みが一段深くなり、音場も拡大。音像もより立体的になる。“個性派”な「D-055」は、中低域の張り出しが強く、パワフルなサウンド。音が前へ前へと主張するタイプで、打ち込み系の楽曲や、疾走感のあるロックとマッチする。音場の広さは、あまり気にしていないタイプだ。

 スピーカー一体型のネットワークオーディオ機器と比べ、単品コンポタイプのネットワークオーディオは、組み合わせるスピーカー選びの楽しさ、ステップアップの楽しさが持ち味となる。気軽に小型でBGM的な再生をメインにするか、本格的に音楽と向き合える製品を選ぶか……。予算や設置場所に合わせて選びたい。

置き場所や用途、好みに合わせて組み合わせを変更できるのが単品コンポの醍醐味だ



■BluetoothやAirPlayも交え、最適なスタイルを

 スマートフォンの普及により、Bluetoothスピーカーの売れ行きが好調だ。Bluetoothは、家庭内LAN環境が無くても、スマートフォン/タブレットとスピーカーを直接接続できるシンプルさが魅力だ。従来はサポートコーデックがSBCのみで、音質面で不満があったが、最近ではAAC/apt-Xに対応した製品も増加。対応するプレーヤー(AAC対応のiOS機器など)と接続すれば、高音質で楽しむ事ができる。これらの魅力は、何より手軽に利用できる事だ。

 例えば、9月上旬に発売される、標準でBluetoothレシーバを内蔵したJVCケンウッドのコンポ「K-531」(オープ/実売45,000円前後)。ソニーが10月に発売するBluetoothスピーカー「SRS-BTV5」や「SRS-BTM8」は、対応スマートフォンに専用アプリを入れておけば、Bluetoothの設定すらせず、スピーカーに触れるだけで接続が完了するという“手軽さ”を象徴するようなモデルだ。

JVCケンウッドのコンポ「K-531」手のひらサイズの「SRS-BTV5」取っ手がついた「SRS-BTM8」

 しかしながら、ネットワークオーディオと比較すると、再生ソースがスマートフォン/タブレットの中に保存されていなければならないという弱点もある。また、ハイレゾデータをそのまま飛ばして再生するという事もできない。

 NASに保存した音楽に、家中の様々なデバイスからアクセスでき、それらが高音質で楽しめるネットワークオーディオには、テレビでBGM的に再生したり、2chスピーカーの前に座って真剣に聞いたりと、カジュアルな楽しみ方から、本格的な鑑賞にも耐える懐の深さが魅力だ。

 また、今回紹介したCR-N755や各社のAVアンプのように、後からBluetooth機能を追加できたり、DLNAのほか、AirPlayもサポートしている機器もある。自分のライフスタイルに合わせ、最適な伝送方法、再生機器を選ぶのがコツと言えるだろう。


(2012年 9月 18日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]