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東京の民放ラジオ局5社は26日、都内で会見を開き、2006年春から本放送開始を予定しているデジタルラジオに関して、2006年春から2011年の本格展開時期まで主体となって、デジタルラジオの放送を行なう事業会社を設立することを明らかにした。発表を行なったのは、株式会社TBSラジオ&コミュニケーションズ、株式会社文化放送、株式会社ニッポン放送、株式会社エフエム東京、株式会社J-WAVE。
地上デジタルラジオの本放送は、早ければ2006年4月頃に東京・大阪でスタートされ、2008年には札幌、仙台、静岡(浜松)、名古屋、広島、福岡でそれぞれ開始。全国展開はアナログのテレビ放送が終了する2011年を予定。2011年以前を「先行普及時期」、それ以降を「本格展開時期」と位置付けている。
また、2003年10月から開始されている実用化試験放送は、2006年の本放送開始と共に停止。試験放送時の各ラジオ局のセグメント構成も一旦白紙に戻され、本放送では、VHFの7ch(地域によっては8ch)を8個のセグメントに分割。NHKに1セグメントを割り当て、残りの7セグメントを全国で1つだけの民間免許主体(以下マルチプレックス事業会社)が受け持つことなどが、総務省が実施していた「デジタル時代のラジオ放送の将来像に関する懇談会」の報告書としてまとめられている。
今回発表された事業会社は、このマルチプレックス事業会社にあたるもの。この会社はデジタルラジオのチャンネル編成権を持っており、先行普及時期は「新しいラジオ」や「多チャンネル、多様性」をコンセプトとした編成を実施。その方針にのっとって、放送番組事業者(各ラジオ局)を指名し、番組を提供させる。 マルチプレックスは放送の維持・運行も担当しているため、放送事業者はそこへ番組を提供。放送してもらうと同時に、電波や施設などの利用料をマルチプレックスに支払う。これがマルチプレックスの収入源になり、放送事業者は従来のラジオと同様に広告から収入を得るという仕組み。
こうしたシステムを採用する理由は、地上デジタルラジオの普及期というビジネス的に厳しい時期を、1つの全国実施主体という体制で乗り越えるため。また、マルチプレックスは放送と通信の融合や、データ放送、サイマル放送など、様々なサービスの実施と検証を行なうほか、インフラ整備や、端末の普及も主体となって推進するという。
■ 2008年末までに500万台のデジタルラジオを普及
マルチプレックス事業者に課せられた具体的な目標としては、2011年末までに全国世帯エリアのカバー率90%を目指してインフラを整備。それ以前では、アナログテレビとの混信や、CATVへの干渉対策にも取り組み、先行して放送を開始する地域での十分な放送エリアの確保に努める。
また受信機の普及目標としては、2008末時点で500万台という具体的な数字が明らかにされた。これについてエフエム東京の後藤亘会長は「控えめに見積もった数字。FMケータイはauの1機種で200万台を越えた実績があり、今年はFMケータイだけで500万台を越える。これを考慮すると、携帯電話やカーオーディオなど、様々なデジタル機器に投入されるであろうデジタルラジオの受信可能機器は500万台をすぐに越えるだろう。個人的には1,000万台を越えなければメディアの価値としてダメだという認識を持っている」とのこと。
また、マルチプレックス事業会社の資本構成も発表された。設立当初で資本金は100億円。2011年までに最大400億円までの増資を前提としている。出資比率は東京の民放5社が50%強を持つ予定で、現在のところエフエム東京が24%で最も多く、TBS R&C、文化放送、ニッポン放送がそれぞれ10%、J-WAVEが1%で、合計55%になる見込み。
さらに、主要都市のラジオ局が合計で10%程度を持つ。残りの30%強は新規参入枠となっており、通信事業者や自動車メーカー、受信機メーカーなどが参加する予定。なお、最大400億円時の負担額は当初の出資比率に応じることが原則となる。
エフエム東京が最も多い理由について、文化放送の佐藤重喜社長は「これまで率先してデジタルラジオの実現に向けた準備を進めてこられたので、リーダとして今後もやってもらおうという話になった」という。
なお、具体的な今後のスケジュールとしては、2005年中に発起人会を発足。放送免許取得に向けて申請書を作成し、2006年1月に免許申請。3月に予備免許をもらい、事業会社として登記。その後、試験放送を経て4月頃に本免許を取得し、本放送を開始する。
■ 新しいラジオのビジョン 会見には東京の民放5社の代表者に加え、大阪の放送事業者を代表してラジオ大阪の佐藤賢三社長、エフエム大阪の前田一社長が出席。各社の代表が、デジタルラジオにかける意気込みや、各社がデジタルラジオでどのような放送を想定しているかを語った。 TBS R&Cの清水洋二社長は「50年に渡って移動体向け放送を行なってきたノウハウを活かしながら、新しいメディアであるデジタルラジオに果敢にチャレンジしていきたい。具体的な放送は検討中だが、地上デジタルテレビの移動体向け放送と差別化するためにも、あくまで音声にこだわりたい。目を拘束しない、“ながらメディア”としての良さを保ちながら、通信との連携した拡張性も確保したい」と語る。 文化放送の佐藤社長は、「現在のラジオはあまりにも生活に密着しすぎていて、逆に目立たなくなっている。デジタル化を機に、本来持っている基幹メディアとしての地位を確固たるものにしたい。文化放送としては、高音質、多チャンネルを前面に押し出し、デジタルラジオの魅力としてアピールていきたい」という。 ニッポン放送の磯原裕社長は「ドラスティックな変革で、大きなチャンスだと考えている。異業種とのコラボレーションを行ない、新しいメディアを育てるんだという気概でチャレンジしたい」とした。
エフエム東京の後藤会長は「多チャンネルと多様性の違いが重要。多チャンネルになっても多様でなければユーザー数は拡大しない。エフエム東京に対する自己批判としては、聴取率の良い番組をやればやるほど小さな枠にとらわれ、結果としてリスナーの絶対数が拡大しなかったという反省がある。デジタルラジオでは多様性を重視していきたい」と語る。 これを引き継ぎ、J-WAVEの井村文彦社長は「狭く、深いチャンネルが沢山あるという状態がデジタルラジオとして理想。それがトータルとして多様性につながる。攻めていく所は小さく、狭くとも、トータルでは成功するはずだ」と予測する。 ラジオ大阪の佐藤氏は「単体ラジオだけでなく、携帯やPCなど、様々な機器に内蔵できるので、必然的にリスナーが増えることを期待している。また、デジタルラジオが始まっても従来のアナログラジオは存在し続けているので、アナログとデジタルがお互いに切磋琢磨し、クオリティを上げる相乗効果も期待できる」と指摘。
エフエム大阪の前田社長は「全国で放送されるチャンネルも生まれるので、普及促進についてはローカル局の担う役割も小さくない。魅力あるコンテンツを提供するのは我々の使命であり、そのための努力が結果としてラジオの復権に繋がると信じて頑張っていきたい」と語った。
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(2005年7月26日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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